運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

SA

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4 聖魔術師の幻影編

1-11 王族の内情

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「だーかーらー! 絶対に仲良くなってきて!」

 妹がうるさい。

「分かった分かった、兄想いの妹よ」

 適当に相手をすると、最近はさらにうるさく噛みつくようになってきた。

「トリー兄さまは、わたくしの話を適当に流してるでしょ」

 困った。実に困った。

 僕の妹、デルティウンはこうだと言い始めたら、引き下がってくれない。

 妹の話はこうだ。

 明日から行く新リテラ王国への公務で、同行する魔術師殿との親睦を深めてくるようにと。

 深めるも何も、目当ての魔術師殿は僕らの親族、エルシア・ルベラス嬢だ。それなりに親交はある。

 そしてデルティウンも、上の兄上からルベラス嬢が僕らの再従姉妹に当たること、説明されたはずなのに。すっかり抜け落ちてしまっている。

 それにルベラス嬢には後援がついていた。デルティウンはまったく意にも介していないが、この後援が最大の問題だ。

「だがな、デルティ。彼女には後援がついているんだ」

「それがどうしたのよ、兄さま」

「通常、後援がいる場合は、後援の養子になっているか、婚約者になっているかなんだよ」

「それで?」

「婚約者のいる令嬢とは、必要以上に仲良くしない方がいいんだ、デルティ」

 僕は諭すように話してみた。無駄だとは思うけど。

 僕だって暇ではない。

 明日からしばらく留守にするので、業務の申し送りやら引き継ぎやらで、忙しくしていたのだ。

 今も、呼ばれて近衛騎士団の方へと急いで向かっている最中。

 その移動中をデルティウンに見つかってしまい、移動の車に同乗する羽目になってしまった。

 車の中では逃げようがなく、仕方なく、デルティウンの話につき合っている。

「婚約者ではないかもしれないでしょ? わたくし、エルシア嬢から婚約者がいるなんて話、聞いたことがないわ!」

 言う必要もないからな。

 兄上に同席する形で、何度か彼女とは顔を合わせているが、周りの反応からすると『かなりヤバめの婚約者』がいると見た。

 おそらく、その婚約者は目を付けた相手の命を狙いそうなタイプだ。僕の勘がそう言っている。間違いない。

 でなければ、あれほど兄上たちが怯えるはずがないのだ。

「婚約者がいない、とも言われてないだろう?」

 僕はスルリとデルティウンの、へ理屈から抜け出す。

 デルティウンは僕の言葉を咀嚼するように小さく繰り返すと、最後には「まぁ、そうね」とつぶやいた。

 心の中でホッと胸をなで下ろす。なんとか通じたらしい。

「ところで、トリー兄さまは急いでどちらに向かってるのかしら?」

 向かう先にもうすぐ着こうとするタイミングで、呑気にそんなことを聞くデルティウンに、僕はほとほと呆れかえった。




「だーかーらー! どうしてこうなったのよ!」

 あれから半日後。
 僕はベッドに横たわっていた。

「それは僕の方が聞きたいよ、デルティ」

 僕は昼間の出来事を思い出す。

 今から思うと、最初から仕組まれていた事件だった。




 僕とデルティウンを乗せた車が近衛の訓練施設へとつくと、すぐさま、見かけない騎士が駆け寄ってくる。

「殿下、お待ちしておりました!」

 事を急を要するようだ。

「で?」

 僕はデルティウンを置いて車を降りると、足早に現場へと向かった。

 出迎えた騎士の話では、面倒なことになっているらしい。

「それで兄上の様子は?」

「とりあえずは落ち着いているようなのですが」

 少し前、下の兄上は魔剣の主となった。

 ところが、完全には使いこなせていないようで。ときおり魔剣が暴走することがあったのだ。

 上の兄上の話では、魔剣が勝手に動いているわけではなく、使う側の力の込め方が不安定なのが原因らしい。

 騎士の僕が魔剣を所持できず、ただの王子である下の兄上が魔剣の主となった。このことは僕にとっては衝撃的な出来事だった。

 騎士である僕より、ただの王子の兄上が選ばれたんだ。
 ショックを受けない方がおかしいと思う。

 兄上がうまく魔剣を扱えてないと聞いて、ほくそ笑む気持ちがあったのだろう。

 あぁ、やっぱり。ただの王子に魔剣の主は荷が重かったんだと。そう思いたかったのかもしれない。

「トリビィアスか」

 着いたところにはすでに上の兄上もいて、見かけない黒い騎士服の男が、下の兄上の魔剣を取り押さていた。

 遅かったか。

 そんな気持ちになる。

「その辺にしておいてくれ」

 兄上が黒い騎士服の男に声をかけた。

 頷く男。下の兄上の手から魔剣が落ち、カラカラと音を立てて転がる。

 下の兄上の魔剣に手を伸ばそうとして、ふと、黒い騎士服の男と目が合った。

 なぜか、睨まれている。

「一番下の弟だ」

 兄上が簡単に告げると、男は軽く頷いたように見えた。

 僕も黙礼して、さらに手を伸ばしたその時。


 ガチン


 男の剣が、下の兄上の魔剣と僕の手の間に突き立つ。

「何?!」

「やめておけ」

 バカにしたような口調。

「魔剣は主を選ぶ。お前は選ばれてないだろ。手を出すな」

「なんだと!」

 思わずかっとなって言い返す。

 事実ではあったが、認めたくない事実でもあった。

 僕だって機会さえあれば。

 そんな気持ちが心の中で渦巻いていたんだろう。それと、ただの王子の兄上を少しバカにしたような気持ちも。

 それに目の前の男は兄上の魔剣をしっかり握っていた。なんだ、触れても大丈夫なんじゃないか。まったく、大げさな。

「自信があるなら、勝手にしろ」

「あぁ!」

 自分の剣を引く男。

 そのまま手を伸ばす僕。

「止めろ、トリー!」

 上の兄上の制止の声を振り切って、さらに手を伸ばし、そして、魔剣に手が触れたとたん。


 ゴウンッ


 足元が崩れた。




 主でない者が手を触れたせいで、魔剣が暴発した。

 と説明を受けたのは、それから二時間が経過した後。自分の部屋のベッドの上でだった。

 伸ばした手の方はまったくなんともなかったが、足元が崩れて瓦礫となり、バランスを崩したそうだ。転倒して頭も打ったらしい。そこからベッドに移動するまでの記憶がまったくない。

 右足のすねの骨にはひびが入っていて、二週間は安静にとの診断で。当然、このケガでは国外公務なんてとても無理。

 僕以外もそういう認識となり、けっきょく新リテラ王国へは、下の兄上が行くことになったそうだ。

 初めての国外公務。密かに楽しみにはしていたのに、がっかりだ。

「しかし、トリー」

 上の兄上が僕の名前を呼ぶ。

「呼びもしないのに、どうしてあそこに来たんだ?」

 ベッドの脇で、今回の小言と公務交代の説明をしてくれた上の兄上が変なことを言い出した。

「何を言ってるんですか、兄上。僕は下の兄上が大変だと呼ばれたからあそこへ……」

「呼んでない、誰も」

「……………………え?」

 確かに伝令が来て、騎士も出迎えて。

 でも待てよ。いつもの伝令ではなかったような。それに、出迎えの騎士に見覚えはあったか?

 黙り込む兄上。

「やられたな、トリー。いつの間に恨みを買ったんだ?」

「まさか、怨恨ですか?!」

「若くて顔がいい男は、恨みも買いやすいのだな」

 そんなバカな。恨みだなんて。

 僕は愕然として兄上を見る。

「いったい誰に」

「それは、あれしかいないだろう」

 当たり前のように言う兄上の言葉を聞き、僕は昼間に会った黒い騎士服の男をなんとなく思い出していた。

 僕のことをもの凄く睨んできたあの男のことを。

 まさか、彼が。いや、まさか。




 翌日。

 新リテラ王国への使節団は、下の兄上を団長として無事に出発していった。

 そして上の兄上から、黒い騎士服の男の正体を教えられ、

「その程度のケガで済んで良かったな」

 のほほんとした兄上の言葉に、僕は大きく頷いたのだった。
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