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1 王女殿下の魔猫編
6-1 その後
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魔猫と魔鳥がケンカして、王宮魔術師団から苦情が入って、私がパシアヌス様に呼び出されて、王女殿下に責任を押しつけた、その翌週のこと。
私は第三騎士団の第五隊の隊長室で、書類関係の手伝いをしていた。
第五隊、雑多な仕事が多過ぎて、報告書やら会計書類やらその他細々とした書類が滞りがちだったのだ。
加えて副隊長がいない。副隊長代理的なことは誰でもできるけど、責任をもって書類の処理ができる人はクストス隊長だけという。
それで仕方なく、週三くらいで私が手伝っている。いいのか、これ。
さすがにそろそろ副隊長候補を育てないといけないからと、今日は無理やり、クラウドも手伝わされていたけど。
まぁ、私のおかげでサクサク書類仕事が進むので、最近のクストス隊長はご機嫌なんだよね。
「凄い。今日もフルヌビのタルトだわ」
「クストス隊長、最近、気前がいいな」
そしてご機嫌なせいか、書類仕事の合間のお茶菓子がフルヌビのタルトという豪勢さ。
私は思わず両手を叩き、クラウドもおぉっ!という感じでタルトに目を止める。
「ここのタルト、美味しいよね。なんか、昔に食べたことがあるような味だし」
フルヌビは巷で人気のお菓子屋さん。トロッとしたカスタードや果物のソースが特徴のお菓子を看板商品としている。もちろん味も抜群だった。
とくにタルトは絶品で、サクッとしたタルト生地にトロッとしたカスタードが入り、さらにその上に甘酸っぱいイチゴのソースがトロッと乗っている。
「ここのタルト、美味しいよな。下の姉さんも好きなんだ」
クラウドはお姉さんが二人いるせいか、人気のお菓子情報にも詳しい。口うるささと性格の軽ささえなければ、女子にモテモテなのに。残念なヤツだ。
私はクラウドを横目で観察しながら、タルトに手を伸ばす。
クストス隊長が、これまたご機嫌でお茶を淹れてくれて、私たちは書類仕事の合間の休憩時間に突入した。
その休憩時間のこと。
話題は、例のお騒がせ魔猫がその後どうなったのか、になった。
「あの魔猫。けっきょく、エルシアと主従契約を結んだんだよな?」
クストス隊長がタルトを食べながら、話を振ってきた。意外とクストス隊長もお菓子好きだ。でなけりゃ、フルヌビのことなんて知らないだろうけど。
私もタルトを一口かじって返事をする。
「え? 結んでいませんよ」
うん、美味しい。このソースの甘酸っぱさとカスタードのクリーミーな甘さが良い。とても良い。
「えぇ? でも、エルシアの猫になったんだよな?」
さらにクストス隊長が聞いてくる。クラウドはというと、会話にも加わらず、一心不乱にタルトを食べてる。そんなに好きなのか、ここのタルト。
あ、でも食べてる個数はクストス隊長が一番多い。
私は二人を見て、ちょっと引いた。
そうそう、魔猫の話だったよね。
「ペットを飼っていいか、保護者に相談しようと思って。彼が来たときに会わせたんです」
「そういや、エルシアの保護者が来るって言ってたよな」
「それでフェリクスのやつ、エルシアをデートに誘えなかったんだったな」
魔猫には反応しなかったのに、保護者の話には反応するクラウド。そもそも、フェリクス副隊長からデートに誘われる予定はない。まったくない。断じてない。
それより、話を進めよう。
魔猫とはいえ、飼うとなったらペットには違いない。ペットを飼うなら保護者の許可がいる。
というわけで、私の休養日に合わせて王都にやってきた保護者と、例の魔猫を引き合わせてみたのだ。
実際問題、飼うとなったら、保護者との衝突は避けて通れない話だ。
ちゃんと許可を得てからでないと、ペットは飼えない。手順を踏んで筋を通そうと思って、会わせてみたところ、とんでもないことになった。
お茶を一口飲んで両手にカップを持ったまま、とんでもない事態を二人に説明する。
「そうしたら、猫が噛みつこうとして」
動きが止まる二人。
「は?」「まさか…………」
「一撃でやられました」
ゲホゲホゲホゲホゲホ
突然、むせて咳き込んだと思ったら、今度はガバッと立ち上がり、二人同時に叫んだ。
「「保護者が?!」」
「なわけ、ないでしょう。やられたのは猫です」
私は手にしたカップをテーブルに置く。
「「魔猫が?!」」
「保護者が素手で殴りました」
「「素手ぇぇぇ?!」」
「けっこう強いんです、私の保護者」
私はえへんと胸を張った。
魔剣士属性で、拳で語り合うのが大好きという私の保護者。噛みついてくる魔猫に対しても、拳の力で言うことを聞かせたわけだ。
「しかも、二発。二発で完勝ですよ」
シュッシュッと、私は保護者の真似をして拳を振るう。
残念ながら、体技の訓練は受けていないので、私の拳はふわんふわんとした動きしか出来ていない。
そんな私の目の前では、クストス隊長とクラウドがこそこそと会話を続けていた。
「魔猫を素手で殴って勝つ、てありか?」
「いや、俺たち、剣でも歯が立ちませんでしたが」
「しかも、二発で仕留めたそうだぞ」
「いや、普通じゃありませんよね、それ」
「エルシアの保護者、ヤバ過ぎるだろ」
「エルシアの保護者をやれるくらいですからね」
何やら不穏な話をしている二人。
とにかく、この二人が私のことをヤバいヤツ扱いしていることだけは、よく分かった。ふん。
テーブルに置いたカップを手に取り、私は再び、タルトを食べ始める。
「いったいどんな保護者なんだ? クラウド、会ったことはあるのか?」
「ありませんよ。ヴァンフェルム団長か、もしくは、アルバヴェスペルのおっさんたちなら知ってるんじゃないですか?」
「そうだな、そうだけどな、知る自信がない」
「いやまぁ、そうでしょうね」
二人の会話が途切れたところで、私は魔猫の結末を話した。
「それでけっきょく、保護者と私を共通主にした従属契約になったんです」
「主が二人って。そんな契約、ありか?」
「そう言われても。出来たので」
出来たものは出来たんだから、それでいいだろうに。それに、
「おかげで、保護者との手紙のやりとりが前より早くなりました」
「魔王猫をメッセンジャー扱いするなよ」
「エルシアもエルシアなら、エルシアの保護者も保護者だな」
王都と地方の手紙のやりとりの大変さを知らない二人には、この凄さと便利さが伝わらなかったらしい。
まぁ、いいや。
さっそく今日のことを手紙にしよう。それと、フルヌビのタルトもいっしょに送ろうかな。
呆れる二人を横目に見ながら、私は保護者に送る手紙のことを考えるのだった。
私は第三騎士団の第五隊の隊長室で、書類関係の手伝いをしていた。
第五隊、雑多な仕事が多過ぎて、報告書やら会計書類やらその他細々とした書類が滞りがちだったのだ。
加えて副隊長がいない。副隊長代理的なことは誰でもできるけど、責任をもって書類の処理ができる人はクストス隊長だけという。
それで仕方なく、週三くらいで私が手伝っている。いいのか、これ。
さすがにそろそろ副隊長候補を育てないといけないからと、今日は無理やり、クラウドも手伝わされていたけど。
まぁ、私のおかげでサクサク書類仕事が進むので、最近のクストス隊長はご機嫌なんだよね。
「凄い。今日もフルヌビのタルトだわ」
「クストス隊長、最近、気前がいいな」
そしてご機嫌なせいか、書類仕事の合間のお茶菓子がフルヌビのタルトという豪勢さ。
私は思わず両手を叩き、クラウドもおぉっ!という感じでタルトに目を止める。
「ここのタルト、美味しいよね。なんか、昔に食べたことがあるような味だし」
フルヌビは巷で人気のお菓子屋さん。トロッとしたカスタードや果物のソースが特徴のお菓子を看板商品としている。もちろん味も抜群だった。
とくにタルトは絶品で、サクッとしたタルト生地にトロッとしたカスタードが入り、さらにその上に甘酸っぱいイチゴのソースがトロッと乗っている。
「ここのタルト、美味しいよな。下の姉さんも好きなんだ」
クラウドはお姉さんが二人いるせいか、人気のお菓子情報にも詳しい。口うるささと性格の軽ささえなければ、女子にモテモテなのに。残念なヤツだ。
私はクラウドを横目で観察しながら、タルトに手を伸ばす。
クストス隊長が、これまたご機嫌でお茶を淹れてくれて、私たちは書類仕事の合間の休憩時間に突入した。
その休憩時間のこと。
話題は、例のお騒がせ魔猫がその後どうなったのか、になった。
「あの魔猫。けっきょく、エルシアと主従契約を結んだんだよな?」
クストス隊長がタルトを食べながら、話を振ってきた。意外とクストス隊長もお菓子好きだ。でなけりゃ、フルヌビのことなんて知らないだろうけど。
私もタルトを一口かじって返事をする。
「え? 結んでいませんよ」
うん、美味しい。このソースの甘酸っぱさとカスタードのクリーミーな甘さが良い。とても良い。
「えぇ? でも、エルシアの猫になったんだよな?」
さらにクストス隊長が聞いてくる。クラウドはというと、会話にも加わらず、一心不乱にタルトを食べてる。そんなに好きなのか、ここのタルト。
あ、でも食べてる個数はクストス隊長が一番多い。
私は二人を見て、ちょっと引いた。
そうそう、魔猫の話だったよね。
「ペットを飼っていいか、保護者に相談しようと思って。彼が来たときに会わせたんです」
「そういや、エルシアの保護者が来るって言ってたよな」
「それでフェリクスのやつ、エルシアをデートに誘えなかったんだったな」
魔猫には反応しなかったのに、保護者の話には反応するクラウド。そもそも、フェリクス副隊長からデートに誘われる予定はない。まったくない。断じてない。
それより、話を進めよう。
魔猫とはいえ、飼うとなったらペットには違いない。ペットを飼うなら保護者の許可がいる。
というわけで、私の休養日に合わせて王都にやってきた保護者と、例の魔猫を引き合わせてみたのだ。
実際問題、飼うとなったら、保護者との衝突は避けて通れない話だ。
ちゃんと許可を得てからでないと、ペットは飼えない。手順を踏んで筋を通そうと思って、会わせてみたところ、とんでもないことになった。
お茶を一口飲んで両手にカップを持ったまま、とんでもない事態を二人に説明する。
「そうしたら、猫が噛みつこうとして」
動きが止まる二人。
「は?」「まさか…………」
「一撃でやられました」
ゲホゲホゲホゲホゲホ
突然、むせて咳き込んだと思ったら、今度はガバッと立ち上がり、二人同時に叫んだ。
「「保護者が?!」」
「なわけ、ないでしょう。やられたのは猫です」
私は手にしたカップをテーブルに置く。
「「魔猫が?!」」
「保護者が素手で殴りました」
「「素手ぇぇぇ?!」」
「けっこう強いんです、私の保護者」
私はえへんと胸を張った。
魔剣士属性で、拳で語り合うのが大好きという私の保護者。噛みついてくる魔猫に対しても、拳の力で言うことを聞かせたわけだ。
「しかも、二発。二発で完勝ですよ」
シュッシュッと、私は保護者の真似をして拳を振るう。
残念ながら、体技の訓練は受けていないので、私の拳はふわんふわんとした動きしか出来ていない。
そんな私の目の前では、クストス隊長とクラウドがこそこそと会話を続けていた。
「魔猫を素手で殴って勝つ、てありか?」
「いや、俺たち、剣でも歯が立ちませんでしたが」
「しかも、二発で仕留めたそうだぞ」
「いや、普通じゃありませんよね、それ」
「エルシアの保護者、ヤバ過ぎるだろ」
「エルシアの保護者をやれるくらいですからね」
何やら不穏な話をしている二人。
とにかく、この二人が私のことをヤバいヤツ扱いしていることだけは、よく分かった。ふん。
テーブルに置いたカップを手に取り、私は再び、タルトを食べ始める。
「いったいどんな保護者なんだ? クラウド、会ったことはあるのか?」
「ありませんよ。ヴァンフェルム団長か、もしくは、アルバヴェスペルのおっさんたちなら知ってるんじゃないですか?」
「そうだな、そうだけどな、知る自信がない」
「いやまぁ、そうでしょうね」
二人の会話が途切れたところで、私は魔猫の結末を話した。
「それでけっきょく、保護者と私を共通主にした従属契約になったんです」
「主が二人って。そんな契約、ありか?」
「そう言われても。出来たので」
出来たものは出来たんだから、それでいいだろうに。それに、
「おかげで、保護者との手紙のやりとりが前より早くなりました」
「魔王猫をメッセンジャー扱いするなよ」
「エルシアもエルシアなら、エルシアの保護者も保護者だな」
王都と地方の手紙のやりとりの大変さを知らない二人には、この凄さと便利さが伝わらなかったらしい。
まぁ、いいや。
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