分析能力で旅をする ~転生した理由を探すためにレインは世界を回る

しき

文字の大きさ
49 / 54
第四章

第39話『関所にて』

しおりを挟む
海が見えた。薄水色の空と若草色の大地が段々と裂け、別世界への道が開いたかのようだった。

今、私はパドン大陸の最西端の国、デルタ帝国へ向かっている。海が見え始めたということは、いよいよ国境を越えるということだ。期待と若干の緊張を覚える。

依然として私自身の正体を見つけることはできていない。果たして本当に探すことができるのかとときどき不安になる。見つけられなければこの旅に意味があるのかと思い至ってしまう自分がたまにいる。

この景色はその邪推を忘れさせてくれる。どれだけ悶々と考えても不安が払拭されることはない。だから目の前の事象を楽しむべきなんだと。

私の向かい側に座るのはリンネ。アルガード王国ヴェレン街で知り合い、ずいぶんと助けられた。彼女が馬車に同乗しているのはたまたまであるが、見知った顔があると安心してしまう。

そうはいっても馬車内で会話は一つもない。今もリンネは窓の外の景色をじっと眺め、一度も私と目線を合わせない。私自身から話しかけることがあまり無いように、リンネからも話しかけることが無い。ヴェレン街で度々行動を共にしていたが、私と彼女にとって、これが普通なのである。



段々と海が近づいていくにつれて、夕焼けの景色が濃くなっていく。どうやら一日でデルタ帝国に着くわけではないらしい。

進む方向に目をやると、幅のある河が見えた。そこのある箇所に、対岸まで続く大きな石橋があり、近くにはいくつかのドーム状の家屋と高い物見櫓が建っていた。関所である。今日はここで一晩過ごし、明日デルタ帝国の街に着く、といったところか。

冒険者よりも国の騎士のほうが多い。その騎士も二通りの姿があり、片方はアルガード王国の者たちだ。つまり、もう片方はデルタ帝国の騎士たちなのだろう。どちらも同じ国の騎士同士で話す姿が目立つ。

関所につき御者が騎士と話している最中、別の騎士が乗客車の前に来た。見た目からしてデルタ帝国の騎士である。そして私たちの顔をよく見てから扉をトントンと叩き、扉をゆっくりと開けた。そして、身分証明書を見せろ、と居丈高に言った。

好ましくない態度に対する不満は抑えつつ、身分証明書を見せた。すると特に可笑しい署名部分は無いはずなのに、突然鼻で嗤われた。

そういえば国の騎士に就いた人は、ギルドを見下す人が多いってアルガード学院のアレスが言ってたな…。今までそんな態度取られたこと殆どなかったから気にしたことなかったけど、なるほど、こういうことか。

舐めた態度をとる騎士は放り投げるように身分証明書を私に返し、そのまま去っていった。

この先もこんな感じなのかな、と考えていると、表情に出たのか、リンネがぼそっと呟いた。

「騎士なんてそんな大した事ないから安心しろ」

「え?あ、うん」

国に仕える騎士の実力は未知ではあるが、リンネが言うと説得力がある。彼女は見た目では計り知れない強さを持っていた。今の騎士と彼女が勝負しても、彼女のほうが勝つ想像がつく。

再び動き出した馬車は大橋を渡っていた。石造りの地面は度々小刻みにガタンと揺れが生じ、河の流れは馬車よりも穏やかである。ノスタルジックだ。生憎私に帰る場所なんてないけれど。

対岸に着くと馬車は再び動きを止め、御者が降りるように合図があった。どうやら今日はここで夜を迎えるようだ。私はリンネの後に続いて馬車から降りて、ドーム状の建物へと入っていった。

中はとても殺風景で、片側に物資が固まっている以外には、奥に食料品が売られているだけで、あとは寝床が用意されているだけの、本当に休息をとるだけの施設だった。行き交う人のうち、私たちのような冒険者の数は少なく、どちらかというと騎士のほうが多い。ここは本来騎士たちの休息所なのかもしれない。

リンネは一番奥の寝床を見つけ、そこに荷物を降ろした。偶然にも隣も空いていたので、私もそこを陣取ることにした。彼女は疲れていたのか、私に背を向けて体を横に倒した。

今日はずっと移動で座っている以外にやれることがなかったから、疲れてはいるけれど眠気はまだない。かといってさっきみたところここらはこの建物と物見櫓以外に真新しいものはなかったし…。

仕方ないのでデルタ帝国での目的をさらうことにした。一ヶ月以上前に書いたメモと日記帳を手にし、箇条書きに目的を洗い出した。

まず図書館とか博物館とかの、資料がたくさんある場所へ行く。転生に関するものが直接書かれた書物は恐らくないだろうが、宗教的な側面から似たような事象がないか調べたい。

次にデルタ帝国近辺の情報を集める。メモによるとデルタ帝国はアルガード王国は勿論、フォークナー帝国やトロンチ王国、アクア王朝などと多くの国と密接に関わっている。つまり世界の状況を体感できる可能性がある。それによって今後の旅の行く先を決めることもできるし、近寄らない方がいいところも把握することができる。

あとは…あぁ、替えの服もいくつか買っておくって話だったっけ。これは適当に探せばありそうだから、さっさと済ませてしまおう。

ざっくりとした計画としては、まず買い物を済ませ、デルタ帝国でギルドランクを一つあげて、地道に情報を集める、というのが吉か。貿易国であるデルタ帝国なら、主にお店の人から話を聞けば調査は難しくないだろう。現在のランクはEだから、Dになる頃には充分に調査できているはずだ。

ただ、アルガード王国では特別に学院内に入ることができたが、今回はそういった立場を取れないと予測できる。つまり、図書館のような施設があったとしても、入れない可能性のほうが高いことを念頭に置く必要がある。もしチャンスがあれば、ぐらいの心積もりでちょうどいいかもしれない。

改めて書き下してみると、そこまで難しくないように思える。ただ最終的には私自身のことを知るのが目的なわけで、それが果たせるかと言われれば難題とも感じる。

この国で「私」を知ることが出来るのだろうか。

私はまた不安を抱えてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
 農家の四男に転生したルイ。   そんなルイは、五歳の高熱を出した闘病中に、前世の記憶を思い出し、ステータスを見れることに気付き、自分の能力を自覚した。  農家の四男には未来はないと、家族に隠れて金策を開始する。  十歳の時に行われたスキル鑑定の儀で、スキル【生活魔法 Lv.∞】と【鑑定 Lv.3】を授かったが、親父に「家の役には立たない」と、家を追い出される。   家を追い出されるきっかけとなった【生活魔法】だが、転生あるある?の思わぬ展開を迎えることになる。   ルイの安寧の地を求めた旅が、今始まる! 見切り発車。不定期更新。 カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

万分の一の確率でパートナーが見つかるって、そんな事あるのか?

Gai
ファンタジー
鉄柱が頭にぶつかって死んでしまった少年は神様からもう異世界へ転生させて貰う。 貴族の四男として生まれ変わった少年、ライルは属性魔法の適性が全くなかった。 貴族として生まれた子にとっては珍しいケースであり、ラガスは周りから憐みの目で見られる事が多かった。 ただ、ライルには属性魔法なんて比べものにならない魔法を持っていた。 「はぁーー・・・・・・属性魔法を持っている、それってそんなに凄い事なのか?」 基本気だるげなライルは基本目立ちたくはないが、売られた値段は良い値で買う男。 さてさて、プライドをへし折られる犠牲者はどれだけ出るのか・・・・・・ タイトルに書いてあるパートナーは序盤にはあまり出てきません。

処理中です...