運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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3 王子殿下の魔剣編

3-1

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 けっきょくのところ、じぃやさんたちも、あの犬がいつどうやって逃げたのかも分からないそうで。
 私たちには犬の無事を祈ることしか出来なかった。

 またいつかどこかで会えそうな、そんな気もして。ひとまず、あの犬の話は一区切りさせることにした。

 それに、犬のことばかり心配している場合じゃないし。

「騎士はこの時期、忙しいわねー」

「剣術大会ですか?」

「そうそう、それそれ」

「魔術師だってあったじゃないですか」

「魔術師と騎士は違うわよぅ」

 剣術大会の前には、魔術師のための魔術大会があった。

 私は魔術大会の運営側だから、参加者側の気持ちには疎いのだけれど。
 それでも、魔術師と騎士とでは、なんだか意気込みがかなり違うのを感じる。

 騎士たちは朝練、昼練、居残り練習と通常の時間の合間も惜しんで稽古を重ねていた。

 その理由をオルドーが教えてくれる。

「騎士はあからさまに、査定とか昇進とかに響くんだよ。魔術師はそんなことないだろ?」

「だから、必死になって訓練してるんだ」

 なるほどね。

 魔術師は魔術大会に出るのも自由、出ないのも自由。
 そもそも、対人戦に有利な魔法が得意な魔術師と、そうでない魔術師がいる。どんな魔法が得意なのかで、有利不利がかなり違ってくるのだ。

 まずその段階で有利不利がはっきり分かるので、不利な魔術師は参加しないし、有利な魔術師はこぞって参加となる。

 この世界では、人はみんな、茶色の髪と瞳を持って生まれてきて、五歳の時に、魔力の性質や魔法の属性に応じて髪と瞳の色が変わる。

 このときに、魔術師に適しているかどうか、どんな魔法が得意なのかも決まってしまうので、魔法の得意不得意は努力では、どうにも出来ない。

 対して、剣術は努力すればある程度、誰でも習得出来るし、上達もする。

 稽古すればするほど、自分の身になるのが魔術との違いだった。

 魔術大会と剣術大会の熱の入り方の違いは、そういったところからもくるようだった。

 そして、熱の入り方の違いは、剣術大会に参加する側だけではなかった。
 見る側も意外と熱が入るものだということを、オルドーとユリンナ先輩の態度からも窺えたのだ。

 なぜなら、二人の話が止まらない。

「相手に勝たないといけないから、対戦形式多めだよな」

 窓の方をチラッと気にするオルドー。

「去年は散々だったけど、今年はうちの隊も誰か入賞して欲しいよな」

 オルドーはオルドーで、自分が担当している第二隊の様子が気になるらしい。

「ほほぅ。残念だけど今年も第一隊はバリバリよぅ」

 ユリンナ先輩はユリンナ先輩で楽しそうだ。

「それはどうかな。やってみないことには分からないだろ?」

「やらなくても分かりきったことよぅ」

 二人からバチバチと火花が散る。

「確か、今日は第一騎士団と手合わせやってますよね」

 私も窓の外に視線を向けた。

 たぶん、フェリクス副隊長やクラウドも手合わせ中だ。ケガなんてしないといいけど。面倒くさいから。

 私は二人をちょっとだけ心配してあげたのだった。




 さて。

 お喋りはしていても、仕事をさぼっているわけではない。

 団長室に呼び出されたのには理由があって、今日は事務方の騎士の代わりに、書類仕事をするため。

 みんな、手慣れたもので、喋っていても手際よく書類を捌いていく。

 ただ、喋る声が大きすぎたのか、第三騎士団の魔術師長、平たく言えば第三騎士団の魔術師の中で一番偉い人であるパシアヌス様から、注意の声がかかった。

「口ではなく、手を動かしてないてもらえませんかねぇ。いつまで経っても終わりませんよ? 残業、したいんですか、残業」

 なんだか機嫌が悪そうだ。

 騎士たちの分の書類も請け負っているので、いつもより量は多く、そのせいでパシアヌス様も疲れているのかもしれない。

 逆に、ヴァンフェルム団長は元気で、機嫌も良さそうな感じで。

「まぁまぁまぁ、楽しそうに仕事していていいんじゃないかなぁ。効率は悪くないしねぇ」

 と喋る私たちの肩を持ってくれる。

「そうよ、パッシー。それに、パッシーはもうちょっと、デリケートな乙女心を理解できないとねー!」

「ダイモス君は少し自重を…………」

 と思ったら、一番キンキン声のユリンナ先輩には注意を促した。

 ヴァンフェルム団長がユリンナ先輩を牽制する一方で、パシアヌス様はユリンナ先輩の暴走を促す。無自覚に。

「ダイモス君、どういう意味ですか?」

「思いを寄せる騎士さまが、剣術大会に出場する! 私のために頑張って! でもケガはしないで! っていう乙女の葛藤!」

 ユリンナ先輩、興奮しすぎ。
 腕を振り回し、唾を飛ばしながら、語りにも熱がもの凄く入る。

「だから、ダイモス君は少し静かに…………」

「ダイモス君、乙女でしたっけ?」

 沈静化させようとする団長のせっかくの言葉を、パシアヌス様が遮って、結果的に団長の邪魔をしていた。

 パシアヌス様の言葉に、さらに熱が入るユリンナ先輩。

「バリバリ乙女よぅ! バリ乙なんだから!」

「バリオトねぇ」「バリオトですか」

「何よぅ、みんなして、その反応!」

 バリオトが何なのかはよく分からなかったけど、ユリンナ先輩が言いたいことは少し分かったような気がする。

「ようするに『私のために昇級とか昇進とか頑張って』ってことですよね?」


 シーーーーーーン


 静まり返る団長室。

 興奮して唾を飛ばしていたユリンナ先輩までも動きを止め、私を、なんだかかわいそうなものを見るような目で見ていた。

 私を見る目はユリンナ先輩だけでなく、ヴァンフェルム団長、パシアヌス様、オルドーと全員だった。

 全員からかわいそうな目で見られる私。

「ルベラス君は、そこからかい?」

 ヴァンフェルム団長の呆れたような声が、団長室に響きわたることになった。
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