運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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6 辺境伯領の噴出編

3-0 エルシア、辺境で穴に落ちる

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 その日の夜。

 夜とはいってもまだまだ早い時間で、夕というには暗がりが濃い時間。

 大噴出前の壮行会というか、決起会というか、そんな感じの宴会が始まった。

 通常の大噴出は、突如、発生することがほとんどなので、前夜祭のような宴会をする暇はない。何より、発生する数もけして少なくはないので、大噴出のたびに宴会などしていられない。

 これが、特大規模の大噴出となると話が違ってくる。

 特大規模の大噴出を起こす世界の穴は、やはり特大規模。穴が出来上がるまでに時間がかかる。
 だから、事前に大噴出の穴が開きそうな時期が見立てられると。

 時間がある場合は、万が一に備えて家族や親しい人への別れを含めて、宴会を行うんだそうだ。

 大噴出の現場の偵察では、

『予測がずれたとしても一日程度。早くても明後日、一週間以内には確実に穴が開くと思う』

 と言ったけど、ベイオス閣下の予測通り『三、四日後くらいに起きる』で間違いはないと思う。

 となると、明日の夜からは臨戦態勢。

 今夜くらいは羽目を外して大丈夫そうだと踏んだベイオス閣下が宴会を催したので、城内は人でごった返していた。

 いつもなら楽しいはずの宴会も、今回はかなり制限がある。私に。

 なぜなら、

「エルシア姫ー!、うぁっ」


 ガシッ


「ここがあなたの墓場になりますが、よろしいですね?」

 こういった不届者が参加しているから。

 不届き者の名はギルダー。

 東部辺境伯の息子にして、私に接触したら墓碑銘を刻まれることになっている男。

 グレイは隊長であると同時に、辺境伯の後継でもある。こういった場では、次期辺境伯として行動する必要があった。

 飲んで騒ぐだけの場であっても、辺境伯や次期辺境伯が声をかけたり話を聞いたりするのとしないのとでは、みんなの意気が違うのだそう。

 え? 私はやらなくていいのかって?

 いちおう、グレイの婚約者なので、未来の次期辺境伯夫人てことになるんだけど。

「シアを狙う輩もいるから、安全な場所にいるように」

 と指示を受けていた。

 いや、私一人でも十分大丈夫だと思うんだけど。

 これが表情に出ていたのか、フィリアからは、

「お嬢が安全かどうかも重要ですが、隊長が安心できるかも重要です」

 と、真顔で言い切られ、

「そして、隊長が安心できないと、私たちは安眠できません」

 と、続き、

「安全、安心、安眠ですよ、お嬢」

 と、締めくくられ、あまりの迫力に思わず「はい」と返事をしてしまった。

 私の席は上座の脇の、ルプス隊、通称殲滅隊が集まる席の最奥。
 私の両脇はフィリアとフィリアの同僚の女性騎士、後ろはバルザード卿とバルトレット卿が固めている。

 このガチガチに固められた場所で、目立たないように揚げた芋をもくもくとかじる私。

 もくもくもくもくもく。

 周りは酒杯をあげているというのに、私だけ、またもや果汁。

 解せない。

 私だって、もう、成人なのに。

 でも、抗議したところで待遇は大して変わらない。いや、もっと酷くなるので、そのままおとなしくしている。

 なぜなら、

「じっとしていないと、隊長の膝の上ですからね、お嬢」

「はい」

 嫌な記憶が呼び起こされる。

 十一歳の私は、こういった宴会でグレイの膝の上に乗せられていた。

 言い訳をさせてもらうと、このときは、まだニグラートに慣れておらず、知っている人がグレイだけだったのだ。

 自然とグレイにくっついていた、というか、グレイといっしょの方が安心できたのもあって。その結果、なぜかグレイの隣ではなく、グレイの膝の上に座らせられたわけで。

 十三歳くらいにもなると、だんだんと、子ども扱いのような膝の上が恥ずかしくなる。

 そうして私がグレイの膝の上を拒否するようになると、今度は私に拒否されたグレイが落ち込むようになった。

 すると、落ち込んだグレイの相手をさせられる殲滅隊の騎士たちが、グレイに言葉通り殲滅させられて。

「お嬢、隊長の膝の上に戻ってください」

 と全員から懇願されるという事態にまで発展する。

 結果、

「エルシアちゃんも、もう立派なレディなんだから。ひとりで座れるだろう」

 と、ベイオス閣下が仲裁に入って、無事に一人座りの権利を得られた。

 そもそも、立派なレディでなくても、イスには一人で座れると思う。言わないけど。

 そんな黒歴史のような過去を思い出しながら、もくもくと揚げた鶏肉をかじる私。

 もくもくもくもくもく。

 料理が揚げた何かか、焼いた何かくらいしかない。ムチャクチャ美味しいけど。

 後はお酒。お酒が飲みたい。お酒を飲んでみたい。

 そーっと、フィリアのカップに手を伸ばす。

 フィリアは、立ち上がって飛び込んできた不審者を秒で捕まえ、他の殲滅隊の騎士に引き渡していた。

 この殲滅隊ばかりの席にどうやって潜り込んだんだか。ギルダーは殲滅隊のごつい騎士たちに取り囲まれ、引きずられていく。

 それを仁王立ちで見送るフィリア。

 格好いい。

 じゃない。お酒だ。

 フィリアが完全に背を向けてる今が狙い目だ。

 伸ばした手がフィリアのカップを掴む。

 よしっ。

 カップを胸の前に抱え込むと、キョロキョロと周りを窺った。みんな、自分たちの飲み食いに集中していて、他のことは気にしていなさそうだ。

 よしっ!

 カップをそっと持ち上げて、口を付けようとしたその瞬間。

「あれ?」

 カップが塞がれた。

 私の頭の上から伸びてきた手が、カップの口をガシッと掴んでいる。

「手? 誰の?」

 私はその手を追って、上を見た。なんの心の準備もしないままで。
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