運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

SA

文字の大きさ
234 / 573
4 聖魔術師の幻影編

5-1

しおりを挟む
 それから一時間後。

 私はデカくて厳つい専属護衛に両脇を固められた状態で、立食パーティーの場に姿を現していた。

 出なきゃ帰れないのであるなら、ガッツリ食べてから帰らないと。

 ふふ~ん。

 自然と鼻歌が口をつく。

 下手くそな私の鼻歌を聞いて、リュリュ先輩が近寄ってきた。リンクス隊長にグラスを持たせている。

「エルシア、機嫌、良さそうだね」

「うん、いい。凄くいい」

 次に近寄ってきたのはソニアだ。ヴォードフェルム隊長を引き連れる様には、高位貴族の貫禄があった。

「良いことでもありましたの?」

「うん、これで国に帰れる」

 私は二人の質問に機嫌よく答える。

「エルシア、もう帰るモードなんだ」

「だから、すでに制服でしたのね」

 よく見なくても、二人はお披露目会のドレスのまま参加している。

 そして当然のように私は制服だ。

 辺りを見回すと、他にも何人か白いドレスの参加者がいて、それぞれが最後のパーティーを楽しんでいるようだった。

「エルシアの白いドレス、かわいかったのにぃ。もっと見たかったのにぃ」

 むくれるリュリュ先輩がリンクス隊長から飲み物を受け取り、ぐぃっと一気に飲み干した。
 見ていてスカッとするくらい良い飲みっぷりだけど、レディらしからぬ飲みっぷりでもある。

「こっちの方が気が楽だから」

 私が何を言っても納得しないリュリュ先輩。今度は別の方面から攻めてくる。

「ダンスするなら、ドレスの方が絶対、良いって」

「立食パーティーでしょ? ダンスパーティーじゃないでしょ?」

 食べるなら、ドレスより制服の方が絶対いい。パクパク楽に食べられる。

 私はダンスには興味がなく、食べ物に集中しているというのに、リュリュ先輩は相変わらず、ダンスから離れようとしない。

「でも、踊りたい人は踊るんだよねー ほらほら、クラウド君だって踊ってる」

 リュリュ先輩が中央の広々としたスペースを指差した。

 すると、そこには何組か、踊っている男女の姿があって、そのうちの一組がクラウドとフォセル嬢だった。

 格好いい系のクラウドとかわいい系のフォセル嬢。二人のダンスも様になっているし、何より、見目が良い。まさに絵になるカップルとはこの二人のことだ。

 ダンスより食べ物派の私でさえ、この二人のダンスに目が釘付けになった。

 同時にギュッと手が握られる。

 グレイだ。

 今は護衛中なので、素手ではなく革の手袋をしていて、革の感じがちょっとゴワゴワする。

 身長差もあるので、私の手はグレイの手より少し低い位置にあるのに、そーっと手を伸ばしてギュッと握りしめてくれたらしい。

 グレイを見上げてもグレイは何も言わない。まぁ、護衛中なので必要ないときは無言だけど。
 ギュッとこちらからも握り返すと、心なしか、簡易兜から覗くグレイの耳が少し赤くなった。

 グレイは基本こんなだ。何も言わない。

 もちろん必要なことは言ってくれるけど、恋愛的なそういう類のことは言ったことがない。

 だから私は、グレイにとって私は妹のようなものなんだと思っていた。

 バルザード卿に言われるまでは。

 グレイが私のことを大切にしてくれているのは分かるし、大事に思ってくれているのも分かる。でも、それ以上のことは何もない。
 いっしょに寝ていても、優しく抱きしめる程度。むしろ、妹というより犬か猫のような扱い。

 だから、バルザード卿に言われても、正直、本当なのかと疑わしいところは残っている。

 でも。

 バルザード卿の話が本当ではなくて、妹扱いであったとしても、グレイが私を大切にしてくれているのは本当のことなんだと改めて感じた。

 いつも必要なときは必ずグレイがいる。

 魔塔に捨てられ魔力暴走を抑えようと独りで耐えていた時も、助けてくれたのはグレイだ。
 クズ男の前で暴走しかけたときも、グレイがかけつけてくれた。

 そして、今も。

 やっぱりグレイは私の同志で、大事なパートナーだ。

 私は再び、クラウドの方に目をやる。

 相変わらず、楽しそうに踊る二人。二人のところだけ、なんだかキラキラと煌めいているようにも見えた。

 それでも。

 眩しいものを見るような感じで二人を見ることはなくなったし、今まで感じていたチクッとする胸の痛みも、もやもやする気分も、嘘のようになくなっていた。

 羨ましい気持ちはある。

 いかにもお似合いの見目も良いカップルと、歴戦の猛者的ペアの私たちでは雲泥の差があるし。

 クラウドのことも、顔は良くて格好いいからちょっと良いなぁと、思ったこともあったけど。

 けっきょくのところ、クラウドは同僚で同期。それだけだ。

「あら、また、フォセル嬢と踊ってますわね。あの根性なし」

「うん? ソニア、今、なんか言った?」

「ヴォードフェルム副隊長が踊りたそうな目で、エルシアを見てますわよ」

 私の近くにはいるけど、違う方を向いて喋るソニアの声は聞き取りづらい。

 聞き返すと、今度は私の方を向いて喋ってくれたのに、さきほどとは違うことを言ってるような気がする。

 私が再度聞き返す前に、話題の中心はフェリクス副隊長の方に変わってしまった。

「フェリクス君、なんで、声かけてこないのかねー」

「エルシアにバッサリ断られると分かってるんですわ」

 まぁ、誘われても断るよね、当然。
 私が答えるより先に、リュリュ先輩がソニアに答える。

「フェリクス君、エルシアに断られて嬉しそうにするよねー」

 いや、そう返されると、口を挟みづらいんだけど。

 答え損なった私が黙っていると、ソニアがさらに話を盛ってくる。

「会話が出来ただけでも嬉しいんでしょうね」

「フェリクス君、不憫すぎるー」

 二人の会話を聞きながら、フェリクス副隊長を見ると、目が合った。

 目が合っただけで、なんだか、嬉しそうな表情をするフェリクス副隊長。

 その様子を見たソニアとリュリュ先輩は満足げな様子。

「まぁ、取り巻きのファンの女性がいなくて、エルシア一筋だと言うのなら、不憫だと評価して差し上げても構いませんけれど」

 そうだった。

 フェリクス副隊長には、訓練の観覧のたびにファンと称する女性の集団がやってくる。

 彼女たちからキャーキャー言われて、まんざらでもない様子を、遠くから何度か見たことがあった。

「フェリクス君、自業自得ー」

 続くリュリュ先輩の言葉に、私は深く同意するのだった。




 それからはご飯三昧の私。

 立食パーティーとは言っても、休憩用のソファーとローテーブルはあちこちに設けられていたので、一つに陣取る。

 立食パーティーなので、料理は一口サイズ。

 バルザード卿が料理を運び、グレイに周囲の安全を見張られながら、座ってご飯。ここに来てから大変だったもの。ご褒美と思って思いっきり食べた。

 会場にレティーティア殿の姿はないし、エンデバート卿もようやく諦めたのか近くにはいない。

 ただし、私に近寄ってくる人がゼロというわけでもなかった。

「エルシア」

 横から声をかけられ、私は一口サイズのパイを飲み込む。

「あ、クラウド。お疲れ」

 グレイが差し出すナフキンで口元を拭うと、私はクラウドを見上げた。

「あ、あぁ。お前、もう制服に着替えてたのか」

 先ほどのキラキラしさが残ったままのクラウドがそばに立っている。

「立食パーティーだし」

 何の用かと思ってクラウドが話し出すのを待っていると、クラウドは私の護衛を気にしながら、おずおずと話し出した。

「いや、その、せっかくのパーティーなんだから、一曲どうかと思って」

「ドレスじゃないから」

 私はあっさり断る。

 クラウドとフォセル嬢のキラキラしいダンスを見た後では、どうにも踊りたい気にはなれなかったから。

 断られても、なおも食い下がってくるクラウド。

「学院や騎士団のパーティーなら、騎士服で踊ってるぞ」

 服装を理由に断りはしたけど、そういう問題ではないのに。

 ところで、騎士団はともかく学院でパーティーなんてあったっけ? 卒業パーティーだけじゃなくて?

「え? そうなの?」

「お前の代の魔術師コースだけ、新入生歓迎パーティーも、普段の学生パーティーも、卒業パーティーでさえ不参加だったんだよな」

「へー、そうなんだ」

 私の代だけ仲間外れにされていたのは、私の爆発が原因か。クラウドの話を聞いていると、どんどん気分が冷める。

「で、どうだ、一曲?」

 クラウドはその場で片膝をつくと、冷めた気分の私に向けて、手を伸ばしてきた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

彼の過ちと彼女の選択

浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。 そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。 一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。

結婚式をボイコットした王女

椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。 しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。 ※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※ 1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。 1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

婚約破棄でお願いします

基本二度寝
恋愛
王太子の婚約者、カーリンは男爵令嬢に覚えのない悪行を並べ立てられた。 「君は、そんな人だったのか…」 王太子は男爵令嬢の言葉を鵜呑みにして… ※ギャグかもしれない

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

愛はリンゴと同じ

turarin
恋愛
学園時代の同級生と結婚し、子供にも恵まれ幸せいっぱいの公爵夫人ナタリー。ところが、ある日夫が平民の少女をつれてきて、別邸に囲うと言う。 夫のナタリーへの愛は減らない。妾の少女メイリンへの愛が、一つ増えるだけだと言う。夫の愛は、まるでリンゴのように幾つもあって、皆に与えられるものなのだそうだ。 ナタリーのことは妻として大切にしてくれる夫。貴族の妻としては当然受け入れるべき。だが、辛くて仕方がない。ナタリーのリンゴは一つだけ。 幾つもあるなど考えられない。

【完結】身代わりとなります

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
レイチェルは素行不良の令嬢として悪名を轟かせている。しかし、それはレイチェルが無知ゆえにいつも失態をしていたためで本人には悪意はなかった。 レイチェルは家族に顧みられず誰からも貴族のルールを教えてもらわずに育ったのだ。 そんなレイチェルに婚約者ができた。 侯爵令息のダニエルだ。 彼は誠実でレイチェルの置かれている状況を知り、マナー講師を招いたり、ドレスを作ってくれたりした。 はじめは貴族然としている婚約者に反発していたレイチェルだったがいつのまにか彼の優しさに惹かれるようになった。 彼のレイチェルへの想いが同情であっても。 彼がレイチェルではない人を愛していても。 そんな時、彼の想い人である隣国の伯爵令嬢フィオラの国で革命が起き、彼女は隣国の貴族として処刑されることが決まった。 そして、さまざまな思惑が交錯する中、レイチェルは一つの決断を下し・・・ *過去と未来が行ったり来たりしながら進行する書き方にチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんがご了承ください。

【完結】わたしは大事な人の側に行きます〜この国が不幸になりますように〜

彩華(あやはな)
恋愛
 一つの密約を交わし聖女になったわたし。  わたしは婚約者である王太子殿下に婚約破棄された。  王太子はわたしの大事な人をー。  わたしは、大事な人の側にいきます。  そして、この国不幸になる事を祈ります。  *わたし、王太子殿下、ある方の視点になっています。敢えて表記しておりません。  *ダークな内容になっておりますので、ご注意ください。 ハピエンではありません。ですが、救済はいれました。

【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜

まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。 ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。 父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。 それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。 両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。 そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。 そんなお話。 ☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。 ☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。 ☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。 楽しんでいただけると幸いです。

処理中です...