286 / 573
5 覆面作家と水精編
3-12
しおりを挟む
「待って待って待って! あなた、あなたよ、そこのイケメンお兄さん!」
いやいやいや、イケメン男主人公の兄!
足、速くない? 速いわよ!
けして、あたしの足が短いせいではないわ。イケメン兄の足が長すぎるのがいけないのよ!
何この速さ! ぜんぜん追いつけない!
そして、このイケメン兄。
意外とヤバい人物だったわ。
なぜかというと、
「あぁ、私のことですね。それで私にどんなご用件で?」
イケメンお兄さんと声をかけられて、普通に自分のことだと受け入れちゃってるから。
普通の人は自分だと分かっていても、もう少し遠慮があるものなのに。この人物は遠慮の欠片もない。
あたしも遠慮なく質問を返す。
「あら~ 自分で自分のイケメンを認めちゃうタイプなのね、あなた」
しかし、このあたしの質問が気に入らなかったようで、イケメン兄は爽やかな笑顔のまま私に言葉で切りつけてきた。
「とくに話がないのなら、行きますが」
マズいマズいマズいマズいマズい。
ここで逃がしたら、次はいつどこで出会えるかが分からない。
あたしはさっと表情を取り繕い、営業スマイルをイケメン兄に向けた。
「実は~、あなたとあなたの弟さんがステキな女性を取り合ってると、聞いたのよ。それでお話、聞きたいなぁと思って」
嘘ではない。これは事実なはずだわ。
なのにイケメン兄はさっと表情を消す。
「女性ですか? イケメンなもので心当たりが多すぎて」
これも嘘ではなさそうだけど。
イケメン兄の表情からは、爽やかさが完全に消え失せる。
だから、あたしは最後の切り札とばかりに例の女性の名前を口にした。
「エルシアという名前の子よ?」
一瞬、黒い表情が顔を出したかと思ったら、すぐさま、爽やかそうな表情に戻る。
少し黙り込んで、考え込んだ後。
あたしに話をした方が良いと判断したのだろう。イケメン兄は身体をまっすぐあたしに向け、おもむろに口を開いた。
「あぁ、ルベラス嬢ですか。
弟と取り合ってるだなんて、そんな事実ありませんよ。弟のクラウドは筆頭殿の養女のミライラ嬢と恋仲ですから。
ご存知ありませんでしたか?
いや、まさか。まさかでしょう、ねぇ。
私の方はルベラス嬢一筋ですよ。心がフラフラしているあの弟と、いっしょにしないでもらいたいですね。
私がルベラス嬢を初めて目にしたのは、彼女を王女殿下のお茶会にエスコートする際でした。
連れてこいと言われて、同伴するだけのつもりが、ルベラス嬢の黒髪を見て、一瞬で心が奪われましてね。
これが世に言う『一目惚れ』なんだと、初めて思いましたね。
彼女の笑顔のためなら、なんでもやってあげたいと感じましたし、私の手で幸せにしてあげたいと心から思っています。
何度となく、彼女にアプローチはしているんですよ。ですが、タイミングがなかなか合わないようで。
彼女には後援家門がいるので、それも気にしているのかもしれません。その辺は、フェルムが後援になるので、問題はないでしょう。
彼女の肩書きを政治利用?
彼女に対して愛情はない?
あぁ、なんだ。
クラウドから聞いてるのか。あいつも口の軽いヤツだな。
確かに、俺がルベラス嬢担当で、クラウドはリーブル嬢担当。
どちらも力のある魔術師だから、婚姻で繋がって押さえておくのは当然な話。
担当が分かれてるんだから、取り合うも何もない。
味気ないだと?
恋愛小説でもあるまいし。貴族の婚姻は政略結婚が主流なんだから、そんなものだよ。お前も現実を見た方がいい。
とはいえ、ルベラス嬢をまったくなんとも思ってないわけではないな。
どちらかと言えば、好ましくは思っている。
俺だって、契約結婚で仮面夫婦なんてものにはしたくはないからな。
こんなところでいいだろ。俺は忙しいんだ。
最後に一つだと?
あぁ、ルベラス嬢との仲か。話したとおりだよ。残念ながら未だに進展なしだ。
既成事実でも作ってやろうかと思ってるのに。彼女、やけに慎重で隙がない。
こっちとしては、ガードが堅いほど落としがいはあるがな」
誰よ!
爽やかな騎士だなんて、真っ赤な嘘じゃないの!
あら?
あたしが勝手に思ってただけだったかしら?
とにかく、あのお腹の中真っ黒なイケメン兄はダメだわ。いや、逆にいいかしら?
純朴なイケメン男主人公、腹黒な男主人公の兄。
お話には対比がある方が分かりやすいのよね。
でもでも、女主人公候補の話では、確かイケメン男主人公の従兄とやらも、同じ女性を恋い慕っていたわよね。
お話的には誰がいいかしら。
さっそく、イケメン男主人公の従兄も取材よ!
あたしはそのまま第三騎士団の中を動き回る。
今日はあのうるさい小娘もいないようで、あたしの取材は順調に進むかに思えた。
いやいやいや、イケメン男主人公の兄!
足、速くない? 速いわよ!
けして、あたしの足が短いせいではないわ。イケメン兄の足が長すぎるのがいけないのよ!
何この速さ! ぜんぜん追いつけない!
そして、このイケメン兄。
意外とヤバい人物だったわ。
なぜかというと、
「あぁ、私のことですね。それで私にどんなご用件で?」
イケメンお兄さんと声をかけられて、普通に自分のことだと受け入れちゃってるから。
普通の人は自分だと分かっていても、もう少し遠慮があるものなのに。この人物は遠慮の欠片もない。
あたしも遠慮なく質問を返す。
「あら~ 自分で自分のイケメンを認めちゃうタイプなのね、あなた」
しかし、このあたしの質問が気に入らなかったようで、イケメン兄は爽やかな笑顔のまま私に言葉で切りつけてきた。
「とくに話がないのなら、行きますが」
マズいマズいマズいマズいマズい。
ここで逃がしたら、次はいつどこで出会えるかが分からない。
あたしはさっと表情を取り繕い、営業スマイルをイケメン兄に向けた。
「実は~、あなたとあなたの弟さんがステキな女性を取り合ってると、聞いたのよ。それでお話、聞きたいなぁと思って」
嘘ではない。これは事実なはずだわ。
なのにイケメン兄はさっと表情を消す。
「女性ですか? イケメンなもので心当たりが多すぎて」
これも嘘ではなさそうだけど。
イケメン兄の表情からは、爽やかさが完全に消え失せる。
だから、あたしは最後の切り札とばかりに例の女性の名前を口にした。
「エルシアという名前の子よ?」
一瞬、黒い表情が顔を出したかと思ったら、すぐさま、爽やかそうな表情に戻る。
少し黙り込んで、考え込んだ後。
あたしに話をした方が良いと判断したのだろう。イケメン兄は身体をまっすぐあたしに向け、おもむろに口を開いた。
「あぁ、ルベラス嬢ですか。
弟と取り合ってるだなんて、そんな事実ありませんよ。弟のクラウドは筆頭殿の養女のミライラ嬢と恋仲ですから。
ご存知ありませんでしたか?
いや、まさか。まさかでしょう、ねぇ。
私の方はルベラス嬢一筋ですよ。心がフラフラしているあの弟と、いっしょにしないでもらいたいですね。
私がルベラス嬢を初めて目にしたのは、彼女を王女殿下のお茶会にエスコートする際でした。
連れてこいと言われて、同伴するだけのつもりが、ルベラス嬢の黒髪を見て、一瞬で心が奪われましてね。
これが世に言う『一目惚れ』なんだと、初めて思いましたね。
彼女の笑顔のためなら、なんでもやってあげたいと感じましたし、私の手で幸せにしてあげたいと心から思っています。
何度となく、彼女にアプローチはしているんですよ。ですが、タイミングがなかなか合わないようで。
彼女には後援家門がいるので、それも気にしているのかもしれません。その辺は、フェルムが後援になるので、問題はないでしょう。
彼女の肩書きを政治利用?
彼女に対して愛情はない?
あぁ、なんだ。
クラウドから聞いてるのか。あいつも口の軽いヤツだな。
確かに、俺がルベラス嬢担当で、クラウドはリーブル嬢担当。
どちらも力のある魔術師だから、婚姻で繋がって押さえておくのは当然な話。
担当が分かれてるんだから、取り合うも何もない。
味気ないだと?
恋愛小説でもあるまいし。貴族の婚姻は政略結婚が主流なんだから、そんなものだよ。お前も現実を見た方がいい。
とはいえ、ルベラス嬢をまったくなんとも思ってないわけではないな。
どちらかと言えば、好ましくは思っている。
俺だって、契約結婚で仮面夫婦なんてものにはしたくはないからな。
こんなところでいいだろ。俺は忙しいんだ。
最後に一つだと?
あぁ、ルベラス嬢との仲か。話したとおりだよ。残念ながら未だに進展なしだ。
既成事実でも作ってやろうかと思ってるのに。彼女、やけに慎重で隙がない。
こっちとしては、ガードが堅いほど落としがいはあるがな」
誰よ!
爽やかな騎士だなんて、真っ赤な嘘じゃないの!
あら?
あたしが勝手に思ってただけだったかしら?
とにかく、あのお腹の中真っ黒なイケメン兄はダメだわ。いや、逆にいいかしら?
純朴なイケメン男主人公、腹黒な男主人公の兄。
お話には対比がある方が分かりやすいのよね。
でもでも、女主人公候補の話では、確かイケメン男主人公の従兄とやらも、同じ女性を恋い慕っていたわよね。
お話的には誰がいいかしら。
さっそく、イケメン男主人公の従兄も取材よ!
あたしはそのまま第三騎士団の中を動き回る。
今日はあのうるさい小娘もいないようで、あたしの取材は順調に進むかに思えた。
34
あなたにおすすめの小説
結婚式をボイコットした王女
椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。
しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。
※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※
1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。
1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)
彼の過ちと彼女の選択
浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。
そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。
一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。
【完結】わたしは大事な人の側に行きます〜この国が不幸になりますように〜
彩華(あやはな)
恋愛
一つの密約を交わし聖女になったわたし。
わたしは婚約者である王太子殿下に婚約破棄された。
王太子はわたしの大事な人をー。
わたしは、大事な人の側にいきます。
そして、この国不幸になる事を祈ります。
*わたし、王太子殿下、ある方の視点になっています。敢えて表記しておりません。
*ダークな内容になっておりますので、ご注意ください。
ハピエンではありません。ですが、救済はいれました。
愛はリンゴと同じ
turarin
恋愛
学園時代の同級生と結婚し、子供にも恵まれ幸せいっぱいの公爵夫人ナタリー。ところが、ある日夫が平民の少女をつれてきて、別邸に囲うと言う。
夫のナタリーへの愛は減らない。妾の少女メイリンへの愛が、一つ増えるだけだと言う。夫の愛は、まるでリンゴのように幾つもあって、皆に与えられるものなのだそうだ。
ナタリーのことは妻として大切にしてくれる夫。貴族の妻としては当然受け入れるべき。だが、辛くて仕方がない。ナタリーのリンゴは一つだけ。
幾つもあるなど考えられない。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
婚約破棄でお願いします
基本二度寝
恋愛
王太子の婚約者、カーリンは男爵令嬢に覚えのない悪行を並べ立てられた。
「君は、そんな人だったのか…」
王太子は男爵令嬢の言葉を鵜呑みにして…
※ギャグかもしれない
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる