運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

SA

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5 覆面作家と水精編

1-2

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 セラフィアスとパシアヌス様との語り合いは、いつまでも続くかと思われた。

 が、


 ぐぐぐぅ


 ちょうどいいタイミングで、私の体内時計がお昼の時間を主張し始める。みんなの目が私のお腹に注目して、かなり恥ずかしい。

 すると、今までパシアヌス様との語りに熱中していたセラフィアスが慌て始めた。

「主! 昼餉の時間だ! 昼はしっかり食べないと!」

 パシアヌス様にさっさと語りの終わりを告げると、セラフィアスは私を昼食に追い立てる。

「主は朝餉をきちんと食べてないじゃないか! 昼まで食べ損ねたら、いくら僕の主でも身体が保たない!」

 実は、昨夜は寝たのが遅くて、今朝はちょっと寝坊したんだよね。

 派手でデカい物体の話を、グレイにしつこく質問されて、あれこれ思い出しては喋るうちに深夜になってしまって。

 グレイも起こしてくれればいいのに、気持ちよさそうに寝ていたからと、私をそのままにしたらしい。

 大急ぎで身支度を整えて、食堂へ。いつもと順番が前後するが、時間がないので仕方ない。

 食べるのが早いグレイの朝食を一口二口ほど分けてもらって、私の朝食は終了となっていた。

 私の朝食が少なかったことを、セラフィアスは見逃さなかったのだ。

「だいたいだな、そこの極悪魔剣士がいけないんだ。遅くまで主を寝かせないから、主が寝坊するんだ!」

 セラフィアスの怒りの矛先はいつものようにグレイに向く。基本的にこの二人、仲は悪い。

 はぁ。

 またいつものケンカに発展する前に、私が割って入ろうとしたところ、別の人物が割って入った。

「つまり、グレイアドがルベラス君を遅くまで寝かせなかったと」

 ヴァンフェルム団長だ。なんか、ニヤニヤしている?

「若いヤツは体力があるからな。でも、恋人同士の時間はほどほどにしておけよ」

 え?

 私はキョロキョロと交互に正副団長の顔を見た。団長だけでなく、副団長までニヤニヤしている。あ、ゴホンなんて咳払いしてニヤニヤを誤魔化したよ、今。

「グレイは私の恋人ではありませんから」

 憮然として言い返すと、セラフィアスもうんうん大きく頷いた。

「だって、後援てことは婚約はしてるんだろう? そう聞いてるけどなぁ」

「私とグレイは志を同じくする同志、つまりパートナーです」

「だから、婚約者で恋人なんだろ?」

 二人とも不思議そうな顔をしている。
 ヴァンフェルム団長もユースカペル副団長も、まるで分かっていなさそうだ。

 私もゴホンと咳払いをすると、深く息を吸い、そして言葉を一気に吐き出す。

「そんな浮ついた言葉でひとまとめにしないでいただけますか? 私、『真実の愛』とか『運命の恋』とか大嫌いなんです。浮ついた『恋人』なんて言葉ももっての他です」

 真実でもそうでなくても、運命でもそうでなくても、愛だ恋だと騒ぎ立てる輩はこの世の中、掃いて捨てるほどいる。

 そもそも、真実の愛や運命の恋の現実は浮気と横恋慕の世界であるわけで、不道徳で非倫理的な考えや行いを正当化しているに過ぎない。

 私とグレイの関係は、そんなに生易しいものではないと思っている。

 互いに自己研鑽に励み、互い力を高めあってきた。
 グレイは自分の力を最大限に生かせる辺境の地の守護を目指して、私は黒髪でも立派な魔術師となって地位を得てお母さまとの再会を目指して。

 私のお母さまが亡くなって私の目標がなくなってしまったとき、抜け殻のようになった私に、新しい目標を、新しい生きがいを示してくれたのもグレイだった。

 思えば、クズ父に捨てられて、魔塔に来たばかりのときに起こした魔力暴走。あれを鎮められたのも、グレイが手助けしてくれたからだった。
 運が悪ければ、七歳の私は自分の魔力暴走に飲み込まれて、死んでいたかもしれない。

「いいのかい、グレイアド。ルベラス君、あんなこと言ってるけど?」

「そうだな。シアの言い分は間違ってはいない」

 団長の質問にグレイは涼しげな顔で答える。

「俺とシアは、恋人や夫婦よりも深くて重い関係だからな」

「そうそう。深くて、んんん、重い?」

 深いはなんとなく想像がつくけれど、重い関係ってどういう関係?

 私の頭の中が疑問で埋まる。

「くそっ。そう来たか、極悪魔剣士」

「あーあ。主はあの極悪魔剣士に甘いからな」

 考えに集中しているせいで、私の二番目の杖クラヴィスまで顕現してるのに気がつくのが遅れた。

 杖たちの会話に混ざろうか、グレイに疑問の答えを確認しようか迷っている隙に、グレイの方から話しかけられる。

「同志でパートナーだろう?」

 と。

 私もとっさに、

「うん、まぁね」

 と答えると、グレイは機嫌良さげな顔で、うむと頷いた。

「つまり、俺とシアは何よりも深くて重い密接な間柄ということだ」

「うん、なるほど」

 深いと重いに密接という言葉がついた。

 夫婦以上に密接な間柄といったら、セラフィアスがよく言ってるあれだ。主と杖は一心同体、というヤツ。

 つまり、グレイはそう言いたいんだ。

「私とグレイは一心同体ってことか」

 うむと満足げに頷くグレイの後ろで、杖たちが呆れた声をあげた。

「主、なんか勘違いしてるな」

「相手が極悪魔剣士だから、仕方ないさ」

「まぁまぁまぁ。ともあれ、グレイアドとルベラス君が健全な関係だということは分かったよ」

 よく分からないけど、私とグレイの関係はしっかりと団長に伝わったようだった。




 話題が一段落したところで、

「腹が減ってるなら、昼休憩にしたらどうだ?」

 と、ユースカペル副団長。

「なら先に行かせてもらうよ」

 と、ヴァンフェルム団長が動き出す。

 そこへ、団長を引き止めるようにつぶやくパシアヌス様。

「そういえば、闘技会の準備はどうしますか?」

「そろそろ、そんな時期かぁ」

「闘技会ですか?」

 闘技会は、魔術大会、剣術大会と並ぶグラディアの三大大会だ。

 ただし。

 闘技会は団体戦だけ。しかも観戦は内輪のみ。
 他の二つと比べて、かなり閉鎖的な大会だった。この大会も私は観戦したことがない。

 団長は立ち上がったまま、顔だけグレイに向ける。

「グレイアドはどうするんだ? こっち側で出場するかい? 君、向こうから出場したことないよね?」

「今回は向こうから出場する」

 団長に返事をしながら、「ほら」と言って私を立ち上がらせるグレイ。彼なりに私のお腹の減り具合を心配しているようだ。

 団長の方はグレイに話しかけるのを止めないので、グレイも適当に団長の相手をしている。

「珍しいな。剣術大会に出場してきたのもそうだけれど。何か、出場したくなるようなことでもあったのかい?」

「いいや、いつも通りだが」

 グレイに話しかけつつ、パシアヌス様にも「留守番よろしく」と声をかける団長。団長にあっさり返事をするグレイ。

 二人の様子に目をやりながら、私もお昼に行く準備。とはいえ、グレイに右手をがっしり掴まれている状況なので、グレイについていくだけだけど。

「どう考えてもお嬢絡みだと思いますが」

「あぁ」

「そっちか」

「若いって良いですね」

 居残り組の三人と残りの事務方が何やらうんうん頷いている。

 団長室が空になっては支障が出るため、昼休憩は半数ずつ出かけるルールになっていて、今、頷いている人たちは居残り組だ。

 バルザート卿も、第三騎士団ではグレイといっしょに行動することは少なく、どことなく生き生きしているように見えた。

「バルザード卿、何の話?」

「お嬢は知らなくていい話です」

「ふーん」

「それでは、居残り組で闘技会の準備を話し合っておきますね」

 パシアヌス様の見送りを受け、私たちは食堂へと向かう。

 出入り口のドアに近付いたとき、団長とグレイが揃ってピタリと足を止めた。

 次の瞬間、


 バーーーーン


 目の前で、団長室のドアが勢いよく開く。大慌てで団長室に駆け込んできた人物はよく知る人だった。
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