運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

SA

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6 辺境伯領の噴出編

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 グレイの宣戦布告を受けて、アルブレート側は続々と人が集まり始めた。

 今までどこにいたのか、首を傾げたくなるような人数が草むらから現れては、倒れている人たちに肩を貸したり、担架で運んでいったりして回収していく。

 その傍らで、新たな騎士や兵士たちが戦いの準備であろうか、草を刈ったり足場を固めたりと、様々な準備を始めていた。

「あの人たち、どこに隠れてたのかなぁ」

「あのな、主。そんなことを気にしている場合か?」

 これから戦争が始まるというのに、私の質問が呑気すぎたのか、セラフィアスが呆れた口調で聞き返してくる。

 そんなこと言われても、暇だし。

 グレイが大変!だと言われて大急ぎでやってきても、やることはなくただ見てるだけ。
 しかも、私がいるのは相変わらず、城門の真上の見張り場のようなところ。

 ここからあちこち眺めてはいるけど、相変わらず、こちら側の騎士や兵士の姿は見えないし、城門も開く気配がない。

 セラフィアスから、視界に入ってないところ云々とお説教めいたことを言われたので、頑張ってあちこち眺めてはみてる。

 注意深く眺めてみても、何か変わったことがあるわけでもなく、何かコツがあるんじゃないかと思い始めたとき、私はあることを思いついた。

「ねぇ。私も下に降りちゃダメ?」

 そう。

 視界に入ってない部分を、実際に視界に入れてみて、違いを体験してみればいいんだ。

 十三歳の私にしては、良い考えが思いついたと思う。うん。

 良い考えを思いついたことで、私の頭の中はすっきりと晴れ渡った空のような感じになった。そんな私とは正反対に、侍女さんたちはどんよりと湿っぽい灰色の空のような表情。

「エルシア様、城門は閉門指示が出ていると思います」

 申しわけなさそうに重い口を開く。

 そうだね。

 さきほどから城門は開閉してないから。きっと閉門指示、つまり、門を閉ざせ門は開けるな、と指示が出てるんだろうね。

 うん、でも、それと私が下に降りることと、どう関係するんだろう?

 それに城門の指示を確認したわけでもないのに、どうしてそんな返事がやってくるのかも理解できなかった。

 単刀直入で聞いてみる。

「下に降りて良いか聞いてるのに、なんで閉門指示の話が出てくるの?」

 侍女さんたちのどんよりとした顔はそのままで、さっと聞きたい内容が返ってきた。

「エルシア様の『下に降りる』は『城門の外に出る』という意味ですよね?」

「エルシア様、城門を開くことは出来ないんです」

「あぁ、そういうことか」

 侍女さんたちは優秀だったのだ。
 私の質問の意図をくんで、一歩先の答えを伝えるほどに。

 私がニグラートに所属して二年。

 普段は王都にいて、合間合間に、グレイに連れられてニグラートに戻って来るという生活を続けているにも関わらず、侍女さんたちは私の意志や意図をしっかりと把握している。

 ただ、私を理解するにはまだ足りなかった。

「あなたたちは、私を外に出すなと命じられてるの?」

「「いいえ」」

 そう。

 私が本当に聞きたかったのはこちらの質問と答え。

 外に出すなとは言われてない。つまり、外に出ても良いってことだ。

「それなら、下に降りてもいいよね」

 私の言葉に、侍女さんたちは戸惑いを隠せない様子。

 無視して、私は見張り場の石造りの目隠しの上によじ登り始めた。

 見張り場の目隠しの壁は、縦に細長い形をした覗き穴が作られている。
 覗き穴は高いところと低いところ、交互に設置されていて、低い方はちょうど私が覗くのにちょうどいい高さ。

 この程度、よじ登るのは造作もない。

 スカートだけど。

 私はまず、低い方に右足をかけて、ぐいっと一気に身体を持ち上げた。
 次に、高い方に左手と左足を伸ばす。足がかかるとこれまた、ぐいっとやって身体を移動させる。

 高い方の覗き穴を足場にして立つと、目隠しの壁の上から城門の外が見えた。

「よっ、と」

 今度は、目隠しの上に手をかけて、ぐいっと身体を持ち上げ足をかけると、そのまま、壁をまたいで座るような形になる。

 意外と風が強い。

 髪が煽られ、スカートの裾がパタパタするのを押さえながら、下を見ると、さらに眺めはよくなった。

 下を見る私の隣からセラフィアスの声。

「主。こいつらが困ってるぞ?」

 強風に煽られることもなく、セラフィアスは壁の上に両足を乗せ立っている。

 杖精は風の影響を受けないようで、髪の毛一本たりとも動きがない。まるで、セラフィアスだけどこか別の世界にいるかのよう。

 そのセラフィアスの視線が向かう先は、私とは逆に城門の内側。視線をたどった先にいるのは、侍女さんたちだ。

 どんよりした顔が恐々とした顔になっている。

 どうやら、私が心配らしい。

 ここはニコッと笑って安心させてあげないと。

「大丈夫。ここから飛び降りれば、城門が開かなくても下に行けるから!」

「「エルシア様っ!」」

「いや、こいつら。そういう心配はしてないと思うけどなぁ」

 地面まではかなりの高さがあるけど、この前、セラフィアスと特訓した低速化の魔法陣を応用させれば、ふわっと地面に降りられるはず。

 ふわっとはあくまでも、私の頭の中のイメージ。

 このイメージをどこまで具体的に描けるかが魔法の具現化には重要で、イメージした通りに魔法陣へと落とし込んで作り上げていく。

 魔法陣を作り上げるルーチンも重要なんだとか。お決まりの動きをすることで集中力が上がり、速やかに魔力が練りあがる。

 学院の講義ではそんな話は一言も出てこないので、おそらく、セラフィアスたちの独自理論なんじゃないかと、私は推測していた。

 実際、セラフィアスの言うとおりにすると、魔法陣も魔法もうまい具合にさくさく上達していくし。

 私はセラフィアスの独自理論に従って、頭の中のイメージのまま魔法陣を組み上げる。

 私のルーチンは単純な物。

 右手の人差し指をピンと立て、空中にくるりと円を描くだけ。

 描いた円が、魔法陣の外側のサークルとなり、円の外側から内側へと中身があっという間に埋まっていく。

 通常は内側から外側に向けて、魔法陣は組み上がるんだそうだけど、私の場合は最初に外周のサークルを描いてしまうせいか、通常とは反対の出来上がり方。

 なんともひねくれている。

 組み上がった魔法陣を見て、私は静かに笑った。

 ひねくれていようが出来上がりは完璧。

 私は指先に出来上がった小さな小さな魔法陣に息を吹きかけてから、足場を蹴って宙に舞った。
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