運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

SA

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5 覆面作家と水精編

3-12

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「待って待って待って! あなた、あなたよ、そこのイケメンお兄さん!」

 いやいやいや、イケメン男主人公の兄!
 足、速くない? 速いわよ!

 けして、あたしの足が短いせいではないわ。イケメン兄の足が長すぎるのがいけないのよ!

 何この速さ! ぜんぜん追いつけない!

 そして、このイケメン兄。

 意外とヤバい人物だったわ。

 なぜかというと、

「あぁ、私のことですね。それで私にどんなご用件で?」

 イケメンお兄さんと声をかけられて、普通に自分のことだと受け入れちゃってるから。

 普通の人は自分だと分かっていても、もう少し遠慮があるものなのに。この人物は遠慮の欠片もない。

 あたしも遠慮なく質問を返す。

「あら~ 自分で自分のイケメンを認めちゃうタイプなのね、あなた」

 しかし、このあたしの質問が気に入らなかったようで、イケメン兄は爽やかな笑顔のまま私に言葉で切りつけてきた。

「とくに話がないのなら、行きますが」

 マズいマズいマズいマズいマズい。

 ここで逃がしたら、次はいつどこで出会えるかが分からない。

 あたしはさっと表情を取り繕い、営業スマイルをイケメン兄に向けた。

「実は~、あなたとあなたの弟さんがステキな女性を取り合ってると、聞いたのよ。それでお話、聞きたいなぁと思って」

 嘘ではない。これは事実なはずだわ。
 なのにイケメン兄はさっと表情を消す。

「女性ですか? イケメンなもので心当たりが多すぎて」

 これも嘘ではなさそうだけど。
 イケメン兄の表情からは、爽やかさが完全に消え失せる。

 だから、あたしは最後の切り札とばかりに例の女性の名前を口にした。

「エルシアという名前の子よ?」

 一瞬、黒い表情が顔を出したかと思ったら、すぐさま、爽やかそうな表情に戻る。

 少し黙り込んで、考え込んだ後。

 あたしに話をした方が良いと判断したのだろう。イケメン兄は身体をまっすぐあたしに向け、おもむろに口を開いた。




「あぁ、ルベラス嬢ですか。

 弟と取り合ってるだなんて、そんな事実ありませんよ。弟のクラウドは筆頭殿の養女のミライラ嬢と恋仲ですから。

 ご存知ありませんでしたか?

 いや、まさか。まさかでしょう、ねぇ。

 私の方はルベラス嬢一筋ですよ。心がフラフラしているあの弟と、いっしょにしないでもらいたいですね。

 私がルベラス嬢を初めて目にしたのは、彼女を王女殿下のお茶会にエスコートする際でした。

 連れてこいと言われて、同伴するだけのつもりが、ルベラス嬢の黒髪を見て、一瞬で心が奪われましてね。
 これが世に言う『一目惚れ』なんだと、初めて思いましたね。

 彼女の笑顔のためなら、なんでもやってあげたいと感じましたし、私の手で幸せにしてあげたいと心から思っています。

 何度となく、彼女にアプローチはしているんですよ。ですが、タイミングがなかなか合わないようで。

 彼女には後援家門がいるので、それも気にしているのかもしれません。その辺は、フェルムが後援になるので、問題はないでしょう。

 彼女の肩書きを政治利用?
 彼女に対して愛情はない?

 あぁ、なんだ。

 クラウドから聞いてるのか。あいつも口の軽いヤツだな。

 確かに、俺がルベラス嬢担当で、クラウドはリーブル嬢担当。

 どちらも力のある魔術師だから、婚姻で繋がって押さえておくのは当然な話。
 担当が分かれてるんだから、取り合うも何もない。

 味気ないだと?

 恋愛小説でもあるまいし。貴族の婚姻は政略結婚が主流なんだから、そんなものだよ。お前も現実を見た方がいい。

 とはいえ、ルベラス嬢をまったくなんとも思ってないわけではないな。
 どちらかと言えば、好ましくは思っている。

 俺だって、契約結婚で仮面夫婦なんてものにはしたくはないからな。

 こんなところでいいだろ。俺は忙しいんだ。

 最後に一つだと?

 あぁ、ルベラス嬢との仲か。話したとおりだよ。残念ながら未だに進展なしだ。

 既成事実でも作ってやろうかと思ってるのに。彼女、やけに慎重で隙がない。

 こっちとしては、ガードが堅いほど落としがいはあるがな」




 誰よ!

 爽やかな騎士だなんて、真っ赤な嘘じゃないの!

 あら?

 あたしが勝手に思ってただけだったかしら?

 とにかく、あのお腹の中真っ黒なイケメン兄はダメだわ。いや、逆にいいかしら?

 純朴なイケメン男主人公、腹黒な男主人公の兄。

 お話には対比がある方が分かりやすいのよね。

 でもでも、女主人公候補の話では、確かイケメン男主人公の従兄とやらも、同じ女性を恋い慕っていたわよね。

 お話的には誰がいいかしら。

 さっそく、イケメン男主人公の従兄も取材よ!

 あたしはそのまま第三騎士団の中を動き回る。
 今日はあのうるさい小娘もいないようで、あたしの取材は順調に進むかに思えた。
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