運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

SA

文字の大きさ
410 / 573
7 王女殿下と木精編

2-10

しおりを挟む
 デルティ殿下の授業の見張りが終わった後。

 私はフィリアたちを連れて、車でニグラートのタウンハウスに戻っていた。

 ストーカー被害に遭わないようにと、いつもは私だけタウンハウスに戻り、フィリアたちは官舎で過ごす。タウンハウスに行き来する手段も、車を使ったり転移魔法を使ったりといろいろ。

 フィリアたちは、タウンハウスへ帰る私を見送った後は官舎でゆっくりしたりと、自分の時間を楽しめるようになっている。

 ところが。

 今日に限っては、全員でタウンハウスに向かっていた。

 なぜなら、グレイが王都のタウンハウスにやってくるから。




 王城からタウンハウスに帰る車は、指定の駐車場に待っていた。

 ニグラート辺境伯家の車は馬の魔獣と軍馬を交配させたものだそうで、力もスピードも通常の軍馬以上のもの。
 新リテラ王国に行くときの大型車が使っていた特殊な軍馬と同じ種類だそうだ。

 うん、そんな知識つけてもどうにもならないけど。

「最近は、魔導車が増えてるようですね」

「そうみたいだね」

「お嬢も開発に関わってるんですか?」

「いや、ぜんぜん」

 魔導車とは、馬などの生き物で動かすのではなく、魔石や魔力結晶を動力として動かす車のこと。魔導具の一種だ。

 魔導具開発は王宮魔術師団が中心になっていて、魔塔と学院の研究機関も開発に参加している。騎士団所属の私が関われる部分ではない。

 ところが、共同開発していた三団体が、意見の相違で分裂して。それゆえ、今は魔術師団製、魔塔製、学院製と三種類の魔導車が研究開発されて、実用化までこぎついていると。

 この辺の事情をフィリアに説明すると、

「ならば、ニグラートで購入するなら、お嬢がお世話になった魔塔製でしょうか」

 と、ふむふむ言いながら考え込む始末。

「それぞれ利点と欠点があるから、購入するならベイオス閣下やグレイが考えるでしょ」

「見た目が違うだけじゃないんですか?」

 食いつき気味のフィリアに、私は説明する羽目になった。

 基本的に、王宮魔術師団は王宮や王城のために何かをする機関。
 開発するものは多岐に渡る。王族のためのもの、騎士団のためのもの、国全体のためになるもの。

 魔導車の場合は、王族の使用も考えて、乗り心地や安全性、利便性を重視して開発されていた。なにより見映え。高級志向の外観は貴族や裕福な商家の心を鷲掴みしている。

「だから、貴族に人気ってことなんですねぇ。確かに高級そうな魔導車は、貴族の紋が入ってました」

 すでに、王城の駐車場をチェック済みなんだ。フィリアも抜け目がない。

 対して学院は純粋に知識を探求する学究機関。
 魔導車についても、性能の限界を追求する。速さや耐久性といった部分が最重要。当然、高性能の分、代金は高くなる。

「性能が良くても値段が高いと、買える層が限定されます。なのに、あの見映えではねぇ」

 うん、貴族なら魔術師団製を買いたくなるよね。

 魔塔も基本は探求だけれど、二者との大きな違いは資金源。

 王宮や国から予算が配分される王宮魔術師団、学生の授業料や国からの補助がある学院とは違って、魔塔は自分たちの知識や技術を道具にして、売って資金を集めている。

 だから、なるべく、たくさん売れるような実用的で低価格な物に注力しているわけなんだけど。

 魔導車ともなると、低価格といっても限界がある。普通の人がほいほい買える値段ではない。

 だから、正直なところ、魔塔が開発に乗り出すとは思っていなかったわけ。

「ならば、どうして魔塔が開発に乗り出したんでしょうね」

「たぶん、だけど」

 フィリアの素朴な疑問に、私は私見ながら意見を述べた。

「人工魔石や人工魔力結晶の技術提供、が関係してるのかもね」

 完全な共同開発は頓挫しても、技術提供や提携の話は完全に切れなかったらしい。

 学院や魔塔は魔術師団の開発した技術を使いたいし、魔術師団としても、開発した技術のさらなる研究開発情報を欲しいし、利用したい。

 その辺の利害が一致したから、魔塔も参画したと、私は睨んでいた。

 こんな感じでフィリアとの話は、王都で普及し始めた魔導伝達装置の話にまでなって、おかげでタウンハウスまでの道のりがいつもより短く感じたのだった。




 ニグラートのタウンハウスが近づくに連れて、頭の中に浮かんでくるのはグレイのこと。

 以前も、多忙期を除いて、月に一、二回ほど定期的に王都に来ていたグレイ。

 国外公務や出向でしばらくずーっといっしょにいたので、定期的に来訪していたのをすっかり忘れていた。

 グレイの方はしっかり覚えていて、今夕やってくると連絡が入ったのだ。さすがに丸一日は余裕がないらしく、一晩、王都に泊まって帰るんだそうな。

「グレイも忙しいなら、わざわざ、王都に来なくても」

「隊長はお嬢不足なんですよ」

 うん? 何それ?

 車に同乗しているフィリアがしれっと答えたところをみると、ニグラートでは常識な話のようだ。

 バルトレット卿にも確認したいところだけれど、バルトレット卿は御者席の方に行ってしまっているので、車内にはいない。

 仕方なく、フィリアにどういうことか尋ねると、思っていたのと違う事実が発覚した。

「以前も隊長、お嬢不足になるとお嬢を摂取しに、王都に行ってましたからね」

「思ってた理由と違う」

 いや、来てたけどね。

 私の後援の保護者なんだから、しっかりやっているか、何か問題はないか、様子を確認しに来てたんだと思ってたわ。

「私、野菜か何か?」

 という問いかけに対しては、

「まさか」

 と即否定。本人じゃないのによく分かるよね。と思わなくもない。

 が、フィリアはニヤリと不穏な笑みを浮かべると、とんでもないことを口にした。

「主食ですわ、お嬢」

 いや、どういうこと?!

 これからグレイに会うというのに。私はどういう顔でグレイに会ったらいいのか分からなくなったのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

彼の過ちと彼女の選択

浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。 そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。 一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。

【完結】身代わりとなります

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
レイチェルは素行不良の令嬢として悪名を轟かせている。しかし、それはレイチェルが無知ゆえにいつも失態をしていたためで本人には悪意はなかった。 レイチェルは家族に顧みられず誰からも貴族のルールを教えてもらわずに育ったのだ。 そんなレイチェルに婚約者ができた。 侯爵令息のダニエルだ。 彼は誠実でレイチェルの置かれている状況を知り、マナー講師を招いたり、ドレスを作ってくれたりした。 はじめは貴族然としている婚約者に反発していたレイチェルだったがいつのまにか彼の優しさに惹かれるようになった。 彼のレイチェルへの想いが同情であっても。 彼がレイチェルではない人を愛していても。 そんな時、彼の想い人である隣国の伯爵令嬢フィオラの国で革命が起き、彼女は隣国の貴族として処刑されることが決まった。 そして、さまざまな思惑が交錯する中、レイチェルは一つの決断を下し・・・ *過去と未来が行ったり来たりしながら進行する書き方にチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんがご了承ください。

婚約破棄でお願いします

基本二度寝
恋愛
王太子の婚約者、カーリンは男爵令嬢に覚えのない悪行を並べ立てられた。 「君は、そんな人だったのか…」 王太子は男爵令嬢の言葉を鵜呑みにして… ※ギャグかもしれない

結婚式をボイコットした王女

椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。 しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。 ※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※ 1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。 1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

愛はリンゴと同じ

turarin
恋愛
学園時代の同級生と結婚し、子供にも恵まれ幸せいっぱいの公爵夫人ナタリー。ところが、ある日夫が平民の少女をつれてきて、別邸に囲うと言う。 夫のナタリーへの愛は減らない。妾の少女メイリンへの愛が、一つ増えるだけだと言う。夫の愛は、まるでリンゴのように幾つもあって、皆に与えられるものなのだそうだ。 ナタリーのことは妻として大切にしてくれる夫。貴族の妻としては当然受け入れるべき。だが、辛くて仕方がない。ナタリーのリンゴは一つだけ。 幾つもあるなど考えられない。

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

家出を決行した結果

恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。 デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。 自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。 ※なろうさんにも公開しています。

妖精隠し

恋愛
誰からも愛される美しい姉のアリエッタと地味で両親からの関心がない妹のアーシェ。 4歳の頃から、屋敷の離れで忘れられた様に過ごすアーシェの側には人間離れした美しさを持つ男性フローが常にいる。 彼が何者で、何処から来ているのかアーシェは知らない。

処理中です...