運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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5 覆面作家と水精編

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 王太子殿下がゆっくり片手をあげると、双方の騎士、侍従や侍女といった使用人たちが一斉に退出する。

 残ったのは、ソファーに座る私たちを除くと、王太子殿下の専属護衛二人、侍従一人、カイエン卿、王女殿下の侍女さんのトップの人。たった五人。

 平静を装ってはいるけど、王太子殿下側の人たちとは違い、王女殿下側の二人には緊張した様子が窺える。

 人数を絞ったということは、重要な何かを知らせるということで。

 二人とも王族級の重要な話を予想しているようだった。

 そんなに緊張させておいて申し訳ないなぁとちょっと思いながら、意を決して私は手を挙げた。

「え? エルシア嬢、どうしてここで手を挙げるのかしら?」

「私、内通者なんで」

 王女殿下と王女殿下側の人が固まる。
 どうにか口を開いたのは、王女殿下だ。

「え? 嘘でしょう? 何かの冗談でしょう? どうして、あなたが? それにどうやって?」

「私、これでも三聖の主なんで」

「それ、理由になってないわ!」

「三聖同士は連絡が取り合える。ルベラス嬢にはデルティの動向について、私に直接連絡するよう依頼済みだった」

 王太子殿下が三聖なことも、私と王太子殿下が直接繋がっていることも、どちらも聞かされていなかったんだろうね。
 カイエン卿と王女殿下の侍女さんの表情が思いっきり固まる。少し顔色も悪い。

「兄さまが三聖の主だなんて、聞いてないわ」

 王女殿下が震える声でつぶやいた。

「見る人が見れば分かりますよ」

 私が追い討ちをかける。

 王太子殿下の瞳は見事な『スロンの金眼』。見間違えることはあり得ない。

「どうせ、わたくしは兄さまやエルシア嬢みたいな金眼ではないもの!」

 ふて腐れたような態度の王女殿下。
 王女殿下の瞳は翡翠色をしている。金眼ではない。

 それでも、だ。

 王女殿下は五強リグヌムの主になれるほどの魔力量を持つ。
 魔力量が多ければ多いほど、普通ではないことが普通に出来るので。この理屈でいけば、王女殿下は普通じゃないことが、普通に出来るはず。

 例えば、魔力を直に感じる、とか。

「金眼持ちではなくても、魔力を感知できる人なら、ある程度は予測がつきますよ」

 私が説明を付け足したのは、こういった背景があったからだった。

 私の言葉を聞いて、王女殿下はぷいっと横を向く。私の話なんて聞きたくない、とでも言うように。

 はぁ。

 出来ないのか。

 魔力感知、出来ないんだな。だからこの態度か。

 王女殿下の魔力量なら出来るはずなのに、と思って王太子殿下を見ると、殿下は小さく息を吐いて肩をすくめた。

「デルティはもう少し、力の使い方を学んだり練習した方がいいな」

 はぁ。

 出来ないんだ。

 せっかく類い希なる素質を持って生まれたというのに、力を磨かないなんてもったいない。

 元々、王女殿下は天才肌だったっけ。

 才能や素質がありすぎて、頑張らなくても、理屈が分からなくても、出来ちゃうタイプ。

 そういえば、リーブル嬢は王女殿下とは正反対で努力家タイプだったな。

 私はここでなぜかリーブル嬢のことを思い出していた。

 リーブル嬢、素質的には、普通の中では凄い人。全属性の適応はあるしそれなりに魔力量は多い。けれども、名のある杖持ちの人と比べると見劣りしてしまう。

 彼女はその辺を努力の力で素晴らしく磨き上げていた。魔術師として努力の力を正しく認められていて、努力のお手本のような人材だった。

 でも、世間的には、リーブル嬢より王女殿下の方が遥かに凄い魔術師になる。

 努力を嫌い素質だけで生きている王女殿下より、努力と鍛錬で磨き上げているリーブル嬢が報われないのは、私から見てもどうかと思った。世の中、不公平だな、と。

 まぁ、世の中なんて、不公平が横行するところ。仕方ないのかもしれない。

 最近のリーブル嬢の、私に対する敵対的な態度も、努力が正しく評価されないことに対する八つ当たり的なものと思えば、厳しく相対することも出来なかった。

「そんなことより、デルティ。三聖の展示室の異変について、知りたいのでは?」

 ふて腐れたままの王女殿下に、王太子殿下が気に言葉を投げかける。

 横を向いた状態で、王女殿下がぴくんと反応した。気になるんだ。気になるよね。気になるから探索しにいったんだしね。

 とはいえ、

「えー、説明するんですか?」

 面倒だ、説明が。

「しないと収まらないだろう?」

「しても収まらないと思いますけど?」

「デルティも来年は成人だしな。知っておいた方がいい」

 未成年でも王族なんだから、知ってないとマズいのではないか。

 そんな目で王太子殿下を眺めると、やれやれといった具合で、王太子殿下の方から説明を始めてくれた。

「一言でいえば、五強の部屋の水を生み出しているのは五強の一つ、水精アクアだ」

「やっぱり、水だから水精よね! わたくしが睨んだとおり、五強の杖の一つが不思議現象を起こしているんじゃないの!」

「水だから水精アクア、ということで良いんですか?」

 カイエン卿が不思議そうに王女殿下に質問すると、さきほどまで、くしゃみをしていたり、ふて腐れていた人とは思えないほど元気に返事が返ってくる。

「そうよ! あの部屋、水浸しだったじゃないの! この前、新リテラ王国の金冠が目覚めたそうだから、つられて、水精アクアも目覚めたんだわ!」

「ぜんぜん違いますけど」

 水を差すような言い方で悪いけど。

「こうやって、無責任な噂が真実であるかのように広まっていくんだな」

「兄さままで、そんな反応! 酷くないかしら! くしゅん!」

 私に続いて王太子殿下にまで否定されて、王女殿下が非難の声をあげる。

 おまけにくしゃみも出た。くしゃみは止まったわけではなかったようだ。

「アクアが目覚めたのは、金冠が再び眠りについた後。それに水を扱えるのは、五強ならイグニスとメタルム以外。水、イコール、アクアとはならない」

 王太子殿下の丁寧な説明に分かったような顔をする王女殿下。

「それなら、アクアと断定する理由は?」

「私が確認したからです」

「だから、さきほどの様子を見たからでしょう?」

「違います。数日前にアクアが展示室にいるのを確認しました」

 そう。

 リーブル嬢の業務チェック。あの時、間違いなく、水精アクアの姿を五強の部屋で見たのだ。

 私だけでなく、セラフィアスもクラヴィスも。

「五強アクアなんだから、三聖の展示室にいるのは当たり前でしょ」

「デルティ。通常、アクアは展示室にはいないんだよ」

 世間一般の人たちは、五強の杖は五強の部屋に展示されたいると思っている。しかし、事実は少し違う。

 王太子殿下はそのことを指摘するが、王女殿下には限界だったみたいで。

「もう! なんなの! 教師から教わったこととは違うことばかりだし! 最初からわたくしに分かるように説明してよ!」

 ついに、王女殿下が爆発した。




 三十分後。

 興奮した王女殿下に私は穏やかな視線を送り、安心させて、落ち着いてもらって、それからようやく、王太子殿下による解説が始まった。

 王太子殿下からは、グレイに威圧が似てきたとか言われたけど、威圧ではない。穏やかな視線だ。間違えないでほしい。

 ともあれ、王女殿下は落ち着いて、周りの話を聞ける状態になった。

「えーっと。つまり」

 話を聞くだけでなく、こうして、聞いた話を再確認するようになった。もの凄い進歩だと思う。

 王女殿下は自分の理解度の確認を求めてきた。

「主なしで活動する意欲がない魔導具は地下の保管室、意欲がある魔導具は地上の展示室にいる。
 それでもって、力の強い魔導具は三聖の部屋、力が弱い魔導具は五強の部屋。
 今回、五強アクアが保管室から展示室に移動して、主候補にアピールするために力を奮っている、と」

「そういうことだ」

 少し間があく。

「ユニー兄さま、ちょっといいかしら。三聖五強が力のある魔導具のトップでしょ? ねぇ、カイエン卿?」

「はい、私も学院でそう習いましたが」

 王女殿下は、五強の部屋が力の弱い魔導具の部屋だということに納得がいってない様子だ。

 力の弱い魔導具とは言っても、名のある魔導具の中で比較的弱い、という意味なので、世間一般の魔導具としては力の強い魔導具であることに変わりはない。

 それでも、王太子殿下の言い方だと、三聖と同程度で、五強よりも強い魔導具がまだまだあるように感じる。実際その通りなんだけど。

「デルティの根拠は、古代リテラ王国の建国詩だろう?」

 王太子殿下は王女殿下とカイエン卿に話しかけた。

「ええ、そうよ」

「この国は、
 一つの全きものによって生み出され、
 三つの聖なるものによって形作られ、
 五つの強きものによって平定され、
 十の付き従うものによって支えられた」

「そう、それよ。正確な建国詩よね?」

「まぁ、正確に言えばそこから間違ってるんだよ、デルティ」

「はぁぁぁぁあ?」

 王太子殿下の話は簡単には終わらなかった。
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