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1 王女殿下の魔猫編
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「なんで、こいつがいるのよ」
次の部屋は三聖の部屋だ。
ところがである。真っ先に部屋に入った私はそこで信じられないものを見た。
部屋に入ったとたんに感じるピリピリとした圧を気にすることもなく、三聖を模した剣の台座の目の前に、そいつは長々と寝そべっていたのだ。
止まっていた空気の流れがじわっと動き出すのを感じる。
私の背後からクラウドが、そしてマリーアンが入ってきたようだ。
「こいつ、また出たのか」
「あらぁ、この前もここにいた猫ちゃん、かしらぁ?」
クラウドもマリーアンもこれで三回目の遭遇、私は四回目だ。頭が痛い。
ただ、今回は最初の時のように小型化しているので普通の猫に見える。
庭園で姿を見ているはずのマリーアンも同じ魔猫だとは気がついてない。
「にゃんにゃん」
しかも、かわいらしく鳴いてるし。
「猫真似するな、魔猫」
《バレたか》
「バレバレでしょうが。だいたい、あなたは王女殿下の庭園に封じられてるはずでしょ?」
ツカツカと近づいて、魔猫を蹴り飛ばす。痛かったのか、今度はにゃーと鳴く魔猫。まったくふてぶてしい。
私が魔猫をどうしようかと考えていると、ザワザワとする音とともに、複数が部屋に入ってきた。
順番からすると王女殿下ご一行様か。
「あ、庭園で姿を見かけないと思ったら、こんなところにいたのね」
のんきなことを言う明るいこの声は、間違いなく王女殿下のもの。のんきすぎてカチンとくる。
「こんなところにいたのね、じゃないですよね。未契約の魔猫を放置するのも危ないからって言ってましたよね?」
「リグヌムに結界を張ってもらってはいたんだけど。たま~に抜け出すのよね」
「たま~に抜け出すのよね、じゃないですよね。しっかり監視しといてくださいよ」
魔猫を足蹴にした状態で、王女殿下と言い合いになる私。そこへ魔猫までもが加わってきた。
《ムリムリ。あんなショボい庭園、いつでも抜け出せるに決まってるだろ》
「魔猫に完全にバカにされてますけど」
「だって仕方ないじゃないの!」
くわっと王女殿下が目を見開いて、大声をあげた。
「その猫、カタリグヌンじゃないんだし。結局、正体はなんだか分からないけど、私ではどうにもできないわ!」
完全に開き直ってるし! あり得ないでしょ、その態度!
プチンと行きそうになった私の肩を、クラウドが押さえつけた。
「落ち着け、エルシア。その猫、あのときの魔猫なのか?」
クラウドの落ち着いた声が、私の荒ぶる心を静める。落ち着け、私。五回目の反省文はなんとしてでも避けないと。
目をつぶって深呼吸。
ふぅー、はぁー。
二、三回、繰り返すと気持ちが少し落ち着いてきた。その間に魔猫は私の足の下から移動している。
「カタディアボリ」
「カタ……なんだって?」
私が魔猫の種類を告げると、クラウドは聞き返してきた。魔物なんだから騎士も知ってるはずだけど。
「カタリグヌンに比べたら、知名度は低いし出現頻度も低い。レア中のレアだったっけ」
私も一応、学院の講義で教わった。その内容を思い出して、簡単な部分だけクラウドに教える。
「カタディアボリ、魔王猫。魔猫の最上位版てところよ。比べて、カタリグヌン、魔木猫は通常版」
当の魔王猫は、ただの猫の振りをしているつもりか、前脚で顔を拭ったり前脚をペロペロ舐めたり。終いにはにゃーと鳴いた。
とはいえ、いくらただの猫の振りをしても魔猫は魔猫。
《さすが。オレのご主人は物知りだな》
そんなことを言うただの猫なんて、いやしない。
「だから、主従契約してないから」
魔猫が勝手に私を主認定するのであれば、私は私で魔猫をキッパリと拒否するだけ。
私と魔猫の睨み合いはしばらく続いた。
「おい、エルシア。魔王猫なんてものがここにいて良いのか?」
「良くないでしょ」
魔猫と睨み合いを続ける私にクラウドが話しかけてくる。
「なら、どうしたらいいんだ? このままだと見学会がまた中止になるぞ。そうしたら…………」
「またまた反省文とか言わないわよね」
「だってこれは、エルシアが原因…………」
ギロッ
クラウドが何かを言いかけたので、魔猫ではなくクラウドを睨みつけると、クラウドはさっと視線をそらした。
「…………であるとは言い切れないしな」
言いかけた言葉も濁す。
「えぇっと、王女殿下…………」
「ダメよ。カタディアボリなら、わたくしでは対処できないわ。残念だけど」
クラウドのヤツ、今度は王女殿下に何か言い掛けた。でも、最後まで言うことができず、王女殿下が対処拒否を突きつける。
「呼び出したくせに」
「この前、庭園前に抜け出したときも、エルシア嬢が弱体化してくれたんでしょ?」
「この前、この部屋で騒ぎが起きたとき、ルベラス嬢に撃退されてましたわね」
「この前、ここの前の広場でもエルシアが捕獲したんだったよな」
みんなの視線が私に集中した。何かを期待するような視線に私は辟易する。
私の味方はいないわけ?
魔猫は喉をごろごろ鳴らして、ご機嫌そうににゃーと鳴く。
《オレのご主人になってくれよ。そうしたら、おとなしい良い子になるから》
「面倒だし、ペット飼う気ないし」
《世話のいらないペットだぞ、ご主人》
「ペット飼うなら、保護者に通報しないといけないし」
「そこは通報じゃなくて連絡だろ?」
私と魔猫の会話を聞いて、私が独り言を言っているのかと思ったらしい。クラウドが突っ込みを入れてきた。
《それに最強のペットだ!》
《最凶の間違いだろ!》
そして、魔猫が何かと言い争いを始める。
頭が痛い。私は右手で頭を押さえた。
魔猫が言い争いを始めた相手とは、ここで一番、暴れてはいけない存在だった。
次の部屋は三聖の部屋だ。
ところがである。真っ先に部屋に入った私はそこで信じられないものを見た。
部屋に入ったとたんに感じるピリピリとした圧を気にすることもなく、三聖を模した剣の台座の目の前に、そいつは長々と寝そべっていたのだ。
止まっていた空気の流れがじわっと動き出すのを感じる。
私の背後からクラウドが、そしてマリーアンが入ってきたようだ。
「こいつ、また出たのか」
「あらぁ、この前もここにいた猫ちゃん、かしらぁ?」
クラウドもマリーアンもこれで三回目の遭遇、私は四回目だ。頭が痛い。
ただ、今回は最初の時のように小型化しているので普通の猫に見える。
庭園で姿を見ているはずのマリーアンも同じ魔猫だとは気がついてない。
「にゃんにゃん」
しかも、かわいらしく鳴いてるし。
「猫真似するな、魔猫」
《バレたか》
「バレバレでしょうが。だいたい、あなたは王女殿下の庭園に封じられてるはずでしょ?」
ツカツカと近づいて、魔猫を蹴り飛ばす。痛かったのか、今度はにゃーと鳴く魔猫。まったくふてぶてしい。
私が魔猫をどうしようかと考えていると、ザワザワとする音とともに、複数が部屋に入ってきた。
順番からすると王女殿下ご一行様か。
「あ、庭園で姿を見かけないと思ったら、こんなところにいたのね」
のんきなことを言う明るいこの声は、間違いなく王女殿下のもの。のんきすぎてカチンとくる。
「こんなところにいたのね、じゃないですよね。未契約の魔猫を放置するのも危ないからって言ってましたよね?」
「リグヌムに結界を張ってもらってはいたんだけど。たま~に抜け出すのよね」
「たま~に抜け出すのよね、じゃないですよね。しっかり監視しといてくださいよ」
魔猫を足蹴にした状態で、王女殿下と言い合いになる私。そこへ魔猫までもが加わってきた。
《ムリムリ。あんなショボい庭園、いつでも抜け出せるに決まってるだろ》
「魔猫に完全にバカにされてますけど」
「だって仕方ないじゃないの!」
くわっと王女殿下が目を見開いて、大声をあげた。
「その猫、カタリグヌンじゃないんだし。結局、正体はなんだか分からないけど、私ではどうにもできないわ!」
完全に開き直ってるし! あり得ないでしょ、その態度!
プチンと行きそうになった私の肩を、クラウドが押さえつけた。
「落ち着け、エルシア。その猫、あのときの魔猫なのか?」
クラウドの落ち着いた声が、私の荒ぶる心を静める。落ち着け、私。五回目の反省文はなんとしてでも避けないと。
目をつぶって深呼吸。
ふぅー、はぁー。
二、三回、繰り返すと気持ちが少し落ち着いてきた。その間に魔猫は私の足の下から移動している。
「カタディアボリ」
「カタ……なんだって?」
私が魔猫の種類を告げると、クラウドは聞き返してきた。魔物なんだから騎士も知ってるはずだけど。
「カタリグヌンに比べたら、知名度は低いし出現頻度も低い。レア中のレアだったっけ」
私も一応、学院の講義で教わった。その内容を思い出して、簡単な部分だけクラウドに教える。
「カタディアボリ、魔王猫。魔猫の最上位版てところよ。比べて、カタリグヌン、魔木猫は通常版」
当の魔王猫は、ただの猫の振りをしているつもりか、前脚で顔を拭ったり前脚をペロペロ舐めたり。終いにはにゃーと鳴いた。
とはいえ、いくらただの猫の振りをしても魔猫は魔猫。
《さすが。オレのご主人は物知りだな》
そんなことを言うただの猫なんて、いやしない。
「だから、主従契約してないから」
魔猫が勝手に私を主認定するのであれば、私は私で魔猫をキッパリと拒否するだけ。
私と魔猫の睨み合いはしばらく続いた。
「おい、エルシア。魔王猫なんてものがここにいて良いのか?」
「良くないでしょ」
魔猫と睨み合いを続ける私にクラウドが話しかけてくる。
「なら、どうしたらいいんだ? このままだと見学会がまた中止になるぞ。そうしたら…………」
「またまた反省文とか言わないわよね」
「だってこれは、エルシアが原因…………」
ギロッ
クラウドが何かを言いかけたので、魔猫ではなくクラウドを睨みつけると、クラウドはさっと視線をそらした。
「…………であるとは言い切れないしな」
言いかけた言葉も濁す。
「えぇっと、王女殿下…………」
「ダメよ。カタディアボリなら、わたくしでは対処できないわ。残念だけど」
クラウドのヤツ、今度は王女殿下に何か言い掛けた。でも、最後まで言うことができず、王女殿下が対処拒否を突きつける。
「呼び出したくせに」
「この前、庭園前に抜け出したときも、エルシア嬢が弱体化してくれたんでしょ?」
「この前、この部屋で騒ぎが起きたとき、ルベラス嬢に撃退されてましたわね」
「この前、ここの前の広場でもエルシアが捕獲したんだったよな」
みんなの視線が私に集中した。何かを期待するような視線に私は辟易する。
私の味方はいないわけ?
魔猫は喉をごろごろ鳴らして、ご機嫌そうににゃーと鳴く。
《オレのご主人になってくれよ。そうしたら、おとなしい良い子になるから》
「面倒だし、ペット飼う気ないし」
《世話のいらないペットだぞ、ご主人》
「ペット飼うなら、保護者に通報しないといけないし」
「そこは通報じゃなくて連絡だろ?」
私と魔猫の会話を聞いて、私が独り言を言っているのかと思ったらしい。クラウドが突っ込みを入れてきた。
《それに最強のペットだ!》
《最凶の間違いだろ!》
そして、魔猫が何かと言い争いを始める。
頭が痛い。私は右手で頭を押さえた。
魔猫が言い争いを始めた相手とは、ここで一番、暴れてはいけない存在だった。
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