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第三章
第34話『パルドニア鉱山最奥部』
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奥に進めば進むほど魔物の数が増えていく。気づけば鉱山入り口では木板で閉ざされていた横道も、封鎖するものがなくなり、代わりに冒険者かと思われる声が小さく響いている。
あれからリンネとの会話はない。私が付いてくることを拒むことなく、しかし私を利用するような素振りも見せない。淡々と飛び掛かってくる魔物を薙ぎ払うばかりである。
微力ながら私も後方から支援を続けるが、倒した敵は彼女のほうが圧倒的に多い。どうしてあんなに大きな剣を自由に扱えるんだろうか。私とそんなに変わらないぐらいの、華奢な身体付きに見えるのに。
それともあの剣が見た目以上に軽い…わけはないか。引摺っていたときの地面を抉るような音は到底軽そうに思えない。
道の真ん中に握れるほどの木の棒が落ちていた。先端と思われる部分には布のようなものがぐるぐると巻かれており、ちょっと焦げ臭い。
松明、か。逃げてきた炭鉱夫が落としてしまったんだろうか。
「お前、暗視スキルは使えるんだよな」
「えっ…どうして分かるの?」
「前に戦ってた時に使ってただろ。そうでもしないとあの暗闇の中で戦うなんて出来ない」
ラーシャム湖沼の時のことか。吃驚した。また私のスキルが見破られたのかと思った。
言われてみれば、あの時リンネも暗視スキルを使っていたのか。分析したから彼女の能力を知ってはいたが、戦っているときにはそんなところを覚えている余裕なんてなかった。
それにしてもすごい観察力だなぁ。戦闘中でさえも周りの状況を捉えているなんて。多分リンネが一人で旅できる一つのポイントなんだろうな。
リンネはまた奥へと進んでいった。彼女も私も暗視スキルを持っているので、この松明は必要がない。
でも、もし私が暗視スキルを持っていなかったら、この松明を使っていたのかな?
ランプのない坑道は人の手が殆ど入ってないことが分かる。採掘途中の坑道は地面も天井も壁も凸凹である。まだ採っていない鉱石も僅かながらにあった。光沢がないのは原石だからか、私たちが暗視スキルを使っているからか、分からない。
魔物にとって宝石などはただの石ころと同じなのだろう。目もくれずに私たちへ向かってくる。数も多くなり段々リンネでも捌ききれなくなってきていた。
<<スプラッシュ>>!!
私も後ろから応戦した。勢いよく現れた水は濁流と化し、奥から湧き出てくる魔物を飲み込んでいく。天井に引っ付いているヤツには効果がなかったものの、半分以上も蹴散らすことはできた。
増援が一時的に止まり、リンネも襲ってきた魔物を倒し切ることができた。すると彼女は私の方を向かずにぼそりと呟いた。
「礼は言わないからな」
それは最早礼を言いたいと言っているようなものな気がするけれど、敢えてそこには突っ込まなかった。
「勿論。利用しているんでしょ?」
私がそう言うと、彼女は一瞬だけ動きを止めた。その後は何事もなかったかのように奥へと進んでいった。
リンネというものが段々分かってきたような気がする。多分思ったことを素直に言葉にできない、所謂ツンデレ的なアレなんだろう。それで無意識に反対のことを言っちゃったり、自分の言ったことに自分で引っかかっちゃったりするんだろうな。
坑道はいつしか洞窟へと変わり果てていた。人の手が入っているような形跡はどこにも無くなり、足元は不安定である。慎重に進まないと足首を捻ってしまいそうだ。
一方でヴァンパイダー達はそんなのお構い無しにドンドンと湧き出てくる。私達とは違い捻りそうな脚もなく、八本足だから足場の悪さを感じさせなかった。完全に地の利を取られている。単体ではそこまで強くないのが唯一の救いだった。
流石のリンネも足場に対し慎重にならざるをえないようで、以前に比べ動きに不自由が生じている。足場だけではなく上にも横にも制限がかかっているのも関係があった。それでも尚敵を払い除けているのだから大したものである。
…そして遂に大きな空洞へと辿り着いた。
壁床一面にヴァンパイダーが蠢いており、完全に奴らの巣窟であると分かった。全員私たちを睨み付けて、近い奴らから襲いかかってくる。私もリンネも迎撃を続けるが、幾ら退けても数が減らない。
<<スプラッシュ>>!!
一度周辺をスイープしようと水魔術を唱えた。水流は近場のヴァンパイダーを巻き込み、距離を離すことに成功した。ただ、その後ろからまた新手が出てくる。キリがない。
「レイン!あの穴に魔法を撃て!」
リンネが顔で指した方には蛸壺のような大きな穴があった。よく見るとそこからヴァンパイダーが溢れている。なるほど。あそこに魔物の元があるのか。
<<ロックキャノン>>!!
大穴に向かって魔法を放つと、岩石が吸い込まれるように穴に入っていった。初めはなんの変化も無かったが、僅かに地響きがして、ヴァンパイダーたちの動きが止まった。
もしこれだけで事が済んだらどれだけ楽なのか。希望的観測は大概希望的観測のままで終わってしまう。その道理の通りに、大穴からまたヴァンパイダーが現れた。しかし、そこらのよりも遥かに大きい個体だった。
【名称】ヴァンパイダー
【種族】魔物-蟲
【体力】2,800/2,800
【魔力】300/300
【属性】地・闇
【弱点】火・光
【スキル】暗視Lv1・猛毒攻撃Lv3・猛毒耐性Lv3
見紛うことなき親玉である。数が減らなかったのはこいつの所為に違いない。ヴァンパイダーを生み続けるこいつはさしずめ女王と言ったところか。
「私は大元を叩く。お前は出来る限り敵の数を減らせ」
リンネは両手で握った剣を構え直しながら言った。実力と攻撃範囲を考えたら、私が魔法で敵の数を減らし、彼女が女王と対峙するのがベストだ。
「わかった」
私も杖を構え直し、魔法を放つ体勢を整えた。すると小声でリンネの声が聞こえた。
「もし危なくなったら、逃げろよ」
彼女はそれだけ言って親玉の元へ向かっていった。
敵の懐へ潜り込もうとする人の台詞じゃない。そんな人を目の前にして簡単に逃げられるわけがない。
<<スプラッシュ>>!!
リンネを止めようと集る魔物に魔法を放った。地面を這う魔物を飲み込むように襲いかかる。それで周りのヴァンパイダーも半分くらいが私の方を睨みつけてきた。
よし、気を引くことは成功している。あとはこいつらを倒すだけだ。
壁や天井にいるヴァンパイダーは水に流されることなく、私の元へと襲い掛かってきた。四方八方から来るので、同じような対処はできない。
<<マジック>>!!
無魔術を唱えると一気に飛び込んできた魔物たちを迎撃することに成功した。しかし、倒すまでは至らず暫くすると起き上がってしまっている。無魔術は一発で仕留めるには威力が足らなさすぎた。
<<フレイムサークル>>!!
弱点である火魔術で攻撃すれば、ヴァンパイダーも一撃で倒せる。しかし、固定の範囲に限った魔法なので、スプラッシュに比べて効率が悪くなってしまう。いっそ我が身もろとも空洞全体にしたいところだが、無理な話だ。そもそも、リンネがが一緒に戦ってる手前そんな道連れはできない。
…と、ちらとリンネを見ると女王に攻撃を仕掛けようとしていた。しかし、それを見越して近くのヴァンパイダーが近づかせまいと、女王の前で壁を作っていた。
リンネはその壁を只管崩していたが、大穴の奥から出てくるヴァンパイダーは絶えることを知らず、崩れては重なり、崩れても何十もの壁が立ちはだかっていた。
「リンネ!下がって!」
私が叫ぶ声はリンネに届いたようで、振り向くことなくバックステップをした。
<<スプラッシュ>>!!
水流は魔物の壁にぶち当たり、瞬く間に崩壊していった。しかし、親玉までは届かなかったようで、奥から出てきたやつらが再び防壁と成そうとしている。
「いくら減らしてもキリがないよ!一回体勢を立て直さない!?」
私がそう提案しても、リンネは黙って魔物から目を離さない。まだ何か策が無いかと探っているようだった。
「お前、フレイムサークルは使えるんだよな」
「え?うん、使えるよ!」
「親玉の前にいるやつらに向かって放て。その隙にトドメを刺す」
壁が無い隙に魔物たちを掻い潜り、女王の懐まで近づこうという算段か。その隙が果たしてどれくらいできるのだろうか。今だってその防壁は女王を完全に隠してしまっている。
「はやくしろ!」
リンネは私の返事を待たずに急かす。有無を言わさない口調だった。仕方ない、やるだけやってみよう。それでもダメならがんばってリンネを説得して退却をしよう。
<<フレイムサークル>>!!
火炎はヴァンパイダーたちの足元を燃やし、延焼を起こして、防壁を包むように燃え盛っていた。確かにこれならまた魔物が這い出てきても壁を成すのに時間を要するだろう。
ところがその火炎の中に突っ込んでいったのが一人。言うまでもなくリンネだった。
「ちょっと!?リンネ!?」
私の静止の掛け声も届かずリンネは炎の中へ消えていった。相変わらず火は勢いを失うことを知らない。心配するのも束の間、火魔術の範囲外にいるヴァンパイダーがこちらに向かって猛毒攻撃を仕掛けてきた。
「やばっ…」
身体をすぐ引いて間一髪で避けられた…と思ったが、数滴僅かが私の左腕にかかり、焼けるような痛みが走った。
回復する暇もない。まずは目の前にいるヴァンパイダーを処理しないと…。
<<ファイアボール>>!!
放った魔法はそのヴァンパイダーに命中した。なんとか倒すことができたが、このまま長期戦に持ち込めば不利なのは間違いない。早く数を減らさないと…。
しかし、周りのヴァンパイダーは突然襲撃を止めた。正確には止めたと言うより、惑っている様子だった。
そしてなにをするのかと身構えていたら、方々へ散っていった。出てきた穴に戻る奴もいれば、外への出口へ散っていく奴もいる。
それで周りを見て、炎が収まっていることに初めて気付いた。そこには胴体を真っ二つに切り開かれて動かない親玉のヴァンパイダーと、大剣を片手に膝をついて大きく息切れをしているリンネがいた。
「リンネ!大丈夫!?」
私は真っ直ぐ駆け寄って彼女の状態を診た。炎に突っ込んでいったせいで、特に腕の辺りに火傷痕がある。服は燃えてはいないが、燻った色付きになってしまっている。
<<エイド>>!!
治癒術を唱えると、リンネの呼吸は落ち着きを取り戻していた。火傷痕を治すことはできなかったが動く分には問題ないだろう。
「…相変わらず世話焼きだな」
「もう、無理しないでよ。まさか火の中に突っ込むなんて」
傷は残っているものの、深傷ではない様子で安堵した。…と、途端に左腕に締め付けられるような痛みが走った。例の毒である。
「…っ」
「お前こそ無理してんじゃないか」
「あはは…まぁこれくらいなら」
マジックバッグから回復薬を取り出そうと、片手でバッグの中身を探る。やっと手につかんだものを取り出すと、それは麻痺回復のアンチパラライズだった。
それを戻して再びバッグの中を粗探しするが、いつまでたっても毒回復の道具は見つからない。そういえばまだ買ってなかったんだった。しまった。
「…お前、いつも準備が甘いな」
するとリンネが無色の液体の入った小瓶を渡してきた。アンチポイズンである。
「いいの?」
「要らないならその状態で帰るんだな」
それだけ言ってリンネは立ち上がり、微動だにしない女王ヴァンパイダーの様子を窺っていた。仕方ない。無いものは無いんだから、厚意に甘えよう。
アンチ系の道具は塗り薬となっていて、主に肌に馴染ませるように塗ると効果が現れる。毒や麻痺、火傷や凍傷といったのが主な塗り薬だ。ただ、もし毒を口の中へ通してしまったらアンチ系の薬は効果が出ないようで、その場合は粉薬で対処するのが鉄則だ。
…それにしても、なんかリンネといると色々助かっちゃってるな。こないだもハンマーとか上着とか貸してくれたし…。
「あっ!」
そうだ、上着、まだ返してない。
マジックバッグの中にある上着を取り出して、座りこんだままリンネへと腕を伸ばした。一方リンネは私の少し大きな声を聞いて、訝しげな顔でこちらを見ていた。
「リンネこれ、貸してくれてありがとう」
「…あぁ、わざわざどうも」
リンネは上着を受け取り、早速それに腕を通した。見慣れない厚着姿だった。今は洞窟の中だからいいものの、外に出れば暑苦しいこと間違いないだろう。
「律儀だな」
「そりゃだって、貸してもらったものなんだから当然だよ」
でも、もしここで思い出さなかったら、返すことをずっと忘れていたことだろう。いつ返せてもいいようにずっと持っていて正解だった。そしてよく思い出した私。
ただ、彼女が代わりに私の前に落としたのは…女王ヴァンパイダーの足の一本だった。
「えっ」
「…どうした?」
「これ、どうすればいいの?」
「持って帰ってギルドに持って帰る」
「…あぁ、そういうこと」
確かにギルド規約には、緊急依頼に関与する物をギルドまで運べば、報酬金が上乗せされるんだったっけ。で、これがその証拠品ってことか。吃驚した。これがお返しなのかと思った。
そういえばリンネ自身もよく、礼は言わないからな、って言ってるっけ。まぁその分別の形で助かっているんだけど。
周りを見回した彼女はこれ以上問題ないことを確認して、来た道から戻ろうとしていた。私もちらと動かない、二本の足がなくなっているヴァンパイダーを最後に見て、彼女の後について行った。
あれからリンネとの会話はない。私が付いてくることを拒むことなく、しかし私を利用するような素振りも見せない。淡々と飛び掛かってくる魔物を薙ぎ払うばかりである。
微力ながら私も後方から支援を続けるが、倒した敵は彼女のほうが圧倒的に多い。どうしてあんなに大きな剣を自由に扱えるんだろうか。私とそんなに変わらないぐらいの、華奢な身体付きに見えるのに。
それともあの剣が見た目以上に軽い…わけはないか。引摺っていたときの地面を抉るような音は到底軽そうに思えない。
道の真ん中に握れるほどの木の棒が落ちていた。先端と思われる部分には布のようなものがぐるぐると巻かれており、ちょっと焦げ臭い。
松明、か。逃げてきた炭鉱夫が落としてしまったんだろうか。
「お前、暗視スキルは使えるんだよな」
「えっ…どうして分かるの?」
「前に戦ってた時に使ってただろ。そうでもしないとあの暗闇の中で戦うなんて出来ない」
ラーシャム湖沼の時のことか。吃驚した。また私のスキルが見破られたのかと思った。
言われてみれば、あの時リンネも暗視スキルを使っていたのか。分析したから彼女の能力を知ってはいたが、戦っているときにはそんなところを覚えている余裕なんてなかった。
それにしてもすごい観察力だなぁ。戦闘中でさえも周りの状況を捉えているなんて。多分リンネが一人で旅できる一つのポイントなんだろうな。
リンネはまた奥へと進んでいった。彼女も私も暗視スキルを持っているので、この松明は必要がない。
でも、もし私が暗視スキルを持っていなかったら、この松明を使っていたのかな?
ランプのない坑道は人の手が殆ど入ってないことが分かる。採掘途中の坑道は地面も天井も壁も凸凹である。まだ採っていない鉱石も僅かながらにあった。光沢がないのは原石だからか、私たちが暗視スキルを使っているからか、分からない。
魔物にとって宝石などはただの石ころと同じなのだろう。目もくれずに私たちへ向かってくる。数も多くなり段々リンネでも捌ききれなくなってきていた。
<<スプラッシュ>>!!
私も後ろから応戦した。勢いよく現れた水は濁流と化し、奥から湧き出てくる魔物を飲み込んでいく。天井に引っ付いているヤツには効果がなかったものの、半分以上も蹴散らすことはできた。
増援が一時的に止まり、リンネも襲ってきた魔物を倒し切ることができた。すると彼女は私の方を向かずにぼそりと呟いた。
「礼は言わないからな」
それは最早礼を言いたいと言っているようなものな気がするけれど、敢えてそこには突っ込まなかった。
「勿論。利用しているんでしょ?」
私がそう言うと、彼女は一瞬だけ動きを止めた。その後は何事もなかったかのように奥へと進んでいった。
リンネというものが段々分かってきたような気がする。多分思ったことを素直に言葉にできない、所謂ツンデレ的なアレなんだろう。それで無意識に反対のことを言っちゃったり、自分の言ったことに自分で引っかかっちゃったりするんだろうな。
坑道はいつしか洞窟へと変わり果てていた。人の手が入っているような形跡はどこにも無くなり、足元は不安定である。慎重に進まないと足首を捻ってしまいそうだ。
一方でヴァンパイダー達はそんなのお構い無しにドンドンと湧き出てくる。私達とは違い捻りそうな脚もなく、八本足だから足場の悪さを感じさせなかった。完全に地の利を取られている。単体ではそこまで強くないのが唯一の救いだった。
流石のリンネも足場に対し慎重にならざるをえないようで、以前に比べ動きに不自由が生じている。足場だけではなく上にも横にも制限がかかっているのも関係があった。それでも尚敵を払い除けているのだから大したものである。
…そして遂に大きな空洞へと辿り着いた。
壁床一面にヴァンパイダーが蠢いており、完全に奴らの巣窟であると分かった。全員私たちを睨み付けて、近い奴らから襲いかかってくる。私もリンネも迎撃を続けるが、幾ら退けても数が減らない。
<<スプラッシュ>>!!
一度周辺をスイープしようと水魔術を唱えた。水流は近場のヴァンパイダーを巻き込み、距離を離すことに成功した。ただ、その後ろからまた新手が出てくる。キリがない。
「レイン!あの穴に魔法を撃て!」
リンネが顔で指した方には蛸壺のような大きな穴があった。よく見るとそこからヴァンパイダーが溢れている。なるほど。あそこに魔物の元があるのか。
<<ロックキャノン>>!!
大穴に向かって魔法を放つと、岩石が吸い込まれるように穴に入っていった。初めはなんの変化も無かったが、僅かに地響きがして、ヴァンパイダーたちの動きが止まった。
もしこれだけで事が済んだらどれだけ楽なのか。希望的観測は大概希望的観測のままで終わってしまう。その道理の通りに、大穴からまたヴァンパイダーが現れた。しかし、そこらのよりも遥かに大きい個体だった。
【名称】ヴァンパイダー
【種族】魔物-蟲
【体力】2,800/2,800
【魔力】300/300
【属性】地・闇
【弱点】火・光
【スキル】暗視Lv1・猛毒攻撃Lv3・猛毒耐性Lv3
見紛うことなき親玉である。数が減らなかったのはこいつの所為に違いない。ヴァンパイダーを生み続けるこいつはさしずめ女王と言ったところか。
「私は大元を叩く。お前は出来る限り敵の数を減らせ」
リンネは両手で握った剣を構え直しながら言った。実力と攻撃範囲を考えたら、私が魔法で敵の数を減らし、彼女が女王と対峙するのがベストだ。
「わかった」
私も杖を構え直し、魔法を放つ体勢を整えた。すると小声でリンネの声が聞こえた。
「もし危なくなったら、逃げろよ」
彼女はそれだけ言って親玉の元へ向かっていった。
敵の懐へ潜り込もうとする人の台詞じゃない。そんな人を目の前にして簡単に逃げられるわけがない。
<<スプラッシュ>>!!
リンネを止めようと集る魔物に魔法を放った。地面を這う魔物を飲み込むように襲いかかる。それで周りのヴァンパイダーも半分くらいが私の方を睨みつけてきた。
よし、気を引くことは成功している。あとはこいつらを倒すだけだ。
壁や天井にいるヴァンパイダーは水に流されることなく、私の元へと襲い掛かってきた。四方八方から来るので、同じような対処はできない。
<<マジック>>!!
無魔術を唱えると一気に飛び込んできた魔物たちを迎撃することに成功した。しかし、倒すまでは至らず暫くすると起き上がってしまっている。無魔術は一発で仕留めるには威力が足らなさすぎた。
<<フレイムサークル>>!!
弱点である火魔術で攻撃すれば、ヴァンパイダーも一撃で倒せる。しかし、固定の範囲に限った魔法なので、スプラッシュに比べて効率が悪くなってしまう。いっそ我が身もろとも空洞全体にしたいところだが、無理な話だ。そもそも、リンネがが一緒に戦ってる手前そんな道連れはできない。
…と、ちらとリンネを見ると女王に攻撃を仕掛けようとしていた。しかし、それを見越して近くのヴァンパイダーが近づかせまいと、女王の前で壁を作っていた。
リンネはその壁を只管崩していたが、大穴の奥から出てくるヴァンパイダーは絶えることを知らず、崩れては重なり、崩れても何十もの壁が立ちはだかっていた。
「リンネ!下がって!」
私が叫ぶ声はリンネに届いたようで、振り向くことなくバックステップをした。
<<スプラッシュ>>!!
水流は魔物の壁にぶち当たり、瞬く間に崩壊していった。しかし、親玉までは届かなかったようで、奥から出てきたやつらが再び防壁と成そうとしている。
「いくら減らしてもキリがないよ!一回体勢を立て直さない!?」
私がそう提案しても、リンネは黙って魔物から目を離さない。まだ何か策が無いかと探っているようだった。
「お前、フレイムサークルは使えるんだよな」
「え?うん、使えるよ!」
「親玉の前にいるやつらに向かって放て。その隙にトドメを刺す」
壁が無い隙に魔物たちを掻い潜り、女王の懐まで近づこうという算段か。その隙が果たしてどれくらいできるのだろうか。今だってその防壁は女王を完全に隠してしまっている。
「はやくしろ!」
リンネは私の返事を待たずに急かす。有無を言わさない口調だった。仕方ない、やるだけやってみよう。それでもダメならがんばってリンネを説得して退却をしよう。
<<フレイムサークル>>!!
火炎はヴァンパイダーたちの足元を燃やし、延焼を起こして、防壁を包むように燃え盛っていた。確かにこれならまた魔物が這い出てきても壁を成すのに時間を要するだろう。
ところがその火炎の中に突っ込んでいったのが一人。言うまでもなくリンネだった。
「ちょっと!?リンネ!?」
私の静止の掛け声も届かずリンネは炎の中へ消えていった。相変わらず火は勢いを失うことを知らない。心配するのも束の間、火魔術の範囲外にいるヴァンパイダーがこちらに向かって猛毒攻撃を仕掛けてきた。
「やばっ…」
身体をすぐ引いて間一髪で避けられた…と思ったが、数滴僅かが私の左腕にかかり、焼けるような痛みが走った。
回復する暇もない。まずは目の前にいるヴァンパイダーを処理しないと…。
<<ファイアボール>>!!
放った魔法はそのヴァンパイダーに命中した。なんとか倒すことができたが、このまま長期戦に持ち込めば不利なのは間違いない。早く数を減らさないと…。
しかし、周りのヴァンパイダーは突然襲撃を止めた。正確には止めたと言うより、惑っている様子だった。
そしてなにをするのかと身構えていたら、方々へ散っていった。出てきた穴に戻る奴もいれば、外への出口へ散っていく奴もいる。
それで周りを見て、炎が収まっていることに初めて気付いた。そこには胴体を真っ二つに切り開かれて動かない親玉のヴァンパイダーと、大剣を片手に膝をついて大きく息切れをしているリンネがいた。
「リンネ!大丈夫!?」
私は真っ直ぐ駆け寄って彼女の状態を診た。炎に突っ込んでいったせいで、特に腕の辺りに火傷痕がある。服は燃えてはいないが、燻った色付きになってしまっている。
<<エイド>>!!
治癒術を唱えると、リンネの呼吸は落ち着きを取り戻していた。火傷痕を治すことはできなかったが動く分には問題ないだろう。
「…相変わらず世話焼きだな」
「もう、無理しないでよ。まさか火の中に突っ込むなんて」
傷は残っているものの、深傷ではない様子で安堵した。…と、途端に左腕に締め付けられるような痛みが走った。例の毒である。
「…っ」
「お前こそ無理してんじゃないか」
「あはは…まぁこれくらいなら」
マジックバッグから回復薬を取り出そうと、片手でバッグの中身を探る。やっと手につかんだものを取り出すと、それは麻痺回復のアンチパラライズだった。
それを戻して再びバッグの中を粗探しするが、いつまでたっても毒回復の道具は見つからない。そういえばまだ買ってなかったんだった。しまった。
「…お前、いつも準備が甘いな」
するとリンネが無色の液体の入った小瓶を渡してきた。アンチポイズンである。
「いいの?」
「要らないならその状態で帰るんだな」
それだけ言ってリンネは立ち上がり、微動だにしない女王ヴァンパイダーの様子を窺っていた。仕方ない。無いものは無いんだから、厚意に甘えよう。
アンチ系の道具は塗り薬となっていて、主に肌に馴染ませるように塗ると効果が現れる。毒や麻痺、火傷や凍傷といったのが主な塗り薬だ。ただ、もし毒を口の中へ通してしまったらアンチ系の薬は効果が出ないようで、その場合は粉薬で対処するのが鉄則だ。
…それにしても、なんかリンネといると色々助かっちゃってるな。こないだもハンマーとか上着とか貸してくれたし…。
「あっ!」
そうだ、上着、まだ返してない。
マジックバッグの中にある上着を取り出して、座りこんだままリンネへと腕を伸ばした。一方リンネは私の少し大きな声を聞いて、訝しげな顔でこちらを見ていた。
「リンネこれ、貸してくれてありがとう」
「…あぁ、わざわざどうも」
リンネは上着を受け取り、早速それに腕を通した。見慣れない厚着姿だった。今は洞窟の中だからいいものの、外に出れば暑苦しいこと間違いないだろう。
「律儀だな」
「そりゃだって、貸してもらったものなんだから当然だよ」
でも、もしここで思い出さなかったら、返すことをずっと忘れていたことだろう。いつ返せてもいいようにずっと持っていて正解だった。そしてよく思い出した私。
ただ、彼女が代わりに私の前に落としたのは…女王ヴァンパイダーの足の一本だった。
「えっ」
「…どうした?」
「これ、どうすればいいの?」
「持って帰ってギルドに持って帰る」
「…あぁ、そういうこと」
確かにギルド規約には、緊急依頼に関与する物をギルドまで運べば、報酬金が上乗せされるんだったっけ。で、これがその証拠品ってことか。吃驚した。これがお返しなのかと思った。
そういえばリンネ自身もよく、礼は言わないからな、って言ってるっけ。まぁその分別の形で助かっているんだけど。
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