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3 王子殿下の魔剣編
4-0 エルシア、カス対決を目撃する
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今日は団長室ではなく、パシアヌス様の執務室。
溜まりに溜まった申請書、申込書、報告書、決算書などなど、緊急性の高いものから順番に処理をしている最中だった。
「ごめんなさーい。私、順位が一番高い人に誘ってもらいたいのぅ」
ユリンナ先輩以外は。
「なら俺、ユリンナちゃんのために、優勝目指すから!」
ユリンナ先輩もある意味、仕事中。
捧げられるように渡されたお菓子の袋をうやうやしく受け取ると、ニコッと笑う。
「えー、本当ぅ?! ちょっと、嬉しいかも~」
「絶対、ユリンナちゃんに金章を捧げるから! 待っててくれよな!」
剣術大会も間近に迫ってきたので、どの騎士もお相手の申し込みにも余念がない。
ユリンナ先輩のところも、空いた時間を使った騎士たちが朝早くから押し掛けていた。
そんな騎士たちをユリンナ先輩は右から左へと捌いていく。
「うん、頑張ってね!」
「おう!」
尋ねてくる騎士からプレゼントをもらって相手をしては、声援を送って、速やかに退出させる。見事な流れ作業に私たちは舌を巻いた。
「ユリンナ先輩、凄い。三十人目」
「えへへー」
私の感嘆の声に、気をよくするユリンナ先輩。
背後では他の魔術師たちの呆れともなんとも言えない声が、ぼそぼそと響く。
「まさに魔性の女」
「また美味しいお菓子、もらえましたね」
「ダイモス君のどこがいいんですかねぇ」
「僕、研究の方がいいですけどねぇ」
「コラコラー、そこー! うるさいこと言わないのぅ!」
今日から剣術大会が終わるまでは、『三聖の展示室』もお休みとなる。
管理や警備はアルバヴェスペルが引き受けてくれるそうで、私たちは全員揃って、ここぞとばかりに書類の処理に明け暮れていた(ユリンナ先輩以外は)。
今日は第三隊のイールス・コムル先輩と第四隊のシュール・ヒルンドー先輩もいっしょ。
二人とも四月の終わりに、王宮魔術師団から左遷扱いで異動してきたけれど、こちらの方が合っていたらしく、今では生き生きと働いている。
書類の処理も半分が終わり、ちょっと一息入れようと、休憩に入った。
ユリンナ先輩がもらったお菓子を皿に並べ、お茶を淹れる。
研究熱心なイールス先輩はなぜかお茶を淹れるのが抜群にうまく、食べ歩きが趣味のシュール先輩はお菓子の銘柄に異様に詳しい。
その二人から、お茶を淹れてもらい、今日の戦利品のお菓子の解説を聞いて、お菓子を頬張る。もぐもぐ。うん、美味しい。
今日のお菓子はフルヌビではない他のお店のもの。芋や栗を使った甘いペーストを入れた焼き菓子が、食欲を刺激する。
甘くてホクホク。フルヌビのタルトにはない食感と味だった。
私がもぐもぐ食べていると、オルドーたちもお茶を飲みながら、のんびりトークに突入する。
全員揃うことは滅多にないけど、個々にならそれなりに顔を合わせている私たち。会話にもギスギスしたものは感じられず、穏やかに時間が過ぎる。
休憩しながらの会話は、ユリンナ先輩の人気の話から、余計な話に発展した。
「エルシアもそれなりに人気だよな」
て。それなりには余計だと思う。
もぐもぐもぐ。
「ルベラス君はフェルム限定人気ですけどね」
て。限定人気。
限定菓子のような言い方、やめて欲しいんだけど。
でも、口にお菓子が入っているので喋れない。
もぐもぐもぐ。
正直なところを言えば、確かに、フェリクス副隊長とヴォードフェルム隊長と偽爽騎士にしか人気がない。
偽爽騎士はこちらの肩書きを利用する気満々なので、人気のうちに入らない。実質二人か。むー。
それに比べてユリンナ先輩は三十人、しかも半日で。競争にもならないや。
いやいや、私には、杖もいるし猫もいるし何より保護者がいる!
……………………うん、ぜんぶ身内だな。
「本当に不思議ですよねぇ。研究したいくらいです」
いや、どういう研究よ、イールス先輩。
もぐもぐもぐ。
まぁ、まだイールス先輩の突っ込みは好意的で良かったんだけど、問題はパシアヌス様とオルドー。とくにオルドー。
「ヴァンフェルム団長の話によれば、フェルム一族の男性は黒髪に魅力を感じやすいとのことです」
「あー、つまり、エルシアそのものじゃなくて、エルシアの髪が黒いから魅力を感じるってことかー」
ちょっと酷すぎない? 酷すぎるよね?
ごくん。
口いっぱいに頬張ったお菓子がなくなって、ようやく、自由に声が出せる私。
当然、泣きつく先はユリンナ先輩だ。
私はユリンナ先輩に引っ付く。
「ユリンナ先輩、あの二人、酷いです」
「よくもぅ、私のエルシアを泣かせたわねぇ!」
「いや、エルシア、泣いてないし」
「ダイモス君は落ち着いてください」
喋る人、騒ぐ人、食べる人、飲む人とワイワイ賑やかにやっているところに、扉を叩く音が聞こえてきた。
返事も待たずに扉が開く。
角度の関係で、私の席からは誰が入ってきたのかよく見えない。
真っ先に入ってきた人物が見れる位置にいるのはオルドーで、チラッと人物を確認するとユリンナ先輩に声をかけた。
「ほらほら、ユリンナさん。エルシアにたかる虫が飛んできたぜ」
虫扱いされたその人物は、気にすることもなく歩いてくる。真っ直ぐに私の方へ。
「エルシア、仕事中に悪いんだが」
そう言ってやってきた人物は、予想通りのあの人だった。
溜まりに溜まった申請書、申込書、報告書、決算書などなど、緊急性の高いものから順番に処理をしている最中だった。
「ごめんなさーい。私、順位が一番高い人に誘ってもらいたいのぅ」
ユリンナ先輩以外は。
「なら俺、ユリンナちゃんのために、優勝目指すから!」
ユリンナ先輩もある意味、仕事中。
捧げられるように渡されたお菓子の袋をうやうやしく受け取ると、ニコッと笑う。
「えー、本当ぅ?! ちょっと、嬉しいかも~」
「絶対、ユリンナちゃんに金章を捧げるから! 待っててくれよな!」
剣術大会も間近に迫ってきたので、どの騎士もお相手の申し込みにも余念がない。
ユリンナ先輩のところも、空いた時間を使った騎士たちが朝早くから押し掛けていた。
そんな騎士たちをユリンナ先輩は右から左へと捌いていく。
「うん、頑張ってね!」
「おう!」
尋ねてくる騎士からプレゼントをもらって相手をしては、声援を送って、速やかに退出させる。見事な流れ作業に私たちは舌を巻いた。
「ユリンナ先輩、凄い。三十人目」
「えへへー」
私の感嘆の声に、気をよくするユリンナ先輩。
背後では他の魔術師たちの呆れともなんとも言えない声が、ぼそぼそと響く。
「まさに魔性の女」
「また美味しいお菓子、もらえましたね」
「ダイモス君のどこがいいんですかねぇ」
「僕、研究の方がいいですけどねぇ」
「コラコラー、そこー! うるさいこと言わないのぅ!」
今日から剣術大会が終わるまでは、『三聖の展示室』もお休みとなる。
管理や警備はアルバヴェスペルが引き受けてくれるそうで、私たちは全員揃って、ここぞとばかりに書類の処理に明け暮れていた(ユリンナ先輩以外は)。
今日は第三隊のイールス・コムル先輩と第四隊のシュール・ヒルンドー先輩もいっしょ。
二人とも四月の終わりに、王宮魔術師団から左遷扱いで異動してきたけれど、こちらの方が合っていたらしく、今では生き生きと働いている。
書類の処理も半分が終わり、ちょっと一息入れようと、休憩に入った。
ユリンナ先輩がもらったお菓子を皿に並べ、お茶を淹れる。
研究熱心なイールス先輩はなぜかお茶を淹れるのが抜群にうまく、食べ歩きが趣味のシュール先輩はお菓子の銘柄に異様に詳しい。
その二人から、お茶を淹れてもらい、今日の戦利品のお菓子の解説を聞いて、お菓子を頬張る。もぐもぐ。うん、美味しい。
今日のお菓子はフルヌビではない他のお店のもの。芋や栗を使った甘いペーストを入れた焼き菓子が、食欲を刺激する。
甘くてホクホク。フルヌビのタルトにはない食感と味だった。
私がもぐもぐ食べていると、オルドーたちもお茶を飲みながら、のんびりトークに突入する。
全員揃うことは滅多にないけど、個々にならそれなりに顔を合わせている私たち。会話にもギスギスしたものは感じられず、穏やかに時間が過ぎる。
休憩しながらの会話は、ユリンナ先輩の人気の話から、余計な話に発展した。
「エルシアもそれなりに人気だよな」
て。それなりには余計だと思う。
もぐもぐもぐ。
「ルベラス君はフェルム限定人気ですけどね」
て。限定人気。
限定菓子のような言い方、やめて欲しいんだけど。
でも、口にお菓子が入っているので喋れない。
もぐもぐもぐ。
正直なところを言えば、確かに、フェリクス副隊長とヴォードフェルム隊長と偽爽騎士にしか人気がない。
偽爽騎士はこちらの肩書きを利用する気満々なので、人気のうちに入らない。実質二人か。むー。
それに比べてユリンナ先輩は三十人、しかも半日で。競争にもならないや。
いやいや、私には、杖もいるし猫もいるし何より保護者がいる!
……………………うん、ぜんぶ身内だな。
「本当に不思議ですよねぇ。研究したいくらいです」
いや、どういう研究よ、イールス先輩。
もぐもぐもぐ。
まぁ、まだイールス先輩の突っ込みは好意的で良かったんだけど、問題はパシアヌス様とオルドー。とくにオルドー。
「ヴァンフェルム団長の話によれば、フェルム一族の男性は黒髪に魅力を感じやすいとのことです」
「あー、つまり、エルシアそのものじゃなくて、エルシアの髪が黒いから魅力を感じるってことかー」
ちょっと酷すぎない? 酷すぎるよね?
ごくん。
口いっぱいに頬張ったお菓子がなくなって、ようやく、自由に声が出せる私。
当然、泣きつく先はユリンナ先輩だ。
私はユリンナ先輩に引っ付く。
「ユリンナ先輩、あの二人、酷いです」
「よくもぅ、私のエルシアを泣かせたわねぇ!」
「いや、エルシア、泣いてないし」
「ダイモス君は落ち着いてください」
喋る人、騒ぐ人、食べる人、飲む人とワイワイ賑やかにやっているところに、扉を叩く音が聞こえてきた。
返事も待たずに扉が開く。
角度の関係で、私の席からは誰が入ってきたのかよく見えない。
真っ先に入ってきた人物が見れる位置にいるのはオルドーで、チラッと人物を確認するとユリンナ先輩に声をかけた。
「ほらほら、ユリンナさん。エルシアにたかる虫が飛んできたぜ」
虫扱いされたその人物は、気にすることもなく歩いてくる。真っ直ぐに私の方へ。
「エルシア、仕事中に悪いんだが」
そう言ってやってきた人物は、予想通りのあの人だった。
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