運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

SA

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6 辺境伯領の噴出編

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 グギュュュュュュュュュ


 まったくもって理解しがたい状況に、私は襲われていた。

 具体的に言うと、ベッドに寝た状態の私の上にグレイが乗っかり、上からギュウギュウと抱き締めていると。

 私の体重の倍近くあるグレイの体重が、もろに上からのし掛かってくる。

 ヤバい。

 しかも、位置も悪い。

 グレイが自分の胸に私の頭を押し付けて、掻きいだくようにしているため、私の呼吸が止まっている。

 もちろん、呼吸が止まるとは言っても、完全に停止しているわけではなくて。
 鼻も口もグレイのシャツの胸の部分にギューーーーッと押しつけられているため、布越しの空気をわずかに吸って、生き延びているという。

 そんなわずかな空気で足りるのか、足りるわけがない。

 ヤバい。死ぬ。窒息死だ。

「モガモガガガガ」

 私は自由になる腕と足をジタバタさせて、もがいた。物理で勝てるとは思っていないにしても、このままでは昇天する。

 頭も左右に振って、と思ったのに、後頭部ががっしりと固定されていて、ピクリともしない。これは本気でマズい。

「今度こそ、絶対に逃がさない」

 なんか、怖いことを呟いてるし!

 背中がゾクッとする。

 私は訳が分からなくなっていた。

 グレイとケンカして、ろくに口も聞いてなかったのは事実だ。

 私と婚約してるから、グレイがフィリアと結婚できないことも理解している。
 だから、後ろ盾が必要なくなったら喜んで婚約解消に応じるつもりだ。

 穴に吸い込まれたのは、グレイとフィリアを庇ってのこと。
 私やグレイが吸い込まれてもどうってことないけど、フィリアが吸い込まれたら大変だったと思う。

 窒息死させられるほど、悪いことはしてないのに。

「モガモガガガガ」

 ヤバい。苦しい。死ぬ。

 私が息苦しさで、意識が朦朧としてきたところに、

「おい、そこまでにしろ。極悪魔剣士!」


 ガバッ


 グレイが私から乱暴に引き剥がされた。

 あぁ。生き返る。

「息が吸えるって、最高」

「主も主だよ。おとなしく絞め殺されるなんて」

 いや、物理的に無理だから。グレイから逃れるのって。

 私はベッドから半身を起こし、声のする方を向く。

 黒髪金眼の十歳くらいの少年が、床に倒れるグレイを足蹴にして、プンスカ怒りまくっていた。

 私のピンチにセラフィアスが助けてくれたようだ。もっと早く助けてくれても良かったのに、と思わなくもない。

「誰が絞め殺すか。人聞きの悪い」

 床に倒れたグレイが、頭に手をやり立ち上がった。蹴られた拍子に元々座っていたイスも吹き飛んでいたので、立ち上がると同時にイスも元に戻している。

 私は大きく息を吸って吐くと、身体の中が新鮮な空気で満たされていくのを感じた。

 数分前までは、グレイに本気で殺されるかと思って、何もかも考えられなかったのに。気持ちが落ち着いてくると、頭の中も落ち着いてきた。

「逃げ出そうと、頑張ってはみたわ」

「転移すれば良かっただろ。なんだかんだ言って、主は極悪魔剣士に襲われたいんだよな」

「そんな趣味、ないから!」

 クラヴィスの酷い言いがかりに、私は声を張り上げて反論する。

 あ、意外と普通に大声が出る。

「なんだ。それなら、そう言ってくれればシアの趣味に全力で合わせたのに」

 どういうわけか、グレイは頬を赤くして恥ずかしそうにつぶやいた。

「だから、襲われる趣味はないからね!」

 ここでキッパリと否定しておかないと、変な方向にグレイは暴走する。変な方向に突っ走られても困るんだけど。

 私がじーーーっと見ていると、グレイもようやく正気に戻ったようだ。

「でも、意識が戻って本当に良かった」

 私の意識より、自分の正気を心配してもらいたいわ。

「二日間も意識が戻らなかったんだ。このまま、シアが目を覚まさないんじゃないかと、心配で心配で」

 グレイは立ったまま、私の頭を撫でた。

 いい子いい子と小さい子どもの頭を撫でるようにではなく、大切な宝物を優しく愛でるように。

 グレイの黒眼は真っ直ぐに私に向かい、今にも泣きそうな表情になっている。

「グレイ」

 私は、グレイにたくさん心配をかけてしまったんだ。なのに、グレイは心配するだけで、私を責めるようなことは一切、言わなかったのだ。

 グレイの行動には必ず、私の安全と安心がついて回る。早合点したり勘違いしたりすることも、もちろんあるけど、それは私が危険にさらされないようにするため。

 宴会の席だって、お酒のことだって、グレイはグレイなりに私を慮っていた。そんなことは百も分かっていたのに。

 子ども扱いされているとか、仲間外れにされているとか、意地悪だからとか。どうして、そんなひねくれたことしか考えられなかったのだろう、過去の私。

 そんなことを考えていると、胸の奥がつかえて何かがこみ上げてくる。

 私の頭を撫でるグレイの手に、私は自分の手を重ねた。

 ありきたりの言葉だけれど、私を心配してくれてありがとう、とグレイに伝えよう。

 そう思って私が口を開こうとした瞬間、セラフィアスが私より先に口を開いた。

「あー、主。実はな…………」

 この後、私はとんでもない話を聞かされることになる。
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