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1 王女殿下の魔猫編
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踏み出した先は、いつものように緑豊かな場所だった。
木も生えていて、茂みもある。花も咲いている。ちょっとした森の中のようにも見えなくもない、そんな場所。
そしてここの木は、葉っぱ一枚、小枝一本たりともいつもと変わりがない。虫もいなければ動物もいない。風も吹かないし、枝が折れたり葉っぱが千切れたりすることもない。湿った土の臭いも乾いた木の皮の臭いもしない。
生き生きとした見かけとは真逆の、見せかけの庭園。それがここだ。
今、入ってきた扉から中央の建物に向けて続く苔むした石畳をしばらく歩き、中央辺りでピタリと止まって後ろを振り向く。
「よし」
私は頭の中で手順を確認しながら頷いた。
黄色い旗を手にした私のすぐ後ろには、クラウドがピタリと張り付き、さらに後から来る見学者たちを誘導している。
役割分担としては、私が説明係でクラウドが誘導係。
加えて言えば、今回の参加者は全員が初めてではないので、文句もなければ余計なお喋りもない。そういう面ではとてもストレスのない見学会だった。
「ちっ」
まぁ、クラウドにとってはストレスだらけの見学会だろうけど。
クラウドが小さく舌打ちするのを目で注意すると、クラウドは気まずそうに了承の合図をしてくる。
さきほどまでは、アルバヴェスペルのおじさんたちと楽しそうにしていたのに、やはりやりにくいらしい。やたらと、六人組の最後の人物を気にしているのが、丸わかりだった。
ポンポンと無言でクラウドの肩を叩く。
なんだかんだ言っても、クラウドは誘導。立って歩いてそれだけでいいから。
「すまん」
私の意図を察して、小さく短く答えるクラウド。私はニコリと笑って応じる。
さぁ、ここは私が頑張らないとな。
さて、しばらく待っていると、マリーアンたちの三人組がまず入ってきて、後から六人組が静かに入ってきた。
全員が初めてではないこの場所を、しばし眺めてもらう。
私の予想を裏切り、ベテラン見学者たちの反応は、初めての見学者たちと大きくは変わらず。私はちょっとビックリした。
何度来ても、ここは不思議な場所なんだろう。
「この前も思いましたけど、ここの中庭は本当に不思議ですわぁ」
「自然の庭ではありませんからね」
マリーアンが中庭をぐるーーっと見回して、しみじみとつぶやいた。
「あらぁ、やっぱりそうですのぉ?」
何気に答えた私をパッと見ると、マリーアンはいたずらっぽく笑う。
「葉っぱ一枚、落ちてないし、綺麗すぎるというか。絵に描いた庭園という感じがしますわぁ」
「なかなか、鋭いですね」
そう、ここは自然の森でも人工の庭園でもどちらでもない場所だったのだ。
石畳の上を歩いていった先、本来の『三聖の展示室』の中へ、マリーアンたちを招き入れる。
入ったところは小さな絵が飾られている他は、何もないホールのようなところ。実はここにすべての秘密があった。
マリーアンも二回目の参加で、秘密を握るこの小さな絵にようやく気づいたようだ。
「あらぁ、この絵。この前もありましたっけ?」
「ずっと前からここにあります。この前、見学に来たときもありましたから、見ているはずですよ」
「なんだかどこかで見たような景色ねぇ。そうだわ、さきほどの中庭。間違いないですわ」
「そうです。この絵と同じ光景が三聖の展示室の周りに再現されています」
いつ描かれたのか分からないほど古いこの絵。
三聖の展示室が作られたのと同時期なのか、それより新しいのか、それすらも分からない。
しかも、ただの絵ではなく立派な魔導具で、古代リテラ王国時代の遺物というとんでもない代物だ。
魔法的処置がなされていたのは、三聖の展示室だけではなく、その周りの景色も含めてだったということになる。
「再現? ということは、さきほどの庭園は魔法ですの? 凄いですわぁ」
この絵も『三聖の展示室』の建物と同様に古代リテラ王国時代の魔法なので、未だに仕組みも解明できていない。
まぁ、三聖のケルビウスあたりに聞けば分からなくもないんだろうけど。
なにせ、ケルビウスは性格に難ありの厄介な杖だから、そう簡単に教えてくれるはずもない。今の今まで解明されていないのが何よりの証拠だと思う。
「でも、そんな凄いことを、見学会ではなぜ説明されませんの?」
「メインは三聖五強の紹介ですので。質問があれば他のことも説明しています」
と言ってはいるものの、実際の理由は『未解明で説明しきれない』ため。なんとも嘆かわしい理由だった。
三聖五強そのものだって、未解明だし説明なんて出来はしないのに。どうして人間はこうも偉そうにするんだろう。
私は手にした黄色い旗をそっと撫でた。
「あらぁ、気づいた人だけの特権ということかしらぁ」
「さぁ? 私は手順通りに行っているだけです。皆さんがどう受け取るかは、私には関係ありませんので」
私はマニュアル通りに言葉を返すと、決まりきった古代リテラ王国の建国詩を語り始めた。
「この国は、
一つの全きものによって生み出され、
三つの聖なるものによって形作られ、
五つの強きものによって平定された」
一通りの説明が終わると、私は次の部屋へと参加者を誘う。
「さて、そろそろ、五強の部屋に行きましょうか」
その言葉に、今まで静かだった六人組の目がキラリと光ったのを私は見逃さなかった。
木も生えていて、茂みもある。花も咲いている。ちょっとした森の中のようにも見えなくもない、そんな場所。
そしてここの木は、葉っぱ一枚、小枝一本たりともいつもと変わりがない。虫もいなければ動物もいない。風も吹かないし、枝が折れたり葉っぱが千切れたりすることもない。湿った土の臭いも乾いた木の皮の臭いもしない。
生き生きとした見かけとは真逆の、見せかけの庭園。それがここだ。
今、入ってきた扉から中央の建物に向けて続く苔むした石畳をしばらく歩き、中央辺りでピタリと止まって後ろを振り向く。
「よし」
私は頭の中で手順を確認しながら頷いた。
黄色い旗を手にした私のすぐ後ろには、クラウドがピタリと張り付き、さらに後から来る見学者たちを誘導している。
役割分担としては、私が説明係でクラウドが誘導係。
加えて言えば、今回の参加者は全員が初めてではないので、文句もなければ余計なお喋りもない。そういう面ではとてもストレスのない見学会だった。
「ちっ」
まぁ、クラウドにとってはストレスだらけの見学会だろうけど。
クラウドが小さく舌打ちするのを目で注意すると、クラウドは気まずそうに了承の合図をしてくる。
さきほどまでは、アルバヴェスペルのおじさんたちと楽しそうにしていたのに、やはりやりにくいらしい。やたらと、六人組の最後の人物を気にしているのが、丸わかりだった。
ポンポンと無言でクラウドの肩を叩く。
なんだかんだ言っても、クラウドは誘導。立って歩いてそれだけでいいから。
「すまん」
私の意図を察して、小さく短く答えるクラウド。私はニコリと笑って応じる。
さぁ、ここは私が頑張らないとな。
さて、しばらく待っていると、マリーアンたちの三人組がまず入ってきて、後から六人組が静かに入ってきた。
全員が初めてではないこの場所を、しばし眺めてもらう。
私の予想を裏切り、ベテラン見学者たちの反応は、初めての見学者たちと大きくは変わらず。私はちょっとビックリした。
何度来ても、ここは不思議な場所なんだろう。
「この前も思いましたけど、ここの中庭は本当に不思議ですわぁ」
「自然の庭ではありませんからね」
マリーアンが中庭をぐるーーっと見回して、しみじみとつぶやいた。
「あらぁ、やっぱりそうですのぉ?」
何気に答えた私をパッと見ると、マリーアンはいたずらっぽく笑う。
「葉っぱ一枚、落ちてないし、綺麗すぎるというか。絵に描いた庭園という感じがしますわぁ」
「なかなか、鋭いですね」
そう、ここは自然の森でも人工の庭園でもどちらでもない場所だったのだ。
石畳の上を歩いていった先、本来の『三聖の展示室』の中へ、マリーアンたちを招き入れる。
入ったところは小さな絵が飾られている他は、何もないホールのようなところ。実はここにすべての秘密があった。
マリーアンも二回目の参加で、秘密を握るこの小さな絵にようやく気づいたようだ。
「あらぁ、この絵。この前もありましたっけ?」
「ずっと前からここにあります。この前、見学に来たときもありましたから、見ているはずですよ」
「なんだかどこかで見たような景色ねぇ。そうだわ、さきほどの中庭。間違いないですわ」
「そうです。この絵と同じ光景が三聖の展示室の周りに再現されています」
いつ描かれたのか分からないほど古いこの絵。
三聖の展示室が作られたのと同時期なのか、それより新しいのか、それすらも分からない。
しかも、ただの絵ではなく立派な魔導具で、古代リテラ王国時代の遺物というとんでもない代物だ。
魔法的処置がなされていたのは、三聖の展示室だけではなく、その周りの景色も含めてだったということになる。
「再現? ということは、さきほどの庭園は魔法ですの? 凄いですわぁ」
この絵も『三聖の展示室』の建物と同様に古代リテラ王国時代の魔法なので、未だに仕組みも解明できていない。
まぁ、三聖のケルビウスあたりに聞けば分からなくもないんだろうけど。
なにせ、ケルビウスは性格に難ありの厄介な杖だから、そう簡単に教えてくれるはずもない。今の今まで解明されていないのが何よりの証拠だと思う。
「でも、そんな凄いことを、見学会ではなぜ説明されませんの?」
「メインは三聖五強の紹介ですので。質問があれば他のことも説明しています」
と言ってはいるものの、実際の理由は『未解明で説明しきれない』ため。なんとも嘆かわしい理由だった。
三聖五強そのものだって、未解明だし説明なんて出来はしないのに。どうして人間はこうも偉そうにするんだろう。
私は手にした黄色い旗をそっと撫でた。
「あらぁ、気づいた人だけの特権ということかしらぁ」
「さぁ? 私は手順通りに行っているだけです。皆さんがどう受け取るかは、私には関係ありませんので」
私はマニュアル通りに言葉を返すと、決まりきった古代リテラ王国の建国詩を語り始めた。
「この国は、
一つの全きものによって生み出され、
三つの聖なるものによって形作られ、
五つの強きものによって平定された」
一通りの説明が終わると、私は次の部屋へと参加者を誘う。
「さて、そろそろ、五強の部屋に行きましょうか」
その言葉に、今まで静かだった六人組の目がキラリと光ったのを私は見逃さなかった。
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