運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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6 辺境伯領の噴出編

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《主。なんですか! この失礼な人間は?!》

「やはり、魔導具の主だという話は本当のようだな」

「だから言ったろう、おやじ」

 憤るシビルスを放置して、アルブレート卿とギルダーの目が、私を値踏みするような目つきに変わる。

「ルベル公爵家も後援に名乗り出たって話しだったな」

「そうだよ。だから言ったろう。早く手に入れないと先を越されるって」

 なに、この、物でも扱うような会話は。

 杖持ちの平民(しかも未成年)は狙われると話には聞いてたけど、こういうことなんだ。

 私はムカつくよりも、悲しくなった。

 私に子どもを捨てない父親がいれば、子どもを守ってくれる母親が生きていれば、何かが違ったんだろうか。

「シアを物扱いするな」

「エルシアちゃん、頭のおかしなヤツらに耳を貸すんじゃないぞ?」

 悲しみに取り付かれた私を見て、グレイがアルブレート卿とギルダーに食ってかかる。ベイオス閣下は優しく声をかけ、両手で私の耳を塞いだ。

 そうだ。

 私にはこの二人がいる。他のニグラートのみんなだって、魔塔の先生や子どもたちだって、私のことを応援してくれている。

 頭のおかしい人たちの言葉を聞いて、落ち込む必要はないんだ。

《人間にしてはずいぶんと、奢った態度を取っていますねぇ》

「とにかく、俺はエルシア姫によく思われたいんだよ」

《主。承知しました》

 私がニグラートの二人に心を癒されているうちに、アルブレート側は何かを仕掛けて来るようだった。

 ギルダーとシビルスの会話が終わると同時に、ギルダーがシビルスの吹き口に唇を当てる。

 すぅーっと息を吸い込むと、ギルダーは澄んだ高い音色を奏で始めた。




「あれ、本当に横笛だったんだね」

 私のつぶやきに、声を返す人は誰もいなかった。

 グレイはいつもより顔つきが険しくなっているし、ベイオス閣下は顔を大きく歪めている。
 それでもまだいい方で、周りの騎士や使用人たちは耳を押さえ、地面にうずくまっていた。

 ギルダーとシビルスが奏でるのは二種類の旋律。

 グレイたちを動けなくする物と、私の気持ちに働きかける物。まぁ、ギルダーは単純そうだから、私に対してストレートに《魅了》でも使っていそうだ。

 私が何の反応も見せないせいか、シビルスの音はどんどん大きくなっていく。

 それでも、やたら、音がうるさい以外はとくになんともない。

 小説の悪役なら「十年早い」とかなんとか言って、力が及ばない主人公を高らかに笑い飛ばしていそうな場面。

「《ねぇ、これ。鬱陶しいんだけど。振り払っていいかなぁ?》」

 私は自分に向かって、念のため、確認をする。しかし、《ダメだ、主》と言われても思いっきり叩きのめすつもりだった。

《この人間。いったい誰と話をしているんでしょう?》

 シビルスの訝しがる言葉に遅れて、私の中から不機嫌な声が聞こえた。

《構わんぞ、主。好きにやれ。思いっきりな》

 珍しい。セラフィアスが全力を許可するなんて。と思った次の瞬間、

《僕の主を物扱いするだなんて、あり得ないだろ!》

 セラフィアスの怒りが爆発した。

 私の杖、セラフィアスもアルブレートの私を物扱いする態度に、もの凄く腹を立てていたのだった。




「て感じで、最初から最悪でねぇ」

 けっきょく、私が全力を出すまでもなかった。《制圧》を小指の先ほどの力で発動させただけで、ギルダーもシビルスもあえなく動きを止めたから。

 問題なのは、《制圧》した後。

「酷いな、エルシア姫。あの素晴らしい最初の出会いを、最悪だと言い切るなんて」

「最悪だったよね。あの後、グレイと大ゲンカになったじゃないの」

「だな」

 切りの良いところで、現在のギルダーが話に割って入ってくる。

 初対面のギルダーは、私に《制圧》された後、完全に私を偶像視するようになってしまって、頭が痛い。

 フェルム一族ではないのに、強い者が正義みたいな強者思想でもあるんだろうか。

 まぁ、物扱いよりはマシか。

 シビルスはギルダーのように、すぐに私に屈しはしなかったけど。その後の騒動を経て、ギルダー二号となる。頭が痛い。

 話が途中で終わったので、バルザード卿がその後の成り行きを尋ねてきた。

「大ゲンカって、殴り合いでもしたんですね」

「え? まさかぁ」

 大ゲンカ=殴り合いだなんて。バルザード卿も平和なものだ。

「え? 珍しいですね。隊長がケンカで殴り合わないのって」

「バルザード、どういう意味だ?」

 バルザード卿が失言したタイミングで、グレイの声。バルザード卿の失言でグレイの機嫌が悪くなる前に、私は一言で説明を終わりにする。

「あの時は戦争になったから。殴り合いはしてないよね」

「あぁ、なるほど。戦争ですか。て、戦争って、戦争?!」

 戦争って三回も言ったよ。そんなに驚くことでもないのに。それに戦争とはいっても領土や領民に被害は出ていないし。

 グレイも呆れた顔でバルザード卿を見る。

「知らんのか? 世間では二大辺境伯戦争と呼ばれていたはずだが」

「それなら知ってます。でもまさか、その原因がお嬢の取り合いだったなんて」

「そう言われても」

 事実なんだから仕方ないじゃないか。

 私は居直ることにした。グレイの言葉を借りて言えば、こうだ。

「婚約者のいる女性に向かって求婚してくる人が悪い」

「そういうことだ」

「エルシア姫が魅力的すぎるのが悪いんだよ」

 さらっと私のせいにするギルダー。

 やっぱりムカつくんだよな、この人。あの時、手加減せずに全力の《制圧》をお見舞いしておけば良かったと、私は少しだけ後悔した。

「それで、どうなったんですか?」

「あぁあ? 俺とシアの仲が良くて万々歳だろうが? ぁあ?」

「それはそうなんですが」

「途中で話が終わったんで、続きが気になって。なぁ?」

「あぁ?」

「続きはまた、別の機会にね」

 残念そうな声を上げる護衛の二人に笑いかけると、私は再び、目の前の事態に集中する。

 なにしろ、ギルダーはここから離れる気配はない。おそらく、大噴出までニグラートに留まるつもりだ。しつこく、私をアルブレートに勧誘するために。

 グレイもそれは覚悟しているようで、あれこれ指示を出し始めている。

 私は私で、ギルダーに城内で出くわさないよう、ベイオス閣下の生活エリアに引きこもろうと決意を固めるのだった。
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