347 / 573
6 辺境伯領の噴出編
3-3
しおりを挟む
「ははぁ。つまり、エルシアちゃんは寂しかったんだなぁ」
私は見事に捕まっていた。
「でもなぁ、エルシアちゃん。エルシアちゃんはお酒を飲み慣れていないだろう?」
北部辺境領のトップ、ベイオス閣下に。
「お酒は飲み慣れてないと、大変な事故を起こすことがあるんだよ」
そして、説教をされている。
「特大の大噴出の直前にさ、エルシアちゃんに何かあっては、おじさんも困っちゃうんだよな。
だから、ここは一つ、おじさんと領民のためにお酒は我慢してもらえないかな?」
もの凄く申し訳なさそうな顔で、懇願してくるベイオス閣下。
そんなことを言われて、嫌だとか言えるわけがない。
私もそこまで子どもっぽいことをするつもりはなかったので、
「はい」
と、おとなしく返事をする。
ここはもう仕方がない。お酒も自分の部屋に戻るのも諦めて、ベイオス閣下のお叱りを受けるしかない。
私の返事を聞き、目を細めてうんうん頷くベイオス閣下。
「この埋め合わせはちゃんとするから、グレイが」
パチンと片目をつぶり、さり気なく、後始末をグレイに押しつけるところはさすがだった。
ふふっと思わず笑うと、ベイオス閣下もいっしょになって笑ってくれる。
「良かった良かった。エルシアちゃん、元気なさそうだったから」
ベイオス閣下に声をかけられた後、私が連れてこられたのは、ベイオス閣下の席の隣で、騎士団の上級職の人たちが集うテーブルだった。もちろん、私も面識はある。
このテーブルも他と同じく、酒杯を掲げて盛り上がっていた。
ベイオス閣下にまでも、お酒はダメと言われてしまったので、
やっぱり私だけ果汁なのかな。
と思った私の目の前に置かれたのは、果汁と似ている飲み物。
ガラスのカップに入ったそれは、果汁と色味は同じで少し薄め。大きな違いはシュワシュワと小さな泡が後から後から湧き出していること。
「果汁に炭酸水を入れてもらったんだ」
「炭酸水?」
聞き慣れない言葉に首を傾げる。
ベイオス閣下や周りの上級職のおじさんたちが、自分たちのカップを持ち上げて見せてくれた。
おじさんたちのカップもシュワシュワとしている。
「シュワシュワしているのが炭酸だよ。果実酒はそのままでもいいんだが、氷を入れて水や炭酸水で薄めると、スッキリ飲めるんだよ」
「へー」
私は自分のカップを手にとって眺める。
おじさんたちと見た目はまったく同じで、私のだけ区別するためかレモンの輪切りがカップの縁に刺さっていた。
一口飲む。
「あ」
「口の中に刺激がくるだろ? もちろん、エルシアちゃんのは果汁の炭酸水割りだけどな」
「ベイオス閣下、ありがとうございます」
私は嬉しくなった。
炭酸水のシュワシュワがさきほどまでの嫌な気持ちを、どこかに吹き飛ばしてくれたような、そんな感じだった。
閣下が『スッキリ飲める』と言っていたとおり、後味もスッキリだし、気持ちもスッキリ。とても爽快な気分だ。
「グレイアドももう少し、頭が柔らかかったらな」
「だなぁ。エルシアちゃん、これだけでこんなに喜んでくれるのになぁ」
「まぁ、あの堅さがあるからこそ、討伐隊長を務められるんだろうな」
ベイオス閣下と周りのおじさんたちは、グレイの話題でなにやら盛り上がりを見せる。
グレイの悪口というよりは、たしなめたり、いさめたりするような内容なので、私もおもしろく聞いていた。
私にとってグレイは年長者でも、おじさんたちにとっては若輩者。
おじさんたちはグレイの実力や功績は認めつつ、足りないところやダメなところを遠慮なくさらして、笑い飛ばしている。
いい。気分がいい。とてもいい。
私は自分のカップを両手で抱えてチビチビとシュワシュワを堪能しながら、おじさんたちの会話に耳を傾けた。
あまりの気分の良さに、この時の私はすっかり忘れていた。
私がなんで、ベイオス閣下の隣に座っているのかを。
そして、私が自室に帰る宣言をして、突然、自分の席から消え失せた後、フィリアやモニカ、そしてその他の私の護衛や殲滅隊の隊員たちがどういう状況に陥ったのかを。
ベイオス閣下とその周りの上級職のおじさんたちの話は、まだまだ続く。
私も二杯目の果汁の炭酸水をもらって、いっしょになって笑っていた。
すると、意外と近くから笛の音色。
上級職のおじさんたちのテーブルの端の私から一番遠い席で、誰かが演奏し始めたようだ。それとも、おじさんたちから何かリクエストでもあったのだろうか。
演奏し始めたのは言うまでもなく、アルブレートのギルダーだった。
白銀の横笛、シビルスを手に明るく澄んだ音色を披露している。一曲終わると今度は歌だ。
ギルダーは私に魔法の歌を使った前歴がある。
後から聞いた話では、魅了をするような物だったらしい。けれども、私にはせんぜん効かず、逆に私に制圧されて終わりになった。
それ以降は、歌や音楽は奏でても魔力を乗せることはなかったので、私もとくに警戒はしていなかったけれど。念には念をと思って、杖たちに見張らせておくことにする。警戒しておけば、万が一の時に対処もしやすくなるわけだから。
そんな軽い気持ちで指示した見張りが、別の意味で役に立つことになる。
ギルダーの歌が二曲目に入ろうとしたそのとき。
《主! 避けろ!》
突然、クラヴィスからの鋭い警告。
「え?」
ギルダーは遠くの見えるところにいるし、周りに不審な人物もいないし、魔力反応もないし。なのに、何を避けろ?
躊躇したせいで、私の反応が少しだけ遅くなる。
そして、あっと思ったときには最悪な状況になっていた。
私は見事に捕まっていた。
「でもなぁ、エルシアちゃん。エルシアちゃんはお酒を飲み慣れていないだろう?」
北部辺境領のトップ、ベイオス閣下に。
「お酒は飲み慣れてないと、大変な事故を起こすことがあるんだよ」
そして、説教をされている。
「特大の大噴出の直前にさ、エルシアちゃんに何かあっては、おじさんも困っちゃうんだよな。
だから、ここは一つ、おじさんと領民のためにお酒は我慢してもらえないかな?」
もの凄く申し訳なさそうな顔で、懇願してくるベイオス閣下。
そんなことを言われて、嫌だとか言えるわけがない。
私もそこまで子どもっぽいことをするつもりはなかったので、
「はい」
と、おとなしく返事をする。
ここはもう仕方がない。お酒も自分の部屋に戻るのも諦めて、ベイオス閣下のお叱りを受けるしかない。
私の返事を聞き、目を細めてうんうん頷くベイオス閣下。
「この埋め合わせはちゃんとするから、グレイが」
パチンと片目をつぶり、さり気なく、後始末をグレイに押しつけるところはさすがだった。
ふふっと思わず笑うと、ベイオス閣下もいっしょになって笑ってくれる。
「良かった良かった。エルシアちゃん、元気なさそうだったから」
ベイオス閣下に声をかけられた後、私が連れてこられたのは、ベイオス閣下の席の隣で、騎士団の上級職の人たちが集うテーブルだった。もちろん、私も面識はある。
このテーブルも他と同じく、酒杯を掲げて盛り上がっていた。
ベイオス閣下にまでも、お酒はダメと言われてしまったので、
やっぱり私だけ果汁なのかな。
と思った私の目の前に置かれたのは、果汁と似ている飲み物。
ガラスのカップに入ったそれは、果汁と色味は同じで少し薄め。大きな違いはシュワシュワと小さな泡が後から後から湧き出していること。
「果汁に炭酸水を入れてもらったんだ」
「炭酸水?」
聞き慣れない言葉に首を傾げる。
ベイオス閣下や周りの上級職のおじさんたちが、自分たちのカップを持ち上げて見せてくれた。
おじさんたちのカップもシュワシュワとしている。
「シュワシュワしているのが炭酸だよ。果実酒はそのままでもいいんだが、氷を入れて水や炭酸水で薄めると、スッキリ飲めるんだよ」
「へー」
私は自分のカップを手にとって眺める。
おじさんたちと見た目はまったく同じで、私のだけ区別するためかレモンの輪切りがカップの縁に刺さっていた。
一口飲む。
「あ」
「口の中に刺激がくるだろ? もちろん、エルシアちゃんのは果汁の炭酸水割りだけどな」
「ベイオス閣下、ありがとうございます」
私は嬉しくなった。
炭酸水のシュワシュワがさきほどまでの嫌な気持ちを、どこかに吹き飛ばしてくれたような、そんな感じだった。
閣下が『スッキリ飲める』と言っていたとおり、後味もスッキリだし、気持ちもスッキリ。とても爽快な気分だ。
「グレイアドももう少し、頭が柔らかかったらな」
「だなぁ。エルシアちゃん、これだけでこんなに喜んでくれるのになぁ」
「まぁ、あの堅さがあるからこそ、討伐隊長を務められるんだろうな」
ベイオス閣下と周りのおじさんたちは、グレイの話題でなにやら盛り上がりを見せる。
グレイの悪口というよりは、たしなめたり、いさめたりするような内容なので、私もおもしろく聞いていた。
私にとってグレイは年長者でも、おじさんたちにとっては若輩者。
おじさんたちはグレイの実力や功績は認めつつ、足りないところやダメなところを遠慮なくさらして、笑い飛ばしている。
いい。気分がいい。とてもいい。
私は自分のカップを両手で抱えてチビチビとシュワシュワを堪能しながら、おじさんたちの会話に耳を傾けた。
あまりの気分の良さに、この時の私はすっかり忘れていた。
私がなんで、ベイオス閣下の隣に座っているのかを。
そして、私が自室に帰る宣言をして、突然、自分の席から消え失せた後、フィリアやモニカ、そしてその他の私の護衛や殲滅隊の隊員たちがどういう状況に陥ったのかを。
ベイオス閣下とその周りの上級職のおじさんたちの話は、まだまだ続く。
私も二杯目の果汁の炭酸水をもらって、いっしょになって笑っていた。
すると、意外と近くから笛の音色。
上級職のおじさんたちのテーブルの端の私から一番遠い席で、誰かが演奏し始めたようだ。それとも、おじさんたちから何かリクエストでもあったのだろうか。
演奏し始めたのは言うまでもなく、アルブレートのギルダーだった。
白銀の横笛、シビルスを手に明るく澄んだ音色を披露している。一曲終わると今度は歌だ。
ギルダーは私に魔法の歌を使った前歴がある。
後から聞いた話では、魅了をするような物だったらしい。けれども、私にはせんぜん効かず、逆に私に制圧されて終わりになった。
それ以降は、歌や音楽は奏でても魔力を乗せることはなかったので、私もとくに警戒はしていなかったけれど。念には念をと思って、杖たちに見張らせておくことにする。警戒しておけば、万が一の時に対処もしやすくなるわけだから。
そんな軽い気持ちで指示した見張りが、別の意味で役に立つことになる。
ギルダーの歌が二曲目に入ろうとしたそのとき。
《主! 避けろ!》
突然、クラヴィスからの鋭い警告。
「え?」
ギルダーは遠くの見えるところにいるし、周りに不審な人物もいないし、魔力反応もないし。なのに、何を避けろ?
躊躇したせいで、私の反応が少しだけ遅くなる。
そして、あっと思ったときには最悪な状況になっていた。
43
あなたにおすすめの小説
彼の過ちと彼女の選択
浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。
そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。
一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。
【完結】身代わりとなります
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
レイチェルは素行不良の令嬢として悪名を轟かせている。しかし、それはレイチェルが無知ゆえにいつも失態をしていたためで本人には悪意はなかった。
レイチェルは家族に顧みられず誰からも貴族のルールを教えてもらわずに育ったのだ。
そんなレイチェルに婚約者ができた。
侯爵令息のダニエルだ。
彼は誠実でレイチェルの置かれている状況を知り、マナー講師を招いたり、ドレスを作ってくれたりした。
はじめは貴族然としている婚約者に反発していたレイチェルだったがいつのまにか彼の優しさに惹かれるようになった。
彼のレイチェルへの想いが同情であっても。
彼がレイチェルではない人を愛していても。
そんな時、彼の想い人である隣国の伯爵令嬢フィオラの国で革命が起き、彼女は隣国の貴族として処刑されることが決まった。
そして、さまざまな思惑が交錯する中、レイチェルは一つの決断を下し・・・
*過去と未来が行ったり来たりしながら進行する書き方にチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんがご了承ください。
婚約破棄でお願いします
基本二度寝
恋愛
王太子の婚約者、カーリンは男爵令嬢に覚えのない悪行を並べ立てられた。
「君は、そんな人だったのか…」
王太子は男爵令嬢の言葉を鵜呑みにして…
※ギャグかもしれない
結婚式をボイコットした王女
椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。
しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。
※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※
1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。
1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)
愛はリンゴと同じ
turarin
恋愛
学園時代の同級生と結婚し、子供にも恵まれ幸せいっぱいの公爵夫人ナタリー。ところが、ある日夫が平民の少女をつれてきて、別邸に囲うと言う。
夫のナタリーへの愛は減らない。妾の少女メイリンへの愛が、一つ増えるだけだと言う。夫の愛は、まるでリンゴのように幾つもあって、皆に与えられるものなのだそうだ。
ナタリーのことは妻として大切にしてくれる夫。貴族の妻としては当然受け入れるべき。だが、辛くて仕方がない。ナタリーのリンゴは一つだけ。
幾つもあるなど考えられない。
家出を決行した結果
棗
恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。
デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。
自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。
※なろうさんにも公開しています。
妖精隠し
棗
恋愛
誰からも愛される美しい姉のアリエッタと地味で両親からの関心がない妹のアーシェ。
4歳の頃から、屋敷の離れで忘れられた様に過ごすアーシェの側には人間離れした美しさを持つ男性フローが常にいる。
彼が何者で、何処から来ているのかアーシェは知らない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる