運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

SA

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3 王子殿下の魔剣編

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 私が言い返せずに、ぐすんと沈み込んだ後。
 セラフィアスは「主、気に病むな」と言って、手にしていた何かを見せてくれた。

 せっかくの剣術大会なんだから、沈んでないで、楽しめばいい。

 なんだかそう言ってくれてるようで、セラフィアスの気遣いがありがたい。

 こんな経緯で見せてもらった物は、なんとも詳細な情報誌!

 掲載されてるトーナメント表には、誰がどこまで勝ち進んだか、分かりやすく印まで付いている。誰が作ったの、これ。

 私の膝の上に情報誌を乗せ、右からセラフィアス、左からクラヴィスが覗く形で見ていると、予想外の情報が目に飛び込んできた。




「クラウドは負けちゃったの?!」

「みたいだな、主」

 うん。クラウドって、確かけっこう期待されていたはず。

 ヴァンフェルム団長、クストス隊長、研修生たち、そしてクラウドの実家のヴェルフェルムも、少なくとも決勝までは残るだろうと。確か、そういう感じだった。

 うーん、落ち込んでないといいな。

 いや、落ち込んでも大丈夫か。かわいい後輩が親身になって慰めてくれるから。

 胸にチクッとした痛みを感じながらも、私は気を取り直す。

「僕の調査によると、」

「それ、本当に君の調査?」

 セラフィアスが詳細を話そうとしたところに、クラヴィスの横やりが入った。

 クラウドの試合の詳細も気になるけど、実は、セラフィアスが手にしていた情報誌の出所も気になっていて。

 誰がどうやってこんな詳しく、しかも短期間で情報誌にまで仕立てたんだろうと、不思議に思っていたところだった。

 もちろん私も、セラフィアスの調査だとは思っていない。

「うるさいなぁ、年下のくせに。ケルビウスだよ、ケルビウス。あいつ、見る専で情報収集命なヤツだから、全試合生観戦してるんだよ」

「「はぁ?!」」

 私とクラヴィスの驚愕の声が揃う。

 まさかの三聖。
 まさかのケルビウス。

 三聖のうちの誰かがやってるって言われたら、真っ先にケルビウスを疑いはするけどね。

 私の頭の中には、三聖が情報誌を作っているという認識が最初からなかった。

 そりゃ、普通は思わない。

 世間一般の人だってそうだ。三聖は、三聖の展示室にいて、主が来るのをじっと待っているのだから。

 ただ、それでも疑問は残る。

「でも、いったいどうやって?」

 いくら三聖のケルビウスといっても、本体は一つ。

 予選は会場を分けて何ヶ所かで行われているので、予選会場全部を網羅するのは無理からぬ話。

 私だって、保護者の試合を応援してたので、別会場でやっているフェリクス副隊長たちの試合は見ていなかったわけだから。

 その疑問を、セラフィアスはあっさりと説明した。

 しかも、一般常識に風穴を開けて。

「簡単に言うとだな、顕現させた一部を切り離して、各会場に配置して各試合を観戦するんだ。
 切り離してはいるが、それぞれは本体と同じもの。だから、見聞きしたものは本体に記憶として蓄えられるので、結果、すべての試合を観戦したのと同じことになる」

 ちょっと待ってよ!
 本体一つじゃなかったよ!

「本体を分裂させるのってありなの?!」

「無駄に能力全開させてるな」

 恐るべし三聖。侮りがたし三聖。

「私。三聖の能力、ちょっと舐めてたかも」

 なんか、急に汗が出てきた。三聖、ヤバい。ヤバい物を見る目でセラフィアスを見ると、逆に、ヤバい物を見る目で見返される。

「僕からすると、主や主の保護者の方がヤバいからな」

 そうかな。私は普通だけどな。
 少なくとも、身体は分裂させられないからな。




「そこまでして、ぜんぶ見たいのかなぁ」

 私だったら興味ある試合だけで良いかなぁ、と思ってしまう。

 探求のケルビウスはとにかく、知りたがりだとは聞いていたけど。
 知識を含めてすべての情報を欲しがるタイプの杖精だったのか。

「ケルビウスはそういうヤツなんだよ」

「それで、セラフィアスがケルビウスに聞いたってわけだね」

「あぁ。ケルビウスのヤツ、賭けも運営してるからな」

「……………………え?」

「ケルビウスが賭け?」

 わたしとクラヴィスが同時に固まる。

 まただよ!

 まさかの三聖!
 まさかの賭け元ケルビウス!

「三聖が賭け元やってていいのか?」

 私と似たようなことを思っていたようで、クラヴィスがひきつった顔で質問すると、さらに驚愕の事実が発覚。

「ちゃんと、賭け元として王国で公認されてる」

「え? まさかの王国公認?!」

「だって、三聖だからな」

 いや、三聖の肩書きを使う場所が違くない?

 記憶をたぐる。

 王国公認の賭け元は一つだけ。アルバヴェスペルのおじさんたちがせっせと働いていた、あの場所だけ。

「私、そこで賭けちゃったけど」

「賭け元がケルビウスだから、一番、安全だな」

「安全は安全だろうけどなぁ」

「参加者情報とか載せたチラシも売ってるから、けっこう人気があるんだよな」

 そう言いながら、セラフィアスは私の膝の上に乗った紙をじっと見た。

 なるほど、これか。どうりで詳細でよく出来ていると思ったわ。

 ケルビウスもセラフィアス相手に商売するつもりはなくて、ただで渡されたものらしい。

「がっつり商売してるじゃないかよ」

「抜け目ないね。さすが三聖」

「感心するところがずれてるよね」

 クラヴィスが、私を残念な目で見てつぶやいた。




 そうそう、クラウドだ。

 いろいろな情報が入ってきたのに、クラウドの試合結果の話は出てこなくて。

「それで、クラウドなんだけど」

「残念ながら準々決勝で負けてるな」

 セラフィアスはトーナメント表を覗き込む。
 うん、ケルビウスの情報誌は、そういう情報も載っていたんだったっけ。

「騎士団入って初めての大会だっていうんで、かなり気合い入ってたみたいなんだけどねぇ」

 それでも、準々決勝まで行ったなら八強。第五隊の副隊長もクラウドが就任で決まりだな。

「腰巾着のヤツ、誰に負けたんだ?」

「ケイオス・バルザードだな」

 へー、バルザード卿か。

 私は、保護者にボコボコにされてたバルザード卿を思い起こした。
 ボコボコにされて、「死ぬより辛い」とか「死んだ方が楽」とか言っていたのが昨日のことのようだ。

「んで、決勝はそのケイオス・バルザードとシャイン・バルトレットだ」

「ふーん、二人とも勝ち上がったんだ」

 バルトレット卿も、バルザード卿とまとめてボコボコにされていた騎士だった。
 あまりのキツさに、よく吐いていた人だ。バルトレット卿も辞めなくて良かったよ。

「もしかして、知り合い?」

「うちの騎士団の新人」

「へー。僕もよく覚えておかないとな」

 うちの(正確には後援家門の)騎士団の新人が揃って決勝に進んだという話を聞いて、クラウドが負けたことはすっかり頭の外に追い出されてしまう。

 仕方ないよ。あの辛さを共に乗り越えた二人だもの。

 よく頑張ったと誉めてあげたい気持ちでいっぱいだったのだ。

 ふと、クラヴィスが視線を情報誌から試合場へと向ける。

「そろそろ、カスカス対決が終わるんじゃないかい?」

 そう、カスカス対決は私たちが他愛ない話をしている間も、ずっと続いていた。

 観客が飽きるほど、長くつまらない戦いだった。
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