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4 聖魔術師の幻影編
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私には銀色に見える金冠を頭に乗せ、ダイアナ嬢が契約の言葉を口にする。
「《偉大なる我と契約し、我がために力をふるえ》」
シーーーーーーン
静まり返る会場。
動きを止めたままのダイアナ嬢。
参席者全員がダイアナ嬢に注目しているが、何も起こらない。契約が出来た様子もない。
まぁ、それはそうだ。
ダイアナ嬢が使った言葉は、契約としては不完全なものだから。
学院の講義でも、魔導具との契約の儀については一切紹介がない。
なぜなら、講義をしている本人が魔導具との契約者ではなく、契約について詳しくないから。
通り一遍のことは教えられるけど、あれこれ質問されても答えられない。こちらが真の理由じゃないかと私は思っている。
そもそも、魔導具との契約には、決まりきった言葉があるわけではない。
では、正確な契約の言葉とはどういうものになるのか。
自分と契約することを命じる言葉。
ただこれだけ。形式自由。内容も自由。
だいたい、主が契約したい魔導具と契約するのではなく、魔導具が契約したい主に契約させるのだから、内容はどうでもいい。
どうしても言ってほしいことがあるのなら、魔導具の方から指定される。
では、ダイアナ嬢が使った言葉は、形式も内容も自由なのにどうして、不完全なのか。
これは考えれば分かる。
考えてるのかどうかはともかくとして、ダイアナ嬢は自信がありすぎたせいで、契約が出来なかったことに納得がいかなかったらしい。
「なんですの? わたくしとは契約できないということですの? どうして? 適性はわたくしが一番あるはずですわ! いったい、どういうことですの!」
ダイアナ嬢が狂ったように騒ぎ出す。
まぁ、あれだけ自信満々にしていて、自分が選ばれると信じていて、疑いの欠片も持たなかったのだから、現実の結果を受け入れるのは難しいのだろうけど。
魔導具の主になりたいのなら、もっと勉強しておくべきだと思う。魔導具との契約には、魔導具の『真名』が必要だという事を。
契約するための言葉に、契約する相手の名前を盛り込むのは基本だよね。
なのに、魔導具の真名も言わないで、契約が出来ると思っている頭の中身を疑いたくなる。
しかし、ダイアナ嬢にとっては経緯なんてどうでもいいことだと思う。彼女にとって大事なのは、主役になれたかどうか、なんじゃないかな。
こうしている間にも、台座のところで暴れるダイアナ嬢。
ざわめきたつ会場。
事態を重く見た新リテラ王国の騎士たちと聖魔術師たちが、ダイアナ嬢を取り囲んだ。
何が起きてるか周りからは分からない。
まずは頭に乗せた魔導具を回収して、それから穏便に退場してもらうつもりなんだろうけど、あんなに興奮している人を取り囲んだら、余計に抗寸するだろうに。
騎士たちに囲まれた中に、レティーティア殿も移動していく。
どうやら、レティーティア殿もあそこに加わるようだ。レティーティア殿の注意が私から逸れた。
「《探索》からの《術式感知》」
こっそりと小さな小さな魔法陣を二つ展開する。
相変わらず注意は私に向いていない。ダイアナ嬢を抑えようと、そちらに集中しているようだ。
私の《探索》は魔力を細い糸に変えて、真っ直ぐに目標に向かって伸びていった。
騎士たちが囲んでいるところへたどり着くと、だいたいの魔力の様子がはっきりと分かる。目で見た物よりも、より詳細に。
ダイアナ嬢の魔力の特徴は記憶しているので、それを頼りに周りの魔力を探った。
囲んでいる周りの騎士たちからはほとんど魔力がないようだ。茶髪茶眼の割合が多いこの国では、魔力持ちは騎士にならないのかもしれない。
中にいる聖魔術師たちからは微力な魔力、少し強めなのはメッサリーナ殿かな。魔力の強さや量はダイアナ嬢とさほど変わりがなかった。
うん? 聖魔術師長でこの程度なら、ダイアナ嬢が長になるのも、有りなのかも。この国限定で。
ふと、異質な魔力を感じた。
ダイアナ嬢の上部から。おそらく、銀色に見える金冠だ。これは人間の魔力ではない、魔導具の魔力。
と、ここまではいい。
問題なのは、この魔導具の魔力と同じ魔力の塊が、ダイアナ嬢のそばにあること。
「あの銀色の金冠が、レティーティア殿だということ?」
魔導具と顕現した杖精が同時に存在するなんて、あり得ないのに。
それとも、私は何か見逃している?
そのとき、《術式感知》の方に反応があった。
使っているのはレティーティア殿でもメッサリーナ殿でもなく、ダイアナ嬢の頭の上の魔導具。
固有能力なのか。術式がよく分からないが、みるみるうちにダイアナ嬢の荒ぶった魔力が収まり、ダイアナ嬢の騒ぐ声もすっかり静まり返った。
「やっぱり精神魔法?」
つぶやく私の声に思いがけない返事が聞こえる。
《いや。あれは幻覚魔法の一種だ、主》
セラフィアス!
《こっちはバッチリだったぞ。でも、説明と報告は後だ。そろそろ向こうが気づく》
セラフィアスの指摘を受け、私はさっと魔法陣を解除した。すっと魔力の糸が消える。
台座の周りは騎士の囲みが解かれ、穏やかな様子のダイアナ嬢が見られた。銀色の金冠はすでに台座に戻されている。
レティーティア殿が気持ちの安定を取り戻す回復魔法を使い、ダイアナ嬢を落ち着かせたことを、メッサリーナ殿が説明すると、会場からどよめきが起きた。
さすがは新リテラ王国の聖魔術師云々という賛辞が、あちこちからあがる。
そして、何事もなかったように、選定会は続行された。
「《偉大なる我と契約し、我がために力をふるえ》」
シーーーーーーン
静まり返る会場。
動きを止めたままのダイアナ嬢。
参席者全員がダイアナ嬢に注目しているが、何も起こらない。契約が出来た様子もない。
まぁ、それはそうだ。
ダイアナ嬢が使った言葉は、契約としては不完全なものだから。
学院の講義でも、魔導具との契約の儀については一切紹介がない。
なぜなら、講義をしている本人が魔導具との契約者ではなく、契約について詳しくないから。
通り一遍のことは教えられるけど、あれこれ質問されても答えられない。こちらが真の理由じゃないかと私は思っている。
そもそも、魔導具との契約には、決まりきった言葉があるわけではない。
では、正確な契約の言葉とはどういうものになるのか。
自分と契約することを命じる言葉。
ただこれだけ。形式自由。内容も自由。
だいたい、主が契約したい魔導具と契約するのではなく、魔導具が契約したい主に契約させるのだから、内容はどうでもいい。
どうしても言ってほしいことがあるのなら、魔導具の方から指定される。
では、ダイアナ嬢が使った言葉は、形式も内容も自由なのにどうして、不完全なのか。
これは考えれば分かる。
考えてるのかどうかはともかくとして、ダイアナ嬢は自信がありすぎたせいで、契約が出来なかったことに納得がいかなかったらしい。
「なんですの? わたくしとは契約できないということですの? どうして? 適性はわたくしが一番あるはずですわ! いったい、どういうことですの!」
ダイアナ嬢が狂ったように騒ぎ出す。
まぁ、あれだけ自信満々にしていて、自分が選ばれると信じていて、疑いの欠片も持たなかったのだから、現実の結果を受け入れるのは難しいのだろうけど。
魔導具の主になりたいのなら、もっと勉強しておくべきだと思う。魔導具との契約には、魔導具の『真名』が必要だという事を。
契約するための言葉に、契約する相手の名前を盛り込むのは基本だよね。
なのに、魔導具の真名も言わないで、契約が出来ると思っている頭の中身を疑いたくなる。
しかし、ダイアナ嬢にとっては経緯なんてどうでもいいことだと思う。彼女にとって大事なのは、主役になれたかどうか、なんじゃないかな。
こうしている間にも、台座のところで暴れるダイアナ嬢。
ざわめきたつ会場。
事態を重く見た新リテラ王国の騎士たちと聖魔術師たちが、ダイアナ嬢を取り囲んだ。
何が起きてるか周りからは分からない。
まずは頭に乗せた魔導具を回収して、それから穏便に退場してもらうつもりなんだろうけど、あんなに興奮している人を取り囲んだら、余計に抗寸するだろうに。
騎士たちに囲まれた中に、レティーティア殿も移動していく。
どうやら、レティーティア殿もあそこに加わるようだ。レティーティア殿の注意が私から逸れた。
「《探索》からの《術式感知》」
こっそりと小さな小さな魔法陣を二つ展開する。
相変わらず注意は私に向いていない。ダイアナ嬢を抑えようと、そちらに集中しているようだ。
私の《探索》は魔力を細い糸に変えて、真っ直ぐに目標に向かって伸びていった。
騎士たちが囲んでいるところへたどり着くと、だいたいの魔力の様子がはっきりと分かる。目で見た物よりも、より詳細に。
ダイアナ嬢の魔力の特徴は記憶しているので、それを頼りに周りの魔力を探った。
囲んでいる周りの騎士たちからはほとんど魔力がないようだ。茶髪茶眼の割合が多いこの国では、魔力持ちは騎士にならないのかもしれない。
中にいる聖魔術師たちからは微力な魔力、少し強めなのはメッサリーナ殿かな。魔力の強さや量はダイアナ嬢とさほど変わりがなかった。
うん? 聖魔術師長でこの程度なら、ダイアナ嬢が長になるのも、有りなのかも。この国限定で。
ふと、異質な魔力を感じた。
ダイアナ嬢の上部から。おそらく、銀色に見える金冠だ。これは人間の魔力ではない、魔導具の魔力。
と、ここまではいい。
問題なのは、この魔導具の魔力と同じ魔力の塊が、ダイアナ嬢のそばにあること。
「あの銀色の金冠が、レティーティア殿だということ?」
魔導具と顕現した杖精が同時に存在するなんて、あり得ないのに。
それとも、私は何か見逃している?
そのとき、《術式感知》の方に反応があった。
使っているのはレティーティア殿でもメッサリーナ殿でもなく、ダイアナ嬢の頭の上の魔導具。
固有能力なのか。術式がよく分からないが、みるみるうちにダイアナ嬢の荒ぶった魔力が収まり、ダイアナ嬢の騒ぐ声もすっかり静まり返った。
「やっぱり精神魔法?」
つぶやく私の声に思いがけない返事が聞こえる。
《いや。あれは幻覚魔法の一種だ、主》
セラフィアス!
《こっちはバッチリだったぞ。でも、説明と報告は後だ。そろそろ向こうが気づく》
セラフィアスの指摘を受け、私はさっと魔法陣を解除した。すっと魔力の糸が消える。
台座の周りは騎士の囲みが解かれ、穏やかな様子のダイアナ嬢が見られた。銀色の金冠はすでに台座に戻されている。
レティーティア殿が気持ちの安定を取り戻す回復魔法を使い、ダイアナ嬢を落ち着かせたことを、メッサリーナ殿が説明すると、会場からどよめきが起きた。
さすがは新リテラ王国の聖魔術師云々という賛辞が、あちこちからあがる。
そして、何事もなかったように、選定会は続行された。
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