運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

SA

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5 覆面作家と水精編

4-1

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 その日の昼休憩。

 私はヴァンフェルム団長とユースカペル副団長に呼び出され、初めての食堂にやってきた。

「美味しい。美味しくて最高だわ」

 ナイフとフォークを握る手に思わず力が入り、私はぷるぷる震える。

 小さな応接室のようなところに通されて、何も注文しないのに出てきたのは、一口サイズの野菜料理が乗せられたワンプレート。キッシュ、トマト煮、ゼリー寄せなどなど。

 いつもの第三騎士団の食堂とは、なんというか、質がぜんぜん違う。見た目もキレイだし。

 そして、最初に唸ったように美味しい。もちろん、いつもの食堂も美味しいけど荒削りな美味しさで、こちらは洗練された美味しさ。

 感動にうち震える私の耳に、団長の冷静な声が聞こえてきた。

「上級職向けの食堂だからね、ここ」

 そう。

 私たちが連れてこられたのは、上級職向け食堂という正副団長以上向けのスペシャル食堂だった。

 団長、美味しいもの食べてるな。でも、副団長はよく第三騎士団の食堂の方でみかけるよな。洗練された感じが苦手なのか、口に合わないのか。

 それはともかく、上級職向け食堂は料理以外にも違いがたくさんある。

 最初にも触れたけど、私たちは小さな応接室のようなところに通されていて、そこはテーブルも椅子も上質な空間だった。

「でも、なんで、すべて個室?!」

「上級職向けだからだよ」

 私の疑問に対して、事も無げに答える団長。

「こうやって、打ち合わせや情報交換をしながら食事するのにも、ぴったりだしね」

 前菜が食べ終わったタイミングで、給仕の人がお皿を下げてくれた。

 次に出てきたのはスープだ。

 スプーンでくるくるとかき回して、一匙すくって口に運ぶ。これも抜群に美味しい。とろーりとして粘度があって、クリーミーな味わい。

「私、食事中は仕事をしない主義なので」

 スープを口に運びながら答えると、

「イチャイチャはするんだな」

 と失礼な事を言われた。

「これはグレイの趣味だから」

 私は、私の隣に引っ付いて食事を摂るグレイを指差す。

 グレイが私にくっついているのは、ごく当たり前の日常なので、辺境領では誰も指摘しない。むしろ、引き剥がすと大惨事になる。だから私も自然と受け入れていた。

「そうだな」

 グレイもグレイで当然のように引っ付いて、隙あらば、私の口元をナフキンで拭ったり、飲み物を飲ませようと口元に差し出したり、挙げ句には、ナイフで私の肉をキレイに切って私の口にまで運び出す。

「ねぇ、グレイ。私、もう子どもじゃないんだから、一人で食べられるんだけど」

 と、言いつつ、口元に差し出された一口大の肉にパクッと食いついてしまった。もはや条件反射。親鳥に給餌される雛鳥。

 親鳥と雛鳥の微笑ましい食事風景を眺めて、団長は大きくため息をついた。

 そこに、どこから紛れ込んだのか、いつの間にか同席していた研修部のケルウス部長が口を挟む。

「ルベラス君が子どもじゃないから、密着してるんだよ、こいつ」

 明るくにかっと笑っている割に、口にしている内容は辛辣だ。

「ところで。どうして、みんなして、グレイにキツく当たるんですか?」

 どうして、第三騎士団の食事にケルウス部長が紛れているのかは、あえて聞かないことにした。聞いたらまた面倒なことに巻き込まれる。私の勘がそう告げていた。

「君、それ、本気で言ってるの?」

 ケルウス部長にそう言われると、明るい笑みが逆に怖い。

「僕がルベラス君を連れ出したからって、研修部が半壊したんだけどな」


 グフッ


 吹きそうになってギリギリ耐える。

 私が三聖の展示室で業務チェックに参加している間に、グレイは研修部で破壊活動に忙しかったと、そういうことか。

「だって、グレイアドは変装なんて無理じゃーん」

 だから業務チェックに紛れ込むのは出来ない、言外にそう含ませて、口を尖らせるケルウス部長。

「ルベラスはともかく、グレイアドは変装できないだろ、バレるだろ、無理だろ」

 とユースカペル副団長も賛同の姿勢。

 グレイと私を別行動にするのに、団長も苦労したようだけど、別行動になった後も大変だったようだ。

 責める声を無視して、グレイだけ、明後日の方向を見ている。

 団長たち、お疲れさまです。




 私はスープの次に出てきた肉を、グレイに手伝ってもらいながら、もくもくと食べ進める。

 肉を食べながら私は考えた。実際に被害が出たとしても、そんなにグレイを責める必要があるだろうか。

「グレイが変装できないのはともかくとして、建物は半壊じゃないですか」

「はぁ? 君、何を言ってるわけ? こいつさ、研修部に乗り込んでくるなり、壊し始めたんだぜ?」

「本気でやったら、全壊しますけど? 半壊で済んだのだから、良かったじゃないですか」

 それまで非難一色だったケルウス部長は、ピタリと食べる手をを止める。部長だけでなく、ヴァンフェルム団長とユースカペル副団長も手を止めていた。

 手を止めても、食べる速さは圧倒的に私の方が遅い。今のうちにと私はもくもく食べる。

「調査部は全壊だったか」

「一部屋を残してな」

「わざわざ一部屋残すあたりがえげつないよな」

「さすが、グレイアドの恋人をやってるだけのことはあるな」


 ゲホゲホゲホ。


 むせた。

 なんて会話を目の前でしてるんだ、この人たちは。

 私はフォークとナイフを握りしめて言い返す。

「私、グレイの恋人じゃないです」

「「はぁぁぁぁぁあ?!」」

 なぜか疑われる。

「寝言はな、寝てから言うもんだぞ、ルベラス」

「君さぁ。そんなに密着して、胸やら腰やら触らせてるのに、恋人じゃないって。誰が信じるんだよ」

「まったく目の毒だよな」


 ゲホゲホゲホ。


 またむせた。

 グレイが私の背中をさすって、水を差し出す。咳込むのが一段落してから、水を受け取りグイッと飲み干した。

「だから、グレイは私にご飯を食べさせてるだけで。他のところを触ったりしてないじゃないですか!」

 今、さすったので背中は触ったけどね。

「でも、恋人だろう?」

「恋人じゃないです! 保護者で同志、つまり、人生のパートナーです!」

 うん。これ、何回言えばみんな納得してくれるのかな。何回言っても、みんなが私のことをグレイの恋人と言うので、ちょっと気恥ずかしい。

「保護者と同志と、人生のパートナーというのが繋がらないんだが」

「人生のパートナーというなら、恋人とか婚約者とか夫でいいだろ」

「そんな平凡で中身のない言葉を使って、私とグレイの強固な関係を語らないでください」

 口元をグレイにハンカチで拭いてもらいながら、団長と副団長に反論する。

 いやまぁ、別に恋人でもいいのかもしれないけど。

 だんだんとそんな気分になる私。

 ただ、気になることはある。

 私とグレイ。特段、恋人らしい触れ合い的なことはしていないのだ。よく恋愛小説で恋人同士がやっているようなヤツ。

 やはり、あれがないと恋人とは言わないのかもしれないし。うーむ。

 私がどうしようもないことで悩んでいる周りで、グレイたちはグレイたちで何やら喋っている。

「いや、恋人の方がだいぶ説得力はあるだろ」

「グレイアドはいいのか? 恋人がこんな調子で」

「昔からこんなだからな」

「凄いな」

「達観してるな」

 話が一段落したところで、グレイが団長たちに改めて質問した。

「それで、シアを呼び出した用件は?」

 団長たちはいったん黙って顔見合わせる。誰がグレイに説明するのか押しつけ合っているようにも見える。

「あぁ、実は」

 しばらくの無言のやり取りの後、ヴァンフェルム団長が話を切り出した。
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