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第7話:旧校舎の花嫁
しおりを挟むその学校には、使われなくなった旧校舎があった。
明治時代から建っているという、木造二階建ての小さな建物で、
今では立ち入り禁止となって久しい。
けれど、妙な噂が絶えなかった。
「旧校舎の2階、突き当たりの部屋に、花嫁が出る」
それは、私の通っていた高校で長く語られていた怪談だ。
“真っ白なドレスの女が、窓際に立っている”
“深夜、誰もいないはずの教室から、ベルの音が鳴る”
“その音を聞いた者は、夢の中で式に参列させられる”
そんな話が、代々語り継がれていた。
私がその話を気にしだしたのは、放送部に入ってからだ。
機材の管理室が、旧校舎の近くにあった。
ある日、先輩から古い録音テープを整理するように言われ、
私は昼休みに一人で整理をしていた。
埃まみれのダンボールから出てきた一本のカセットテープ。
ケースには、白いラベルに細い字でこう書かれていた。
「昭和59年/式録音」
再生すると、しばらく無音のあと、小さく拍手が聞こえた。
それに続いて、男性の声が響いた。
「それでは、誓いの言葉を……」
……式?
私の背筋に、ぞわりとした感覚が走った。
音は不鮮明だったが、確かに結婚式のような進行だった。
ただ、違和感があった。
笑い声がない。
祝福の言葉が、ひとつもない。
式のあいだ、ずっと……誰かが泣いていた。
それも、花嫁のようだった。
ヒク、ヒク……と、抑え込むようなすすり泣き。
「……では、指輪の交換を」
その声とともに、急にノイズが走った。
耳をつんざくような音。
私は慌てて停止ボタンを押した。
だが、機材は勝手に再生を続けた。
「あなたは、誓いますか」
その声は、はっきりと、私に向けて語りかけてきた気がした。
私はテープを取り出し、すぐに部室を出た。
その晩、不思議な夢を見た。
夢の中、私は旧校舎の2階、突き当たりの教室に立っていた。
机と椅子はすべて端に寄せられ、部屋の中央には、
古びた白無垢を着た女性が立っていた。
顔は、見えなかった。
ただ、両手をこちらに差し出し、微かに揺れていた。
私が一歩踏み出すと、背後から鐘の音が響いた。
カラン、カラン……と、壊れかけた鉄の音。
誰もいないはずの教室で、拍手が響いた。
「では、誓いの口づけを――」
その瞬間、目が覚めた。
朝だった。
けれど、制服の胸元が、濡れていた。
誰かの涙のようなものが、そこに残っていた。
あの録音テープは、あの日を境に消えた。
先輩に聞いても、「そんなものは知らない」と首を振るだけだった。
私は今でも時々夢を見る。
あの花嫁は、誰を待っていたのか。
そして、私が夢の中で交わした“誓い”が、
現実のどこまで効力を持っているのか、わからない。
ただ一つ、はっきりしているのは――
校内に設置された新しい防犯カメラの映像に、夜な夜な白い影が記録されているということ。
花嫁はまだ、式を終えていない。
―――――――――――――――――――――――
あとがき
第7話『旧校舎の花嫁』をお読みいただき、ありがとうございます。
本作は「未完の式」「夢の誓い」「録音された呪い」という要素を軸に、
古典的な怪談の構造をもとに、静かな不気味さと儀式的な怖さを演出しました。
百物語の中盤以降では、こうした“語り継がれる儀式”の断片が、
物語の核心に近づいていく構成となっています。
次回は『第8話:ゴミ置き場の顔』を予定しています。
都市の隅で、人知れず現れる“見てはいけない”ものの話です。
―――――――――――――――――――――――
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花嫁は、まだ待っています。
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百の話を語り終えたとき、何が始まるのか。
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