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第12話:ぬいぐるみの返却先
しおりを挟む幼い頃、私にはお気に入りのぬいぐるみがあった。
白い犬の形をしたそれは、「ルー」と名づけられ、どこに行くにも一緒だった。
けれど、成長するにつれ、私はルーを手放した。
小学校高学年になる頃には、押し入れの奥にしまわれ、やがてその存在すら忘れていった。
月日は流れ、私は社会人となり、街の外れにあるワンルームのアパートに一人で暮らしていた。
ある晩、帰宅すると、玄関に小さな段ボール箱が置かれていた。
宛名も差出人もない。
中には、ぬいぐるみが一つ。
それは、ルーだった。
白い毛並みはすっかりくすみ、ところどころ縫い目がほつれている。
けれど、間違いようがなかった。
左耳の根本が少し折れているのも、右目の下にあるインクのしみも、そのままだった。
私は驚きとともに、どこか懐かしさを感じて、それを部屋に迎え入れた。
翌日から、妙なことが起こり始めた。
・寝ていたはずのルーが、朝になると枕元に移動している
・鍵をかけたはずの棚が開いていて、その中にルーが座っている
・夜中、ルーが“何かを話しているような音”が聞こえる
最初は、疲れのせいだと思った。
だが、それが幻ではないと確信したのは、三日目の夜だった。
深夜、目を覚ました私は、足元に重さを感じた。
布団の上に、ルーがいた。
座っていた。
こちらを見上げていた。
部屋には風もないのに、毛並みがわずかに揺れていた。
私は声をかけた。
「……どうして、帰ってきたの?」
ルーは動かない。
だが、耳元で声がした。
「わすれたでしょ」
その声は、かつて私が寝る前にルーに話しかけていた、“あの声”だった。
私自身の、幼い声。
私は急いでルーを箱に戻し、封をした。
だが、その翌朝、箱は空になっていた。
ルーは、玄関の靴箱の上に座っていた。
手には、小さな紙切れが挟まれていた。
「かえすばしょが ちがう」
震える手で私はその紙を捨て、ルーを袋に入れ、深夜のコンビニ近くにある不燃ゴミ収集所に持って行った。
そこに“返す”しかなかった。
翌朝、ルーはいなかった。
ほっとしたのも束の間、数日後、ポストにまた段ボールが届いた。
中には、ルーとともに、別のぬいぐるみが一つ。
見覚えのない、黒い猫のぬいぐるみだった。
その下に、また紙があった。
「ともだちも つれてきたよ」
「もっと いるから すぐにまたくるね」
……私はそれ以降、ぬいぐるみが怖くなった。
いま、部屋の隅にあるクローゼットから、柔らかい布を引きずる音がしている。
引き戸の下から、小さな白い耳が見えている。
ルーは、帰ってきた。
そして、もう“返せる場所”が、どこにもない。
―――――――――――――――――――――――
あとがき
第12話『ぬいぐるみの返却先』をお読みいただき、ありがとうございました。
本作は「愛着が裏返ったときの恐怖」「忘却されたモノの執着」を軸に構成した怪談です。
子どもの頃の“声”“感情”“約束”――それらは、大人になってもどこかに潜み、
取り残されたままの“何か”が、いつか帰ってくるかもしれません。
次回は『第13話:毒入りの招待状』を予定しています。
とある高級レストランに届いた、送り主不明の“お知らせ”と、その夜の出来事です。
―――――――――――――――――――――――
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もしこの話が、あなたの記憶のどこかにある“何か”を揺らしたなら、
どうか「いいね」や「フォロー」で記録を残してください。
百の話が語り終えられたとき、それが何だったのかが分かるかもしれません。
まだまだ続きます。次の話で、またお会いしましょう。
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