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2 暗黒騎士と鍵穴編
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第二騎士団への報告書と意見書を作成した次の日。
私は朝から、第三騎士団ではないところにいた。
「それで、エルシア嬢。うちのお兄さまなんてどうかしら?」
明るく元気でけたたましい声に話しかけられて、タルトを食べる。これが仕事じゃなかったら、もっと良かったのに。
そう。ここは王女殿下の庭園。
私は今、仕事で王女殿下の相手をしている真っ最中なのだ。
「はい、このタルト。もの凄く美味しいです。新作ですか?」
「期間限定のタルトですわね。さすが、フルヌビですわ」
私の隣でタルトを食べているのはソニアラート・カエルレウス。
青みがかった銀髪に碧眼のちょっとツンツンしたこの美女も、もうお馴染みのメンバーと化している。
ソニアはカエルレウス公爵家のご令嬢。学院時代は私と同期で、学年トップの私と学業を争ったライバル。今ではすっかり程よい距離を保つ友人となっていた。
学院卒業後は他の貴族のご令嬢のように社交に力を入れるとばかり思っていたら、魔術師として騎士団に入団。
今は第一騎士団、ヴォードフェルム隊長の隊に配属されている。
そのソニアの話では、最近のヴォードフェルム隊長は仕事の合間に、シュシャとかいう芸術家の作品の良さをあちこににアピールしているんだとか。
「ヴォードフェルム隊長って、芸術好きには見えないけれど。何があったんだろう」
「エルシアらしいですわね」
なぜか、ソニアに呆れられてしまった。私の知らない何かがあるようだ。
そうこうしているうちに、王女殿下がキレた。
「あのねぇ! わたくしの話、聞いてる? 聞いてないでしょ!」
もはや、これもいつものこと。慣れって怖い。
「はい、タルトが美味しすぎて」
「ま、まぁ、それは認めるわ」
「王女殿下もフルヌビを召されるとは。また、フルヌビの人気があがりますわね」
「ま、まぁ、流行を作るのはわたくしだからね」
すぐ言いくるめられてしまうところも王女殿下のかわいらしい部分だ、ということにしておこう。
「ではなくて。エルシア嬢。わたくしのお兄さまよ!」
ところが今回はなかなか粘る王女殿下。
私とソニアは顔を見合わせる。
「あのカス王子ですか?」
「違うわ! 第二王子じゃなくて第三王子の方のお兄さまよ!」
「カス王子で通じるんですね」
「第二王子以外にカス王子なんていないわ!」
私の言い方も大概だと思うけど、兄妹なのにこの言いようもどうなんだろう。
分かるのは第二王子殿下だけ、ダメなヤツ扱いされているということ。
いつも第二王子殿下を囲んでいるご令嬢も、本命は王太子殿下なのかもしれないなぁ。
私はタルトをかじりながら、知り合いの侯爵令嬢を思い浮かべた。
「まぁ、それもそうですね。それで第三王子殿下がどうしました?」
「結婚相手にどうかしら?」
「結構です」
「どうして? 地位も権力もそれなりにあるわよ! お金だって困らないし。婿候補として人気だと思うわ!」
はぁ。いいのだろうか。兄の結婚相手を勝手に決めてしまって。それに私の結婚相手に薦められても困る。
王女殿下の傍若無人ぶりに、ソニアも苦い笑みをこぼした。
「そういえば、エルシアはどなたか好きな男性でもいるんですの?」
ソニアもソニアで返答の難しい質問を投げ込んでくる。まったく。
いくつか回答を頭の中に上げながらチラッとソニアを見ると、ソニアは表情を変えず、口の端だけニィっと釣り上げていた。
うん、あの表情はおもしろがってるな。
まぁ、これ以上、ソニアに付き合う義理もないし。適当に切り上げるか。
「うーん、保護者?」
「まぁ、なんてことかしら! 健気な養女じゃないの!」
「養子縁組みはしてないので、養女ではないです。ただの後援です」
「じゃあ、エルシアには浮いた話はないのね!」
王女殿下は上機嫌にパチンと手を叩く。
「浮いた話ってなんですか?」
「エルシアの大好きな、恋バナですわ」
「どちらかというと、他人の恋バナを聞きたい方なので」
やっぱり恋バナといえば、他人から聞く恋バナだ。
小説もキュンキュンしなくはないけど、どこかしら現実味に欠ける。
現実は小説ほどスマートではないけど、人間臭さを感じていい。
なのに、魔塔の先生たちは、そんなドロドロしたり歪んだ話ではなく、もっと綺麗な話を聞いて真っ直ぐに育てと言う。
基本、保護者や王太子殿下も同じ。セラフィアスに至っては、身近に恋バナの塊のクズがいるから十分だろうと呆れてるし。
クズ男の恋バナが身近にあるからこそ、真っ当に生きている人の生の恋バナが聞きたくなるというのは、ダメなんだろうか。
というか、王女殿下やソニアからも恋バナを聞かせてもらったことないな。
王族に高位貴族となると、恋愛も仕事になるから気軽に出来ない。
まぁ、『真実の愛』の主人公は、仕事を忘れて気軽に恋愛を楽しんでしまったんだっけ。こいつもクズ男と大差ないよね。
私が自分の恋バナには一切触れずに、適当に返事をすると、王女殿下は興奮して声をあげた。
「やっぱり! ならばお兄さまにもチャンスはあるわね!」
「あるわけないです。そもそも、第三王子殿下とは接点がありませんからね」
まぁ、会ったことくらいはあるけどね。
私はつい最近の出来事を思い浮かべた。
私は朝から、第三騎士団ではないところにいた。
「それで、エルシア嬢。うちのお兄さまなんてどうかしら?」
明るく元気でけたたましい声に話しかけられて、タルトを食べる。これが仕事じゃなかったら、もっと良かったのに。
そう。ここは王女殿下の庭園。
私は今、仕事で王女殿下の相手をしている真っ最中なのだ。
「はい、このタルト。もの凄く美味しいです。新作ですか?」
「期間限定のタルトですわね。さすが、フルヌビですわ」
私の隣でタルトを食べているのはソニアラート・カエルレウス。
青みがかった銀髪に碧眼のちょっとツンツンしたこの美女も、もうお馴染みのメンバーと化している。
ソニアはカエルレウス公爵家のご令嬢。学院時代は私と同期で、学年トップの私と学業を争ったライバル。今ではすっかり程よい距離を保つ友人となっていた。
学院卒業後は他の貴族のご令嬢のように社交に力を入れるとばかり思っていたら、魔術師として騎士団に入団。
今は第一騎士団、ヴォードフェルム隊長の隊に配属されている。
そのソニアの話では、最近のヴォードフェルム隊長は仕事の合間に、シュシャとかいう芸術家の作品の良さをあちこににアピールしているんだとか。
「ヴォードフェルム隊長って、芸術好きには見えないけれど。何があったんだろう」
「エルシアらしいですわね」
なぜか、ソニアに呆れられてしまった。私の知らない何かがあるようだ。
そうこうしているうちに、王女殿下がキレた。
「あのねぇ! わたくしの話、聞いてる? 聞いてないでしょ!」
もはや、これもいつものこと。慣れって怖い。
「はい、タルトが美味しすぎて」
「ま、まぁ、それは認めるわ」
「王女殿下もフルヌビを召されるとは。また、フルヌビの人気があがりますわね」
「ま、まぁ、流行を作るのはわたくしだからね」
すぐ言いくるめられてしまうところも王女殿下のかわいらしい部分だ、ということにしておこう。
「ではなくて。エルシア嬢。わたくしのお兄さまよ!」
ところが今回はなかなか粘る王女殿下。
私とソニアは顔を見合わせる。
「あのカス王子ですか?」
「違うわ! 第二王子じゃなくて第三王子の方のお兄さまよ!」
「カス王子で通じるんですね」
「第二王子以外にカス王子なんていないわ!」
私の言い方も大概だと思うけど、兄妹なのにこの言いようもどうなんだろう。
分かるのは第二王子殿下だけ、ダメなヤツ扱いされているということ。
いつも第二王子殿下を囲んでいるご令嬢も、本命は王太子殿下なのかもしれないなぁ。
私はタルトをかじりながら、知り合いの侯爵令嬢を思い浮かべた。
「まぁ、それもそうですね。それで第三王子殿下がどうしました?」
「結婚相手にどうかしら?」
「結構です」
「どうして? 地位も権力もそれなりにあるわよ! お金だって困らないし。婿候補として人気だと思うわ!」
はぁ。いいのだろうか。兄の結婚相手を勝手に決めてしまって。それに私の結婚相手に薦められても困る。
王女殿下の傍若無人ぶりに、ソニアも苦い笑みをこぼした。
「そういえば、エルシアはどなたか好きな男性でもいるんですの?」
ソニアもソニアで返答の難しい質問を投げ込んでくる。まったく。
いくつか回答を頭の中に上げながらチラッとソニアを見ると、ソニアは表情を変えず、口の端だけニィっと釣り上げていた。
うん、あの表情はおもしろがってるな。
まぁ、これ以上、ソニアに付き合う義理もないし。適当に切り上げるか。
「うーん、保護者?」
「まぁ、なんてことかしら! 健気な養女じゃないの!」
「養子縁組みはしてないので、養女ではないです。ただの後援です」
「じゃあ、エルシアには浮いた話はないのね!」
王女殿下は上機嫌にパチンと手を叩く。
「浮いた話ってなんですか?」
「エルシアの大好きな、恋バナですわ」
「どちらかというと、他人の恋バナを聞きたい方なので」
やっぱり恋バナといえば、他人から聞く恋バナだ。
小説もキュンキュンしなくはないけど、どこかしら現実味に欠ける。
現実は小説ほどスマートではないけど、人間臭さを感じていい。
なのに、魔塔の先生たちは、そんなドロドロしたり歪んだ話ではなく、もっと綺麗な話を聞いて真っ直ぐに育てと言う。
基本、保護者や王太子殿下も同じ。セラフィアスに至っては、身近に恋バナの塊のクズがいるから十分だろうと呆れてるし。
クズ男の恋バナが身近にあるからこそ、真っ当に生きている人の生の恋バナが聞きたくなるというのは、ダメなんだろうか。
というか、王女殿下やソニアからも恋バナを聞かせてもらったことないな。
王族に高位貴族となると、恋愛も仕事になるから気軽に出来ない。
まぁ、『真実の愛』の主人公は、仕事を忘れて気軽に恋愛を楽しんでしまったんだっけ。こいつもクズ男と大差ないよね。
私が自分の恋バナには一切触れずに、適当に返事をすると、王女殿下は興奮して声をあげた。
「やっぱり! ならばお兄さまにもチャンスはあるわね!」
「あるわけないです。そもそも、第三王子殿下とは接点がありませんからね」
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