運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

SA

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4 聖魔術師の幻影編

6-0 終わり

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 新しい配属先に私が慣れてきたころ、当たり前のように、私はお茶会に呼び出されていた。

「ねぇねぇねぇ、エルシア嬢が第五隊から追い出されたって本当?」

 ひくっ

 思わず、口元が歪む。

 カップに隠れてたので、他の人には見えてないだろうけど、まったくなんて話題をぶち込んでくるんだ、この人は。

 私はジト目で目の前の人物を見る。

 食いつくような調子で、私に話しかけてくるのは、この国の王女殿下だった。

 王族がこんな気さくでいいのか、悩むところだけれど、他のところでは案外しっかりやっているそうで、少し安心する。

 しかし。

 今、口にした話題はいだだけない。

 なぜなら、噂が独り歩きした誤情報の塊だったから。

 私はカップをテーブルに置くと、平静さを装って質問を返す。

「王女殿下はどこからそういう話を聞いてくるんですか?」

「あら、みんな言ってるわよ? ねぇ、カイエン卿?」

 ジロッ

 王女殿下が自分の斜め後ろを振り仰ぐ。

 そこに控えているのは、作り物の爽やかさを振りまく一人の近衛騎士。クラウドの二番目の兄、カイエン卿だ。

 クラウドも顔は良いけど、カイエン卿はもっと顔が良い。ムチャクチャ良い。

 爽やかさの中に、危険な香りを漂わせる大人な雰囲気もあり、ときおり見せる憂いを含んだ表情が、ご令嬢の心を鷲掴みにしているそうだ。

 しかし、このカイエン卿。

 見た目が爽やかそうなだけで、実のところ、爽やかさの欠片もない。どちらかというとネチネチしていて、嫌みと腹黒さが同居しているような人物。

 ユリンナ先輩情報によると、普通のご令嬢はこの見た目の爽やかさと顔の良さに、コロッと騙されるんだとか。

 最近のご令嬢は目が悪いのか。
 それとも好きになる男性の趣味が悪いのか。

 ともあれ、王女殿下に誤情報を吹き込んでいる諸悪の根源は、カイエン卿で間違い無さそう。まったく。こいつ、ろくなことをしないよな。

 王女殿下に問われて、さらさらと答えるカイエン卿。

「はい。第三騎士団に仮配属された研修生が第五隊の専属魔術師になって、ルベラス嬢が第五隊の専属を外されたと。弟から聞きました」

 情報源はクラウドか。まったく。家族とはいえど、第三騎士団内の情報は外に漏らしてはいけないのに。

「でも、その研修生、カイエン卿の弟の恋人なんでしょう? 恋人といっしょに仕事がしたくて、第三騎士団の第五隊を希望したって聞いたわ! ね!」

 うん、それ。公私混同だから。ダメなヤツだから。

 と思ったところで、首を傾げる。

 私の視線の先にいるのは、第三騎士団に出向している、ちょっと強面で体格の良い騎士グレイ。
 団長付きとして配属されているのに、今は私の専属護衛のような仕事をさせられていた。

 まさか。

 彼も私といっしょに仕事がしたくて、第三騎士団に出向してきたとかでは…………。

 そこまで、考えて、うん、グレイに限ってそんなことないない、絶対にない、と妄想を振り払った。

 グレイは隊長格の騎士。

 そんな公私混同するようなことを、するはずがなかった。

 バルザード卿から、グレイは私のことが好きだというようなことを言われ、意識し過ぎているのかもしれない。

 頭の中から妄想を追い出した時には、私の周りの出来る侍女さんたちが、噂話に花を咲かせていた。

「その研修生、全属性を扱える魔術師で、実は筆頭殿の娘さんだっていう話です」

「新リテラ王国の使節団にも参加していて、帰国時に筆頭殿が直々に迎えに来ていましたよ」

「カイエン卿の弟殿といっしょに、筆頭殿にご挨拶されてました」

「筆頭殿の娘さんということは、ルベル公爵の孫。つまり、王女殿下の再従姉なのではないですか?」

「そういえば。ユニー兄さまから、再従姉が一人いると聞いたことがあるわ」

 噂話はいつの間にか、尾ひれがつく。

「王位継承権は持っているけど、事情があって、公には出てこない、名前が知られてない御方ですって」

 尾ひれどころか、手足が生えて、勝手に歩き回り出す瞬間を、私はこの目で見てしまった。

 あまりのことに笑いがこみ上げてくる。

「私、噂話は興味ないので、もう、帰っていいですか?」

 私は手をひらひらとさせると、腰を上げようとして、グレイに手を差し伸べた。

 そこに、王女殿下から待ったがかかる。

「待ってよ、エルシア嬢。この話は本当なのかしら? 真偽が知りたいの!」

 これ、教えてあげる必要ある?

 私は座ってグレイの手を握りしめたまま、手早く事実だけを告げた。もちろん第三騎士団外に公開してもいい事実を。

「研修生が早期仮配属で、第三騎士団の第五隊の専属魔術師になったのは本当です」

「それで、エルシア嬢が第五隊から追い出されたの?」

 はぁ?

 王女殿下の続く質問に対して、無性に不愉快さを感じて、グレイの手をギュッと握りしめる。

「違います。最初は私の下について、私が新人教育をするって話だったので」

「あぁ、エルシア嬢じゃ、新人教育が出来なさそうよね!」

 はぁぁぁぁぁ?

 このままでは腹ただしくて、王女殿下を殴り倒しそうだ。

「もっと違います。直前になって、上の方から指示があったそうで、私は団長付き魔術師に異動になったんです」

 私の言葉に王女殿下はハッとなり、突然、叫びだした。

「ヴァンフェルム団長直属なら、昇格じゃないのよ!」

 王女殿下がぶわっと大声を出すと、周りの侍女さんたちがキャーキャー騒いで一斉に拍手をする。

 侍女さんたちの様子からすると、どうやら、祝ってもらえてるみたいだけど。

 私の口から出てきたのは疑問形。

「そうなんですかね?」

「ぜんぜん話が違うわよ! 誰よ、エルシア嬢が追い出されたなんて変な噂を流しているのは!」

 王女殿下の言葉で、侍女さんたちと護衛の騎士たちの注目がカイエン卿に集まる。

「私ではありませんよ」

 うん、そうだね。さきほどのカイエン卿の情報だって、間違いではなかったように思う。

 どちらかというと侍女さんたちの噂話の方がヤバい。
 一つ一つは事実なのに、合わさると立派な偽情報。これにはヤバさしか感じない。

「だって、わたくしに巷の噂や真偽不明の話を聞かせてくれるのって、あのカスと、カイエン卿くらいじゃないの!」

「情報源が偏ってる」

 しかも、情報源が少なすぎ。

「仕方ないのよ。巷の噂なんて怪しい話、真偽が定かではない話は、わたくしの耳に入れないようになってるんだから」

「なら、その状態で生きてください」

 その方が絶対に安全だって。

「えええ、そんなのおもしろくないじゃないの! 人生におもしろみは必要よ!」

「巷の噂話に、おもしろみを見いださないでください」

 騒ぐ王女殿下は、聞き慣れない言葉を口にする。

「嫌よ! 巷ではカイエン卿の弟とその研修生、『宿命の絆』で結ばれた二人!とか言われてるでしょ!」

「え? そんなの知りませんよ」

 噂話好きの王女殿下に付き合いきれず、私は立ち上がった。

 席を立とうとして、さきほどからずっとグレイの手を握りしめたままだったので、ようやく立ち上がれて、手を離せる。

「とにかく。『真実の愛』だとか『運命の恋』だとか『宿命の絆』だとか、私はそんな浮かれた言葉は嫌いだし、興味ないんです。
 定めだろうがなんだろうが、人はコツコツと努力して、一生懸命生きるだけなんですよ」

 言いたいことを一気に言い切れて、スッキリする私。

 一礼して退席しようとしたとたん。


「「キャーーーーーー」」


 侍女さんたちが頬を赤く染めて、甲高い声をあげた。

「なぜそこで悲鳴?」

「エルシア嬢、カッコいいわ!」

 侍女さんたちの悲鳴の後に、王女殿下の訳の分からない賞賛が続く。

「いや、別に。普通のことですよね?」

 慌てて否定する私。
 言いたいことを言っただけなのに。


「「キャーーーーーー」」


「だから、なぜそこで悲鳴?」

 最近の若い女性の感覚がまったく分からない。

 ちなみに手はグレイに握られたまま。

 立ち上がったときに手を離そうとしたのに、逆にグレイの方から握りしめられていた。

 私は手を握りしめるグレイを見て、「どういうこと?」と聞いてみるけど、グレイは、うむっと頷くだけ。

 王女殿下の方は何か話が進んでいる。

「ねぇ、みんな。聞いたわね!」

「「はい!」」

「わたくしたちで、エルシア嬢の人気を盛り立てるわよ!」

「「はい!」」

「え? なんでそうなる?」

 そもそも私に人気なんてないし、いらないし。

 余計なことを言うと、また悲鳴をあげられそうなので、黙っていることにした。

 なんだか、王女殿下も侍女さんたちも楽しそうなので、別に良いかな。

 盛り上がる王女殿下たちに一礼をして、私はその場を後にしたのだった。

 これがどんな結果につながるのか、気にすることもなく。
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