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7 王女殿下と木精編
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デルティ殿下の授業の見張りが終わった後。
私はフィリアたちを連れて、車でニグラートのタウンハウスに戻っていた。
ストーカー被害に遭わないようにと、いつもは私だけタウンハウスに戻り、フィリアたちは官舎で過ごす。タウンハウスに行き来する手段も、車を使ったり転移魔法を使ったりといろいろ。
フィリアたちは、タウンハウスへ帰る私を見送った後は官舎でゆっくりしたりと、自分の時間を楽しめるようになっている。
ところが。
今日に限っては、全員でタウンハウスに向かっていた。
なぜなら、グレイが王都のタウンハウスにやってくるから。
王城からタウンハウスに帰る車は、指定の駐車場に待っていた。
ニグラート辺境伯家の車は馬の魔獣と軍馬を交配させたものだそうで、力もスピードも通常の軍馬以上のもの。
新リテラ王国に行くときの大型車が使っていた特殊な軍馬と同じ種類だそうだ。
うん、そんな知識つけてもどうにもならないけど。
「最近は、魔導車が増えてるようですね」
「そうみたいだね」
「お嬢も開発に関わってるんですか?」
「いや、ぜんぜん」
魔導車とは、馬などの生き物で動かすのではなく、魔石や魔力結晶を動力として動かす車のこと。魔導具の一種だ。
魔導具開発は王宮魔術師団が中心になっていて、魔塔と学院の研究機関も開発に参加している。騎士団所属の私が関われる部分ではない。
ところが、共同開発していた三団体が、意見の相違で分裂して。それゆえ、今は魔術師団製、魔塔製、学院製と三種類の魔導車が研究開発されて、実用化までこぎついていると。
この辺の事情をフィリアに説明すると、
「ならば、ニグラートで購入するなら、お嬢がお世話になった魔塔製でしょうか」
と、ふむふむ言いながら考え込む始末。
「それぞれ利点と欠点があるから、購入するならベイオス閣下やグレイが考えるでしょ」
「見た目が違うだけじゃないんですか?」
食いつき気味のフィリアに、私は説明する羽目になった。
基本的に、王宮魔術師団は王宮や王城のために何かをする機関。
開発するものは多岐に渡る。王族のためのもの、騎士団のためのもの、国全体のためになるもの。
魔導車の場合は、王族の使用も考えて、乗り心地や安全性、利便性を重視して開発されていた。なにより見映え。高級志向の外観は貴族や裕福な商家の心を鷲掴みしている。
「だから、貴族に人気ってことなんですねぇ。確かに高級そうな魔導車は、貴族の紋が入ってました」
すでに、王城の駐車場をチェック済みなんだ。フィリアも抜け目がない。
対して学院は純粋に知識を探求する学究機関。
魔導車についても、性能の限界を追求する。速さや耐久性といった部分が最重要。当然、高性能の分、代金は高くなる。
「性能が良くても値段が高いと、買える層が限定されます。なのに、あの見映えではねぇ」
うん、貴族なら魔術師団製を買いたくなるよね。
魔塔も基本は探求だけれど、二者との大きな違いは資金源。
王宮や国から予算が配分される王宮魔術師団、学生の授業料や国からの補助がある学院とは違って、魔塔は自分たちの知識や技術を道具にして、売って資金を集めている。
だから、なるべく、たくさん売れるような実用的で低価格な物に注力しているわけなんだけど。
魔導車ともなると、低価格といっても限界がある。普通の人がほいほい買える値段ではない。
だから、正直なところ、魔塔が開発に乗り出すとは思っていなかったわけ。
「ならば、どうして魔塔が開発に乗り出したんでしょうね」
「たぶん、だけど」
フィリアの素朴な疑問に、私は私見ながら意見を述べた。
「人工魔石や人工魔力結晶の技術提供、が関係してるのかもね」
完全な共同開発は頓挫しても、技術提供や提携の話は完全に切れなかったらしい。
学院や魔塔は魔術師団の開発した技術を使いたいし、魔術師団としても、開発した技術のさらなる研究開発情報を欲しいし、利用したい。
その辺の利害が一致したから、魔塔も参画したと、私は睨んでいた。
こんな感じでフィリアとの話は、王都で普及し始めた魔導伝達装置の話にまでなって、おかげでタウンハウスまでの道のりがいつもより短く感じたのだった。
ニグラートのタウンハウスが近づくに連れて、頭の中に浮かんでくるのはグレイのこと。
以前も、多忙期を除いて、月に一、二回ほど定期的に王都に来ていたグレイ。
国外公務や出向でしばらくずーっといっしょにいたので、定期的に来訪していたのをすっかり忘れていた。
グレイの方はしっかり覚えていて、今夕やってくると連絡が入ったのだ。さすがに丸一日は余裕がないらしく、一晩、王都に泊まって帰るんだそうな。
「グレイも忙しいなら、わざわざ、王都に来なくても」
「隊長はお嬢不足なんですよ」
うん? 何それ?
車に同乗しているフィリアがしれっと答えたところをみると、ニグラートでは常識な話のようだ。
バルトレット卿にも確認したいところだけれど、バルトレット卿は御者席の方に行ってしまっているので、車内にはいない。
仕方なく、フィリアにどういうことか尋ねると、思っていたのと違う事実が発覚した。
「以前も隊長、お嬢不足になるとお嬢を摂取しに、王都に行ってましたからね」
「思ってた理由と違う」
いや、来てたけどね。
私の後援の保護者なんだから、しっかりやっているか、何か問題はないか、様子を確認しに来てたんだと思ってたわ。
「私、野菜か何か?」
という問いかけに対しては、
「まさか」
と即否定。本人じゃないのによく分かるよね。と思わなくもない。
が、フィリアはニヤリと不穏な笑みを浮かべると、とんでもないことを口にした。
「主食ですわ、お嬢」
いや、どういうこと?!
これからグレイに会うというのに。私はどういう顔でグレイに会ったらいいのか分からなくなったのだった。
私はフィリアたちを連れて、車でニグラートのタウンハウスに戻っていた。
ストーカー被害に遭わないようにと、いつもは私だけタウンハウスに戻り、フィリアたちは官舎で過ごす。タウンハウスに行き来する手段も、車を使ったり転移魔法を使ったりといろいろ。
フィリアたちは、タウンハウスへ帰る私を見送った後は官舎でゆっくりしたりと、自分の時間を楽しめるようになっている。
ところが。
今日に限っては、全員でタウンハウスに向かっていた。
なぜなら、グレイが王都のタウンハウスにやってくるから。
王城からタウンハウスに帰る車は、指定の駐車場に待っていた。
ニグラート辺境伯家の車は馬の魔獣と軍馬を交配させたものだそうで、力もスピードも通常の軍馬以上のもの。
新リテラ王国に行くときの大型車が使っていた特殊な軍馬と同じ種類だそうだ。
うん、そんな知識つけてもどうにもならないけど。
「最近は、魔導車が増えてるようですね」
「そうみたいだね」
「お嬢も開発に関わってるんですか?」
「いや、ぜんぜん」
魔導車とは、馬などの生き物で動かすのではなく、魔石や魔力結晶を動力として動かす車のこと。魔導具の一種だ。
魔導具開発は王宮魔術師団が中心になっていて、魔塔と学院の研究機関も開発に参加している。騎士団所属の私が関われる部分ではない。
ところが、共同開発していた三団体が、意見の相違で分裂して。それゆえ、今は魔術師団製、魔塔製、学院製と三種類の魔導車が研究開発されて、実用化までこぎついていると。
この辺の事情をフィリアに説明すると、
「ならば、ニグラートで購入するなら、お嬢がお世話になった魔塔製でしょうか」
と、ふむふむ言いながら考え込む始末。
「それぞれ利点と欠点があるから、購入するならベイオス閣下やグレイが考えるでしょ」
「見た目が違うだけじゃないんですか?」
食いつき気味のフィリアに、私は説明する羽目になった。
基本的に、王宮魔術師団は王宮や王城のために何かをする機関。
開発するものは多岐に渡る。王族のためのもの、騎士団のためのもの、国全体のためになるもの。
魔導車の場合は、王族の使用も考えて、乗り心地や安全性、利便性を重視して開発されていた。なにより見映え。高級志向の外観は貴族や裕福な商家の心を鷲掴みしている。
「だから、貴族に人気ってことなんですねぇ。確かに高級そうな魔導車は、貴族の紋が入ってました」
すでに、王城の駐車場をチェック済みなんだ。フィリアも抜け目がない。
対して学院は純粋に知識を探求する学究機関。
魔導車についても、性能の限界を追求する。速さや耐久性といった部分が最重要。当然、高性能の分、代金は高くなる。
「性能が良くても値段が高いと、買える層が限定されます。なのに、あの見映えではねぇ」
うん、貴族なら魔術師団製を買いたくなるよね。
魔塔も基本は探求だけれど、二者との大きな違いは資金源。
王宮や国から予算が配分される王宮魔術師団、学生の授業料や国からの補助がある学院とは違って、魔塔は自分たちの知識や技術を道具にして、売って資金を集めている。
だから、なるべく、たくさん売れるような実用的で低価格な物に注力しているわけなんだけど。
魔導車ともなると、低価格といっても限界がある。普通の人がほいほい買える値段ではない。
だから、正直なところ、魔塔が開発に乗り出すとは思っていなかったわけ。
「ならば、どうして魔塔が開発に乗り出したんでしょうね」
「たぶん、だけど」
フィリアの素朴な疑問に、私は私見ながら意見を述べた。
「人工魔石や人工魔力結晶の技術提供、が関係してるのかもね」
完全な共同開発は頓挫しても、技術提供や提携の話は完全に切れなかったらしい。
学院や魔塔は魔術師団の開発した技術を使いたいし、魔術師団としても、開発した技術のさらなる研究開発情報を欲しいし、利用したい。
その辺の利害が一致したから、魔塔も参画したと、私は睨んでいた。
こんな感じでフィリアとの話は、王都で普及し始めた魔導伝達装置の話にまでなって、おかげでタウンハウスまでの道のりがいつもより短く感じたのだった。
ニグラートのタウンハウスが近づくに連れて、頭の中に浮かんでくるのはグレイのこと。
以前も、多忙期を除いて、月に一、二回ほど定期的に王都に来ていたグレイ。
国外公務や出向でしばらくずーっといっしょにいたので、定期的に来訪していたのをすっかり忘れていた。
グレイの方はしっかり覚えていて、今夕やってくると連絡が入ったのだ。さすがに丸一日は余裕がないらしく、一晩、王都に泊まって帰るんだそうな。
「グレイも忙しいなら、わざわざ、王都に来なくても」
「隊長はお嬢不足なんですよ」
うん? 何それ?
車に同乗しているフィリアがしれっと答えたところをみると、ニグラートでは常識な話のようだ。
バルトレット卿にも確認したいところだけれど、バルトレット卿は御者席の方に行ってしまっているので、車内にはいない。
仕方なく、フィリアにどういうことか尋ねると、思っていたのと違う事実が発覚した。
「以前も隊長、お嬢不足になるとお嬢を摂取しに、王都に行ってましたからね」
「思ってた理由と違う」
いや、来てたけどね。
私の後援の保護者なんだから、しっかりやっているか、何か問題はないか、様子を確認しに来てたんだと思ってたわ。
「私、野菜か何か?」
という問いかけに対しては、
「まさか」
と即否定。本人じゃないのによく分かるよね。と思わなくもない。
が、フィリアはニヤリと不穏な笑みを浮かべると、とんでもないことを口にした。
「主食ですわ、お嬢」
いや、どういうこと?!
これからグレイに会うというのに。私はどういう顔でグレイに会ったらいいのか分からなくなったのだった。
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