運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

SA

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5 覆面作家と水精編

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 私はくるっと顔をグレイに向けた。

「グレイ、バルザード卿に王都や王城のルールを教えてなかったの?!」

「………………そこまで間に合わなかった」

 さっと視線をそらし、明後日の方を見るグレイ。

 間に合わない?

 私の心の中に疑問が浮かび上がる。

 最初にグレイとバルザード卿が二人で王都に来たのは、私の国外公務に合わせてだった。

 元々、グレイは学院に通っていたし王宮騎士団にも勤めていたので、一通り、王都や王城のことは熟知している。

 バルザード卿の方はどうかというと、私が知る限りでは、バルザード卿は北部の辺境で生まれ育った。

 地方には地方の教育システムがある。バルザード卿が生まれ育った北部辺境伯領では、基礎的な教育を受けた後は、王都の学院か王都に近い都市の高等教育機関に入るか、辺境伯領で騎士としての訓練と教育を受けるか。

 なので、王都騎士団に興味のかけらもなかったバルザード卿は、辺境伯領で騎士になっていた。

 つまり、グレイとバルザード卿では叩き込まれている知識の量が違っていて当然。
 私の国外公務に同行するに当たって、バルザード卿はかなりの詰め込み教育を受けたそうだ。

 そして、その国外公務の直後に、第三騎士団への出向。

 だから、グレイの言う『間に合わなかった』は、国外公務の前の詰め込み教育で手がいっぱいで、王都の教育までは手が回らなかったという意味だと思う。

 それは別にいい。

 国外公務に関わる教育を優先すべきだったのだから。

 問題はその後だ。

 国外公務が終わり王都に来てから時間はたくさんあった。

 なのに、バルザード卿が王城のルールに疎いというのは、その後の教育が出来ていないということ。

 私は眉をひそめた。

「だって、グレイ。こっちに来てから私とずっといっしょだったよね? デートしたり、買い物したり、ご飯食べに行ったり。それなら、バルザード卿に教える時間、少しくらい取れたよね?」

 王都には王都、そして王城には王城のルールがある。

 王都で暮らし王城で働く以上、ルールを知らないととんでもないことになりかねない。

 だから、つい、強い口調でグレイを責めてしまった。

「お嬢。俺は大丈夫なんで!」

「大丈夫じゃないでしょ!」

 強い口調のままの私に対して、バルザード卿は申しわけなさそうな口調で、あり得ない弁明を始める。

 ルールを知らなくて大丈夫なはずはないのだ。下手をしたらルール違反。バルザード卿の経歴に傷がついてしまう。

 だというのに、バルザード卿はどこまでもグレイの部下だった。

「大丈夫じゃないのは隊長の方です。隊長はお嬢にくっついてないと(隊長の周囲が八つ当たりで)死ぬ病気なんですから!
 俺は、これからルールを覚えればいいだけなんで、大丈夫なんですよ」

 何それ?

 聞き慣れない病気に、私の動きも怒りも止まる。

「私にくっついてないと死ぬ病気なんて、世の中にあるの?」

「ありますよ。隊長(の周囲)が(八つ当たりされて)大変なことになるんです」

「ある。シアが不足すると俺(の周囲)が危ないんだ」

 バルザード卿とグレイが続けて解説してくれるが、どうも怪しい。

「本当に?」

 そう言って、団長と副団長を見る。
 私の視線を受けてたじろぐ二人。

「聞いた話によると、そういう病気があるみたいだなぁ」

「天下のグレイアドも、大変な病に侵されてるな」

 なんだか、視線をそらしながら話を合わせているような気がする。

「病名は?」

 ユースカペル副団長が一瞬つまった。

「そんな珍しい病に名前などついているわけがあるか。考えて物を言え」

 そう言われてみればそうかもしれない。
 後でケルビウスに聞いておこう。珍しい病気でも、ケルビウスなら何か知っているかもしれない。

 私は頭の中に、三聖の一つで知識の探求に長けた杖のことを思い浮かべた。

 病名が分かれば、完治の方法だって分かるはずだし。

 考え事をする私の耳に、今度はヴァンフェルム団長の声が聞こえてくる。

「ルベラス君、大事なのは病名を知ることではなく、グレイアドの健康だろう?」

 その言葉を聞き、私はハッとした。

「そうですね。ケルビウスに聞けば病気が分かるし、完治の方法も分かるんじゃないかと考えていました。でも」

 私はグレイの方に身体を向けると、グレイの胸にぽすんと飛び込み、腕をグレイの背中に回す。
 ギュッとしがみつけば、くっつく以上に私の何かをグレイに注ぎ足せそうな気がした。

「私がくっつけば良いだけでしたね。お母さまみたいに、グレイに死んでほしくないので」

 お母さまも、私が足りなかったんだろうか。私が足りないせいで死んでしまったとしたら、悪いのは、お母さまから私を遠ざけたクズ男だ。

 なんだが、悲しくなって、さらにギュウギュウとグレイに抱きつく。

「ここで抱きつくな。せめて手を握るだけにしろ」

 呆れたユースカペル副団長に、冷たい声で注意されるまで、私のギュウギュウは続けられた。




 仕切り直して、王城のルールについて。

 実はバルザード卿が知らなかったルールは、王城に勤める騎士としてはかなり致命的なものだった。

 グレイがわざと教えなかったのではないとしても、バルザード卿の失態が、グレイや、ひいては北部辺境伯の失態にも繋がりかねない。

 重要なルールなので、改めて、ヴァンフェルム団長が話をしてくれることとなる。

「北部はそもそも城内に入るのに許可がいるんだったか」

 ヴァンフェルム団長は、まずは、バルザード卿に知っている入城ルールを説明させた。

 私もグレイも両方知っているから混乱はないけど。団長は王城だけ、バルザード卿は辺境伯領だけのルールしか知らない。

 団長はバルザード卿の知る内容を確認してから、王城のルールを教えるつもりのようだ。比較して違いを覚えた方が、覚えが早いんだとか。

 バルザード卿の話を聞いてから、パシアヌス様が、王城のルールの背景を説明し始めた。

「ここは城内だけで街一つ分以上の広さがあるんです。来城者も多い。その一人一人を、入り口で細かく確認することは不可能に近いんです」 

「げげっ」

 バルザード卿が呻き声をあげる。

 辺境伯領の場合、規模が小さいので大きな街の中に城がある。

 王都は大きな街が五つくらい合わさった規模の都市なので、王城が街と同じくらいの広さ。辺境伯領の城とは比べものにならない。

 辺境伯領と同じルールの運用は難しいことだと、バルザード卿にもすぐに分かったようだ。

「だから王城の入り口から先の各部署の部分、例えば王宮だとか、行政部だとか、騎士団だとか、各先々で厳しく確認を受けるんだなぁ」

「規模が違うと、やり方も変わってくるんですね」

 すんなりと違いを受け入れるバルザード卿。

「だから、こうやって出向してもらって、いろいろなやり方があるのを、実際に経験して学んでもらうんだよ。参考になる部分もあるはずだからなぁ」

 確かにそうだ。百聞は一見にしかず。

 全部が全部、参考にはならないけど、知識があれば考え方の幅も広がる。ヴァンフェルム団長はそういうことを言いたいようだった。

 バルザード卿もあっさりと受け入れた、と思いきや、

「いや、勉強になります。でも、今回の場合、申請がないのにうろつけた、つまり、厳しく確認てのが出来ていないってことになるんじゃないですか?」

「まぁ、そういうことになるなぁ」

 痛いところをついてきた。
 ヴァンフェルム団長の顔が曇る。

「しかも魔法を使って隠密行動をしていたとなると、大問題なような気がします。
 お嬢、こんな不用心なところにいて、大丈夫なんですか?」

「隠密系の魔法については、建物内に入るときに解除されるよう、防御魔法陣が組まれている」

「それでもお嬢が心配ですよね、隊長」

 うん、私。バルザード卿に心配されるほど弱くはないのにな。

 そうは思ったけど、意外と真剣に心配する様を見て、私は何も言い返すことが出来なかった。
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