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4 聖魔術師の幻影編
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私が泣き崩れてから、どこをどうしてどうなったのか分からないまま、私は今、国王陛下と王太子殿下、二人を前にしてソファーに座っていた。
「すまないな、デートの前に一仕事させてしまって」
「まったくだ。シアの気持ちも考えろ、ユニシス」
「ハハハ」
正確には、国王陛下と王太子殿下を前にして、ソファーに座るグレイの膝の上に座り、グレイにギューッと抱きついている。
これを見て誰も何も言わないどころか、当たり前のように当たり障りのない会話を進めていた。
「久しいな、グレイアド。辺境伯はご健在か?」
「まだまだ現役です。ピンピンしていますよ、陛下」
うん。グレイの養父の辺境伯、グレイに負けず劣らず元気なんだよね。
血族なだけあって、見た目はグレイに似ているけど、かなりお茶目な性格で、私のことは『エルシアちゃん』て呼ぶ。
そんな当たり障りのない会話に、なぜだか耐えられなくなったのが、バルザード卿だった。
「隊長、後ろではなく隅に立ってていいですか? 雲の上の御方ばかりで畏れ多いので」
「あぁ、構わない」
「それに隊長とお嬢のイチャイチャを、目の前で見せつけられるのも限界で」
最後の方はよく聞こえなかったけど、ぶつぶつ言いながら、バルザード卿は隅で直立不動の置物と化す。
バルザード卿が隅に行くと、今度は別な声が聞こえてきた。
「陛下、ルベラス嬢の専属護衛殿とはお知り合いなんですか?」
グリプス伯だ。
どうやらグレイの隣、私の背中側に位置するところに座っているようだ。
「なんだ、グリプス。おぬし、こいつを知らんのか? 北の辺境伯の後継者だよ」
「ニグラート辺境伯ですか? 確か、あの方は独身だったのでは?」
「だから甥を養子にしたんだよ」
最初はグレイの弟が養子って話だったそうだけどね。
グレイは辺境領の生活に合っていて、弟は合わなかった。そんな理由もあって、グレイの希望も加わり、グレイが長男なのに実家を出たということだった。
なんだか、話が逸れそうだ。
話が逸れて長引けば、それだけ、フルヌビに行くのが遅くなる。
「それで、金冠の話を聞きたいんですよね?」
「ああ、そうだ」
「さっさと話して終わりにしましょう。グレイとタルトを食べにいく予定なので」
私は話を先に進めた。
「つまり、金冠はいなかった、と」
私の報告を聞くと、陛下はむむむと考え込み始める。
「銀冠が金冠の振りをしていました」
「うむ」
短く答える陛下。
「金冠がいないと、何か困ることでもあるんですか?」
その辺の事情が見えず、首を傾げる私。
新リテラ王国側も、わざわざ銀冠を使って誤魔化さなくてもいいだろうに。
陛下は少し考え込んだ後、事情を簡単に説明してくれた。
「金冠は、回復や治療魔法のスペシャリストだ。金冠をめぐって争いが起きるほどの重要魔導具。グラディアでも、動向は把握しておきたい」
「なるほど。でも、銀冠も金冠の行方は分からないみたいでしたよ?」
私の返答に、国王陛下も王太子殿下も揃って難しい顔をした。
「となると、厄介なことになるな」
「厄介なこと?」
「新リテラ王国を守護する金冠がいないと分かれば、周辺国の動きが変わる。だからこそ銀冠も、金冠不在を隠すために行動しているのだろう」
「マギカイあたりが、一騒動、起こすだろうな。あそこは旧リテラの中で一番、魔導具や遺物が少ない地域。新リテラ王国を淡々と狙っているはずだ」
うん、かなり面倒なことになった。
いったい金冠はどこに行ったんだろう。
新リテラ王国内にいないのであれば、二十年前のお披露目で、主を見つけてそのままどこかに行ってしまったのか。
「ところで、セラよ」
「何でしょう、陛下」
突然、陛下から声をかけられた。
「そなた、銀冠からエンデバートの血筋と言われたのだったな?」
私は無言で頷いた。
頷いてから、銀冠との会話を思い出す。
「言われました。祖父母か曾祖父母にエンデバートの者がいたはずだって。
エンデバートって、新リテラ王国の由緒ある将軍家ですよね? そんなこと、あります?」
私は逆に聞いてみた。
血筋の話なんて、孤児の私にされても分かるはずがない。
私の質問に答えたのは王太子殿下だった。
「父親の方の血筋は不明だな。血筋が追えるのは母親の方だが」
「ルベル公爵家ですよね? 会ったことありませんけど」
「可能性があるのは、そなたの曾祖母だ。念のため、ルベル公爵家に確認する」
「そんなに重要なことですか?」
私にエンデバートの血が流れていることは、何かに影響するのだろうか。その辺がよく分からない。
今度は陛下が私の質問に答える。
「少し引っかかるところがあってな。ところで、そなた。ルベル公爵家とは会わないのか? 向こうからは連絡が入っているのだろう?」
答えるついでに逆に質問された。
ルベル公爵家は、後になってから、私の後援に名乗り出た一つ。
現公爵の直系はお母さまのみだったので、お母さま亡き後は、傍系の誰かが公爵の後継者に収まっていた。
お母さまの娘である私も、ルベル公爵の直系になるんだけど。
後継者が決まっている公爵家に引き取られたところで、誰も喜ばないよね。
なので、私は陛下に向かってきっぱりと答えた。
「私はエルシア・ルベラスです。ルベルではありませんから」
だから、ルベル公爵家とは会わないし、会う必要はない。
「そういうことだ、陛下」
グレイも私の意見に同意して、この話はこれでおしまいになった。
「すまないな、デートの前に一仕事させてしまって」
「まったくだ。シアの気持ちも考えろ、ユニシス」
「ハハハ」
正確には、国王陛下と王太子殿下を前にして、ソファーに座るグレイの膝の上に座り、グレイにギューッと抱きついている。
これを見て誰も何も言わないどころか、当たり前のように当たり障りのない会話を進めていた。
「久しいな、グレイアド。辺境伯はご健在か?」
「まだまだ現役です。ピンピンしていますよ、陛下」
うん。グレイの養父の辺境伯、グレイに負けず劣らず元気なんだよね。
血族なだけあって、見た目はグレイに似ているけど、かなりお茶目な性格で、私のことは『エルシアちゃん』て呼ぶ。
そんな当たり障りのない会話に、なぜだか耐えられなくなったのが、バルザード卿だった。
「隊長、後ろではなく隅に立ってていいですか? 雲の上の御方ばかりで畏れ多いので」
「あぁ、構わない」
「それに隊長とお嬢のイチャイチャを、目の前で見せつけられるのも限界で」
最後の方はよく聞こえなかったけど、ぶつぶつ言いながら、バルザード卿は隅で直立不動の置物と化す。
バルザード卿が隅に行くと、今度は別な声が聞こえてきた。
「陛下、ルベラス嬢の専属護衛殿とはお知り合いなんですか?」
グリプス伯だ。
どうやらグレイの隣、私の背中側に位置するところに座っているようだ。
「なんだ、グリプス。おぬし、こいつを知らんのか? 北の辺境伯の後継者だよ」
「ニグラート辺境伯ですか? 確か、あの方は独身だったのでは?」
「だから甥を養子にしたんだよ」
最初はグレイの弟が養子って話だったそうだけどね。
グレイは辺境領の生活に合っていて、弟は合わなかった。そんな理由もあって、グレイの希望も加わり、グレイが長男なのに実家を出たということだった。
なんだか、話が逸れそうだ。
話が逸れて長引けば、それだけ、フルヌビに行くのが遅くなる。
「それで、金冠の話を聞きたいんですよね?」
「ああ、そうだ」
「さっさと話して終わりにしましょう。グレイとタルトを食べにいく予定なので」
私は話を先に進めた。
「つまり、金冠はいなかった、と」
私の報告を聞くと、陛下はむむむと考え込み始める。
「銀冠が金冠の振りをしていました」
「うむ」
短く答える陛下。
「金冠がいないと、何か困ることでもあるんですか?」
その辺の事情が見えず、首を傾げる私。
新リテラ王国側も、わざわざ銀冠を使って誤魔化さなくてもいいだろうに。
陛下は少し考え込んだ後、事情を簡単に説明してくれた。
「金冠は、回復や治療魔法のスペシャリストだ。金冠をめぐって争いが起きるほどの重要魔導具。グラディアでも、動向は把握しておきたい」
「なるほど。でも、銀冠も金冠の行方は分からないみたいでしたよ?」
私の返答に、国王陛下も王太子殿下も揃って難しい顔をした。
「となると、厄介なことになるな」
「厄介なこと?」
「新リテラ王国を守護する金冠がいないと分かれば、周辺国の動きが変わる。だからこそ銀冠も、金冠不在を隠すために行動しているのだろう」
「マギカイあたりが、一騒動、起こすだろうな。あそこは旧リテラの中で一番、魔導具や遺物が少ない地域。新リテラ王国を淡々と狙っているはずだ」
うん、かなり面倒なことになった。
いったい金冠はどこに行ったんだろう。
新リテラ王国内にいないのであれば、二十年前のお披露目で、主を見つけてそのままどこかに行ってしまったのか。
「ところで、セラよ」
「何でしょう、陛下」
突然、陛下から声をかけられた。
「そなた、銀冠からエンデバートの血筋と言われたのだったな?」
私は無言で頷いた。
頷いてから、銀冠との会話を思い出す。
「言われました。祖父母か曾祖父母にエンデバートの者がいたはずだって。
エンデバートって、新リテラ王国の由緒ある将軍家ですよね? そんなこと、あります?」
私は逆に聞いてみた。
血筋の話なんて、孤児の私にされても分かるはずがない。
私の質問に答えたのは王太子殿下だった。
「父親の方の血筋は不明だな。血筋が追えるのは母親の方だが」
「ルベル公爵家ですよね? 会ったことありませんけど」
「可能性があるのは、そなたの曾祖母だ。念のため、ルベル公爵家に確認する」
「そんなに重要なことですか?」
私にエンデバートの血が流れていることは、何かに影響するのだろうか。その辺がよく分からない。
今度は陛下が私の質問に答える。
「少し引っかかるところがあってな。ところで、そなた。ルベル公爵家とは会わないのか? 向こうからは連絡が入っているのだろう?」
答えるついでに逆に質問された。
ルベル公爵家は、後になってから、私の後援に名乗り出た一つ。
現公爵の直系はお母さまのみだったので、お母さま亡き後は、傍系の誰かが公爵の後継者に収まっていた。
お母さまの娘である私も、ルベル公爵の直系になるんだけど。
後継者が決まっている公爵家に引き取られたところで、誰も喜ばないよね。
なので、私は陛下に向かってきっぱりと答えた。
「私はエルシア・ルベラスです。ルベルではありませんから」
だから、ルベル公爵家とは会わないし、会う必要はない。
「そういうことだ、陛下」
グレイも私の意見に同意して、この話はこれでおしまいになった。
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