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第3話:深夜コンビニの張り紙
しおりを挟むこれは、夜勤バイトをしていた青年が見たという、ある“張り紙”の話だ。
僕の知り合いに、杉村という男がいる。
彼は数年前、都心から少し外れた町にあるコンビニで、深夜シフトのバイトをしていた。
「夜は暇だからな」と言いながらも、彼はよく、店の話をしていた。
商品の入れ替えや酔っぱらいの客の話、朝方にだけ来る老人のこと……。
けれど、ある日を境に、彼の話題は変わった。
「お前さ、“貼ってあるはずのない張り紙”って、見たことある?」
そう、唐突に言い出した。
「それ、どういう意味?」
「夜勤しててさ、深夜三時ごろ。休憩室から戻ってくると、店の入口の自動ドアのガラスに、白い張り紙が貼ってあるんだよ。A4くらいのサイズで、真ん中に一行だけ、こう書いてある」
彼は、まるで言いたくないことを無理に引き出すように、言葉を吐き出した。
「朝6時までは、このドアを絶対に開けないでください」
一瞬、悪質ないたずらかとも思った。
だが、誰が何のためにそんなことを――という疑問が先に来る。
杉村は、当然ドアの外も確認した。誰もいなかった。
その日以降、張り紙は、週に一度のペースで貼られるようになった。
貼られるのは、決まって水曜の夜。時間もほぼ同じ、深夜3時前後。
「試してみようとは思わなかったのか?」
僕が聞くと、杉村は真顔で首を横に振った。
「ダメだって。見えるんだよ。……ドアの向こうに」
「……は?」
「人影が立ってる。張り紙越しに、ぼんやり映る。ずっと……動かない。背筋が伸びてて、腕も下ろしたまま。人間って、あんなに“動かず”には立っていられないと思う。なのに、そいつは微動だにしないんだ」
杉村は、ある夜、それを無視して外に出ようとした。
どうせ悪戯だと思い、確認しようとした。
だが、ドアのセンサーが反応しなかった。
何度も前を通っても、自動ドアは開かない。
張り紙は、風もないのにぴらぴらと揺れていた。
「でもさ、その日から、姿が変わったんだ。立ってるだけじゃなくて、しゃがんだり、覗き込むような姿勢を取るようになった。まるで、俺が中にいるのを……“見てる”みたいに」
そして翌週の水曜日。
杉村はシフトを休んだ。
「行きたくない」と、店長に嘘をついて実家に帰ったらしい。
だが、翌朝。コンビニの深夜シフトが“無人”だったと近隣の人が騒ぎ出した。
店内は無事、何も荒らされた形跡もなかった。
レジの金も手つかずで、商品も整然としていた。
ただ、張り紙だけが残されていたという。
「朝6時までは、このドアを絶対に開けないでください」
それを外そうとした店長の手が、火傷のように赤く腫れたとも聞いた。
杉村はその後、しばらくしてコンビニを辞めた。
別の町に引っ越したそうだが、連絡は途絶えた。
僕のスマホに残る最後のメッセージは、こうだった。
「ドアが……どこにでも見える。コンビニ以外にも。ビルのロビー、家の窓、電車のドアにまで……」
そして、既読はつかないままだ。
ちなみに――
この話を聞いた後、僕は思い出した。
うちの近くの無人コンビニ。
深夜、誰もいないはずの時間に、入口のガラスが揺れていた。
気になって見てみたら、貼り紙があった。
A4サイズの、白い紙。
そこには、何も書かれていなかった。
真っ白なはずのその紙の、中央あたりに、うっすらと手形のような影が――
―――――――――――――――――――――――
あとがき
第3話『深夜コンビニの張り紙』をお読みいただき、ありがとうございました。
深夜帯のコンビニという、誰もが立ち寄ったことのある空間に「動かないものが見ている」という要素を加え、静かな恐怖を演出しました。
次回は『第4話:隣のベランダの手』を予定しています。
都市の隙間にある「見えてはいけないもの」に触れていきます。
ご興味を持っていただけたら、引き続き百話目までご一緒ください。
―――――――――――――――――――――――
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