運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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3 王子殿下の魔剣編

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 最奥にはガラスの棺があるはずが。

 いやいや、ガラスの棺があるにはあるんだけど。その周りがちょっと異様な雰囲気だったのだ。

 リベータス先生は、私の前で立ちふさがるように固まっている。

 まぁ、これはちょっと、仕方ないかな。

 なにしろ目の前には、ピンクゴールドのふわふわした髪に碧眼という特徴的な容姿の、綺麗というよりはかわいらしい女性。

 しかも、追悼の儀に似付かわしくないピンクのドレス。キラキラと煌めきを巻き散らかす宝飾品。派手なリボンに派手なお化粧。

 なんだこれ。

 私まで固まってしまった。

 その派手な女性が、まるで追悼の儀の主役でもあるかのように、ガラスの棺の前に陣取っている。

 その脇には、金髪碧眼でスラッとした細身で長身の男性。女性に比べたらマシではあるけど、やはり華やかな服装だった。

 そして、その二人の視線の先には、棺にすがりついている男性の姿。銀髪を振り乱し、顔は棺に伏せたまま。

 なんなの、これ?

 これが追悼の儀?

 実は、これが私にとって初めての追悼の儀であったわけで、厳かな物を想像していた私は、想像を超えた華やかさを目にして、混乱してしまった。

 そこへ、ピンクの女性が明るいキンキンした声を発する。

「リーブル君たら、ちゃんと食べて寝ないとダメよ! ミレニア様が天国で心配するわ!」

「私のルルは優しいな。おい、聞いてるか、リーブル?」

「リーブル君はフィルのお友だちでしょ! 私がフィルのお友だちの心配をするのは、当然じゃないの!」

「さすがはルル。外見だけじゃなくて心まで綺麗だ」

 どうやら、この華やかな二人はフィルとルルという人物のようだ。

 周りで誰も何も言わないどころか、見物するような人や謎の声援を送る人もいることから、かなりの有名人で、それなりに地位もある人たちのよう。

 残念ながら、頭の中身はほんわかして温まっていそう。

 その二人へ、なんと、リベータス先生が声をかけた。

「二人とも静かに。追悼だろう?」

 苦いお茶を飲んだような顔をしているリベータス先生。

 対して、二人は砕けたような言葉遣いで応じる。

「あら、いいじゃないの、明るい方が! ミレニア様だって沈んだ雰囲気より、明るくて楽しい方が好きに決まってるわ!」

「ルルの言うとおりだな」

 顔見知り、なんだろうか?

 私だけ取り残された気分だけれど、それも仕方がない。三人のやり取りを黙って眺める。

「はぁあ、バカか? この二人」

 とうとう先生は、軽蔑したように吐き捨てた。二人から視線をはずし、今度は少し低いところを見る。

 そこにいるのは、棺にすがりついている三人目の人物。

「ジェイ、お前も来てくれたのか」

 リベータス先生をジェイと呼ぶこの男は、あのクズ男だった。

 私の血筋上の父親。当代きっての大魔導師。奥さんを溺愛する最高の夫。

 捨てられたこの三年間に見聞きしたクズな父親の評価は思いのほか良くて、私はとてもがっかりしたものだ。

 そのクズ男も、すっかり頬がこけて、最後に別れたときとはまるで違う姿になっている。

「騒がしいな」

 弱々しく話しかけたクズ男に、リベータス先生は軽蔑するような口調で応じた。

「あぁ。ルルが、ミレニアは楽しい方が良いだろうって言ってるから」

 疲れたような声がとても耳障りだった。

「そうか。お前もこれで独りになったな」

「いいや。命は尽きても、ミレニアは僕のそばにいてくれるさ」

 冷たく吐き捨てるリベータス先生の言葉を、クズ男はキッパリと否定する。

 先ほどまで疲れて弱々しかったのに。ハッキリと言い切る姿は何かを確信しているかのようでいて、何かに取り付かれているようでもあって。私はその姿を見るのも嫌になった。

 華やかな二人と、クズ男と、先生と、四人は顔見知りのようなので、私は四人が会話をしている隙に、そっとガラスの棺に近寄る。

 四人とも話に夢中で私の存在なんて、一切、気にしてない。

 今のうちだ。

 何か話している四人を後目に、ガラスの棺のそばまでやってきた。ちょうど棺の陰に隠れるような位置なので、気がつかれていないはず。

 そっとガラスの棺を覗くと、お母さまがいた。お母さまだ。死んでいるなんて思えない。眠っているようだ。

 でも、その頬は青白く、血の気のかけらもない。目は閉じたまま。唇は引き締められたまま。

 お母さまだ。お母さまだ。お母さまだ。

 会いたかった。

 生きてるうちにもう一度、会いたかったのに。私は間に合わなかったんだ。

 お母さまの死が一気に現実となる。

 涙が溢れてきて、声が漏れそうになる。

 ダメだ。気づかれたら、きっとまた、追い出される。

 そのとき、華やかな女性の声が聖堂内に響き渡った。

「あら? リーブル君。子ども、いなかったっけ?」

「そうだ。子どもが出来たと、確か言ってたよな?」

 遅れて華やかな男性の方の声も響いた。

 この残念な二人は、私のことを知ってるんだ。私のことを知ってる人がいる。私が父親から理不尽に捨てられたのを、もしかしたら気がついてくれるかも。

 涙が一瞬で引き、私はバッと四人の方を見た。

 すると、

「あぁ。子どもはもういないんだ」

 クズ男のすべてを否定する声。

「まぁぁぁ。何てこと! リーブル君、子どもを失った上、ミレニア様まで失ったのね!」

 それから、かわいそうだなんだと同情する声、同じく同情する周りから視線や囁き声で聖堂が埋め尽くされていって。

 私はちょっとだけ期待をした自分を、情けなく思った。

 なんで期待したかな。

 私の場所なんて、もう、どこにもないのに。

「先生、帰りましょう。これ以上、用はないんで」

 私は先生の手を引き、その場から立ち去った。後ろを振り返ることもなく。




 聖堂からの帰りの馬車の中で、疲れて寝たふりをする私に杖が話しかけてきた。

《あの家門。昔はあそこまでバカじゃなかったんだけどな》

「セラフィアス。知ってるの?」

《古い家門だからな。それに…………》

 私の杖が、あの残念な二人のことを教えてくれた。『真実の愛』で結ばれた二人のことを。

 あの二人が、お母さまが婚約破棄されてクズ男と結婚する原因となった、アルゲン大公夫妻だったんだ。

 私の杖は昔の大公夫妻の話だけでなく、今の大公家の話もしてくれた。
 どこで情報を仕入れているのかは分からないけど、ゴシップ話まで網羅して、かなり得意気になっている杖のセラフィアス。

《てわけで、アルゲン大公の次男が、アルゲン大公子に指名されたんだと》

「なんで、長男なのに、アルゲン大公家から出ちゃったんだろうね」

《嫌だったんだろ、あのお花畑な両親が》

 うん、気持ちは分からなくもない。
 私はあの二人を脳裏に思いおこした。

 私の杖の話では、アルゲン大公の長男は父方の祖母の家門へ養子に入り、後継となったらしい。

《やりたいことが出来て、欲しいものが手に入って、嫌な両親と離れられる。良いこと尽くしだな》

 辺境を守る武家の家門なので、これから厳しい世界が待っているだろうに。
 あの残念な二人とは真逆な人生を歩もうとしている長男を、少し尊敬する私だった。

「でも、これから大変だろうにね」

《大変なうちに入らないさ、きっと》

 杖の話を聞いたりしているうちに、馬車に揺られた気持ちよさも加わって、私はすぐさま眠りに落ちていった。




《で。主は誰を応援するんだ?》

「え? 誰って?」

 突然、セラフィアスから話しかけられ、私はハッとした。

 あ?

 あ。

 あー

 いつの間にか寝てたわ。

 なんか、昔の話を聞いていたような気がして、こっそり顔を拭った。

 半寝ぼけの私に、セラフィアスは「本当に大丈夫なのかよ」と言わんばかりの顔で話を進める。

《剣術大会だよ。主の同僚ども、おもしろいほど張り切ってるだろ?》

「あー。出世もかかってるからね」

《…………一番おもしろいのは、主の反応だよな》

「え? 何のこと?」

《いーや。何でもない》

 なんだかセラフィアスに、はぐらかされたような気がしなくもないけど。
 私は剣術大会の準備に追われる騎士団の人たちを、興味深く遠くから眺めるのだった。
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