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4 聖魔術師の幻影編
0-0 始まり
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「金冠?」
六歳の私はお母さまの部屋で一冊の絵本を見つけた。
金冠てなんだろう?
金色の冠が描かれている絵本、みたいなんだけれど。難しくてよく読めない。
かろうじて『金冠』という言葉だけは拾えて、後はポツポツ、いくつかの単語が読めるだけ。
お父さまなら読めるんだろうな。
私のお父さまは、グラディア王国で一番凄い魔術師だそうだ。
いつも忙しそうにしていて、私はあまり相手にしてもらえない。
それでも五歳になるまでは、もっと目をかけてもらえていたし、期待もされていたんだ。
そのことを実感したのは五歳の誕生日のときだった。
この世界ではみんな、茶色の髪に茶色の瞳を持って生まれる。
そして、五歳の誕生日を過ぎると、自らの能力だったり、魔力の質や特徴に合わせて、髪の色と瞳の色が変わる。
親の能力や特徴を受け継ぎやすい、とは言われているものの、すべての子どもがそうだとは限らないという。
私の勉強をみてくれていた先生から聞いた話では、まったく色が変わらなければ魔力なし。
魔術師なら金髪、銀髪、そして茶金色の髪。赤髪は魔力があって炎系魔法が得意なタイプと魔力がなく剣士に向いてるタイプがいるそうだ。
私の髪色は黒だった。
黒髪が向いているのは魔剣士だ。
魔術師のお父さまは私の黒髪を見て、大きなため息をこぼしていた。
お父さまみたいな銀髪碧眼や、お母さまみたいな金髪金眼だったら良かったのに。
五歳の私は、お父さまをがっかりさせたことをひたすら悲しく思って、小さな身体をさらに小さくさせることしか出来なかった。
それから、お父さまとはほとんど会わなくなったのだ。
お母さまの部屋には、お父さまにはナイショでたまに遊びにきていた。
お父さまに見つかると怒られる。身体の弱いお母さまの負担になるから、お母さまには近づくなと言って。
だから、私の身の回りの世話をしてくれるマリネという名の使用人が、こっそり連れてきてくれるのだ。
金冠の絵本を見つけたこの日も、マリネが連れてきてくれていた。もちろんお父さまにはナイショで。絵本の文字が難しくて読めなくても、お父さまには聞けない。
私は相当、困った顔をしていたようで、「どうしたの?」とお母さまがベッドから声をかけてきた。
私は黙って、お母さまに、手の中の絵本を見せる。
お母さまは「あら」と小さく漏らした後、ニコニコとした笑顔で私を見て、話し始めた。
「金冠というのはね、古代王国に存在した力のある魔導具よ」
お母さまは絵本の中に大きく描かれている金色の冠を指差した。
キラキラ輝いていて、複雑な模様が刻まれている。
物語のお姫さまがかぶっていても不思議ではないくらい、素敵な物だった。
「三聖よりも凄いの?」
お母さまが指差す先を見つめながら、私はお母さまに尋ねた。
私が知ってる凄い魔導具といえば、三聖だ。三聖はこのグラディア王国を守ってくれている凄い凄い魔導具だった。
金冠はどのくらい凄いんだろう。古くからあるなら、三聖と同じくらいなんだろうか。
私は絵本を持ったまま、お母さまに話しかける。
「さぁ。三聖とは得意なことが違うから」
「どんな力があるの?」
「身体も心も元気にする力があるそうよ」
お母さまはニコニコ顔のまま、私の頭を撫でてくれた。
「金冠があれば、お母さまのご病気も治るの?」
「それはどうかしらね」
お母さまのご病気はお父さまもお医者さまも、治し方が分からないようだった。
日に日に、お母さまは存在が透き通って行くような気がして。このまま透明になって消えてしまうのではないかと、私は心配になった。
でも。
もしも、本当に、金冠に元気にする力があるのなら、お母さまの身体も元気に出来るかもしれない。
私は拳をぎゅっと握りしめる。
「私、大きくなったら金冠の主になるわ、お母さま」
「あらあら、金冠の主になってどうするのかしら」
「金冠の主になれば、お母さまのご病気を治せるもの」
そうしたら、お母さまは消えてしまわない。
お父さまやお医者さまがダメなら、私がたくさん頑張ればいいんだ。私はそう心に誓って小さく頷く。
「エルシア」
そんな私の頭をお母さまは、また、優しく撫でてくれた。
「エルシアはお母さまの身体の心配をしなくてもいいのよ? だから、金冠の主にもならなくていいの」
「だって」
金冠の主にならなければ、お母さまを助けられないのに。
シュンとなる私に向かって、お母さまは不思議な言葉をつぶやいた。
「お母さまは■■■■に■■するため、お母さまの■と■■を■■に■■■のよ」
「お母さま?」
なんだろう? お母さまの言葉が聞き取れない?
私は慌てて自分の耳を触った。
「だから、お母さまの身体は仕方がないのよ」
続くお母さまの言葉はしっかりと聞き取ることが出来て、安心する私。良かった、ちゃんと聞こえる。
安心するあまり、私はお母さまの言葉がどうして聞き取れなかったのか、深く考えることが出来なかった。
このとき、お母さまの言葉の意味が分かっていれば。
「エルシアは他の魔導具の主になりなさい。エルシアのことを待ってる魔導具が、きっとあるはずだから」
ホッとする私の耳に、お母さまの声がはっきりと聞こえる。
頭を撫でてくれる手の温かさもしっかり感じていた。
なのに、どんどん眠くなっていく。
「エルシアは何も悪くないわ。お母さまは、エルシアが元気で幸せに生きてくれれば、それでいいの」
お母さまの声が遠くで聞こえるよう。
もう目が開かない。
「エルシアにはお母さまがいるわ」
お母さまの優しい声に包まれて、私は眠りに落ちていった。
六歳の私はお母さまの部屋で一冊の絵本を見つけた。
金冠てなんだろう?
金色の冠が描かれている絵本、みたいなんだけれど。難しくてよく読めない。
かろうじて『金冠』という言葉だけは拾えて、後はポツポツ、いくつかの単語が読めるだけ。
お父さまなら読めるんだろうな。
私のお父さまは、グラディア王国で一番凄い魔術師だそうだ。
いつも忙しそうにしていて、私はあまり相手にしてもらえない。
それでも五歳になるまでは、もっと目をかけてもらえていたし、期待もされていたんだ。
そのことを実感したのは五歳の誕生日のときだった。
この世界ではみんな、茶色の髪に茶色の瞳を持って生まれる。
そして、五歳の誕生日を過ぎると、自らの能力だったり、魔力の質や特徴に合わせて、髪の色と瞳の色が変わる。
親の能力や特徴を受け継ぎやすい、とは言われているものの、すべての子どもがそうだとは限らないという。
私の勉強をみてくれていた先生から聞いた話では、まったく色が変わらなければ魔力なし。
魔術師なら金髪、銀髪、そして茶金色の髪。赤髪は魔力があって炎系魔法が得意なタイプと魔力がなく剣士に向いてるタイプがいるそうだ。
私の髪色は黒だった。
黒髪が向いているのは魔剣士だ。
魔術師のお父さまは私の黒髪を見て、大きなため息をこぼしていた。
お父さまみたいな銀髪碧眼や、お母さまみたいな金髪金眼だったら良かったのに。
五歳の私は、お父さまをがっかりさせたことをひたすら悲しく思って、小さな身体をさらに小さくさせることしか出来なかった。
それから、お父さまとはほとんど会わなくなったのだ。
お母さまの部屋には、お父さまにはナイショでたまに遊びにきていた。
お父さまに見つかると怒られる。身体の弱いお母さまの負担になるから、お母さまには近づくなと言って。
だから、私の身の回りの世話をしてくれるマリネという名の使用人が、こっそり連れてきてくれるのだ。
金冠の絵本を見つけたこの日も、マリネが連れてきてくれていた。もちろんお父さまにはナイショで。絵本の文字が難しくて読めなくても、お父さまには聞けない。
私は相当、困った顔をしていたようで、「どうしたの?」とお母さまがベッドから声をかけてきた。
私は黙って、お母さまに、手の中の絵本を見せる。
お母さまは「あら」と小さく漏らした後、ニコニコとした笑顔で私を見て、話し始めた。
「金冠というのはね、古代王国に存在した力のある魔導具よ」
お母さまは絵本の中に大きく描かれている金色の冠を指差した。
キラキラ輝いていて、複雑な模様が刻まれている。
物語のお姫さまがかぶっていても不思議ではないくらい、素敵な物だった。
「三聖よりも凄いの?」
お母さまが指差す先を見つめながら、私はお母さまに尋ねた。
私が知ってる凄い魔導具といえば、三聖だ。三聖はこのグラディア王国を守ってくれている凄い凄い魔導具だった。
金冠はどのくらい凄いんだろう。古くからあるなら、三聖と同じくらいなんだろうか。
私は絵本を持ったまま、お母さまに話しかける。
「さぁ。三聖とは得意なことが違うから」
「どんな力があるの?」
「身体も心も元気にする力があるそうよ」
お母さまはニコニコ顔のまま、私の頭を撫でてくれた。
「金冠があれば、お母さまのご病気も治るの?」
「それはどうかしらね」
お母さまのご病気はお父さまもお医者さまも、治し方が分からないようだった。
日に日に、お母さまは存在が透き通って行くような気がして。このまま透明になって消えてしまうのではないかと、私は心配になった。
でも。
もしも、本当に、金冠に元気にする力があるのなら、お母さまの身体も元気に出来るかもしれない。
私は拳をぎゅっと握りしめる。
「私、大きくなったら金冠の主になるわ、お母さま」
「あらあら、金冠の主になってどうするのかしら」
「金冠の主になれば、お母さまのご病気を治せるもの」
そうしたら、お母さまは消えてしまわない。
お父さまやお医者さまがダメなら、私がたくさん頑張ればいいんだ。私はそう心に誓って小さく頷く。
「エルシア」
そんな私の頭をお母さまは、また、優しく撫でてくれた。
「エルシアはお母さまの身体の心配をしなくてもいいのよ? だから、金冠の主にもならなくていいの」
「だって」
金冠の主にならなければ、お母さまを助けられないのに。
シュンとなる私に向かって、お母さまは不思議な言葉をつぶやいた。
「お母さまは■■■■に■■するため、お母さまの■と■■を■■に■■■のよ」
「お母さま?」
なんだろう? お母さまの言葉が聞き取れない?
私は慌てて自分の耳を触った。
「だから、お母さまの身体は仕方がないのよ」
続くお母さまの言葉はしっかりと聞き取ることが出来て、安心する私。良かった、ちゃんと聞こえる。
安心するあまり、私はお母さまの言葉がどうして聞き取れなかったのか、深く考えることが出来なかった。
このとき、お母さまの言葉の意味が分かっていれば。
「エルシアは他の魔導具の主になりなさい。エルシアのことを待ってる魔導具が、きっとあるはずだから」
ホッとする私の耳に、お母さまの声がはっきりと聞こえる。
頭を撫でてくれる手の温かさもしっかり感じていた。
なのに、どんどん眠くなっていく。
「エルシアは何も悪くないわ。お母さまは、エルシアが元気で幸せに生きてくれれば、それでいいの」
お母さまの声が遠くで聞こえるよう。
もう目が開かない。
「エルシアにはお母さまがいるわ」
お母さまの優しい声に包まれて、私は眠りに落ちていった。
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