運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

SA

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5 覆面作家と水精編

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 さらに三十分後。

 王女殿下は両手で頭を抱えて、下を向いていた。

 うん。きっとあれ、割れて中身が出そうだから押さえてるんだ。

 そのくらい、王女殿下にとっては衝撃的な内容だったと思う。
 なにせ、習ったことのほとんどがデタラメとくれば、誰だって混乱するし叫びたくもなる。

 王女殿下はしばらく動きを止め、再び、顔を上げて動き出した。

「えーっと。つまり、旧古代リテラ王国の建国詩を改竄して、古代リテラ王国が建国詩を作ったと」

「その時に、力のある魔導具の序列をわざと混同させて後代に伝えたんだ」

 リテラ王国は、魔術と魔導技術に優れた魔法国家だ。一つの国だったのがいつしか三つに分かれ、今のグラディア、マギカイ、新リテラの三国となる。

 ここまでの流れは問題ない。

 問題なのは三国に分かれるまでの流れ。

 リテラ王国は実は二つ存在したのだ。名のある杖や解析不能な魔導具を作り上げたのは、最初のリテラ王国。

 最初の王国が反乱により崩れさると、次に建国された王国は、同じ名前を名乗りだした。まるで、古くから存在する国であるかのように。

 同じなのは国の名前だけ。高度な魔術や魔導技術は受け継がれることなく、消えていったそうだ。
 それを隠すためなのか、旧王国の偉業は改竄され、都合よく後代に伝わっていく。

 もちろん、私も聞いた話なので、詳しくは知らないけど。

 私が聞いた話と同じ話を、王太子殿下が王女殿下に話して聞かせていた。

 もちろん、頭の中がぱんぱんになった王女殿下が、すべてをすんなり受け入れるとは思わない。

「そんな話、信じるわけないでしょう。誰がそんな嘘っぽいことを言って、兄さまやエルシア嬢に信じ込ませてるのよ!」

 そう言われても。

 王太子殿下が私に目を向けた。私は小さく頷くと、声を揃えて答える。

「「ケルビウス」」

「うぐぐぐ」

 歯噛みする王女殿下。まったく。

 探求のケルビウスに知識で勝てるわけがないだろうに。彼女は生きる歴史書でもあるんだから。

「スローナスやセラフィアスの話を総合しても、間違いではないようだ」

「しかし。どうしてその話を、わざわざ王女殿下に明かされたのですか?」

 カイエン卿が王太子殿下に問い掛けた。

 王女殿下のあまりのポンコツぶりに、王太子殿下が、代わって質問するよう許可を出していたから。

 そもそも、カイエン卿と王女殿下の侍女のトップをこの場に残したのも、王女殿下だけに聞かせるのが心配だったからだそうだ。

「五強の主だからだよ。そもそも五強という呼び名もわざと付けられている」

 王太子殿下はそう答えると、一般には聞きなじみのない詩をそらんじた。

「この国は、
 一つの全きものによって生み出され、
 十の力あるものによって支えられた」

 この場にいる全員が王太子殿下の言葉に耳を傾ける。

「これが旧古代リテラ王国の建国詩の原文だ。今の三聖は十の力あるもののうちの三つ。五強に至っては十に含まれない」

「意味が分からないわ」

「三聖は直接、統治に関与していた。だから表に出すしかなかった。残りの七は表から隠し、代わりに五強を表に出した」

「もっと意味が分からないわ。五強は強い魔導具ではないってこと?」

 王女殿下の中では、五強は三聖と並ぶ強力な魔導具。突然、それが違うと言われても、戸惑ってしまうよね。

「呼び名も五強とすることで、聖なる三聖よりも、強き魔導具として注目させた」

「つまり五強は、三聖や三聖並みの力を持つ魔導具を隠す盾ですね。さらに強い魔導具の存在を隠し、動きやすくするための」

「デルティの専属護衛は理解が早いな」

「理解度が低くて悪かったわね!」

「力のある存在として、王女殿下とリグヌム殿が、国内外の注目を集める役割を果たしているということですよ」

「つまり、デルティとリグヌムに注意が集まり、こちらはあまり注目も警戒もされず自由に動けている、ということだ」

 突然明らかにされた事実に、王女殿下はまたもや固まった。

 のろのろと口を開く。心なしか、声に元気がない。

「わたくしにとってはあまりおもしろくはない状況だけれど。それと、水精アクアの動きがどう関係するの?」

「リグヌムはその辺をわきまえているし、リグヌムの主のデルティも事情を理解している」

 今、説明したばかりなのに。

 王太子殿下は言外に「しっかり理解しろよ」と念を押したので、王女殿下が口の中で小さく呻いた。

「アクアとアクアの主になるものは、わきまえてないってことね」

「これから教え込む必要はある。しかし、それも主次第になるからな」

「とにかく。それで、私が三聖の展示室についていったんですよ」

 ここで私は口を挟み、五強の部屋でやったことを報告する。本来の私の仕事は、王女殿下のお守りではなく、こちらだったのだ。

 カイエン卿が第三騎士団に依頼して王女殿下に同行、というのは本来の仕事を隠すためのもの。カイエン卿や団長たちは、結果として、王太子殿下の思惑に加担したことになる。

 王太子殿下は私の報告を聞き、小さく笑う。

「わきまえさせるのに、セラは適任だからね」

「あら? わたくしのお守りではないの? エルシア嬢、そう言ってたわよね?」

「それもありますが、最大の理由は、騒動を起こしているアクアの鎮圧です。私、鎮圧のセラなんで」

「そうだったわね」

 えへんと胸を張る私。

 ソファにちょこっと腰掛けていただけだったので、胸を張りすぎると後ろにひっくり返る。

 おおっと。

 バランスを崩した瞬間、背中に温かさを感じて動きが止まった。グレイが背中を支えてくれたようだ。温かい。

 胸を張りすぎてバランスを崩したことには触れずに、アクアのことを説明する。

「少し前にアクアが目覚めているのは確認していたので、今回はもう少しおとなしくしているよう、説得してみました」

「エルシア嬢の説得って、説得力あるのかしら?」

 じろっと王女殿下に見られたので、私もじろっと見返してあげた。

「力はありますよ? 五強程度なら潰せるだけの」

 にやり。

 悪役みたいな言い方だけど、知った事じゃないわ。事実だし。

「えぇぇぇ。ねぇ、リグヌム。エルシア嬢はああ言ってるけど本当に本当かしら」

《主、怖いこと聞かないでくれ。僕が潰される》

 リグヌムの声だけが聞こえた。

 そうそうそう。水精アクアに対して、優位なはずの木精リグヌム。

 五強の部屋に行く前までは、散々、王女殿下に反対していて。王女殿下を止められないと分かると、今度は王女殿下の中に引きこもってしまったのだ。

 まぁ、外に出てこなくても、杖の力は使えるので大差はない。

 でも、王女殿下の呼びかけにまったく応じず、外に出てこないリグヌムを見て、私はある結論に至った。

 杖を使いこなせてない。

 マジか。

 杖を使いこなせてない五強の主と、主と連携の取れてない杖。

 三聖を隠す盾にしては、ずいぶんと頼りないような気がする。

「鎮圧のセラなんだから、力で説得するのは当然だろう。そもそも言葉で説得できる相手なら、私が出向く」

 王太子殿下は私の訝しむ視線を察して、肩をすくめた。そして、わざわざ周知の事実を王女殿下に説明する。

 だいたい王族なのに、王太子殿下が三聖の主の一人だと知らされてないことからして、察するべきだったわ。

 私たちの無言のやり取りにはまったく気付きもせず、王女殿下は変わらず自分のペースで話を始めた。

「そうだわ、ユニー兄さま! わたくしに良い考えがあるわ!」

 どうやら、ようやくいつもの調子が戻ってきたようだ。
 この元気さなら、風邪の心配もなさそう。良かったのか悪かったのか、ちょっと悩むところだけど。

 王女殿下の『良い考え』を延々と聞かされた後(そして却下しまくった後)、私とグレイは王太子殿下の宮の談話室から退出した。

 すんなりと帰れると思った矢先、

「ルベラス嬢。ちょっといいかな?」

 呼び止められて、足止めを食らうことになる。
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