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2 暗黒騎士と鍵穴編
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リンクス隊長の話は、フルヌビのお姉さんから聞いた話と同じだった。もちろんフルヌビに関する部分だけ。
問題なのは、このタルト消失事件がフルヌビ以外でも起きていたということ。
「これが三、四年前に、タルトや他のものが消失した場所。三年前、フルヌビの初代が殺されてから、パタリと消失が止まったんだ」
リンクス隊長は王都の地図を開いて見せてくれた。リンクス隊長が持ってきた地図には、細かく書き込みがされている。
「そして、その中で、小さな黒い穴のような物を見たという証言を得たのがここ」
書き込みのいくつかにあたるその場所には、フルヌビも含まれている。
私は地図を見ながら、三、四年前のことを思い出そうとしてみた。
「三、四年前って言ったら、私、まだ魔塔で生活してたころじゃないかな」
「お前。魔塔出身なのか?」
リンクス隊長が驚いたように聞き返してくる。
「うん、魔塔の孤児院出身。十二歳なら孤児院にいたころで、外出は出来なかったから」
私は魔塔で暮らしていた当時を思い出す。学院に入る直前の時期だ。
この頃にはセラフィアスから訓練を受けていたので、魔力コントロールもうまくなっていた。自分の魔力を完全に隠せるくらいに。
私が昔を懐かしんでいると、リンクス隊長が何かに気がついた。
「そうか。ん? 待てよ。魔塔の孤児院出身てことはお前、平民だろ? その実力なら、いきなり第二騎士団に配属されてもおかしくはない。なんで、配属されなかったんだ?」
「後援家門の意向。もあるけど、私、魔導爵持ちだから、今はいちおう貴族なんだよね」
「それを言ったら、第二騎士団の騎士だって騎士爵持ちだから準貴族だが」
「準爵扱いだからでしょ? 私、魔導伯だから。伯爵扱いになるの」
「あぁ、だとすると、第二騎士団には配属されないな」
騎士同様、魔術師も騎士団や王宮勤めともなると平民でも爵位がもらえる。
騎士は一律、準男爵扱いではあるが、魔術師は能力によって準男爵扱いの魔導爵、伯爵扱いの魔導伯とに分かれていた。
私は名のある杖持ちなので、ただのエルシアから、エルシア・ルベラス魔導伯になっているのだ。
「待った待った待った! エルシア、お前が魔導伯だってのは今、知ったんだが!」
私とリンクス隊長の和やかな会話を、何の遠慮もなくぶち壊したのは、クストス隊長だ。妙に慌てている。
「あー、そうなんですね」
「て、直属の上司が今、知るってどういうことだ?」
それを私に聞かれても困るんだけど。
配属されてる人物の個人情報を持っているのは団長だろうし、何か手違いがあって私の情報が回っていないだけだろう。
それも私に言われても困る話だわ。
対処しようがないので、第三騎士団に帰ってからにしてもらおうか。
「あー、クストス隊長。話が先に進まないので、この話はいったん、後にしてもらえます?」
「いや、まぁ、うぐぐぐ、そうしよう」
クストス隊長は私の正論にいったん収まる。
「いつものエルシアだな」
「クラウド、これ、納得するのか?!」
「クストス隊長、エルシアがムチャクチャなのは前からです」
「それはそうなんだが」
いったんは収めたものの納得がいかなさそう。
リンクス隊長は黙って私たちの会話を聞いていたが、途切れたところで再び話しかけてきた。
「それで、話を進めていいか?」
「うん。クストス隊長は無視していいんで」
私の言葉を聞き、リンクス隊長は首を縦に振った。了解の意味だろう。
「続けるぞ。三年前、フルヌビの初代が殺されて、消失事件がピタリと止まって、事件は未解決のまま終息した」
「初代が犯人ということは? 犯人が亡くなったから事件が止まった」
「あぁ、その意見もあったが、初代は魔力がなく、魔導具も魔導オーブンを使うくらい。
それに、この地図を見てくれ。初代では行動できないエリアでも発生している」
なるほど。調査だけでなく検証もされているようだ。
「犯人が複数いるってことは?」
「もちろん、その可能性も考えた。複数いる可能性も否定できなかった」
犯人が複数いる件については、共犯、別々に活動しているなどなど、いろいろなパターンを想定したそうだ。
フルヌビの初代殺害については、腕が肘から食いちぎられているとこらから、魔獣の仕業が濃厚だという結論に至ったらしい。
「しかし、それから事件は起きず、犯人の目星もつけられず、未解決のままとなったんだ」
「で、再び、消失事件が起きたと」
「あぁ。最初に起きたのは、王宮魔術管理部が倒壊した日の午後。場所はフルヌビだ」
うん?
私はリンクス隊長が喋った内容を、頭の中で繰り返す。
「さっき、私、いろいろと質問されたよね?」
「したな」
「てことは、私、完全に無関係だって分かるじゃないの!」
「め、面目ない」
「というか、最初からそこを確認しとけばよかった話じゃない?」
「本当にすまん」
リンクス隊長はパッとイスから立ち上がると、その場に膝をつき綺麗な土下座をした。土下座が綺麗すぎてちょっと引く。
私は土下座するリンクス隊長を、再びイスに座らせた。
本当はもっとネチネチやりたいところだけれど、これだけ潔く謝罪された後では、いまさら感しかない。
そんなことよりもっと気になることもあった。
「それで、穴も確認できたの?」
例の穴だ。小さい鍵穴のような形の。
「それがこっちの地図だ。発生件数は徐々に増えている。どこも、前回、起きた場所と似通ったところなんだ」
「なるほど」
私は新しく出された地図も見せてもらう。前の物と見比べると確かに似た場所だった。
「そこで、ルベラス魔術師殿のご意見を窺いたく思ってな」
「呼称が丁寧になってる」
「仕方ないだろう、お前の方が強いんだから」
「丁寧なのは呼称だけだった」
「それで、ルベラス魔術師殿から見て、どうだ?」
今や、第三騎士団で推察を口にしたときよりも、はるかに多くの情報が集まっている。
その情報はとりあえず脇におき、私はリンクス隊長の問いかけに答えた。
問題なのは、このタルト消失事件がフルヌビ以外でも起きていたということ。
「これが三、四年前に、タルトや他のものが消失した場所。三年前、フルヌビの初代が殺されてから、パタリと消失が止まったんだ」
リンクス隊長は王都の地図を開いて見せてくれた。リンクス隊長が持ってきた地図には、細かく書き込みがされている。
「そして、その中で、小さな黒い穴のような物を見たという証言を得たのがここ」
書き込みのいくつかにあたるその場所には、フルヌビも含まれている。
私は地図を見ながら、三、四年前のことを思い出そうとしてみた。
「三、四年前って言ったら、私、まだ魔塔で生活してたころじゃないかな」
「お前。魔塔出身なのか?」
リンクス隊長が驚いたように聞き返してくる。
「うん、魔塔の孤児院出身。十二歳なら孤児院にいたころで、外出は出来なかったから」
私は魔塔で暮らしていた当時を思い出す。学院に入る直前の時期だ。
この頃にはセラフィアスから訓練を受けていたので、魔力コントロールもうまくなっていた。自分の魔力を完全に隠せるくらいに。
私が昔を懐かしんでいると、リンクス隊長が何かに気がついた。
「そうか。ん? 待てよ。魔塔の孤児院出身てことはお前、平民だろ? その実力なら、いきなり第二騎士団に配属されてもおかしくはない。なんで、配属されなかったんだ?」
「後援家門の意向。もあるけど、私、魔導爵持ちだから、今はいちおう貴族なんだよね」
「それを言ったら、第二騎士団の騎士だって騎士爵持ちだから準貴族だが」
「準爵扱いだからでしょ? 私、魔導伯だから。伯爵扱いになるの」
「あぁ、だとすると、第二騎士団には配属されないな」
騎士同様、魔術師も騎士団や王宮勤めともなると平民でも爵位がもらえる。
騎士は一律、準男爵扱いではあるが、魔術師は能力によって準男爵扱いの魔導爵、伯爵扱いの魔導伯とに分かれていた。
私は名のある杖持ちなので、ただのエルシアから、エルシア・ルベラス魔導伯になっているのだ。
「待った待った待った! エルシア、お前が魔導伯だってのは今、知ったんだが!」
私とリンクス隊長の和やかな会話を、何の遠慮もなくぶち壊したのは、クストス隊長だ。妙に慌てている。
「あー、そうなんですね」
「て、直属の上司が今、知るってどういうことだ?」
それを私に聞かれても困るんだけど。
配属されてる人物の個人情報を持っているのは団長だろうし、何か手違いがあって私の情報が回っていないだけだろう。
それも私に言われても困る話だわ。
対処しようがないので、第三騎士団に帰ってからにしてもらおうか。
「あー、クストス隊長。話が先に進まないので、この話はいったん、後にしてもらえます?」
「いや、まぁ、うぐぐぐ、そうしよう」
クストス隊長は私の正論にいったん収まる。
「いつものエルシアだな」
「クラウド、これ、納得するのか?!」
「クストス隊長、エルシアがムチャクチャなのは前からです」
「それはそうなんだが」
いったんは収めたものの納得がいかなさそう。
リンクス隊長は黙って私たちの会話を聞いていたが、途切れたところで再び話しかけてきた。
「それで、話を進めていいか?」
「うん。クストス隊長は無視していいんで」
私の言葉を聞き、リンクス隊長は首を縦に振った。了解の意味だろう。
「続けるぞ。三年前、フルヌビの初代が殺されて、消失事件がピタリと止まって、事件は未解決のまま終息した」
「初代が犯人ということは? 犯人が亡くなったから事件が止まった」
「あぁ、その意見もあったが、初代は魔力がなく、魔導具も魔導オーブンを使うくらい。
それに、この地図を見てくれ。初代では行動できないエリアでも発生している」
なるほど。調査だけでなく検証もされているようだ。
「犯人が複数いるってことは?」
「もちろん、その可能性も考えた。複数いる可能性も否定できなかった」
犯人が複数いる件については、共犯、別々に活動しているなどなど、いろいろなパターンを想定したそうだ。
フルヌビの初代殺害については、腕が肘から食いちぎられているとこらから、魔獣の仕業が濃厚だという結論に至ったらしい。
「しかし、それから事件は起きず、犯人の目星もつけられず、未解決のままとなったんだ」
「で、再び、消失事件が起きたと」
「あぁ。最初に起きたのは、王宮魔術管理部が倒壊した日の午後。場所はフルヌビだ」
うん?
私はリンクス隊長が喋った内容を、頭の中で繰り返す。
「さっき、私、いろいろと質問されたよね?」
「したな」
「てことは、私、完全に無関係だって分かるじゃないの!」
「め、面目ない」
「というか、最初からそこを確認しとけばよかった話じゃない?」
「本当にすまん」
リンクス隊長はパッとイスから立ち上がると、その場に膝をつき綺麗な土下座をした。土下座が綺麗すぎてちょっと引く。
私は土下座するリンクス隊長を、再びイスに座らせた。
本当はもっとネチネチやりたいところだけれど、これだけ潔く謝罪された後では、いまさら感しかない。
そんなことよりもっと気になることもあった。
「それで、穴も確認できたの?」
例の穴だ。小さい鍵穴のような形の。
「それがこっちの地図だ。発生件数は徐々に増えている。どこも、前回、起きた場所と似通ったところなんだ」
「なるほど」
私は新しく出された地図も見せてもらう。前の物と見比べると確かに似た場所だった。
「そこで、ルベラス魔術師殿のご意見を窺いたく思ってな」
「呼称が丁寧になってる」
「仕方ないだろう、お前の方が強いんだから」
「丁寧なのは呼称だけだった」
「それで、ルベラス魔術師殿から見て、どうだ?」
今や、第三騎士団で推察を口にしたときよりも、はるかに多くの情報が集まっている。
その情報はとりあえず脇におき、私はリンクス隊長の問いかけに答えた。
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