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どこでボタンをかけ違えたのだろう。
転入早々クラスの女ボスの機嫌を損ねたことが発端となり、私はクラスの女子から無視され始めた。私が女ボスよりスイーツ作りが上手だった、という理由で。
家庭科の授業を一生懸命こなしただけなのに。
いや、それよりもきっとこれが気に食わなかったのだ。
クラスの一番人気の男子が私のスイーツをつまみ食いし「絶品だ」と褒めたことが。
私が教室に入るとまずされることは避けられること。
女子はあからさまに。男子は控えめに。
この世界って何?私、そんなに悪いことした?
挽回しようにも、女ボスを敵に回してまで私の味方をする者はいなかった。
女ボスはこの辺の有力者の娘だって?知らないわよ、そんなこと。
誰も周りに近づいて来なくても、平気なふりを続けた。
攻撃してもへこたれ(て見え)ない相手にはヒトは残酷になる。
次第に女子たちの所業はよくあるいじめにエスカレートしていった。
上靴を汚される、教科書を破られる、体操服をゴミ箱に捨てられる。
笑えるほど漫画やドラマと一緒だった。
私は決して学校で涙を見せなかった。涙が込み上げてきても見せてなるものかと歯を食いしばった。
けれど、本当は泣きたかった。辛かった。でも言えなかった。親にも、故郷の親友にも。
話すことで、引越し先で悲惨な学校生活を送っている事実を認めたくなかった。
そんなある日、マンションが火事になった。
親が遠くの親戚の葬儀で不在の夜だった。
「逃げろ!」の声が方々から聞こえたけど、私は逃げなかった。
「お父さん、お母さんごめんなさい。私もう楽になりたい」
いくら平気なふりをしても、涙を飲み込んでも、心はズタズタに傷つき疲れ果てていたと、その時ようやく私は気づいた。
真っ赤な炎が部屋を取り囲んだ。
神さま…もしいるのなら、私をここではないどこかに連れて行って。
炎より怖いのは人だから──
私は灼熱の暑さと息苦しさを受け入れ、祈るように固く目を閉じた。
祈りに応えるように炎が一気に私を包んだ。
これで終わりのはず、だった。
でも──
「ん?」
光を感じて目を開けると、私は豪華なベッドの上にいた。
私死ななかったの?
病院にしては高級感がすごい部屋だけど、ここどこ?
「お目覚めですか、シンシア様」
突然声をかけられびくりとする。
数人の侍女らしき人たちが私を取り囲んでいる。
「シンシア様、お怪我のほうはもう大丈夫だと医師が申しておりました」
はい?怪我って、火傷??
でも両手には火傷のあとすらない。もう治ったの??
「ではシンシア様」
「いやあの、私シンシアじゃな──」
「朝のお支度をいたしましょう」
「え?え?」
侍女たちのあまりの手際のよさに、洗顔、着替え、ヘアセットと、私はされるがままだった。
「お似合いでございます」
新緑に染め上げられた絹地に銀糸で見事な刺繍がほどこされたドレス。
上品に結い上げられ、ジュエリーで飾られた黒髪。
ちょっと待って。
これってまるで。
「シンシア様」
侍従が部屋をノックし、入室してきた。
「王太子殿下がお見えです」
やっぱり、これ──
「階段から落ちたと聞いたが、怪我の具合はどうだ?」
現れたのはキラキラした黄金の髪に碧眼の美しい男性だった。
「もうすっかり大丈夫でございます。幸い軽傷でいらっしゃいました」
王子だ、本物の王子だ。
ぼーっとしている私の代わりに侍女が応えた。
「ならばよかった。では無理せずゆっくり休むように」
その言葉を残し、王太子は早々に部屋を出て行った。
∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵
「殿下、もう少しシンシア様とお話をされてもよいのでは?ウォーレン公爵がまた何を言ってくるか」
廊下を足早に歩く王太子を侍従が追いかけながら諭している。
「顔を出したのだからいいだろう?早くケリーを部屋に呼べ」
「殿下!ケリー様は所詮、男爵令嬢です。お付き合いはほどほどになさってください。国の最有力貴族の公爵令嬢への扱いを間違えれば、王室がゆらぎかねません!」
行く手を阻むように侍従が王太子に言いつのる。
「シンシア様は、国の言い伝えでは国に豊穣をもたらすという黒髪黒眼の令嬢です!どうか大切になさってください!」
「ただの伝説であろう?私はあの令嬢に興味はない」
「婚約者の方にそのような言い方を…殿下、殿下!」
王太子はうっとうしそうに侍従を強引に振り切り、自室へと入って行った。
∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵
「シンシア様お気の毒に」
「婚約者はシンシア様の方なのに、殿下が身分の低い男爵令嬢なんかに入れ込んでいるせいで」
侍女たちのひそひそ話が耳に入ってきた。
そうか、やっぱり私は転生したのだ。悪役にされ、婚約者を男爵令嬢に奪われるというあのパターンの世界に。
そう腑に落ちてから気が楽になった。
一度終わった人生だもの。この世界では自由に生きたい。
しがらみもいらない。だから。
「王太子殿下、早く婚約破棄してくれないかなあ」
私はその日を待ち望むようになった。
転入早々クラスの女ボスの機嫌を損ねたことが発端となり、私はクラスの女子から無視され始めた。私が女ボスよりスイーツ作りが上手だった、という理由で。
家庭科の授業を一生懸命こなしただけなのに。
いや、それよりもきっとこれが気に食わなかったのだ。
クラスの一番人気の男子が私のスイーツをつまみ食いし「絶品だ」と褒めたことが。
私が教室に入るとまずされることは避けられること。
女子はあからさまに。男子は控えめに。
この世界って何?私、そんなに悪いことした?
挽回しようにも、女ボスを敵に回してまで私の味方をする者はいなかった。
女ボスはこの辺の有力者の娘だって?知らないわよ、そんなこと。
誰も周りに近づいて来なくても、平気なふりを続けた。
攻撃してもへこたれ(て見え)ない相手にはヒトは残酷になる。
次第に女子たちの所業はよくあるいじめにエスカレートしていった。
上靴を汚される、教科書を破られる、体操服をゴミ箱に捨てられる。
笑えるほど漫画やドラマと一緒だった。
私は決して学校で涙を見せなかった。涙が込み上げてきても見せてなるものかと歯を食いしばった。
けれど、本当は泣きたかった。辛かった。でも言えなかった。親にも、故郷の親友にも。
話すことで、引越し先で悲惨な学校生活を送っている事実を認めたくなかった。
そんなある日、マンションが火事になった。
親が遠くの親戚の葬儀で不在の夜だった。
「逃げろ!」の声が方々から聞こえたけど、私は逃げなかった。
「お父さん、お母さんごめんなさい。私もう楽になりたい」
いくら平気なふりをしても、涙を飲み込んでも、心はズタズタに傷つき疲れ果てていたと、その時ようやく私は気づいた。
真っ赤な炎が部屋を取り囲んだ。
神さま…もしいるのなら、私をここではないどこかに連れて行って。
炎より怖いのは人だから──
私は灼熱の暑さと息苦しさを受け入れ、祈るように固く目を閉じた。
祈りに応えるように炎が一気に私を包んだ。
これで終わりのはず、だった。
でも──
「ん?」
光を感じて目を開けると、私は豪華なベッドの上にいた。
私死ななかったの?
病院にしては高級感がすごい部屋だけど、ここどこ?
「お目覚めですか、シンシア様」
突然声をかけられびくりとする。
数人の侍女らしき人たちが私を取り囲んでいる。
「シンシア様、お怪我のほうはもう大丈夫だと医師が申しておりました」
はい?怪我って、火傷??
でも両手には火傷のあとすらない。もう治ったの??
「ではシンシア様」
「いやあの、私シンシアじゃな──」
「朝のお支度をいたしましょう」
「え?え?」
侍女たちのあまりの手際のよさに、洗顔、着替え、ヘアセットと、私はされるがままだった。
「お似合いでございます」
新緑に染め上げられた絹地に銀糸で見事な刺繍がほどこされたドレス。
上品に結い上げられ、ジュエリーで飾られた黒髪。
ちょっと待って。
これってまるで。
「シンシア様」
侍従が部屋をノックし、入室してきた。
「王太子殿下がお見えです」
やっぱり、これ──
「階段から落ちたと聞いたが、怪我の具合はどうだ?」
現れたのはキラキラした黄金の髪に碧眼の美しい男性だった。
「もうすっかり大丈夫でございます。幸い軽傷でいらっしゃいました」
王子だ、本物の王子だ。
ぼーっとしている私の代わりに侍女が応えた。
「ならばよかった。では無理せずゆっくり休むように」
その言葉を残し、王太子は早々に部屋を出て行った。
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「殿下、もう少しシンシア様とお話をされてもよいのでは?ウォーレン公爵がまた何を言ってくるか」
廊下を足早に歩く王太子を侍従が追いかけながら諭している。
「顔を出したのだからいいだろう?早くケリーを部屋に呼べ」
「殿下!ケリー様は所詮、男爵令嬢です。お付き合いはほどほどになさってください。国の最有力貴族の公爵令嬢への扱いを間違えれば、王室がゆらぎかねません!」
行く手を阻むように侍従が王太子に言いつのる。
「シンシア様は、国の言い伝えでは国に豊穣をもたらすという黒髪黒眼の令嬢です!どうか大切になさってください!」
「ただの伝説であろう?私はあの令嬢に興味はない」
「婚約者の方にそのような言い方を…殿下、殿下!」
王太子はうっとうしそうに侍従を強引に振り切り、自室へと入って行った。
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「シンシア様お気の毒に」
「婚約者はシンシア様の方なのに、殿下が身分の低い男爵令嬢なんかに入れ込んでいるせいで」
侍女たちのひそひそ話が耳に入ってきた。
そうか、やっぱり私は転生したのだ。悪役にされ、婚約者を男爵令嬢に奪われるというあのパターンの世界に。
そう腑に落ちてから気が楽になった。
一度終わった人生だもの。この世界では自由に生きたい。
しがらみもいらない。だから。
「王太子殿下、早く婚約破棄してくれないかなあ」
私はその日を待ち望むようになった。
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