百の話を語り終えたなら

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第6話:語られていない第13話

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“第13話って、ありましたっけ?”

この話は、ある朗読配信者の女性が体験したものだ。

彼女――仮に「Kさん」としておく――は、趣味で怪談朗読をしていた。ネット配信アプリを使い、フォロワーもそこそこに増え始め、百物語形式でのシリーズを始めたのが、ちょうど一年前のこと。

彼女の朗読は落ち着いた声と丁寧な演技で人気があり、配信アーカイブは数多く保存されていた。
一話ごとに「第◯話:○○○」というタイトルをつけ、ゆっくりと、百の話を語るプロジェクトを進めていた。

だが、ある日、視聴者のコメントでこう指摘された。

「Kさん、第13話って飛ばしてませんか?」

Kさんは驚いた。
自分ではすべて順番通りに配信しているつもりだったからだ。
だが、確認してみると、確かに**「第13話」がどこにも存在しない**。

録音ファイル、配信履歴、アーカイブ一覧……第12話の次は第14話になっていた。
さらに不思議なのは、彼女の原稿データにも「第13話」だけがごっそり抜けていたことだった。

「おかしいな……第13話、何を読むつもりだったっけ?」

彼女は何度も確認した。
が、そこだけが空白になっていた。

まるで最初から、その話を“語ってはならなかった”かのように。

その日の深夜、彼女は夢を見た。

真っ暗な部屋の中、自分がマイクの前に座っている。
いつもの配信部屋のようでいて、まったく別の空気が漂っていた。
壁がやけに近く、時計の音もない。

目の前には、録音機材。

そして台本。

そこに、こう書かれていた。

『第13話:聞いたら終わる』

彼女はその瞬間、何かが背後に立っていることに気づいた。
反射的に振り返ろうとするが、首が動かない。目も開かない。
声も出せない。

夢の中で、彼女はその「第13話」を“読まされていた”。

内容は思い出せない。
ただ、読んでいる最中、何度も“録音が巻き戻される”ような感覚を覚えたという。
声が、誰かの声と重なり、最後には自分の声ではなくなっていた。

目が覚めたとき、彼女のスマートフォンには録音ファイルが一つ、保存されていた。

ファイル名は、「13.wav」。

再生時間は13分13秒。

中身を聞こうとした彼女は、再生ボタンに指を伸ばす直前で、手を止めた。
画面に映ったサムネイル――そこに表示された波形は、明らかに“声”ではなかった。

もっと別の、何か別種の音だった。

彼女はそのファイルを削除した。
だが、数日後、また自動的に生成されていた。

フォルダ名も変わっていた。「話してはならない」
音声ファイルも再び「13.wav」として復元されていた。

最終的に彼女は配信を辞め、SNSをすべて閉鎖した。
その理由は誰にも語られなかった。

ただ一人、彼女の視聴者だった男性が、配信の録画ファイルを個人的に保存していたという。

すべての話の音声データを並べて再生していったところ、第13話の位置にだけ、音声の隙間ができていたという。

それは、無音ではなかった。
微かに、遠くで、何かが呟くような音――

「次は……あなたの番だ」

そう、聞こえた気がしたという。

―――――――――――――――――――――――

あとがき
第6話『語られていない第13話』、お読みいただきありがとうございました。

本作は、百物語という形式の“空白”に焦点を当てたメタ怪談です。
「存在してはいけない話」「語られなかったはずの話」という要素が、
徐々に本作全体に影響を与えていく“歪み”の序章となります。

次回は『第7話:旧校舎の花嫁』を予定しております。
古びた空間に残る“祝福されなかった式”の話です。

―――――――――――――――――――――――

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