百の話を語り終えたなら

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第2話:放課後七不思議・第8話

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うちの学校には「七不思議」がある。
校内に伝わる定番の怪談だ。

一つ目、誰もいない音楽室からピアノが聞こえる。
二つ目、使われていない理科準備室で人影が動く。
三つ目、体育館の倉庫に入ると、扉が勝手に閉まる……。

いずれも、よくある類の話だ。
“七不思議”とは言いながら、本当は八つ、いや九つあるというのも、定番のオチだろう。

でも、僕たちの学校には“第8話”がある。
それが、ただの後日談や派生ではなく、「本当に語ってはいけないもの」だとしたら?

……あれは、去年の秋だった。

文化祭が終わって数日後、放課後の教室に残っていたのは僕と、親しい友人の春田だけだった。
二人で教室に座り、雑談をしていたときのこと。

「なあ、知ってる? この学校の七不思議、8つあるんだって」

そう言ってきたのは春田だった。
僕は軽く笑って、「そのネタ、もう聞いたよ」と返した。

「いや、違うんだよ。第8話っていうのは、噂になってない。誰かが話しちゃうと、その人、消えるんだって」

「お前……またそういう悪趣味な話を」

「ホントにあるんだってば。俺の兄貴が言ってた。あの人、ここ出身だから。3年のとき、誰かが放課後にそれを話したんだって」

「……で?」

「翌日から、そいつの机がなくなってたらしいよ。名前も、出席番号も、全員の記憶から……“抜けてた”んだってさ」

「兄貴は何で覚えてたんだよ」

「メモしてたから。そいつのこと、怖くてノートに書いてたらしい。だけどさ、それも数日後に燃えたんだって。勝手に、火がついたみたいに」

僕は苦笑いを浮かべた。
春田は、怪談好きなやつだった。
でも、今話している彼の目は、冗談を語るそれではなかった。

そのとき、誰かが教室の扉をノックした。

僕らは顔を見合わせた。
教室の前に人影はなかった。

廊下は、どこまでも静かで、窓の外からの夕暮れの光だけが淡く差し込んでいた。

「……第8話、聞く?」

春田が言った。
僕は、無言で首を振った。

だが春田は続けた。

「3階の旧図書室。今は倉庫になってる場所……そこに、午後5時ちょうどに立ってる人がいたら――目を合わせちゃいけないんだって」

「……!」

「目を合わせると、“そいつ”が自分と入れ替わる。姿も声もそのまま。でも、中身は“それ”で、元の人間はどこかに消えるんだってさ」

僕は言葉を失った。
その瞬間、校内放送が鳴った。夕方の音楽だった。

時計を見ると、ちょうど――午後4時58分だった。

教室の空気が、急に冷たくなった気がした。

僕は机を叩いて立ち上がり、「帰ろう」と言った。

春田は笑っていた。
でも、どこか、泣いているようにも見えた。

あれから春田とは話していない。

正確には、“彼”と話したのは、あの放課後が最後だ。
次の日からも春田は学校にいた。普通に、僕に話しかけてきた。

でも、何かが、違った。

声のトーン、視線の外し方、笑い方――全部、似ているのに、違う。
あれはもう春田じゃない、そう確信した。

だから、僕は誰にも言えない。
「春田って、どんなやつだったっけ?」
クラスメイトがそんなことを言い出した時から、もう話すことすらできない。

もし、“第8話”をここで語ってしまったら――
僕のことも、誰かの記憶から消えてしまうかもしれないから。

もうすぐ、午後5時になる。

あなたがもし、この話を誰かに話すなら……
今すぐ、時計を確認してほしい。

“それ”と、目が合わないように。

―――――――――――――――――――――――

あとがき
第2話『放課後七不思議・第8話』をお読みいただき、ありがとうございました。
学校という「安心できる日常空間」に、じわじわと侵食してくる“違和感”をテーマに描きました。

「噂を語ることが呪いになる」という、古典的ながらも背筋が冷たくなるモチーフを取り入れ、
語ること=記録することの怖さを感じていただけたなら幸いです。

次回は『第3話:深夜コンビニの張り紙』を予定しています。

どうぞ、百話目まで、最後まで見届けてください。

―――――――――――――――――――――――

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