運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

SA

文字の大きさ
225 / 573
4 聖魔術師の幻影編

4-4

しおりを挟む
 お披露目会の方は淡々と進んでいく。

 開会の辞から始まり、国王の挨拶、聖魔術師長による金冠の歴史の説明、なんだか趣旨の分からない祝辞と続いていった。

 眠い。眠すぎる。

 それでも私が寝落ちしなかったのは、目の前の光景のおかげというか。

「リュリュ先輩が寝てる。完全に寝てる」

 前列に座るリュリュ先輩、睡魔に襲われ完全にやられてしまった。
 ときおり、隣に座るリンクス隊長がつつくけど起きる気配なし。ある意味、大物だ。

 まったく動かず、静かにすーすーと寝ている。そしてたまに、頭がかくんとなる。
 うん。これはダメだ。静かなだけで、周りから見れば完全に眠りこけてる人だ。

 そーっと周りを窺うと、ところどころにリュリュ先輩同様、睡魔に襲われている人たちがいた。
 立っている騎士もときおり膝がかくんとなっている。

 ヤバい。

 睡魔の威力、半端ない。

 これはなんだろう。

 ストレートにガツンとくるグレイの殺気や威圧と違って、周りからジワジワとゆっくり締め付けられるような感覚。

 スローナスで懐柔してくる王太子殿下の惹力よりも、強力なような気がする。

 いや、絶対、こっちの方が強い。

「まさか、精神魔法?」

「それなら、魔法抵抗力がずば抜けて高いエルシアがかかるはずないと思いますわ」

 隣から的確な指摘があった。

「なんだ、ただ、話がつまらないだけか」

「エルシアはおとなしくしてましょうね」

 隣から再び指摘が入る。まぁ、そうしておこう。




「それでは、国家魔導具主の選定会に移ります」

 ふーっと、会場全体に安堵のため息が漏れた。眠かったのは私だけではなかったようで、私も安心した気持ちになる。

 寝ていた人たちも、今のため息に何事かと目を覚ましたようで、全員の目が台座の隣に立つ人に集中した。

 注目を集めたその人は聖魔術師長のメッサリーナ殿。

「国内選考では、残念ながら主となる人物は見つかりませんでした」

 国内からの参席者からは、はーっと吐息が漏れる。残念ながら、というメッサリーナ殿の言葉通りの心境だろう。

 国内の大勢の中で見つからないのに、国外からの少数の中から見つかるのか。

 彼らの心に不安が押し寄せるのが、見えたような気がした。

 それだけ、金冠は新リテラ王国にとって大事な魔導具なんだと改めて実感する。

 しかし、メッサリーナ殿の話はそこで終わりではなく続きがあった。

「入国時の審査では、グラディア王国の五名の方が、主候補となる基準を満たしておりました」

 シュンと沈み込んだ参席者の間から、小さなざわめきが起きる。

 主候補が見つかった? しかも五人も?

 残念な報告の後に、一筋の光明のような知らせ。
 わずかな期待を抱きながらメッサリーナ殿の方を見る、新リテラ王国の人々。国王陛下や王太子殿下たちも同様な目で、メッサリーナ殿の次の言葉を待っていた。

 メッサリーナ殿はそんな彼らの表情を見て、小さく頷き、先を続ける。

「中には、基準を遥かに超える方もいらっしゃいましたので、素晴らしい方が国家魔導具の主になっていただけると、聖魔術師一同期待を寄せております」

 小さな期待は徐々に膨れ上がり、あっという間に大きく成長していって、会場内は歓声が飛び交う場所と化した。




 期待に胸を膨らませているのは新リテラ王国の人だけで、他国からの参席者にはどうでもいい話なわけで、グラディアの私たちの反応も三者三様となる。

「え、主候補なんて話じゃなかったよねー 適性があるって言われて、講習会聞いただけだしー」

 とリュリュ先輩。金冠なんてどーでもいい派。

「ホホホホホホ。皆様、慌てなくても心配ありませんわ。基準を遥かに超えているのは、おそらく、わたくしのことでしょうから」

 これは言わずと知れたダイアナ嬢。私こそが主役派。

「凄い前向き」

「あれだけの情報で、よくご自分のことだと判断できましたわね」

 呆れる私とソニアの目の前で、フォセル嬢が感心の声をあげた。

「セイクリウス先輩、凄いですね! そんなことまで分かるんですか!」

「ホホホホホホ。わたくしくらいの魔術師ともなれば、自然と分かるものですわ。
 なにしろ、金冠を初めて手にしたときのしっくりする感じ、すっと入っていくというか、抜けていくというか、あの感覚。
 適性が高くないと分からないものでしょう」

「凄い、凄いですね! さすが次期筆頭と言われている人は違いますね!」

 フォセル嬢に褒め称えられて、ダイアナ嬢は高笑いが止まらない。

 ところがフォセル嬢が急に黙り込む。
 次に真剣な顔でダイアナ嬢に話しかけた。

「でも、金冠の主になったら、新リテラ王国に留まるようなんですよね?」

 まぁ、そうだよね。金冠は新リテラ王国の守護魔導具みたいなものだしね。

 これは初日に、レティーティア殿から説明があった。

「は? そんな話は聞いていませんわ」

 けど、ダイアナ嬢は聞いてなかったらしい。

「講習会で説明がありましたよね!」

 うん。けっこう最初の方で説明されたと思う。大事な内容だからと。それすら、聞いてなかったとは。

「ま、まぁ、わたくし、引く手あまたですから。それでも、筆頭魔術師は二番手の方がおりますけど。国家杖主は適性ある選ばれた人間のみですから」

 うん。誤魔化したよ。

「国のために、こちらに残るとおっしゃられるんですね」

 いや、きっと違う。というか、逆だ。

 魔導具の主になりたいから、国=グラディアを捨てるつもりなんだよ、この人。

「凄いです、セイクリウス先輩。感動しました」

 呆れすぎて出てきた言葉が確認の言葉。

「どの辺が感動なの?」

「あの凄い自信かなー?」

「へー」

 リュリュ先輩なんて、呆れ顔を通り越してバカバカしそうな顔をしている。

 こそこそと会話を交わす私たちにソニアが声をかけてきた。

「エルシアもリュリュ先輩も、移動しますわよ」

 そうだった、これからが本番だ。

 主になるための契約の儀。間違えるとこはないと思うけど、少し緊張する。

 私の杖もまだ戻ってきていない。

 一人だと思うと余計に緊張するような気がしてきた。

 目の前にはフォセル嬢。

 クラウドに手を取られて、仲良く歩いていくのが見える。
 一言二言、クラウドと微笑みあいながら楽しそうにしている様は、恋人同士にしか見えない。

 イケメンで凛々しい感じの騎士と白いドレスの可憐な女性。とてもとてもお似合いだった。

 そして私は一人ポツンと取り残された気分になる。緊張している上に一人ぼっちだなんて、最悪だ。

 気分が沈みかけた私の肩に、手が置かれた。ポンポンと。おおきくて温かい手。

 手が置かれた肩の方を向くと、簡易兜で顔の上半分が隠れたグレイがいる。

 見えている下半分はいつものむすっとした凶悪に無愛想な顔。いつものグレイで少し安心。

 そうだ、私にはグレイがいる。

 そう思うとなんだか緊張も解れてくる。

「じゃ、よろしく。グレイ」

「任せておけ」

 グレイの力強い声が私に力をあたえてくれるようだった。

 さぁ、偽金冠との対決だ。

 私は気合いを入れ直した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

結婚式をボイコットした王女

椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。 しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。 ※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※ 1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。 1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

彼の過ちと彼女の選択

浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。 そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。 一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。

【完結】わたしは大事な人の側に行きます〜この国が不幸になりますように〜

彩華(あやはな)
恋愛
 一つの密約を交わし聖女になったわたし。  わたしは婚約者である王太子殿下に婚約破棄された。  王太子はわたしの大事な人をー。  わたしは、大事な人の側にいきます。  そして、この国不幸になる事を祈ります。  *わたし、王太子殿下、ある方の視点になっています。敢えて表記しておりません。  *ダークな内容になっておりますので、ご注意ください。 ハピエンではありません。ですが、救済はいれました。

愛はリンゴと同じ

turarin
恋愛
学園時代の同級生と結婚し、子供にも恵まれ幸せいっぱいの公爵夫人ナタリー。ところが、ある日夫が平民の少女をつれてきて、別邸に囲うと言う。 夫のナタリーへの愛は減らない。妾の少女メイリンへの愛が、一つ増えるだけだと言う。夫の愛は、まるでリンゴのように幾つもあって、皆に与えられるものなのだそうだ。 ナタリーのことは妻として大切にしてくれる夫。貴族の妻としては当然受け入れるべき。だが、辛くて仕方がない。ナタリーのリンゴは一つだけ。 幾つもあるなど考えられない。

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

婚約破棄でお願いします

基本二度寝
恋愛
王太子の婚約者、カーリンは男爵令嬢に覚えのない悪行を並べ立てられた。 「君は、そんな人だったのか…」 王太子は男爵令嬢の言葉を鵜呑みにして… ※ギャグかもしれない

【完結】身代わりとなります

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
レイチェルは素行不良の令嬢として悪名を轟かせている。しかし、それはレイチェルが無知ゆえにいつも失態をしていたためで本人には悪意はなかった。 レイチェルは家族に顧みられず誰からも貴族のルールを教えてもらわずに育ったのだ。 そんなレイチェルに婚約者ができた。 侯爵令息のダニエルだ。 彼は誠実でレイチェルの置かれている状況を知り、マナー講師を招いたり、ドレスを作ってくれたりした。 はじめは貴族然としている婚約者に反発していたレイチェルだったがいつのまにか彼の優しさに惹かれるようになった。 彼のレイチェルへの想いが同情であっても。 彼がレイチェルではない人を愛していても。 そんな時、彼の想い人である隣国の伯爵令嬢フィオラの国で革命が起き、彼女は隣国の貴族として処刑されることが決まった。 そして、さまざまな思惑が交錯する中、レイチェルは一つの決断を下し・・・ *過去と未来が行ったり来たりしながら進行する書き方にチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんがご了承ください。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

処理中です...