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6 辺境伯領の噴出編
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「で、お嬢。隊長の恋のライバルって誰だったんですか?」
あっさりと復活したバルザード卿が興味津々な眼差しを私に向けて、昔話の続きを催促し始めた。
「黙れ、バルザード。俺に恋のライバルなぞ、いるわけがないだろ!」
不機嫌そうに吼えるグレイ。
まったく。
ベイオス閣下といい、バルザード卿といい、北部辺境騎士団の人間は懲りることを知らないようだ。
またグレイに殴られても、私のせいじゃないから。と、思いながら、私は話の続きを簡単にまとめる。
「あのねぇ、バルザード卿。私にそっくりな黒髪金眼といったら、セラフィアスしかいないでしょう」
そう前置きをして、私は話の続きに戻った。
「誰が、極悪魔剣士のライバルだ!」
セラフィアスがベイオス閣下に向かって不機嫌そうに怒鳴る。
異様な威圧感が辺りを支配すると、一瞬で場が制圧された。
セラフィアスは今まで、私が一人だけの時に人型に顕現していたはず。
なのに、今回は大勢の前で人型になっていて、私はビックリした。
「《いいの? 大勢の前に出てきて?》」
《あぁ、別に問題ないぞ? あの極悪魔剣士とは今までも直接、会っていたしな》
うん、そうなんだ。
そういえばそうだったな。
グレイが持ってきた差し入れのお菓子とか、余分にセラフィアスがもらって私に持ってきてくれてたし。
そんなこと、直接、グレイと会って会話しなければ出来ないことだったのに、私はすっかり忘れてしまっていたのだ。
セラフィアスは私だけに聞こえる声で返事をしてから、今度はグレイたちにも聞こえる声を出す。
「五つも年下の僕の主を見て性的に興奮するような変態、僕の主の伴侶に相応しくない」
視線は私を通り越して、反対側の隣にいるグレイを睨みつけていた。
「相応しいかどうかは、お前が決めることじゃないだろうが」
「変態なのは否定しないんだね」
そこは否定しておいた方がいいと思うんだけど。
周りの誰も否定するどころか、沈黙を保っていた。だから。そこは否定しておいた方がいいと思うんだけど。
沈黙しているだけでなく、微動だにしないなぁ、と思ったところで、
「あぁ、セラフィアスに威圧されて動けないんだ」
というところにようやくたどり着いた。
使用人の人たちは普通の人だから仕方ないとしても、騎士はこのくらいで威圧されて大丈夫なのかな。
私が辺境騎士団の実力を疑ってかかっていると、
「おいおいおいおいおい。だから、何がどうなってるんだ?」
一人だけ、この威圧の中で声を出した人がいたのだ。
おおっ。
少しはちゃんとした人もいる。
グレイはセラフィアスの威圧を何も感じていないようなので、グレイの次に凄い人だ。
期待の目で声の主を探してみると、
「エルシアちゃん。彼はエルシアちゃんのお友だち、かな?」
目の前にいた。
ベイオス閣下だ。
グレイの次に凄い人はベイオス閣下だったのだ。
ベイオス閣下はグレイに殴り飛ばされたせいか、あちこち土埃で汚れている。心なしかフラフラしているのは、セラフィアスの威圧の影響なのか。それでも威厳を保ったまま、私の前に立つ。
セラフィアスが威圧する原因になった人でもあるので、お茶目で威厳があって凄くて傍迷惑なおじさん、と頭の中で訂正しておこう。
「あー、えーっと」
まっすぐ私を見るベイオス閣下から、私は視線をちょっとそらす。
グレイの腕にちょこんとしがみついて、セラフィアスのことをなんて説明しようか考えた。
私が苦慮していることが分かっているのか、セラフィアスの方から口を開いた。みんなに聞こえるように。
「主がこいつらの守護をするなら、僕も協力せざるを得ないからな。自己紹介くらいはしてやろうと思ってな」
セラフィアスの偉そうな態度と口調とは裏腹に、私を見る目からは厳しさや傲慢さが取れて、温かさや穏やかさを感じる。
同時に、強い意志も。
私が後ろ盾を得るため決断したのと同様に、セラフィアスはセラフィアスで、私のためにいろいろな決断をしてくれていたようだ。
私も心を決めた。
セラフィアスの存在を公表するのは、利点もあれば欠点もある。
ただ、これからお世話になる人たちへの信頼の証として、伝えておいた方が良い。
私はグレイにしがみついていた手を離すと、ベイオス閣下に向き合った。
「紹介します」
「あぁ。紹介してもらおうかな」
とりあえず、人間ではないことを強調させ、グレイのライバルではないことを理解してもらおうか。
「私の杖です」
まずは手短に。
「なんだ、エルシアちゃんの杖だったのかぁ」
ぽんと手を打ち、あっさりと受け止めるベイオス閣下。
あれ?
喋ったり威圧したりした相手が杖だと紹介しても、意外と動じてない。
拍子抜けする私。
これなら、セラフィアスの名前を出しても大丈夫そうだ。
そう判断して「名前は…………」と言いかけたとたん、状況が一転する。
ホッとした笑顔を見せるベイオス閣下の顔色が、たった数秒で一気に青ざめた。
あっさりと復活したバルザード卿が興味津々な眼差しを私に向けて、昔話の続きを催促し始めた。
「黙れ、バルザード。俺に恋のライバルなぞ、いるわけがないだろ!」
不機嫌そうに吼えるグレイ。
まったく。
ベイオス閣下といい、バルザード卿といい、北部辺境騎士団の人間は懲りることを知らないようだ。
またグレイに殴られても、私のせいじゃないから。と、思いながら、私は話の続きを簡単にまとめる。
「あのねぇ、バルザード卿。私にそっくりな黒髪金眼といったら、セラフィアスしかいないでしょう」
そう前置きをして、私は話の続きに戻った。
「誰が、極悪魔剣士のライバルだ!」
セラフィアスがベイオス閣下に向かって不機嫌そうに怒鳴る。
異様な威圧感が辺りを支配すると、一瞬で場が制圧された。
セラフィアスは今まで、私が一人だけの時に人型に顕現していたはず。
なのに、今回は大勢の前で人型になっていて、私はビックリした。
「《いいの? 大勢の前に出てきて?》」
《あぁ、別に問題ないぞ? あの極悪魔剣士とは今までも直接、会っていたしな》
うん、そうなんだ。
そういえばそうだったな。
グレイが持ってきた差し入れのお菓子とか、余分にセラフィアスがもらって私に持ってきてくれてたし。
そんなこと、直接、グレイと会って会話しなければ出来ないことだったのに、私はすっかり忘れてしまっていたのだ。
セラフィアスは私だけに聞こえる声で返事をしてから、今度はグレイたちにも聞こえる声を出す。
「五つも年下の僕の主を見て性的に興奮するような変態、僕の主の伴侶に相応しくない」
視線は私を通り越して、反対側の隣にいるグレイを睨みつけていた。
「相応しいかどうかは、お前が決めることじゃないだろうが」
「変態なのは否定しないんだね」
そこは否定しておいた方がいいと思うんだけど。
周りの誰も否定するどころか、沈黙を保っていた。だから。そこは否定しておいた方がいいと思うんだけど。
沈黙しているだけでなく、微動だにしないなぁ、と思ったところで、
「あぁ、セラフィアスに威圧されて動けないんだ」
というところにようやくたどり着いた。
使用人の人たちは普通の人だから仕方ないとしても、騎士はこのくらいで威圧されて大丈夫なのかな。
私が辺境騎士団の実力を疑ってかかっていると、
「おいおいおいおいおい。だから、何がどうなってるんだ?」
一人だけ、この威圧の中で声を出した人がいたのだ。
おおっ。
少しはちゃんとした人もいる。
グレイはセラフィアスの威圧を何も感じていないようなので、グレイの次に凄い人だ。
期待の目で声の主を探してみると、
「エルシアちゃん。彼はエルシアちゃんのお友だち、かな?」
目の前にいた。
ベイオス閣下だ。
グレイの次に凄い人はベイオス閣下だったのだ。
ベイオス閣下はグレイに殴り飛ばされたせいか、あちこち土埃で汚れている。心なしかフラフラしているのは、セラフィアスの威圧の影響なのか。それでも威厳を保ったまま、私の前に立つ。
セラフィアスが威圧する原因になった人でもあるので、お茶目で威厳があって凄くて傍迷惑なおじさん、と頭の中で訂正しておこう。
「あー、えーっと」
まっすぐ私を見るベイオス閣下から、私は視線をちょっとそらす。
グレイの腕にちょこんとしがみついて、セラフィアスのことをなんて説明しようか考えた。
私が苦慮していることが分かっているのか、セラフィアスの方から口を開いた。みんなに聞こえるように。
「主がこいつらの守護をするなら、僕も協力せざるを得ないからな。自己紹介くらいはしてやろうと思ってな」
セラフィアスの偉そうな態度と口調とは裏腹に、私を見る目からは厳しさや傲慢さが取れて、温かさや穏やかさを感じる。
同時に、強い意志も。
私が後ろ盾を得るため決断したのと同様に、セラフィアスはセラフィアスで、私のためにいろいろな決断をしてくれていたようだ。
私も心を決めた。
セラフィアスの存在を公表するのは、利点もあれば欠点もある。
ただ、これからお世話になる人たちへの信頼の証として、伝えておいた方が良い。
私はグレイにしがみついていた手を離すと、ベイオス閣下に向き合った。
「紹介します」
「あぁ。紹介してもらおうかな」
とりあえず、人間ではないことを強調させ、グレイのライバルではないことを理解してもらおうか。
「私の杖です」
まずは手短に。
「なんだ、エルシアちゃんの杖だったのかぁ」
ぽんと手を打ち、あっさりと受け止めるベイオス閣下。
あれ?
喋ったり威圧したりした相手が杖だと紹介しても、意外と動じてない。
拍子抜けする私。
これなら、セラフィアスの名前を出しても大丈夫そうだ。
そう判断して「名前は…………」と言いかけたとたん、状況が一転する。
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