運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

SA

文字の大きさ
119 / 573
2 暗黒騎士と鍵穴編

6-1 その後

しおりを挟む
 クストス隊長が言葉通り、手で握り潰してしまった書類を作り直して戻ってきても、私の反省文は書き終わらず。

 遅筆でも書かないことには終わらないので、のろのろと書き進めていたところ、沈黙に耐えかねたのか、クストス隊長が話しかけてきた。

「エルシア、ひとつ、気になってることがあるんだが」

 私も反省文を書くのに飽きてきたので、クストス隊長の方に顔を向ける。

「なんでしょう?」

「あの杖のことだ。けっきょく、杖は王宮魔術管理部に封印されたんだよな?」

 クストス隊長は神妙な顔をしていた。

 あー。

 あの後、杖精がどうなったか、誰も気にしてないと思っていたので、私も何も言わないままだったわ。

 当初の予定では、クズ男が杖精を封印して再管理することにはなってたけど。そのクズ男は療養中。

 完治するのに二ヶ月ほど。少なくとも一ヶ月は療養が必要だとかで、王宮魔術師団を不在にしていた。

 次席に続いて筆頭も休むことになってしまって、現在、王宮魔術師団の方は大騒ぎのようだ。私の知ったことじゃないけど。

 そうそう。杖精のその後だっけ。

「え? 封印なんて、してませんよ?」

 私は軽く答えた。

「えぇ? だってあの杖、野放しに出来ないだろう?」

 クストス隊長は、私の返答に凄く驚いたようだ。

「確か、筆頭殿でも封印以外の処置ができなくて、エルシアの殴打でも壊れなかったよな」

 うーんと唸ってから、私はこくんと頷いた。

 うん、ちょっと語弊はあった。

 白髪の杖精を人型から魔導具の形に戻そうと、セラフィアスを使った時、クストス隊長たちからは、杖で杖精を殴っているようにしか見えなかったようだ。

 壊すために殴ったわけではないから、壊れなかったのは当たり前で。しかも、ただ殴ったわけではないので、詳細はナイショのまま。

 だから、クストス隊長は私の殴打で杖精が壊れなかったと思いこんでいる。

 実際、壊せたかどうかはちょっと分からない。
 私の専門はあくまでも鎮圧。鎮めて圧するのであって、壊すとは少し違う。

 頷く私を見て、クストス隊長は驚いた顔をちょっと崩した。

「なら、封印するしかないじゃないか」

「あー、それがですねぇ。あの後、私。保護者に回収されたんですけど」

「あぁ、ヴァンフェルム団長から、保護者に保護されたって聞いたぞ」

 ヴァンフェルム団長、余計なことまで話したようだ。いったいどこまで話したのやら。

「へー、そんなことまで話したんですね」

 と探りを入れると、

「エルシアを保護する役割があるって、さらっと言われたくらいだよ」

 よし。私が泣きついた話は聞いてないようだ。広まっていなくて良かった。あれはかなり恥ずかしい。

 私の保護者の話になって、クラウドも会話に加わる。

「エルシアの保護者って、北の地方にいるって話だったよな?」

「緊急事態だってことで、王太子殿下が命の危険も顧みずに、私の保護者を呼んだんですよ」

 泣いたのがバレていなくて気をよくした私は、差し障りのない範囲で事情を説明した。

 すると、顔を曇らせるクラウドに対して、ぱっと顔を明るくするクストス隊長。

「いろいろ言葉がおかしくないか?」

「それで、エルシアのために急いで来てくれたのか! 心配してくれる人がいて、良かったな、エルシア!」

「はい!」

 クストス隊長の喜びように、私も元気に返事をする。

「いや、良い話的になってますけど、物騒な言葉が並んでましたよ、さっき」

「まぁまぁ、クラウド。細かいことはいいじゃないか」

「まぁ、クストス隊長が気にならないならいいんですが…………」

 あの時、私を保護者が抱き留めて、その隙に団長たちがクズ男とアキュシーザを部屋から引っ張り出したということは、後から聞かされた。

 そして、杖精たちはあの場にいたままだったのだ。

 私は手にしたペンをクルクルと回す。

「それでそのときに、あの杖が噛みつこうとして」

 動きが止まる二人。

「は?」「まさか、また…………」

「一撃でやられました」


 ゲホゲホゲホゲホゲホ


 突然、むせて咳き込んだと思ったら、今度はガバッと立ち上がり、二人同時に叫んだ。

「「今度こそ保護者が?!」」

「なわけ、ないでしょう。やられたのは杖です」

 私は手にしたペンをいったん机に置く。

「また素手か?」

「違いますよ、剣で真っ二つです」

「「真っ二つぅぅぅ?!」」

「けっこう強いんです、私の保護者」

 私はえへんと胸を張った。

 拳で語るのが好きとはいえ、私の保護者は魔剣士属性。専門は剣だ。当然、素手より剣の方が強い。

「いや、どうやって?」

「筆頭殿でもエルシアでもどうにも壊せなかったよな?」

 あれ? 魔剣士属性だって話はしてなかったかな?

 それならと、私は改めて保護者の話を持ち出した。

「そりゃ、私の保護者、魔剣士なんで」

「いや、そういうこと?」

「打撃には耐久性がありましたけど、斬撃には弱かったみたいです」

「いや、そういう問題?」

 クストス隊長は、なぜか、さきほどの明るさが萎んでしまっている。

「そもそも、魔法の杖って打撃武器じゃないよな?」

「似たようなものですけど?」

「「違うだろ!」」

 クストス隊長だけでなく、クラウドまで突っ込んだ。

「騎士が魔術師に、魔法の杖について説明するなんて間違ってません?」

「いや、それはそうなんだけどな」

 頭をかきむしるクストス隊長は、クラウドとこそこそと会話を始める。

「それより、エルシアの保護者って何者だよ」

「だから、ヴァンフェルム団長か、アルバヴェスペルのおっさん辺りに聞けば、分かりますよ」

「それは分かってるんだがな。まだ、知る勇気が出ない」

「いやまぁ、そうでしょうね。俺もです」

 二人の会話が途切れたところで、私は杖精の顛末をこう言ってまとめた。

「そういうわけで、無事に解決しましたので」

「解決したのか?」

「したんじゃないですか?」

 納得いかない顔の二人を横目で見ながら、私は再びペンを取り、反省文を書き上げたのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

彼の過ちと彼女の選択

浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。 そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。 一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。

結婚式をボイコットした王女

椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。 しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。 ※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※ 1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。 1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

婚約破棄でお願いします

基本二度寝
恋愛
王太子の婚約者、カーリンは男爵令嬢に覚えのない悪行を並べ立てられた。 「君は、そんな人だったのか…」 王太子は男爵令嬢の言葉を鵜呑みにして… ※ギャグかもしれない

愛はリンゴと同じ

turarin
恋愛
学園時代の同級生と結婚し、子供にも恵まれ幸せいっぱいの公爵夫人ナタリー。ところが、ある日夫が平民の少女をつれてきて、別邸に囲うと言う。 夫のナタリーへの愛は減らない。妾の少女メイリンへの愛が、一つ増えるだけだと言う。夫の愛は、まるでリンゴのように幾つもあって、皆に与えられるものなのだそうだ。 ナタリーのことは妻として大切にしてくれる夫。貴族の妻としては当然受け入れるべき。だが、辛くて仕方がない。ナタリーのリンゴは一つだけ。 幾つもあるなど考えられない。

【完結】身代わりとなります

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
レイチェルは素行不良の令嬢として悪名を轟かせている。しかし、それはレイチェルが無知ゆえにいつも失態をしていたためで本人には悪意はなかった。 レイチェルは家族に顧みられず誰からも貴族のルールを教えてもらわずに育ったのだ。 そんなレイチェルに婚約者ができた。 侯爵令息のダニエルだ。 彼は誠実でレイチェルの置かれている状況を知り、マナー講師を招いたり、ドレスを作ってくれたりした。 はじめは貴族然としている婚約者に反発していたレイチェルだったがいつのまにか彼の優しさに惹かれるようになった。 彼のレイチェルへの想いが同情であっても。 彼がレイチェルではない人を愛していても。 そんな時、彼の想い人である隣国の伯爵令嬢フィオラの国で革命が起き、彼女は隣国の貴族として処刑されることが決まった。 そして、さまざまな思惑が交錯する中、レイチェルは一つの決断を下し・・・ *過去と未来が行ったり来たりしながら進行する書き方にチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんがご了承ください。

【完結】わたしは大事な人の側に行きます〜この国が不幸になりますように〜

彩華(あやはな)
恋愛
 一つの密約を交わし聖女になったわたし。  わたしは婚約者である王太子殿下に婚約破棄された。  王太子はわたしの大事な人をー。  わたしは、大事な人の側にいきます。  そして、この国不幸になる事を祈ります。  *わたし、王太子殿下、ある方の視点になっています。敢えて表記しておりません。  *ダークな内容になっておりますので、ご注意ください。 ハピエンではありません。ですが、救済はいれました。

家出を決行した結果

恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。 デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。 自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。 ※なろうさんにも公開しています。

処理中です...