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第8話:ゴミ置き場の顔
しおりを挟むこれは、ごく最近、知人の女性が体験した話だ。
彼女は地方都市の集合住宅に住んでいる。
最寄り駅まで徒歩15分。築年数は浅く、見た目にも綺麗なマンションだった。
ただ一つ、不便な点があったという。
ゴミ置き場が、棟から少し離れた場所にあること。
建物の裏手、駐車場を抜けた一角にコンクリートで囲まれた小さなゴミ収集所があり、
そこに住民たちは朝の7時までにゴミを出す決まりだった。
彼女は夜勤の仕事をしており、ゴミ出しはいつも帰宅直後の午前3時すぎ。
真夜中のゴミ置き場は不気味だが、もう慣れたと笑っていた。
その夜も、いつも通りビニール袋を片手にマンションの裏手へと歩いた。
暗い。
街灯はあるが、ゴミ置き場までは光が届かない。
ポケットライトを手に、袋を抱えて進む。
――そこに、“誰か”がいた。
ゴミ置き場の角。
コンクリートの壁と、鉄柵の影に。
腰を下ろしたような姿勢。
うつむいているように見えた。
だが、彼女がライトを向けると、それは――
顔だった。
人の顔。
それも、地面の上に、顔だけ。
身体も首もなかった。
顔だけが、まるで地面から“芽吹いた”かのように、こちらを見上げていた。
それは笑っていた。
目は開いているのに、まばたきひとつせず。
口だけが、ゆっくりと開いて、にぃ、と横に裂けるように。
彼女は動けなかった。
全身が凍りついた。
脚が石のように重く、呼吸も浅くなった。
その顔が、わずかに、角度を変えた。
ゴミ袋を見ていた。
彼女の手にある、それを。
「捨てて」
……そう、聞こえた気がした。
耳ではない。
頭の中に、直接。
彼女は咄嗟に袋を投げ出した。
中身が地面に散らばり、カン、カン、と空き缶の音がした。
次の瞬間、その“顔”は、袋の中へとずるりと滑り込むように消えた。
まるで、そこに“身体”が繋がっていたかのように。
彼女は走って逃げた。
次の日の朝、恐る恐るゴミ置き場に行くと、袋はなかった。
鉄柵の中には、いつも通りのゴミの山。
管理会社にも確認したが、特に異常は報告されていないという。
彼女は今もそのマンションに住んでいる。
けれど、ゴミは決して夜に出さない。
たとえ仕事でどれだけ疲れていても、
朝の7時に、他の住民が出し始めるのを見計らってからにしている。
なぜなら、あの夜以来――
彼女の部屋の玄関前に、毎週火曜日になると“新しいゴミ袋”が置かれているからだ。
それには、いつも見覚えのないものが入っている。
破れたぬいぐるみ。
誰かの写真。
錆びた指輪。
そして今日の袋には、丸められた紙が一枚、入っていた。
こう書かれていたという。
「次は、燃えないゴミの日に来ます」
―――――――――――――――――――――――
あとがき
第8話『ゴミ置き場の顔』、お読みいただきありがとうございました。
本作は、「都市の死角」に潜む怪異をテーマに、
何気ない生活の一場面に“芽吹く恐怖”を描きました。
人が最も油断する瞬間――「日常の繰り返し」の中に潜む異常を、じっくりと濃く演出しています。
次回は『第9話:雨の中を歩くもの』を予定しています。
何も見えないはずの夜道、その雨音の合間に――何が“歩いている”のか。
―――――――――――――――――――――――
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