ぽっちゃり侯爵と大食い令嬢の甘い婚約生活

piyo

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後編

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それはダニエラとキーレンのスキンシップが解禁されてから数日後。
婚約から半年、結婚式まであと半年に迫っていた日のことである。

二人の結婚式は、キーレンが二回目ということもあり、互いの親族関係と領内の関係者のみを招待し、領内でこじんまりとした式を挙げる予定でいた。

式の準備が本格化し、いよいよ侯爵邸での新生活が始まろうとしていた――その矢先のことだった。
侯爵は、新規交易の交渉のため、新興国へ自ら赴くことになってしまったのだ。

西に位置するその国は、天候が不安定で災害が多く、毎年のように農作物が甚大な被害を受けていた。
必然的に国外からの輸入に頼らざるを得ず、そこで目をつけたのがダニエラたちの国であった。
侯爵は自国の穀物や加工品を売り込み、販路を広げようと動き出したのである。

「これから式の準備で忙しくなるというのに、家を空けることになって、本当に申し訳ない。
国からの要請で、断ることはできなかったんだ」

申し訳なさそうなキーレンに、ダニエラは首を振って「いいえ」と答えた。

「キーレン様が交易交渉に欠かせない存在であることを、私は誇りに思っています。
領内のことは、私と家令にすべてお任せください。
キーレン様が不在の間は、義父様や義母様も手を貸してくださるそうです。
式の準備も滞りなく進めておきますので、安心して行ってきてください。
交渉が無事に終わり、キーレン様が戻られる日を、心待ちにしております」

ダニエラのいう義父母――つまりキーレンの父と母は、彼が成人するやいなや爵位を譲り、気ままな隠居生活を送っていた。
息子同様、食べることが好きで、旅先で出会った品を領内に広めたり、各国の食の紹介をする書籍を出版する、一風変わった夫妻である。

夫妻はつい先日まで国内の美食を巡る旅に出ていたが、キーレンが自身の不在でダニエラに苦労をかけることになるだろうと、領内に呼び戻したのだった。

「ありがとう。わからないことは、父や母、家令にすぐ相談して、一人で溜め込まないようにね。
どうしても判断に迷うことがあったら、手紙で知らせて。日数はかかると思うけど、やりとりは可能なはずだから」

「承知しました。あの……どれくらいで戻られるか、目処はついているのでしょうか?」

ダニエラは少し不安げに問いかける。
キーレンはそんな彼女を安心させるよう、優しい声音で答えた。

「交渉次第だけど、早くて二カ月くらいで帰れると思っているよ。
如何せん、かの国は遠いからね。本当は君を連れて行きたいくらいなんだけど、治安もそれほど良くないから……」

「二カ月ですか……思ったよりも長く感じますね」

ダニエラは顔を俯かせ、小さな声で本音を漏らした。

「やっぱり……寂しいです。そばにいてほしいです……」

「ダニエラ……」

まだ侯爵邸に移り住んでいないものの、最近はほぼ毎日キーレンに会えていた。
それが二カ月もの間、会えなくなってしまうと考えたら、寂しさに胸が押し潰されそうになる。
目に、自然と涙が滲んできた。

こんなに涙が出るなんて、自分でも驚いてしまう――
そう思いながら、ダニエラは目元を手でそっと押さえた。

目の前で涙をこぼすダニエラを見かねたキーレンは、堪らず彼女をそっと自身の分厚い胸へと抱き寄せた。

「――私の出発前に、お茶会をしようか。
いつものように、ガゼボで、たくさんのお菓子を頂こう。きっと元気がでる。」

ダニエラはキーレンの優しい気遣いに、余計に涙がこぼれ落ちそうになったが、彼の大きな身体に顔を埋め、大きく、こくりと一回頷いた。


――そして、冒頭の甘ったるいお茶会へと繋がる。


二人で食べさせ合いっこをし、その場にいた使用人たちを居た堪れない空気にしたダニエラとキーレン。
しかし、このお茶会のおかげで、ダニエラは涙ではなく、笑顔でキーレンを見送ることができたのだった。





キーレンが新興国へ旅立ってからというもの、ダニエラは寂しさをごまかすように、領内の仕事に没頭した。
元侯爵である義父や家令の支えもあり、与えられた業務をひとつひとつ淡々と、しかし着実にこなしていく。

同時に、式の準備も義母の助言を受けながら進めていった。
義父母はキーレンと同じく食べることが大好きで、体形もどこか彼を思い起こさせる丸みに溢れている。
ふたりと接していると、ふとした瞬間にキーレンの面影がよぎり、会えない寂しさが、ほんの少し和らぐのだった。

――そうして、いつの間にか。
彼が戻ってくると言っていた、二カ月の期限が過ぎようとしていた。


「……難航しているのですか?」

新興国からの使者の言葉に、キーレンたちの現在の状況を察し、ダニエラの顔が強張った。

「はい。先方の要求と折り合いがつかず……交渉の場は、常に緊張状態にあります。
また、我が国に対する感情も決して友好的とは言えず、外交団はかなり厳しい環境下に身を置いているとのことです」
「そんな……」

新興国の治安が良くないことは聞いていた。
だが、まさか外交の最中に、命の危険に晒されかねない状況だとは思ってもみなかった。

――もしそのような事態に発展すれば、最悪、戦争も避けられないだろう。
胸の奥底が冷たくなるのを、ダニエラは感じた。

「何か、私が、出来ることは……」
「どうか無事をお祈りください。侯爵からは、ダニエラ様宛ての手紙を預かっております。
よろしければ、お返事を書かれてはいかがでしょうか。明日、受け取りにもう一度こちらへ参ります」

ダニエラは伝令から手紙を受け取り、部屋へと戻った。
封を切り、指先に力を込めたまま、そっと中身に目を落とす。

そこには、彼の性格がそのまま表れたような、丁寧な筆跡で、こう記されていた。

『ダニエラ、元気にしているかい。体調に変わりはないだろうか。
こちらは何とかやっているから、私のことは心配しなくていい。
この国では、主食が蒸したトウモロコシでね。自国とは随分と違っていて、なかなか興味深いよ。
帰ったら、君にたくさん話をしたい。……早く、また一緒にお茶会がしたい。
仕事は、決して無理をしないように。
それでは、どうか身体に気を付けて――』

手紙を最後まで読み終え、ダニエラの口から、自然と声が零れた。

「……私の心配ばかり」

手紙の中でも、キーレンは変わらず優しく、ダニエラの心を温めてくれる。
決して、自身が置かれている厳しい状況には触れず、ただひたすらにダニエラを気遣うその文面に、視界がじわりと滲んだ。

(返事を、書かないと――)

ダニエラは一度、深く息を吸い込み、それから机に向かった。
余計な心配をかけないよう、領内の出来事や義父母の様子、最近街で流行り始めた食べ物の話などを、ひとつひとつ丁寧に綴っていく。

そして筆を置いたあと、ほんの一瞬迷ってから――
最後に、小さな祈りを込めて付け足した。

『あなたに、早く会いたい』、と。





結局、キーレンの帰国は出発からおよそ半年、結婚式の日程が差し迫った頃となった。

ダニエラが返事の手紙を送って間もなく、こちら側が価格の引き下げなど大きく譲歩する形ではあったが、輸出協定はなんとか締結に至った、との連絡が入った。

だが、安堵する間もなく、帰国の準備を整えた矢先に事態は急変する。
連日の豪雨と台風が滞在地を直撃し、周辺一帯は水害に見舞われ、帰国の道が完全に断たれてしまったのだ。

道路の復旧には想像以上の時間を要し、さらに復興支援に駆り出された大使たちは、滞在先での援助活動に追われることとなった。
そのため、キーレンたちの帰国は、大幅に遅れることとなった。

そして復興支援が粗方片付いた頃、一行は晴れて帰国の途につくことができたのだった。


「――ただいま、ダニエラ!」

バンと開け放たれた扉の向こうから、ダニエラの聞き覚えのある声が響いた。
このとき、ダニエラはたまたま部屋から出てきたところであり、侍女とともに思わず顔を見合わせる。

(まさか――キーレン様が!?)

彼の帰宅は、まだ数日先と聞かされていた。
そのため、出迎えの準備も整っていない。

半信半疑のまま、ダニエラは慌てて玄関へと駆けつけた。

そして――扉の前にいた、その人は。

ダニエラが待ち焦がれていた、人物。
⋯⋯のように見えたのだが。

――少し、様子がおかしい。

そう思った瞬間、彼女はその場で立ち止まった。

声の主であるその人物は、ダニエラを見つけるなり、ぱっと表情を明るくする。
そして迷いのない足取りで彼女の元へと駆け寄り、そのまま腕を回して抱きしめた。

不意を突かれたダニエラの身体が、きゅっと後ろへ押し返されるほどの、力強い抱擁だった。

「遅くなってすまない。早くダニエラに会いたくて、途中から馬に乗り換えて来たんだ……
おかげで予定より数日早く着いたよ――」

そう声を掛けたものの、久しぶりに会った婚約者から返事は返ってこない。
彼は不思議に思い、少しだけ身体を離して、ダニエラの顔を覗き込んだ。

「ダニエラ?」

「え……あの、キーレン様?
……で、あってます?」

ダニエラは、目の前の人物が本当に婚約者のキーレンであるのか信じられず、失礼とは思いつつも確認してしまった。

「ひどいよ、ダニエラ……
たった半年で婚約者の顔を忘れてしまうなんて……。
私は君のことを一秒たりとも忘れたことはなかったというのに……」

彼はひどくショックを受けた様子で、そう告げる。

「いえ、そういう意味ではなく……」

忘れてしまったわけではない。
――ただ、元の面影が分からないほど、彼の容姿が変わってしまっていたのだ。

(なんだ、この薔薇を背負った見た目の美丈夫は)

自分の目の前にいる、彼の身体は――端的に言うと、薄い。

すらりとした長身で、その身体つきは程よく筋肉がついているのが、先ほど抱き締められたときの感触からわかった。
大きさは、例えるなら、出立前のキーレンの半分ほど。

全身に纏っていたぷにぷにはどこへやら、むしろゴツゴツと角ばった印象で、それが服越しにもはっきりと見て取れた。

さらに、自分を覗き込む顔には、見覚えのある翠の切れ長の瞳があるものの、その目は、記憶しているものよりもずっと大きい。
その大きな瞳を含め、顔のパーツはすべて完璧な比率を保っており、十人が十人とも整っていると認めるであろう、美しさを誇っていた。

そう――余計な肉が無くなった彼は、めちゃくちゃに顔が良かった。

「……とっても、お痩せになりました?」

しかしダニエラは、それらすべてを「やせましたよね?」の一言で強引にまとめた。
非常に簡潔である。

「ほぼ絶食状態だったからね……。
復興支援で、現地で肉体労働もしていたし……」

げんなりした様子で多くを語らないキーレンの態度から、本当に大変だったことがうかがえた。

「私も相当痩せてしまったけど……ダニエラも、少し痩せたんじゃない?」

思いがけない指摘に、ダニエラは思わずドキリとする。

実はここ数か月、キーレンのことを心配し過ぎて、食事が喉を通らなかったのだ。

――いや、嘘だ。

食べてはいた。
ただ、いつもの半分の量で、すぐにお腹がいっぱいになってしまっていただけだ。

ドレスが心なしか緩くなった気はしていたが、まさか指摘されるほどとは思っていなかった。

「キーレン様のことが心配で……あまり、食欲がなくて」
「心配をかけてしまって、本当にごめんね」
「いえ……あの、お手紙、ありがとうございました。
キーレン様がいない間……何度も読み返してしまって。
早く会えますようにって、筆跡をなぞったりもして……」

ダニエラの言葉に、キーレンは柔らかな微笑みを返した。

「――私もダニエラの手紙を何度も見返したよ。
あの手紙が、向こうでの私の心の支えになっていた。本当に、ありがとう」

お互い、送りあった手紙を、心の支えにしていたらしい。
キーレンは、ダニエラが自分と同じ気持ちでいたことが嬉しかったのか、顔を赤くして頬を掻いた。

その様子は、以前のキーレンと何ら変わらない。

正直に言うと、再会してからダニエラは、彼の見た目があまりにも変わってしまったことで、どこか心が落ち着かなかった。

話していても、声は同じであるはずなのに、まるで別人と会話しているような気がして――
けれど、前と変わらず可愛らしい仕草を見せる彼の姿に、ようやく心から安堵する。

「あの……一度お休みになってから、何かお召し上がりになりますか?
お腹が空いているのではありませんか?」

ダニエラは、早速食事を提案した。
ちょうど彼女自身も、昼食を取りに廊下へ出てきたところだったのだ。

できることなら――せっかくの再会なのだから、キーレンと席を共にしたかった。
疲れているはずの彼には休んで欲しい気持ちもあった。
それでも、それ以上に何よりも、彼の側にいたいという自分の気持ちを優先した。

その願いが通じたのか、キーレンは快く応じてくれた。

「ああ、お願いしたい。やっと君と一緒に食事ができる」
「はい、私も、貴方と食卓を囲めることをずっと心待ちにしておりました」

ダニエラはぱっと顔を綻ばせ、キーレンへと告げる。
「おかえりなさい、キーレン様!」

ダニエラの言葉を合図に、二人はもう一度、きつく抱き締め合った。


小休憩を取り、身支度を整えたキーレンと共に、久しぶりの食事を二人で囲む。
ずっと食欲のなかったダニエラだったが、キーレンがいることで、いつもの調子を取り戻していた。

侯爵邸の腕利きの料理に舌鼓を打ち、次々と目の前の食事を平らげていく。
二人は、半年分の積もる話を交わしながら、食事を進めていた。

――ところが、ダニエラはふと気づいた。
キーレンが普段の半分以下しか口にしておらず、食事の手を止めていることに。

「キーレン様。もしかして――どこか調子が悪いのですか?」
ダニエラは、もしかして具合が悪いのでは、と心配そうに尋ねた。

しかし、キーレンは少し申し訳なさそうに顔を曇らせ、「いや、そうではないんだ」と答える。
そしてそのまま、話を続けた。

「――向こうにいる間、軽く飢餓状態だったせいか、胃が小さくなってしまったようだ。
…すまない、これ以上は食べられそうもない」

ひどく悲しそうな表情で謝るキーレンに、ダニエラはショックを受ける。

「なんてこと……体調は大丈夫なのですか?」

「ああ、体調はまったく問題ない。ただ、少しの量しか食べられなくなってしまったんだ。
食べることが楽しみだったのに、これっぽっちで満足してしまう身体になってしまった。
せっかくの食事を残してしまうのは、作り手にも食材にも申し訳ない――」

キーレンは、残してしまった皿を悲しそうに見つめる。
以前であれば、この量などすぐに平らげ、食後にはデザートまで楽しんでいたことだろうに。

そんなキーレンの様子を見て、ダニエラは立ち上がり、そっと彼の手に自分の手を重ねた。
そして、その勢いのまま、自分の思いをキーレンにぶつける。

「キーレン様、私が代わりにすべて食べて差し上げます!」

ダニエラの言葉に、キーレンは目を丸くした。

「貴方が食べられない分、私が貴方の胃袋になります。キーレン様はどうか無理せず、少しずつ召し上がってください。
そうすれば、私もキーレン様も、作り手も食材も、みんな幸せでしょう?」

「ダニエラ……君って人は……!」

キーレンは感極まり、食事の途中にもかかわらず、彼女を強く抱きしめた。

その様子を後ろで見ていた使用人たちは、全員揃って白目を剥いていた。

――なんだなんだ、『貴方の胃袋になる』って。

しかし、二人は完全に二人だけの世界に入り込んでしまっていた。
半年前の、あの胸焼けのするお茶会を再現しているかのように、主人たちが醸し出す甘ったるい空気に、使用人たちはまたしても胸焼けしそうになるのだった。





キーレンの帰国後、結婚披露宴の準備は急ピッチで進められた。
主な作業は衣装合わせである。当初発注していたキーレンの衣装はどれもサイズが合わず、すべて作り直すことになったためだ。

ようやく準備が整い、式は小規模ながらも、たくさんの人々に祝福されながら執り行われた。

……のだが。

参列者たちは皆――親族でさえも――最初、キーレンが誰だか判らなかったらしい。
二人が会場に入場した瞬間、場内は一気にざわめいた。

「新郎、一体誰……?」と。

それも無理はない。
彼の身体の面積は以前の半分以下になっており、しかも、これまでお肉に隠れていた顔立ちが露わになったことで――あら不思議、途方もなく整った顔立ちをしていたのだ。

記憶の中のぽっちゃり侯爵と、白金の髪と翠の瞳だけでかろうじて本人だとわかる、そんな変貌ぶりである。

しかし、一度これがキーレンだとわかると、場内のざわめきはすべて祝福の言葉へと変わった。

披露宴の後、二人で領地を巡った際も、領民たちの反応は親族たちと同じだった。

「侯爵様が半分になった!」とざわめき、病気を心配した領民たちが、次々と食材のご祝儀を差し出す――そんな微笑ましい光景も、今となっては良い思い出である。

ちなみに結婚後に参加した夜会でも、同様の現象が起きた。
新婚のはずのダニエラが、侯爵ではない誰かを連れている!?とざわめきが起き、それがオウネル侯爵本人だとわかると、さらなるざわめきが巻き起こった。

痩せて精悍さを増したキーレンと、もともと細身のダニエラ――その目を引く容姿の夫婦ぶりは、誰の目にも留まるほどだった。

結婚祝いはもちろん、劇的な外見の変化や、キーレンが成し遂げた交易交渉の成功も手伝って、夜会ではさまざまな人々がひっきりなしにキーレンに声をかけていた。

しかし、夜会も後半に差し掛かる頃になると、二人はさりげなく人波の中から姿を消し、仲睦まじく食事を楽しむ姿がしばしば目撃された。

別の夜会でも同じ光景が見られ、料理を口に運ぶのは主に侯爵夫人、そしてその感想を聞くのは侯爵――いつしかこれが二人の夫婦のスタイルとして定着していた。

その微笑ましい甘さを目にした者たちは、
「見ている方が胸焼けしそうだ」と、嬉しそうに、しかし呆れたように囁き合ったという。


食事量が減った(というか平均的になった)キーレンだったが、美味しいものへの探究心は衰えることがなかった。
やがて穀倉地帯として有名だったオウネル領は、美食の街としても名を馳せ、国内有数の観光名所となった。

ダニエラたちはそれで満足することなく、義父母と同じく、家督を子供たちに譲った後も各地を訪れ、常に新しい美味しいものを取り入れることに注力した。

各地から仕入れた品々をガゼボのテーブルに並べ、ともに囲む――この二人だけのお茶会は、ダニエラたちにとって何より大切なひとときとなった。

量が食べられなくなったキーレンに代わり、ダニエラが残さず味わい、その感想を述べる。
キーレンがダニエラを羨ましがったり、ダニエラがキーレンにもっと食べてほしいと要求することはない。
相手が同じ量を食べられなくても、相手がそれで幸せなら、それでいいのだ。


――かつて"ぽっちゃり侯爵"と"大食い令嬢"と揶揄された二人であったが、やがて食の流行を牽引する仲睦まじい夫婦として名を馳せることとなったという。


(おわり)
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