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第11話:拾ってはいけない写真

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それは、何の変哲もない住宅街の一角で拾ったものだった。

日曜の午後、私は近所を散歩していた。
少し遠くのスーパーまで歩こうと思い、裏道を選んだ。
人通りも少なく、どこかひんやりとした空気が漂っていた。

ふと、足元に何かが落ちているのに気づいた。

――写真だった。

10センチ四方ほどのカラー写真。
表向きに落ちており、思わず拾い上げた。

写っていたのは、誰かの玄関先だった。
コンクリートの階段、郵便受け、開け放たれたドア。
しかし、人影は写っていなかった。

妙に気になって、裏面を確認した。
そこには、手書きの文字でこう書かれていた。

「この写真を拾った人へ」

冗談だと思った。

しかしその下に続いていた文が、私を凍らせた。

「あなたの家は、もう写されています」

急いで写真を地面に戻そうとしたが、指が離れなかった。
どれだけ力を入れても、粘りつくように指に吸い付いて離れない。

無理に引きはがそうとすると、皮膚が引っ張られるような痛みが走った。

仕方なく、それをポケットに押し込み、帰宅した。

その晩、寝る前にふと、部屋の机に置いた写真を見た。

……変わっていた。

写っていたのは、自分のアパートの前だった。
間違いない。赤い消火器、2階のベランダ、歪んだポスト。

私は血の気が引いた。

カーテンの向こう、ベランダが気になってしかたなかった。
見に行くのは、怖かった。
けれど、確かめずには眠れなかった。

ゆっくりとカーテンを開く――そこには、何もなかった。
ほっとしたのも束の間、部屋に戻った私はあることに気づいた。

写真が、なくなっていた。

机に置いていたはずのそれが、跡形もなく消えていた。

その夜、眠れぬまま朝を迎えた。

そして翌日。

郵便受けの中に、一枚の封筒が入っていた。
差出人はなし。

中には、新しい写真が入っていた。

今度は、自分の部屋の中が写っていた。

ソファ、壁の時計、脱ぎっぱなしの靴下。
そして、カメラの位置は……天井近くだった。

見下ろすような視点。

自分が見たことのない“角度”だった。

私は急いで部屋を調べた。
盗撮カメラなど見つからなかった。

ただ、クローゼットの隙間に、丸められた写真が一枚だけあった。

裏面には、こう書かれていた。

「この写真を返す方法は、まだありません」

私は、その日からカメラを怖れている。

スマホ、監視カメラ、インターホン、コンビニのレジ――
どこから写されていてもおかしくない。

そして今朝、玄関の前に一枚の写真が落ちていた。

それは、この話を書いている私の背中だった。

机に向かう私の、背中。

誰が、いつ、どこから撮ったのか。

わからない。
でも今、背後のドアの隙間に――

“目”がひとつ、こちらを見ていた。

―――――――――――――――――――――――

あとがき
第11話『拾ってはいけない写真』をお読みいただき、ありがとうございます。

今回のテーマは「写真」という“記録媒体”そのものの不気味さに焦点を当てました。
視点の主が入れ替わる、あるいは“見られている”という恐怖を通して、
現代の監視社会の中に潜む得体の知れない不安を描いています。

次回は『第12話:ぬいぐるみの返却先』を予定しています。
愛されていたものが、忘れられたとき、どこへ帰ってくるのか――その話です。

―――――――――――――――――――――――

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この語りを“見ている誰か”にも、届くように。
百話が語り終わるそのとき、全てが繋がる日が訪れます。
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