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第二章
第Ex話『いってらっしゃい』
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「いってらっしゃーい!」
声を張り上げて叫んだあたしは、馬車の姿が見えなくなるまで手を振っていた。周りの大人達は自身の仕事があるからか、途中で持ち場に帰ってゆくが、子供たちはずっとあたしと一緒に手を振っていた。この中にも、冒険者になりたいと将来ギルドに入る子もいるんだろうな。
さて、無事に見送りもできたことだし、あたしはあたしの仕事をしなくちゃ。
ギルドの中に戻ると、まだ幾人かの冒険者が掲示板の前でうんうんと唸っていた。あれは確か五人チームのところだ。あれだけ人数が多いとあれこれ議論することも多いんだろうな。
受付にはテオがいた。冒険者が依頼を請ける時にはスムーズにその手続きをしてくれる、優秀なギルドメンバーの一人だ。…と言っても、歳もギルドメンバーになった時期もあたしの方が下だから、こんな言い種をしたら怒られちゃうかもしれないけど。
「荷馬車が出発したよ」
あたしは気さくにテオに話しかける。前述の通りテオは先輩に当たる立場なんだけど、こんな感じであまり上下関係が垣間見えない、割とフランクな仲だ。…といっても、一方的に砕けた話し方をしてるだけなんだけど。
元々あたしが敬語とかに距離感を感じちゃう質だったから、テオ本人に、先輩なのに敬語を遣われると距離を感じちゃいます、って言ったら、そう感じるなら貴女が敬語をやめればいいのでは?と返されて、以後こんな感じで話している。相変わらずテオはあたしにも、誰に対しても丁寧な言葉遣いをしているけど、今ではそのほうが当たり前になっちゃった。
あぁでも、ある時期から、パトリシアさん、じゃなくて、トリッシュ、って呼ばれ始めたなぁ。その時は結構嬉しかったな。
「そうですか。無事に着くといいですね」
「大丈夫だよ。なんたってレインがいるんだから」
対人戦ではまだまだ甘いところが目に付くけど、とはいえレインは今回の護衛メンバーの中で一番強いんじゃないかなと思っていた。技術的な面はまだ成長段階かもしれない反面、それを帳消しにする多種の属性魔法があるからだ。
「随分とレインさんのことを評価されているようですが」
「そりゃあね?あんなに才能がある新人って初めてだったからさ~」
「才能ですか。私が分かるのは、仕事に誠実な方だということだけですね」
レインは採取依頼を好んで請けていたが、いつも必要以上に納品していた。採りすぎた分は自分のものにしていいよ、と一度言ったけど、持っててもしょうがないから、と返されたことがあった。報酬金が上がったりするわけでもないのに。
その働きっぷりをテオも評価しているのは分かっていた。ただそれは人柄の問題で、Fランクの冒険者、というまだ未熟な肩書をテオは注視していた。
「しかし不思議な方でした。褒美に図書館に行きたいとお願いをするなんて」
「ねー。知的探究心があるよね」
「…それにしては少し世間知らずな面があると感じましたが」
「そうかな?子供ならそんなもんじゃない?」
「子供だとしてもですよ。ギルドに入りたいというのに、魔物のことをあまりに知らなさすぎでは?」
「ん…。確かに」
レインと一緒に行動した期間はそこまで長くはないけど、どの魔物にも初めて会ったような口ぶりで対峙していた。どんなに箱入り娘であっても、よく出会う魔物の名前ぐらいは知っていそうなものだけど…。
それに市場でそこそこ出回っている物品について詳しくなさそうだった。武器屋では量産されている杖を吟味していたし、道具屋ではポーションを掲げてまじまじと見つめていた。
「今までどうやって生きてきたんでしょうね」
テオの疑問は尤もだった。流石にあの様子じゃアルガード出身とは思えないし、かといってデルタ帝国から来たとも思えない。カイエル公国ではレインみたいな歳の子は基本国から出ないだろうし、ありえるのはフォークナー帝国とか、あとはガルナ大陸から来たか。…それにしては服装が軽装だったなぁ。
「まー気になるけどさ、あたし達からすれば充分に仕事してくれて大助かりだし、そこんところ突っ込んでもしょうがないよ」
「別に突っ込もうとはしてません。ただ、本当に疑問に思っただけです」
テオが鋭い視線であたしのことを見た。
「睨まないでよ~。そんなこと分かってるんだから」
「はぁ…。レインさんは現在護衛という仕事をしているのに、トリッシュはいつになったら仕事の方を進めるんですかね?」
「はいはい。全く堅いなぁ」
テオに目で追訴されてしまったので、そろそろあたしも働かないと。片手をテオに差し出すと、彼女はあたしに余り物の依頼書数枚を手渡した。
「討伐依頼の一枚にBランクのものがありましたので、それだけ注意してください。他は大体EやFのものです」
Bランクか。特別難しいって訳でもないけど、ある程度準備していかないとね。午前中に終わらせて、お昼を食べた後に低ランク依頼を達成できればいいかな。
「りょーかい。じゃ、行ってくるね」
「お気をつけて、いってらっしゃい」
お互いに別れ際の決まり文句を言って、あたしは外へ出た。空を見ると、曇り空一つ無い快晴だった。
次にレインに会った時、成長してここに帰ってきたとしても、まだあたしのほうが上なんだよってことを知らしめないとね。先輩としての意地なんだから。
握り拳を作った両手を空に掲げて、自身を鼓舞するように言葉を放った。
「さて、今日も一日頑張りますか!」
声を張り上げて叫んだあたしは、馬車の姿が見えなくなるまで手を振っていた。周りの大人達は自身の仕事があるからか、途中で持ち場に帰ってゆくが、子供たちはずっとあたしと一緒に手を振っていた。この中にも、冒険者になりたいと将来ギルドに入る子もいるんだろうな。
さて、無事に見送りもできたことだし、あたしはあたしの仕事をしなくちゃ。
ギルドの中に戻ると、まだ幾人かの冒険者が掲示板の前でうんうんと唸っていた。あれは確か五人チームのところだ。あれだけ人数が多いとあれこれ議論することも多いんだろうな。
受付にはテオがいた。冒険者が依頼を請ける時にはスムーズにその手続きをしてくれる、優秀なギルドメンバーの一人だ。…と言っても、歳もギルドメンバーになった時期もあたしの方が下だから、こんな言い種をしたら怒られちゃうかもしれないけど。
「荷馬車が出発したよ」
あたしは気さくにテオに話しかける。前述の通りテオは先輩に当たる立場なんだけど、こんな感じであまり上下関係が垣間見えない、割とフランクな仲だ。…といっても、一方的に砕けた話し方をしてるだけなんだけど。
元々あたしが敬語とかに距離感を感じちゃう質だったから、テオ本人に、先輩なのに敬語を遣われると距離を感じちゃいます、って言ったら、そう感じるなら貴女が敬語をやめればいいのでは?と返されて、以後こんな感じで話している。相変わらずテオはあたしにも、誰に対しても丁寧な言葉遣いをしているけど、今ではそのほうが当たり前になっちゃった。
あぁでも、ある時期から、パトリシアさん、じゃなくて、トリッシュ、って呼ばれ始めたなぁ。その時は結構嬉しかったな。
「そうですか。無事に着くといいですね」
「大丈夫だよ。なんたってレインがいるんだから」
対人戦ではまだまだ甘いところが目に付くけど、とはいえレインは今回の護衛メンバーの中で一番強いんじゃないかなと思っていた。技術的な面はまだ成長段階かもしれない反面、それを帳消しにする多種の属性魔法があるからだ。
「随分とレインさんのことを評価されているようですが」
「そりゃあね?あんなに才能がある新人って初めてだったからさ~」
「才能ですか。私が分かるのは、仕事に誠実な方だということだけですね」
レインは採取依頼を好んで請けていたが、いつも必要以上に納品していた。採りすぎた分は自分のものにしていいよ、と一度言ったけど、持っててもしょうがないから、と返されたことがあった。報酬金が上がったりするわけでもないのに。
その働きっぷりをテオも評価しているのは分かっていた。ただそれは人柄の問題で、Fランクの冒険者、というまだ未熟な肩書をテオは注視していた。
「しかし不思議な方でした。褒美に図書館に行きたいとお願いをするなんて」
「ねー。知的探究心があるよね」
「…それにしては少し世間知らずな面があると感じましたが」
「そうかな?子供ならそんなもんじゃない?」
「子供だとしてもですよ。ギルドに入りたいというのに、魔物のことをあまりに知らなさすぎでは?」
「ん…。確かに」
レインと一緒に行動した期間はそこまで長くはないけど、どの魔物にも初めて会ったような口ぶりで対峙していた。どんなに箱入り娘であっても、よく出会う魔物の名前ぐらいは知っていそうなものだけど…。
それに市場でそこそこ出回っている物品について詳しくなさそうだった。武器屋では量産されている杖を吟味していたし、道具屋ではポーションを掲げてまじまじと見つめていた。
「今までどうやって生きてきたんでしょうね」
テオの疑問は尤もだった。流石にあの様子じゃアルガード出身とは思えないし、かといってデルタ帝国から来たとも思えない。カイエル公国ではレインみたいな歳の子は基本国から出ないだろうし、ありえるのはフォークナー帝国とか、あとはガルナ大陸から来たか。…それにしては服装が軽装だったなぁ。
「まー気になるけどさ、あたし達からすれば充分に仕事してくれて大助かりだし、そこんところ突っ込んでもしょうがないよ」
「別に突っ込もうとはしてません。ただ、本当に疑問に思っただけです」
テオが鋭い視線であたしのことを見た。
「睨まないでよ~。そんなこと分かってるんだから」
「はぁ…。レインさんは現在護衛という仕事をしているのに、トリッシュはいつになったら仕事の方を進めるんですかね?」
「はいはい。全く堅いなぁ」
テオに目で追訴されてしまったので、そろそろあたしも働かないと。片手をテオに差し出すと、彼女はあたしに余り物の依頼書数枚を手渡した。
「討伐依頼の一枚にBランクのものがありましたので、それだけ注意してください。他は大体EやFのものです」
Bランクか。特別難しいって訳でもないけど、ある程度準備していかないとね。午前中に終わらせて、お昼を食べた後に低ランク依頼を達成できればいいかな。
「りょーかい。じゃ、行ってくるね」
「お気をつけて、いってらっしゃい」
お互いに別れ際の決まり文句を言って、あたしは外へ出た。空を見ると、曇り空一つ無い快晴だった。
次にレインに会った時、成長してここに帰ってきたとしても、まだあたしのほうが上なんだよってことを知らしめないとね。先輩としての意地なんだから。
握り拳を作った両手を空に掲げて、自身を鼓舞するように言葉を放った。
「さて、今日も一日頑張りますか!」
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