344 / 573
6 辺境伯領の噴出編
3-0 エルシア、辺境で穴に落ちる
しおりを挟む
その日の夜。
夜とはいってもまだまだ早い時間で、夕というには暗がりが濃い時間。
大噴出前の壮行会というか、決起会というか、そんな感じの宴会が始まった。
通常の大噴出は、突如、発生することがほとんどなので、前夜祭のような宴会をする暇はない。何より、発生する数もけして少なくはないので、大噴出のたびに宴会などしていられない。
これが、特大規模の大噴出となると話が違ってくる。
特大規模の大噴出を起こす世界の穴は、やはり特大規模。穴が出来上がるまでに時間がかかる。
だから、事前に大噴出の穴が開きそうな時期が見立てられると。
時間がある場合は、万が一に備えて家族や親しい人への別れを含めて、宴会を行うんだそうだ。
大噴出の現場の偵察では、
『予測がずれたとしても一日程度。早くても明後日、一週間以内には確実に穴が開くと思う』
と言ったけど、ベイオス閣下の予測通り『三、四日後くらいに起きる』で間違いはないと思う。
となると、明日の夜からは臨戦態勢。
今夜くらいは羽目を外して大丈夫そうだと踏んだベイオス閣下が宴会を催したので、城内は人でごった返していた。
いつもなら楽しいはずの宴会も、今回はかなり制限がある。私に。
なぜなら、
「エルシア姫ー!、うぁっ」
ガシッ
「ここがあなたの墓場になりますが、よろしいですね?」
こういった不届者が参加しているから。
不届き者の名はギルダー。
東部辺境伯の息子にして、私に接触したら墓碑銘を刻まれることになっている男。
グレイは隊長であると同時に、辺境伯の後継でもある。こういった場では、次期辺境伯として行動する必要があった。
飲んで騒ぐだけの場であっても、辺境伯や次期辺境伯が声をかけたり話を聞いたりするのとしないのとでは、みんなの意気が違うのだそう。
え? 私はやらなくていいのかって?
いちおう、グレイの婚約者なので、未来の次期辺境伯夫人てことになるんだけど。
「シアを狙う輩もいるから、安全な場所にいるように」
と指示を受けていた。
いや、私一人でも十分大丈夫だと思うんだけど。
これが表情に出ていたのか、フィリアからは、
「お嬢が安全かどうかも重要ですが、隊長が安心できるかも重要です」
と、真顔で言い切られ、
「そして、隊長が安心できないと、私たちは安眠できません」
と、続き、
「安全、安心、安眠ですよ、お嬢」
と、締めくくられ、あまりの迫力に思わず「はい」と返事をしてしまった。
私の席は上座の脇の、ルプス隊、通称殲滅隊が集まる席の最奥。
私の両脇はフィリアとフィリアの同僚の女性騎士、後ろはバルザード卿とバルトレット卿が固めている。
このガチガチに固められた場所で、目立たないように揚げた芋をもくもくとかじる私。
もくもくもくもくもく。
周りは酒杯をあげているというのに、私だけ、またもや果汁。
解せない。
私だって、もう、成人なのに。
でも、抗議したところで待遇は大して変わらない。いや、もっと酷くなるので、そのままおとなしくしている。
なぜなら、
「じっとしていないと、隊長の膝の上ですからね、お嬢」
「はい」
嫌な記憶が呼び起こされる。
十一歳の私は、こういった宴会でグレイの膝の上に乗せられていた。
言い訳をさせてもらうと、このときは、まだニグラートに慣れておらず、知っている人がグレイだけだったのだ。
自然とグレイにくっついていた、というか、グレイといっしょの方が安心できたのもあって。その結果、なぜかグレイの隣ではなく、グレイの膝の上に座らせられたわけで。
十三歳くらいにもなると、だんだんと、子ども扱いのような膝の上が恥ずかしくなる。
そうして私がグレイの膝の上を拒否するようになると、今度は私に拒否されたグレイが落ち込むようになった。
すると、落ち込んだグレイの相手をさせられる殲滅隊の騎士たちが、グレイに言葉通り殲滅させられて。
「お嬢、隊長の膝の上に戻ってください」
と全員から懇願されるという事態にまで発展する。
結果、
「エルシアちゃんも、もう立派なレディなんだから。ひとりで座れるだろう」
と、ベイオス閣下が仲裁に入って、無事に一人座りの権利を得られた。
そもそも、立派なレディでなくても、イスには一人で座れると思う。言わないけど。
そんな黒歴史のような過去を思い出しながら、もくもくと揚げた鶏肉をかじる私。
もくもくもくもくもく。
料理が揚げた何かか、焼いた何かくらいしかない。ムチャクチャ美味しいけど。
後はお酒。お酒が飲みたい。お酒を飲んでみたい。
そーっと、フィリアのカップに手を伸ばす。
フィリアは、立ち上がって飛び込んできた不審者を秒で捕まえ、他の殲滅隊の騎士に引き渡していた。
この殲滅隊ばかりの席にどうやって潜り込んだんだか。ギルダーは殲滅隊のごつい騎士たちに取り囲まれ、引きずられていく。
それを仁王立ちで見送るフィリア。
格好いい。
じゃない。お酒だ。
フィリアが完全に背を向けてる今が狙い目だ。
伸ばした手がフィリアのカップを掴む。
よしっ。
カップを胸の前に抱え込むと、キョロキョロと周りを窺った。みんな、自分たちの飲み食いに集中していて、他のことは気にしていなさそうだ。
よしっ!
カップをそっと持ち上げて、口を付けようとしたその瞬間。
「あれ?」
カップが塞がれた。
私の頭の上から伸びてきた手が、カップの口をガシッと掴んでいる。
「手? 誰の?」
私はその手を追って、上を見た。なんの心の準備もしないままで。
夜とはいってもまだまだ早い時間で、夕というには暗がりが濃い時間。
大噴出前の壮行会というか、決起会というか、そんな感じの宴会が始まった。
通常の大噴出は、突如、発生することがほとんどなので、前夜祭のような宴会をする暇はない。何より、発生する数もけして少なくはないので、大噴出のたびに宴会などしていられない。
これが、特大規模の大噴出となると話が違ってくる。
特大規模の大噴出を起こす世界の穴は、やはり特大規模。穴が出来上がるまでに時間がかかる。
だから、事前に大噴出の穴が開きそうな時期が見立てられると。
時間がある場合は、万が一に備えて家族や親しい人への別れを含めて、宴会を行うんだそうだ。
大噴出の現場の偵察では、
『予測がずれたとしても一日程度。早くても明後日、一週間以内には確実に穴が開くと思う』
と言ったけど、ベイオス閣下の予測通り『三、四日後くらいに起きる』で間違いはないと思う。
となると、明日の夜からは臨戦態勢。
今夜くらいは羽目を外して大丈夫そうだと踏んだベイオス閣下が宴会を催したので、城内は人でごった返していた。
いつもなら楽しいはずの宴会も、今回はかなり制限がある。私に。
なぜなら、
「エルシア姫ー!、うぁっ」
ガシッ
「ここがあなたの墓場になりますが、よろしいですね?」
こういった不届者が参加しているから。
不届き者の名はギルダー。
東部辺境伯の息子にして、私に接触したら墓碑銘を刻まれることになっている男。
グレイは隊長であると同時に、辺境伯の後継でもある。こういった場では、次期辺境伯として行動する必要があった。
飲んで騒ぐだけの場であっても、辺境伯や次期辺境伯が声をかけたり話を聞いたりするのとしないのとでは、みんなの意気が違うのだそう。
え? 私はやらなくていいのかって?
いちおう、グレイの婚約者なので、未来の次期辺境伯夫人てことになるんだけど。
「シアを狙う輩もいるから、安全な場所にいるように」
と指示を受けていた。
いや、私一人でも十分大丈夫だと思うんだけど。
これが表情に出ていたのか、フィリアからは、
「お嬢が安全かどうかも重要ですが、隊長が安心できるかも重要です」
と、真顔で言い切られ、
「そして、隊長が安心できないと、私たちは安眠できません」
と、続き、
「安全、安心、安眠ですよ、お嬢」
と、締めくくられ、あまりの迫力に思わず「はい」と返事をしてしまった。
私の席は上座の脇の、ルプス隊、通称殲滅隊が集まる席の最奥。
私の両脇はフィリアとフィリアの同僚の女性騎士、後ろはバルザード卿とバルトレット卿が固めている。
このガチガチに固められた場所で、目立たないように揚げた芋をもくもくとかじる私。
もくもくもくもくもく。
周りは酒杯をあげているというのに、私だけ、またもや果汁。
解せない。
私だって、もう、成人なのに。
でも、抗議したところで待遇は大して変わらない。いや、もっと酷くなるので、そのままおとなしくしている。
なぜなら、
「じっとしていないと、隊長の膝の上ですからね、お嬢」
「はい」
嫌な記憶が呼び起こされる。
十一歳の私は、こういった宴会でグレイの膝の上に乗せられていた。
言い訳をさせてもらうと、このときは、まだニグラートに慣れておらず、知っている人がグレイだけだったのだ。
自然とグレイにくっついていた、というか、グレイといっしょの方が安心できたのもあって。その結果、なぜかグレイの隣ではなく、グレイの膝の上に座らせられたわけで。
十三歳くらいにもなると、だんだんと、子ども扱いのような膝の上が恥ずかしくなる。
そうして私がグレイの膝の上を拒否するようになると、今度は私に拒否されたグレイが落ち込むようになった。
すると、落ち込んだグレイの相手をさせられる殲滅隊の騎士たちが、グレイに言葉通り殲滅させられて。
「お嬢、隊長の膝の上に戻ってください」
と全員から懇願されるという事態にまで発展する。
結果、
「エルシアちゃんも、もう立派なレディなんだから。ひとりで座れるだろう」
と、ベイオス閣下が仲裁に入って、無事に一人座りの権利を得られた。
そもそも、立派なレディでなくても、イスには一人で座れると思う。言わないけど。
そんな黒歴史のような過去を思い出しながら、もくもくと揚げた鶏肉をかじる私。
もくもくもくもくもく。
料理が揚げた何かか、焼いた何かくらいしかない。ムチャクチャ美味しいけど。
後はお酒。お酒が飲みたい。お酒を飲んでみたい。
そーっと、フィリアのカップに手を伸ばす。
フィリアは、立ち上がって飛び込んできた不審者を秒で捕まえ、他の殲滅隊の騎士に引き渡していた。
この殲滅隊ばかりの席にどうやって潜り込んだんだか。ギルダーは殲滅隊のごつい騎士たちに取り囲まれ、引きずられていく。
それを仁王立ちで見送るフィリア。
格好いい。
じゃない。お酒だ。
フィリアが完全に背を向けてる今が狙い目だ。
伸ばした手がフィリアのカップを掴む。
よしっ。
カップを胸の前に抱え込むと、キョロキョロと周りを窺った。みんな、自分たちの飲み食いに集中していて、他のことは気にしていなさそうだ。
よしっ!
カップをそっと持ち上げて、口を付けようとしたその瞬間。
「あれ?」
カップが塞がれた。
私の頭の上から伸びてきた手が、カップの口をガシッと掴んでいる。
「手? 誰の?」
私はその手を追って、上を見た。なんの心の準備もしないままで。
38
あなたにおすすめの小説
彼の過ちと彼女の選択
浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。
そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。
一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。
婚約破棄でお願いします
基本二度寝
恋愛
王太子の婚約者、カーリンは男爵令嬢に覚えのない悪行を並べ立てられた。
「君は、そんな人だったのか…」
王太子は男爵令嬢の言葉を鵜呑みにして…
※ギャグかもしれない
【完結】身代わりとなります
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
レイチェルは素行不良の令嬢として悪名を轟かせている。しかし、それはレイチェルが無知ゆえにいつも失態をしていたためで本人には悪意はなかった。
レイチェルは家族に顧みられず誰からも貴族のルールを教えてもらわずに育ったのだ。
そんなレイチェルに婚約者ができた。
侯爵令息のダニエルだ。
彼は誠実でレイチェルの置かれている状況を知り、マナー講師を招いたり、ドレスを作ってくれたりした。
はじめは貴族然としている婚約者に反発していたレイチェルだったがいつのまにか彼の優しさに惹かれるようになった。
彼のレイチェルへの想いが同情であっても。
彼がレイチェルではない人を愛していても。
そんな時、彼の想い人である隣国の伯爵令嬢フィオラの国で革命が起き、彼女は隣国の貴族として処刑されることが決まった。
そして、さまざまな思惑が交錯する中、レイチェルは一つの決断を下し・・・
*過去と未来が行ったり来たりしながら進行する書き方にチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんがご了承ください。
結婚式をボイコットした王女
椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。
しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。
※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※
1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。
1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)
愛はリンゴと同じ
turarin
恋愛
学園時代の同級生と結婚し、子供にも恵まれ幸せいっぱいの公爵夫人ナタリー。ところが、ある日夫が平民の少女をつれてきて、別邸に囲うと言う。
夫のナタリーへの愛は減らない。妾の少女メイリンへの愛が、一つ増えるだけだと言う。夫の愛は、まるでリンゴのように幾つもあって、皆に与えられるものなのだそうだ。
ナタリーのことは妻として大切にしてくれる夫。貴族の妻としては当然受け入れるべき。だが、辛くて仕方がない。ナタリーのリンゴは一つだけ。
幾つもあるなど考えられない。
家出を決行した結果
棗
恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。
デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。
自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。
※なろうさんにも公開しています。
妖精隠し
棗
恋愛
誰からも愛される美しい姉のアリエッタと地味で両親からの関心がない妹のアーシェ。
4歳の頃から、屋敷の離れで忘れられた様に過ごすアーシェの側には人間離れした美しさを持つ男性フローが常にいる。
彼が何者で、何処から来ているのかアーシェは知らない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる