運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

SA

文字の大きさ
83 / 573
2 暗黒騎士と鍵穴編

2-10 ヴォードフェルムの話し合い

しおりを挟む
 その日、俺は家の居間で荒れる兄貴を目撃した。

 騎士団所属の場合、実家が王都にあっても通常は官舎住まいとなるのだが、我が家はおやじの方針で実家住まい。俺も兄貴も実家で生活している。
 
 そんな兄貴とはよく衝突するものの、家族仲、兄弟仲自体は悪くない。

 にもかかわらず、その日の居間は吹雪が吹き荒れているような有り様で、俺は思わず、目を疑った。

「兄貴、どうしたんだ?」

「最近の生意気な魔術師は、シュシャの良さも分からないのか」

「だから、どうしたんだよ?」

 俺は呆れながら、ソファーに腰掛ける。

 他の家族もいつものように、居間に集合していたが、みんな、兄貴の様子を恐々と窺うだけで誰も何も喋らない。

 おやじと目があうと、なぜだかコクコクと頷かれた。

 はぁぁぁぁ。

 これは、俺が兄貴に子細を聞けというヤツだ。

 はぁぁぁぁ。

 俺はもう一度、大きくため息をついた。




 俺の家はヴォードフェルム。フェルム一族の一つで、後継の座から一番遠い家だ。

 優秀な騎士である姉ヴェルフェルム第一騎士団団長と、戦略家として才のある弟ヴァンフェルム第三騎士団団長に挟まれた俺のおやじは、フェルム侯爵の子どもの中で一番、騎士としての才能がない人間だった。

 騎士としての才能だけでない。性格的にも穏やかで温厚、争いごとは避けて歩き、自分から前に出て何かをやるタイプでもなかった。

 意外にも領地経営や商業の才はあったようで、そっち方面では生き生きとして、手腕を発揮していたのだ。

 だが、フェルムは騎士の家系。

 そして、騎士の才はなくても長男はうちのおやじ。前例に従えば、おやじが次期侯爵となるところだったのだ。

 ところが、騎士としての成果を重んじる俺の祖父、フェルム侯爵は前例を覆す。三人の子どもに伯爵位を与え、競い合わせて、後継を決めると宣言したのだ。

 意外と喜んだのはおやじだったようだ。無理やり騎士の道に進まなくて済むと言って、同じく温厚な俺たちの母とともに、ヴォードフェルムの道を突き進んだと。

 そんなわけで、目下、後継争いはヴェルフェルムとヴァンフェルムに絞られている。

 俺と兄貴は騎士としての道を進むことになったが、それに対して、おやじは何か言うことはなかった。やりたいことを全力でやれ、と、笑ってそう言ったのだ。

 そんなおやじが、今、機嫌の悪い兄貴に隠れてブルブル震えている。

 かなり情けない。




 おやじはともかく、兄貴の方だ。とりあえず、言い分を聞いてみる。

「せっかく、この俺がシュシャの作品展に誘ってやったのに。あの生意気女のヤツ、芸術に興味がないと言い切ったんだ。信じられるか?」

 あー、生意気女でピンときた。

 エルシアだ。

 確かさっきも生意気な魔術師とは言っていたな。

 ソファーの隅で弟妹が小さな声で会話をしている。

「ノア兄さん、エルシアさんに振られたの?」

「あの調子なら、振られる以前だな」

「エルシアさんに、まったく相手にされてないんだね」

 ここで言ってやるなよ、それ。

 でもまぁ、エルシアは美術鑑賞なんてするようには見えないし、無理なら無理だと遠慮なくいうヤツだ。

「エルシアなら、普通に言いそうだよな」

「シュシャだぞ、シュシャ!」

「いや、そんなマニアックな作品展に行く方がおかしいだろ? 兄貴、頭でもぶつけたのか?」

「なんだと。お前もシュシャの良さが分からないのか!」

 分かるか!

 そう言い返そうとして、思いとどまり周りを見ると、家族全員がコクリと大きく頷いていた。
 全員で、兄貴のシュシャを完全否定したんだな。機嫌が悪くなるはずだ。
 マニアックな芸術家の作品を選ぶ兄貴も兄貴だが。

「俺なんて『運命の恋』の観劇に誘ったのに断られたんだぞ!」

 すると、ソファーの隅で弟妹がまた小さな声で会話をし始めた。

「フェリクス兄さんも、エルシアさんに振られたの?」

「あの調子なら、ノア兄さんと同じだな」

「同じ相手に、まったく相手にされてないんだね」

 弟妹の言葉が地味に心をえぐる。お願いだから聞こえるように言わないでくれ、絶対、わざとだろ。

 弟妹の会話は聞こえないのか、兄貴が俺に声をかけてきた。

「生意気女なら、簡単に言いそうだな」

「『運命の恋』の観劇チケットだぞ! 巷では黄金チケットなんて呼ばれるくらい、取るのが難しいんだ!」

 自然と声に力が入り、手を握りしめる。

「むしろ、よく取れたな、そんなチケット」

「あぁ、頑張ったよ、俺!」

 誰か、誉めてくれ。本当はエルシアから誉められたかったんだけどな。

「でも、断られたんだろ? 一人で行くのか?」

「一人でなんて行くかよ! 泣く泣くダイモス魔術師殿を誘ったよ!」

「良かったじゃないか。行く相手がいて」

 良いものか。エルシアじゃないんだぞ。何が楽しくて、同僚と観劇にいかなきゃならないんだよ。

 ダイモス魔術師殿は茶色がかった金髪に碧眼、小柄ながらも元気で明るいところが騎士から人気の魔術師だ。
 その人気は第三騎士団だけにとどまらず、他の騎士団の騎士たちからも、よく声をかけられているらしい。

 兄貴には言われっぱなし、他の家族からはチラヒソされっぱなし、なのも、しゃくに障るので、俺は兄貴にも探りを入れてみた。

 兄貴だって俺と同じ境遇だろう。心の中で笑いながら聞いてみる。

「兄貴はどうなんだよ。シュシャなんてマニアックな作品展、行ってくれる相手がいるのかよ」

「俺もカエルレウス嬢に声をかけた」

 意外と大物だ。兄貴にしては凄い人物に声をかけたものだ。

 カエルレウス嬢は、グラディア王国の三大公爵家のご令嬢だ。血筋的には、王族、大公家に次ぐ。
 魔法の腕も秀一で、学院の魔術師コースでは次席だったとこと。(ちなみに首席はエルシアだそうだ)

 兄貴のくせになんでそんなご令嬢を。

 と思ったが、よくよく考えれば兄貴とカエルレウス嬢は同じ隊。ただの同僚だ。

 いやいや、声をかけた、とは言ったけどいっしょに行くとは言ってないな。

「断られただろ?」

 意地悪心で聞いてみると、兄貴はあっさりと否定する。

「いや。生意気女に断られて行く相手がいない、と正直に言ったら、もの凄く大きなため息をついた後、同行を承諾してくれた。お互い、持つべきものは同僚だな」

 それ、断れないヤツだな。

 そんな言い方してもエルシアなら断るだろうけど、カエルレウス嬢は断れないだろう。

「いや、そもそも、兄貴がエルシアを誘うのがおかしい。
 だいたい、誘いたいなら相手の好みとかに合わせるはずだろ。自分が行きたいところに誘ってどうするよ」

 自分で言ってて、自分をかえりみる。俺は本当に、相手の好みを考えていたのかと思い始めた。

 自問自答する俺をよそ目に、兄貴は兄貴で我が道を行く。

「何を言っている。自分の得意とする分野で戦うのが基本だろう。わざわざ相手の得意な分野で戦う意味が分からない」

「いや、意味が分からないのは兄貴の方だが」

「自分の得意な分野に誘い込んで、相手を唸らせる。これが勝利の秘訣だ」

「そもそも、誘えてないよな。もっと言うなら勝利したことなんてないよな」

 一瞬の沈黙。

「戦略を誤ったか」

 ボソッとつぶやく兄貴。

「戦略たてられるほど、恋愛に精通してないだろ」

 むしろ、ポンコツの域だ。

「いや、俺も。誘えてないって意味では兄貴と同レベルか」

「よしっ。フェリクス、作戦を練り直すぞ」

「えぇっ、俺も?!」

 兄貴のペースに巻き込まれた俺をしり目に、弟妹がまたまた小さな声で心をえぐる会話をする。

「エルシアさん、どっちの恋人になると思う?」

「けっきょく最後は、クラウド兄さんに取られるんじゃないか?」

「あぁ」

 かわいそうな目で見るなよ! まだどうなるか分からないだろ!

 そうは思ったものの、エルシアとは同じ隊で年齢も近いクラウドと張り合って、本当に勝てるのかと、不安にかられる俺だった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

結婚式をボイコットした王女

椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。 しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。 ※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※ 1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。 1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

彼の過ちと彼女の選択

浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。 そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。 一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。

【完結】わたしは大事な人の側に行きます〜この国が不幸になりますように〜

彩華(あやはな)
恋愛
 一つの密約を交わし聖女になったわたし。  わたしは婚約者である王太子殿下に婚約破棄された。  王太子はわたしの大事な人をー。  わたしは、大事な人の側にいきます。  そして、この国不幸になる事を祈ります。  *わたし、王太子殿下、ある方の視点になっています。敢えて表記しておりません。  *ダークな内容になっておりますので、ご注意ください。 ハピエンではありません。ですが、救済はいれました。

愛はリンゴと同じ

turarin
恋愛
学園時代の同級生と結婚し、子供にも恵まれ幸せいっぱいの公爵夫人ナタリー。ところが、ある日夫が平民の少女をつれてきて、別邸に囲うと言う。 夫のナタリーへの愛は減らない。妾の少女メイリンへの愛が、一つ増えるだけだと言う。夫の愛は、まるでリンゴのように幾つもあって、皆に与えられるものなのだそうだ。 ナタリーのことは妻として大切にしてくれる夫。貴族の妻としては当然受け入れるべき。だが、辛くて仕方がない。ナタリーのリンゴは一つだけ。 幾つもあるなど考えられない。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

婚約破棄でお願いします

基本二度寝
恋愛
王太子の婚約者、カーリンは男爵令嬢に覚えのない悪行を並べ立てられた。 「君は、そんな人だったのか…」 王太子は男爵令嬢の言葉を鵜呑みにして… ※ギャグかもしれない

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

処理中です...