あなたの破滅のはじまり

3

ダフネに逃げられたミカエルはここまできてもマルグリッタに怒りをぶつけていた。

「おいマルグリッタ！契約がどうのこうの、ちょっと厳しすぎるんじゃないのか？夫だった俺に冷たすぎだろう！？離縁は取り消そう。な、いいだろ？」

愛人に捨てられて惨めだこと。

マルグリッタは心の中でご都合主義のミカエルに嘆息した。

二人の関係ははじめから冷え切っていたわけではない。少なくともマルグリッタは、従兄弟であるミカエルの端正な顔立ちや婚約当時、自分を優しくエスコートしてくれる姿に心惹かれるところがあった。

だが、いつの頃からかミカエルはゴールダー家との契約を尊重するようたびたび物申されることがわずらわしくなり、マルグリッタへの態度を硬化させていった。

「何で夫の俺が妻を必要以上に重んじないといけないのだ！？そんなに妻は偉いのか！？」

プライドの高いミカエルには妻のマルグリッタの方が尊重される状況に我慢ならなかったようだ。

「マルグリッタ、俺たちは離縁したんだよな？だったら、さっさとこの屋敷から出ていけ」

離縁はやめるだの、今度は離縁したから出て行けだのと…

マルグリッタはまたため息をついた。

「出ていくのは私ではありませんのよ」
「何だと？」

青筋を立ててミカエルはマルグリッタを睨みつけた。

「この屋敷はゴールダー家の所有物ですの。出ていくのはあなたのほうですわ」
「きあー！！」

ミカエルは言うことなすこと否定され、怒りのあまり奇声を発した。

「なら、俺はここを出て森の別荘で暮らす！それならいいだろ！」
「…不可能ですわ。侯爵家の領地はすべて、ゴールダー家からの借用地ですの。あなたの居場所はもうどこにもありませんのよ？」
「く…っ！」
「今日中には出ていってくださる？」

ミカエルは歯噛みして、去っていくマルグリッタを眺めた。