運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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6 辺境伯領の噴出編

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「ははぁ。つまり、エルシアちゃんは寂しかったんだなぁ」

 私は見事に捕まっていた。

「でもなぁ、エルシアちゃん。エルシアちゃんはお酒を飲み慣れていないだろう?」

 北部辺境領のトップ、ベイオス閣下に。

「お酒は飲み慣れてないと、大変な事故を起こすことがあるんだよ」

 そして、説教をされている。

「特大の大噴出の直前にさ、エルシアちゃんに何かあっては、おじさんも困っちゃうんだよな。
 だから、ここは一つ、おじさんと領民のためにお酒は我慢してもらえないかな?」

 もの凄く申し訳なさそうな顔で、懇願してくるベイオス閣下。

 そんなことを言われて、嫌だとか言えるわけがない。
 私もそこまで子どもっぽいことをするつもりはなかったので、

「はい」

 と、おとなしく返事をする。

 ここはもう仕方がない。お酒も自分の部屋に戻るのも諦めて、ベイオス閣下のお叱りを受けるしかない。

 私の返事を聞き、目を細めてうんうん頷くベイオス閣下。

「この埋め合わせはちゃんとするから、グレイが」

 パチンと片目をつぶり、さり気なく、後始末をグレイに押しつけるところはさすがだった。

 ふふっと思わず笑うと、ベイオス閣下もいっしょになって笑ってくれる。

「良かった良かった。エルシアちゃん、元気なさそうだったから」




 ベイオス閣下に声をかけられた後、私が連れてこられたのは、ベイオス閣下の席の隣で、騎士団の上級職の人たちが集うテーブルだった。もちろん、私も面識はある。

 このテーブルも他と同じく、酒杯を掲げて盛り上がっていた。

 ベイオス閣下にまでも、お酒はダメと言われてしまったので、

 やっぱり私だけ果汁なのかな。

 と思った私の目の前に置かれたのは、果汁と似ている飲み物。

 ガラスのカップに入ったそれは、果汁と色味は同じで少し薄め。大きな違いはシュワシュワと小さな泡が後から後から湧き出していること。

「果汁に炭酸水を入れてもらったんだ」

「炭酸水?」

 聞き慣れない言葉に首を傾げる。

 ベイオス閣下や周りの上級職のおじさんたちが、自分たちのカップを持ち上げて見せてくれた。

 おじさんたちのカップもシュワシュワとしている。

「シュワシュワしているのが炭酸だよ。果実酒はそのままでもいいんだが、氷を入れて水や炭酸水で薄めると、スッキリ飲めるんだよ」

「へー」

 私は自分のカップを手にとって眺める。

 おじさんたちと見た目はまったく同じで、私のだけ区別するためかレモンの輪切りがカップの縁に刺さっていた。

 一口飲む。

「あ」

「口の中に刺激がくるだろ? もちろん、エルシアちゃんのは果汁の炭酸水割りだけどな」

「ベイオス閣下、ありがとうございます」

 私は嬉しくなった。

 炭酸水のシュワシュワがさきほどまでの嫌な気持ちを、どこかに吹き飛ばしてくれたような、そんな感じだった。

 閣下が『スッキリ飲める』と言っていたとおり、後味もスッキリだし、気持ちもスッキリ。とても爽快な気分だ。

「グレイアドももう少し、頭が柔らかかったらな」

「だなぁ。エルシアちゃん、これだけでこんなに喜んでくれるのになぁ」

「まぁ、あの堅さがあるからこそ、討伐隊長を務められるんだろうな」

 ベイオス閣下と周りのおじさんたちは、グレイの話題でなにやら盛り上がりを見せる。

 グレイの悪口というよりは、たしなめたり、いさめたりするような内容なので、私もおもしろく聞いていた。

 私にとってグレイは年長者でも、おじさんたちにとっては若輩者。
 おじさんたちはグレイの実力や功績は認めつつ、足りないところやダメなところを遠慮なくさらして、笑い飛ばしている。

 いい。気分がいい。とてもいい。

 私は自分のカップを両手で抱えてチビチビとシュワシュワを堪能しながら、おじさんたちの会話に耳を傾けた。

 あまりの気分の良さに、この時の私はすっかり忘れていた。

 私がなんで、ベイオス閣下の隣に座っているのかを。

 そして、私が自室に帰る宣言をして、突然、自分の席から消え失せた後、フィリアやモニカ、そしてその他の私の護衛や殲滅隊の隊員たちがどういう状況に陥ったのかを。




 ベイオス閣下とその周りの上級職のおじさんたちの話は、まだまだ続く。

 私も二杯目の果汁の炭酸水をもらって、いっしょになって笑っていた。

 すると、意外と近くから笛の音色。

 上級職のおじさんたちのテーブルの端の私から一番遠い席で、誰かが演奏し始めたようだ。それとも、おじさんたちから何かリクエストでもあったのだろうか。

 演奏し始めたのは言うまでもなく、アルブレートのギルダーだった。

 白銀の横笛、シビルスを手に明るく澄んだ音色を披露している。一曲終わると今度は歌だ。

 ギルダーは私に魔法の歌を使った前歴がある。
 後から聞いた話では、魅了をするような物だったらしい。けれども、私にはせんぜん効かず、逆に私に制圧されて終わりになった。

 それ以降は、歌や音楽は奏でても魔力を乗せることはなかったので、私もとくに警戒はしていなかったけれど。念には念をと思って、杖たちに見張らせておくことにする。警戒しておけば、万が一の時に対処もしやすくなるわけだから。

 そんな軽い気持ちで指示した見張りが、別の意味で役に立つことになる。

 ギルダーの歌が二曲目に入ろうとしたそのとき。

《主! 避けろ!》

 突然、クラヴィスからの鋭い警告。

「え?」

 ギルダーは遠くの見えるところにいるし、周りに不審な人物もいないし、魔力反応もないし。なのに、何を避けろ?

 躊躇したせいで、私の反応が少しだけ遅くなる。

 そして、あっと思ったときには最悪な状況になっていた。
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