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(12)祭りの日
しおりを挟む祭りの日。
私はジョシュア様と街を歩いていた。ドレスはもちろんジョシュア様に見立ててもらったもので、襟元を飾るレースもジョシュア様の力作だ。
隣を歩くジョシュア様は、今日は一段ときらびやかで美しかった。
騎士を引退しても、腰に剣を帯びているのは変わらない。
でも、貴族階級を示す紋章飾りのついた姿を見ていると、普段は気安く接してくれるこの方が本当は貴族の一員なのだと思い知らされる。
私はただの庶民の娘で、それなりの財産はあるけれど平凡な容姿の行き遅れ。
ただの妹分。
なのに、ジョシュア様を盗み見るたびにドキドキしてしまう。
だって今日のジョシュア様は……私のドレスと同じ、クリーム色の衣装なのだ。
貴族と庶民の服という違いはあるけれど、まるで祭りの間は私と一緒にいるのだと宣言しているように思えて、あり得ないとわかっているのに胸が高鳴ってしまう。
兄妹のつもりに決まっている。
でも、私の歩調に合わせてくれるジョシュア様は、いつもより楽しそうに見える気がする。
私を振り返る表情もとてもくつろいでいて、すれ違う恋人たちとか夫婦たちとかがお互いを見るときと似ている気がする。
勝手に夢を見ているから、そんな錯覚をしてしまうのだ。
そう自分を戒めようとして……ふと思い当たった。
「……あ、そうか。そうなんだ」
「ん? どうかした? リィナちゃん」
「何でもないわ、ジョシュア様。あ、ねえ、向こうの通りって何があってるか知ってる?」
「向こうはサイム通りか。人がずいぶん集まっているね。案内図を見てみようか」
ジョシュア様は足を止め、折り畳んで持っていた案内図を取り出し、大きく広げて現在位置を探している。
そんなジョシュア様を見上げながら、私はこっそり手を握りしめた。
向こうに見えるサイム通りには音楽隊が来ているようだ。軽やかな音楽が聞こえる。人も集まっていて、とてもにぎやかだ。気にならないわけではないけれど……私は本当はそんなに興味はなかった。
でもそちらに気を向ければ胸の苦しさが紛れる気がして、ジョシュア様が広げた案内図を覗き込む。
私は思い当たってしまった。
ジョシュア様がくつろいでいて、いつもより楽しそうにしているのは、私を家族と同等に思ってくれているからだ。
ジョシュア様にはお兄様が二人、お姉様が二人いらっしゃる。弟様も一人いて、妹様は四人いると聞いている。
十代半ばからご実家を離れて働いていたけれど、ご家族のことは本当に大切にしていて、特に母親が違う妹様たちのことはいつも気にかけていた。
その妹様たちが全員嫁いでしまった今、私は最後の「妹」だ。
お揃いの衣装も、家族でやってきたことなのかもしれない。
ジョシュア様が大切にしている家族と同等に扱ってもらえるのは嬉しい。でも、苦しい。
妹の代わりは、私だけ。他にはいないはず。
特権的な立場で、今まで特別に可愛がってもらってきた自覚はある。そんなに恵まれている今の何が不満なのだろう。
庶民の娘にとっては、十分すぎる幸せではないか。
……それ以上を望むなんて、無知な子供にしか許されないことだ。
私はもう二十歳で、立派な大人だ。
いかに気さくに対応してもらっていても、貴族と庶民がどれほど違う階級かを知っている。商人の娘でしかない私が「妹」として笑いかけてもらえる幸せもわかっている。
いまさら身分や立場を忘れるなんて許されない。立場を弁えない愚かな女でいたくはない。
私は、ジョシュア様のただ一人の妹分。
それはとても幸せなことなのだ。……例え心が苦しくて、ジョシュア様が視線を向けるすべての女性に嫉妬したくても、それは絶対にしてはいけない。
身分が違う。
ジョシュア様にとって、私は妹でまだ幼い子供のままなのだ。
——期待してはいけない。愚かになってはいけない。立場を忘れてはいけない。
何度も何度も、私は自分の心に言い聞かせた。
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