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第10話:かくれんぼは終わらない
しおりを挟む「もう、いいかい――」
「まーだだよ」
これは、小学生のときに体験した、ある“かくれんぼ”の話だ。
当時、私は団地に住んでいた。
四棟が向かい合って建っており、その中心に小さな広場がある。
夕方になると、団地の子どもたちが集まり、鬼ごっこやボール遊びをしていた。
夏のある日。
私はいつものように、友人たちと遊んでいた。
その日は珍しく、いつもは遊びに来ない一人の女の子が混じっていた。
長い髪を後ろで結い、白いワンピースを着た子だった。
名前は覚えていない。
でも、たしかにいた。
彼女は私たちに言った。
「ねえ、かくれんぼ、しよ?」
日も傾き始めていたが、夏の宵はまだ明るかった。
鬼を決め、みんなが四方に散った。
私も小さな倉庫の裏に身を潜めた。
「いーち、にーい……」
鬼の声が響く。
私は息を殺して、隙間から様子をうかがっていた。
だが、何分経っても、誰の気配もしなかった。
やがて辺りが静かになり、風の音だけが聞こえ始めた。
おかしい――そう思って外に出ると、
広場には誰もいなかった。
本当に、誰も。
団地の廊下も、ベランダも、静まり返っていた。
夏の空は色を変え、夕闇が地面を飲み込もうとしていた。
私は走って、自分の家に戻った。
母に「友達とはぐれた」と話すと、彼女は驚いたように言った。
「今日、あんた、一人で遊びに行ったんじゃなかったの?」
そんなはずはない。
私は確かに、みんなと一緒にかくれんぼをしていた。
でも、それ以降――誰に話しても、その日一緒に遊んでいたという子はいなかった。
写真にも、記憶にも、その“白いワンピースの女の子”は残っていなかった。
それから十年以上が過ぎた。
団地も取り壊され、私は別の町で暮らしている。
だが、先日。
実家に帰ったとき、倉庫の奥から古いノートが見つかった。
私の小学生時代の落書き帳だった。
その一番後ろのページに、走り書きがあった。
「もう、いいかい」
その言葉の下に、小さく赤い文字でこう書き込まれていた。
「まーだだよ」
私は身震いした。
このノートに、こんな落書きをした記憶はない。
翌日、団地跡地を訪れた。
今では更地になっていた場所の、広場の中心に、
一人の女の子が立っていた。
白いワンピース。
長い髪。
彼女は、こちらに背を向けたまま、静かに呟いた。
「ずっと、待ってたの」
その声に、返事をする前に、彼女は振り返った。
顔が――なかった。
ただ、ぽっかりと開いた空白がそこにあった。
そして、その“空洞”から、声がした。
「今度は、あなたが鬼でしょ?」
私は、逃げ出すこともできずに立ち尽くした。
あれ以来、私は、毎夜の夢の中で“誰か”を探している。
名前も、顔もわからない誰か。
どこかに隠れたまま、決して見つからない“誰か”。
かくれんぼは、まだ終わっていない。
そして――今夜も、また始まる。
「もう、いいかい……?」
―――――――――――――――――――――――
あとがき
第10話『かくれんぼは終わらない』をお読みいただき、ありがとうございました。
本作は、“誰でも遊んだことのある記憶”に潜む恐怖をテーマにしています。
「隠れる」「見つける」という遊びの中で、人は時に“見つけてはいけないもの”に出会ってしまう――
そんな感覚を、じわじわと忍び寄る形式で描きました。
次回は『第11話:拾ってはいけない写真』を予定しています。
身近なモノを拾うことの“責任”と“代償”を描いた怪談です。
―――――――――――――――――――――――
いいね・フォローのお願い
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かくれんぼが終わらないように、この百の話もまだ始まったばかりです。
語り終えた“その先”に、あなたも立ち会ってください。
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