運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

SA

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6 辺境伯領の噴出編

3-2

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 行ける。これは行けそうだ。

 私は無謀にも、そう確信した。ぐっと左手を握りしめる。グレイから見えないところで。

「ねぇ、グレイ。お願い」

 ユリンナ先輩なら、ここで大きな瞳をうるっとさせられる。

 いついかなる時でも、うるうる出来るユリンナ先輩とは違って、私にそんな器用なことは出来なかった。
 困った顔だけでも大変なのに、何かを目から出すなんて、私には難易度が高い。高すぎる。

 そこで思いついたのが、ボディタッチが無理な場合の実例。手をぐーにして、というヤツ。

 ボディタッチは出来ているけど、重ねてやってもきっと問題ないのではないか。

 どうせ、初挑戦なんだ。失敗上等。当たって砕けろ。

 私はグレイの右手に自分の右手を重ねると、空いてる左手は軽く握ってぐーにして、顎にあて口元を隠す仕草。

 そして、グレイの目をひたすらじーっと見つめる。たぶん、これでいいはずだ。

 なのに。

 グレイは顔を背けたかと思ったら、

「ロード、ベントス!」

 大声をあげて、フィリアともう一人の女性騎士を呼んだ。

 最初は私の両隣にいた二人。殲滅隊の酒席に不法侵入したギルダーを遠ざけるため、一時、席を外していたのだ。

「「隊長!」」

 グレイに呼ばれて、あり得ないほどの勢いで戻ってくる。

「シアが危険だから、絶対に、男を近寄らせないように。絶対にな」

「「了解っ!」」

「あと、酒は絶対に飲ませないように。絶対だぞ?」

 そばに戻ってきた二人に、私の警護の強化を命じた。しかも、禁酒令まで発動させた。酷い話だ。
 二人の方は、命を受けキビキビした動きで敬礼をする。顔が真顔だ。

 そのまま、グレイは立ち上がると、顔に手を当てて立ち去ってしまう。

「えっ!」

 お酒を飲ませるな?!

 違う! なんでそうなるの?!

 グレイが取り上げたフィリアのカップはフィリアの手に戻り、私の手にはグレイが残していった私のカップ。果汁入りの。

 失敗だ。失敗した。

 肩が落ちて、がっくりする。

 私の初挑戦。見事に砕け散った。

「ユリンナ先輩、すみません。先輩のコワカワな弟子は、先輩直伝のかわいいお願いに失敗しました」

「お嬢、何か言いましたか?」

 フィリアともう一人、モニカ・ベントスという名の女性騎士に両脇を固められ、カップに新しい果汁を注がれる私。

 違う。果汁じゃない。私はお酒が飲みたいのに。

 みんなが楽しくお酒を飲んで、ワイワイやっているのに、私だけ果汁。私だけ仲間外れにされているようで、子どもの時から嫌だったんだ。
 まぁ、十五歳までの私なら仕方がない。子どもだから。未成年だから。

 だから、十六歳の私になったら、大人になったら、成人したら、みんなと同じようにお酒を飲んで、みんなとワイワイやってやるんだ。

 そう思っていた。

 それが、十六歳の私になっても、十五歳の私の扱いのまま。

 まったくもって、理解できない。

 お酒のカップを持つフィリアとモニカを見て、うらやましい気持ちでいっぱいになる。

 そう言えば、グレイはフィリアには優しい。いつも何か二人で話しているし。私には話の内容を教えてくれないし。

「ねぇねぇ、フィリアは何歳からお酒、飲んでるの?」

「さぁ。訓練が忙しくて。よく覚えていません」

 フィリアの低い声が私の耳に聞こえてくる。

「モニカは?」

「私もです。殲滅隊の女性は後方支援なので、こういった場でのお酒は初めてです」

 モニカは年相応なかわいらしい声で、説明してくれた。

「なるほどね」

 私は何かに気づく。

「グレイにそう言えって、言われたんでしょ。グレイ、意地悪だから」

「お嬢。隊長はお嬢を心配して、言ってるんですよ」

「もう、いい」

 むくれる私。

 ともあれ、むくれても何をしても、私は果汁しか飲めない。周りのみんなは楽しそうなのに。

 立ち上がって、イスの後ろの狭い隙間を通ろうとしたところで、ギギッとイスが動いた。

「お嬢、どこに行くんですか?」

「帰る」

「どこに?」

「自分の部屋。私だけ、お酒を飲ませてもらえないから、ちっともおもしろくない」

 会場の外まで行けば、おもしろくない気持ちも少しすっきりするだろうから。

「それなら、隊長を呼んできますので、お待ちください」

「一人でいい」

「ダメです」

 フィリアが通路を塞ぐ形となって、先に行けない。グレイなんて呼ばなくてもいいのに。そもそも、グレイになんか会いたくない。

「私がいないところで、フィリアがグレイと仲良くしてればいいでしょ」

「お嬢。なんで、そうなるんですか」

「そこをどいて。通れない」

「お嬢、お酒を飲ませてもらえないくらいで、そんなに拗ねないでください」

 おもしろくないから帰るでいいのに。

 でも、本当はそんな考えでは、いけないんだろうな。

 私だって分かっている。この宴会は大噴出に立ち向かう騎士たちのための物だってことを。

 もしかしたら、ケガをするかも知れないし命を落とすかも知れない。

 大噴出の処理の成功を祈って、みんなの無事を祈っての宴会だから、トップのベイオス閣下も後継のグレイも、あちこちのテーブルに顔を出していた。

 グレイのパートナーである私も同じことをしないといけないはずだけど。まだ若年の私は、参加するだけでいいと二人から言われている。

 つまり、いてもいなくても、どちらでもいいんだ。

「《クラヴィス、手伝ってくれる?》」

《任せろ、主》

 私は二本目の杖、鍵穴のクラヴィスに呼びかけた。ここから消えるのに、クラヴィスの力を借りよう。

「《認識阻害》」

《転移》

 私とクラヴィスの魔導語が重なる。

 一瞬、視界がぼやっとして、すぐに戻ると、私が元いた場所からテーブルの端にまで移動していた。

 認識阻害をかけるのは、移動の瞬間を見られないため。

 パッと消えて、別の場所に突然ふっと現れる。そんな魔法を使っているのが見つかれば、注目されること間違いなし。こっそり抜け出すどころではなくなってしまう。

 認識阻害をかけておけば、いつの間にか目の前からいなくなって、いつの間にか他の場所に現れたように見えるので、誤魔化すのにちょうど良かった。

 チラッと元いた席を見ると、フィリアとモニカ、そして他の護衛二人ともに慌てた様子。

 予想通り、フィリアは何が起きたか分からない。私も護衛を振り切れて、自由に出来る。

「うまくいった」

《だな》

 私がほくそ笑んで、宴会場の出入り口を目指そうとしたとき、

「エルシアちゃん、何がうまくいったのかな?」

 予想外の人物に声をかけられた。
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