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5 覆面作家と水精編
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お昼が終わった後は午後の業務だ。
パシアヌス様の補佐をしながら、書類を片付け、適当に休憩を挟んでいると、あっという間に午後の業務も終わる。
今日もそんな予定のはずだったのに。
私は今、尋問されていた。
調査部の中でも頑丈に出来ている取調塔。その塔にある部屋の一つ、殺風景な石の壁で出来た部屋に連れてこられて、さきほどから同じ質問をされている。
部屋の中央にテーブルとイス。片隅にもテーブルとイス。私は中央のイスに座っていた。
目の前に座る女性は調査官だ。分厚い眼鏡に、モシャモシャな茶色い髪を帽子に突っ込んで、それでもモシャモシャっとはみ出している。
茶色いモシャモシャと目の色もはっきり分からない分厚い眼鏡に、私の視線は向いた。
「そーれーでー。あなた、本当に意地悪してないわけ?」
「してません」
何回、同じ質問をするつもりなんだか、分からないけど。返事をするのも飽き飽きしてくる。
「でーもー、第五隊の副隊長から訴えが出てるのよー」
「リーブル嬢は訴えていませんよね?」
「まー、若い女の子にそんなこと出来るわけないでしょー」
「私も若い女の子なんですけど、差別するんですか?」
「へーぇ、そのわりにはあなた、人気ないわねー」
カチン
悪かったね、人気なくて。
私に人気がないのは、この黒髪と金眼の組み合わせのせいだし、絶対。
というのも、以前に聞いたことがあるから。セラフィアスと同じ組み合わせである黒髪金眼を、普通の人は異質な物として認識するという話を。
畏怖を感じるものは、普通の人たちから避けられるし、人気も出ない。もちろん恋愛対象になるはずがない。しごく、当然の話だった。
逆に言えば、普通じゃない人たちからは避けられないし、人気があってもおかしくないし、恋愛対象にもなるということ。
問題なのは普通じゃない人たちが、フェルム一族のフェリクス副隊長だったり、三聖の主の一人のアエレウス大公子だったりすること。
そしてここに、グレイまで加わっていることをつい最近知った。
ある意味、くせ者揃い。
釈然としない気持ちが顔に出たのか、
「あらー、おもしろい顔してるわねー」
と面と向かってバカにされる。
このムカつく受け答えで他人の神経を逆撫でしてくるのは、調査部のグリンカ・ティグリルス主任。独身三十五歳。
分厚い眼鏡はおそらく視線や表情を隠すための物だろう。髪のモシャモシャももしかしたら、わざとかもしれない。
もちろん、主任と二人きりではなく、補佐する調査官と記録を担当する記録官の二人もいた。
この二人は発言することなく、静かに部屋の片隅に控えている。片隅のテーブルとイスはこの二人の物だった。
殺風景な部屋に四人。息が詰まる。
「リーブル嬢の件は、第五隊の副隊長だけでなく、他に何人かからも、訴えが出てるのよー」
第五隊の副隊長といえば、クラウドだ。
クラウドまで、私が誰かをいじめていると疑っていることを知り、胸が詰まるのを感じていた。
他の人ならともかく。クラウドや第五隊の騎士は私のことを信じてくれると思っていたんだけどな。
信じていただけに、勝手に裏切られた気持ちになってしまった。私は自分の考えの甘さを悔やむ。
まぁ、悔やんでいても仕方がない。
言い返してやれ。そして言質は取られないよう、かわしてやれ。
「リーブル嬢から聞いたという真偽不明の話を、確認もしないでそのまま訴えてるんですよね?」
「そーそー、あなたに嫌われていて、あなたに無視されてる」
これは完全に事実無根だ。
普段、勤務中に私がリーブル嬢に会うのは団長室の中でだけ。
リーブル嬢は報告書を持ってくるだけだし、私はパシアヌス様の補佐。まったく無関係だ。会話をすることはない。
「リーブル嬢には業務中にしか会うことがありませんし、お互い補佐業務なので、そもそも会話することがありませんけど?」
「そーれーとー、団長室に行ったときも、挨拶してもらえない」
調査部のティグリルス主任は、私の今の発言には答えることはなく、別なことを持ち出してくる。
「挨拶ですか? 私もリーブル嬢からされたことありませんね」
「そこはー、先輩として何か声かけとかするべきじゃないのかーしーら?」
私が先輩なら他の人たちは大先輩だ。
そう言い返してやりたかったけど、ここはぐっと我慢した。
「そもそも、私。書記官とか事務方のみなさんといっしょのテーブルで仕事してまして。
リーブル嬢は団長室に入って、事務方に挨拶もしないで通り過ぎ、真っ直ぐヴァンフェルム団長のところへ行くんです。
これで何か関わりがある方がおかしくないですか?」
努めて事実だけを喋る。
事務方の人たちも聞き取りがあるだろうから、私と事務方の発言に食い違いがないかを確認するはずだ。
「そーこーでー、リーブル嬢の悪口でも言ってるんじゃないのー?」
「言ってませんけど。それとも、聞いた人がいるんですか? 具体的になんて言ってたと聞いたんですか?」
「それはあなたが、一番、分かってるこーとーでーしょー?」
ティグリルス主任は、私の質問に直接答えない。
事実でないことをここで発言すれば、今度は自分が尋問対象になるから。
私は下からのぞき込むように、ティグリルス主任の顔を見る。
「ええ。リーブル嬢の悪口なんて言ってないので、聞いた人もいませんよね」
「へーぇ、でーもー、意地悪はしてるんじゃないのー?」
今度も、ティグリルス主任は、私の質問に直接答えなかった。代わりにわざと挑発するような態度と質問で、こちらの様子を探っている。
最初はムッとしていた私も、少しずつ落ち着いてきた。
「する理由がありません」
あげ足を取られないよう、簡潔に事実だけを口にすると、ティグリルス主任はさらに煽りだす。
「あーらー、あなた、理由ならあるでしょーに」
「ありませんけど」
「とーぼーけーないのー。あなた、妬ましかったんでしょ?」
確かに。
リーブル嬢が羨ましくて妬ましく思った部分もあった。
でも。
こうやって挑発してくる人と話をしたことで、自分の見直しと心の整理が少し進んだような気がする。
向こうはどこかのお話の主人公で、私は現実世界の住人。最初から住む世界が違ったんだ。
パシアヌス様の補佐をしながら、書類を片付け、適当に休憩を挟んでいると、あっという間に午後の業務も終わる。
今日もそんな予定のはずだったのに。
私は今、尋問されていた。
調査部の中でも頑丈に出来ている取調塔。その塔にある部屋の一つ、殺風景な石の壁で出来た部屋に連れてこられて、さきほどから同じ質問をされている。
部屋の中央にテーブルとイス。片隅にもテーブルとイス。私は中央のイスに座っていた。
目の前に座る女性は調査官だ。分厚い眼鏡に、モシャモシャな茶色い髪を帽子に突っ込んで、それでもモシャモシャっとはみ出している。
茶色いモシャモシャと目の色もはっきり分からない分厚い眼鏡に、私の視線は向いた。
「そーれーでー。あなた、本当に意地悪してないわけ?」
「してません」
何回、同じ質問をするつもりなんだか、分からないけど。返事をするのも飽き飽きしてくる。
「でーもー、第五隊の副隊長から訴えが出てるのよー」
「リーブル嬢は訴えていませんよね?」
「まー、若い女の子にそんなこと出来るわけないでしょー」
「私も若い女の子なんですけど、差別するんですか?」
「へーぇ、そのわりにはあなた、人気ないわねー」
カチン
悪かったね、人気なくて。
私に人気がないのは、この黒髪と金眼の組み合わせのせいだし、絶対。
というのも、以前に聞いたことがあるから。セラフィアスと同じ組み合わせである黒髪金眼を、普通の人は異質な物として認識するという話を。
畏怖を感じるものは、普通の人たちから避けられるし、人気も出ない。もちろん恋愛対象になるはずがない。しごく、当然の話だった。
逆に言えば、普通じゃない人たちからは避けられないし、人気があってもおかしくないし、恋愛対象にもなるということ。
問題なのは普通じゃない人たちが、フェルム一族のフェリクス副隊長だったり、三聖の主の一人のアエレウス大公子だったりすること。
そしてここに、グレイまで加わっていることをつい最近知った。
ある意味、くせ者揃い。
釈然としない気持ちが顔に出たのか、
「あらー、おもしろい顔してるわねー」
と面と向かってバカにされる。
このムカつく受け答えで他人の神経を逆撫でしてくるのは、調査部のグリンカ・ティグリルス主任。独身三十五歳。
分厚い眼鏡はおそらく視線や表情を隠すための物だろう。髪のモシャモシャももしかしたら、わざとかもしれない。
もちろん、主任と二人きりではなく、補佐する調査官と記録を担当する記録官の二人もいた。
この二人は発言することなく、静かに部屋の片隅に控えている。片隅のテーブルとイスはこの二人の物だった。
殺風景な部屋に四人。息が詰まる。
「リーブル嬢の件は、第五隊の副隊長だけでなく、他に何人かからも、訴えが出てるのよー」
第五隊の副隊長といえば、クラウドだ。
クラウドまで、私が誰かをいじめていると疑っていることを知り、胸が詰まるのを感じていた。
他の人ならともかく。クラウドや第五隊の騎士は私のことを信じてくれると思っていたんだけどな。
信じていただけに、勝手に裏切られた気持ちになってしまった。私は自分の考えの甘さを悔やむ。
まぁ、悔やんでいても仕方がない。
言い返してやれ。そして言質は取られないよう、かわしてやれ。
「リーブル嬢から聞いたという真偽不明の話を、確認もしないでそのまま訴えてるんですよね?」
「そーそー、あなたに嫌われていて、あなたに無視されてる」
これは完全に事実無根だ。
普段、勤務中に私がリーブル嬢に会うのは団長室の中でだけ。
リーブル嬢は報告書を持ってくるだけだし、私はパシアヌス様の補佐。まったく無関係だ。会話をすることはない。
「リーブル嬢には業務中にしか会うことがありませんし、お互い補佐業務なので、そもそも会話することがありませんけど?」
「そーれーとー、団長室に行ったときも、挨拶してもらえない」
調査部のティグリルス主任は、私の今の発言には答えることはなく、別なことを持ち出してくる。
「挨拶ですか? 私もリーブル嬢からされたことありませんね」
「そこはー、先輩として何か声かけとかするべきじゃないのかーしーら?」
私が先輩なら他の人たちは大先輩だ。
そう言い返してやりたかったけど、ここはぐっと我慢した。
「そもそも、私。書記官とか事務方のみなさんといっしょのテーブルで仕事してまして。
リーブル嬢は団長室に入って、事務方に挨拶もしないで通り過ぎ、真っ直ぐヴァンフェルム団長のところへ行くんです。
これで何か関わりがある方がおかしくないですか?」
努めて事実だけを喋る。
事務方の人たちも聞き取りがあるだろうから、私と事務方の発言に食い違いがないかを確認するはずだ。
「そーこーでー、リーブル嬢の悪口でも言ってるんじゃないのー?」
「言ってませんけど。それとも、聞いた人がいるんですか? 具体的になんて言ってたと聞いたんですか?」
「それはあなたが、一番、分かってるこーとーでーしょー?」
ティグリルス主任は、私の質問に直接答えない。
事実でないことをここで発言すれば、今度は自分が尋問対象になるから。
私は下からのぞき込むように、ティグリルス主任の顔を見る。
「ええ。リーブル嬢の悪口なんて言ってないので、聞いた人もいませんよね」
「へーぇ、でーもー、意地悪はしてるんじゃないのー?」
今度も、ティグリルス主任は、私の質問に直接答えなかった。代わりにわざと挑発するような態度と質問で、こちらの様子を探っている。
最初はムッとしていた私も、少しずつ落ち着いてきた。
「する理由がありません」
あげ足を取られないよう、簡潔に事実だけを口にすると、ティグリルス主任はさらに煽りだす。
「あーらー、あなた、理由ならあるでしょーに」
「ありませんけど」
「とーぼーけーないのー。あなた、妬ましかったんでしょ?」
確かに。
リーブル嬢が羨ましくて妬ましく思った部分もあった。
でも。
こうやって挑発してくる人と話をしたことで、自分の見直しと心の整理が少し進んだような気がする。
向こうはどこかのお話の主人公で、私は現実世界の住人。最初から住む世界が違ったんだ。
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