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第13話:毒入りの招待状
しおりを挟むその招待状が届いたのは、ある秋の夕暮れだった。
宛名は達筆な筆文字で書かれていた。
差出人はなく、封筒の裏にはただ一文字――「宴」。
受け取ったのは、都内で有名なグルメブロガーの男性、笠井雅史だった。
彼のもとには日々様々な飲食店からの招待や試食会の案内が届いていたが、
この招待状には妙な既視感があったという。
封を開けると、中には黒い紙に金の箔押しで印刷されたカードが一枚。
《晩餐の儀へようこそ》
お召し上がりいただくのは、あなたが人生で最も口にしたがらなかった味
場所:白泉区十三町二丁目 旧館レストラン〈ノクターン〉
時間:今夜 午後七時より
地図は記載されておらず、住所も検索しても出てこなかった。
だが、なぜか“知っている”という感覚だけが残っていた。
笠井はその夜、カメラを持ち、例の住所へと向かった。
白泉区――
都内にあるが、妙に寂れた地域で、地図上でも境界が曖昧なエリアだった。
十三町二丁目。
そこには、ひっそりと古びた洋館が建っていた。
蔦に覆われ、看板もなく、ドアには金の取っ手だけが光っていた。
インターホンを押すと、即座に“カチリ”という音がして扉が開いた。
中は、異様に静かだった。
案内役は出てこず、ロビーには一人分のコート掛けと、小さな札だけが置かれていた。
「マサシ様 一名 特別席」
彼は躊躇しながらも奥へ進んだ。
通されたのは、薄暗いダイニングルーム。
照明は蝋燭のように揺らぎ、テーブルの上には銀の食器が並べられていた。
一人分の料理が、すでに並べられていた。
蓋付きの銀皿。
グラスに注がれた琥珀色の液体。
そして、ナプキンの上に置かれたメニュー。
・前菜:過去の秘密
・スープ:静かな咎
・メイン:口にしてはならなかった言葉
・デザート:記憶されない記録
ふざけた演出だ、と思った。
けれど、ひと口、口にした瞬間――彼は、嘔吐した。
それは、幼いころに嘔吐を繰り返した、腐った魚の臭いだった。
忘れかけていた味。二度と口にしたくなかった記憶。
けれど、料理は、彼の“記憶”の通りの味がしたのだ。
スープは、かつていじめを見て見ぬふりをした放課後の、土の匂い。
メインは、死んだ祖母の布団の中で漏らしてしまった嘘の味。
デザートは――彼が盗作をしてまで得た賞の、あの日の“白紙の原稿用紙”の触感。
彼はその夜、何も食べきれなかった。
立ち上がって帰ろうとしたそのとき、
テーブルの隣に、黒い衣を着た“何か”が座っていた。
それは顔のない執事のようだった。
手には、もう一通の招待状。
そこにこう書かれていた。
「次は、あなたが“出す”番です」
「召し上がっていただくのは――あなたの最も隠したい、誰かの“記憶”」
気づけば、彼の目の前には空席がひとつ、並べられていた。
その皿の上には、彼の名刺と、封筒がひとつ。
宛名には、彼が中傷記事を書いた料理人の名前が記されていた。
それから数日後、グルメブログ『雅食記』は更新を停止した。
彼は姿を消した。
関係者の誰も、彼を「最初から知らなかった」と言い出した。
ただ、一つだけ残っていたのは――
料理人たちのもとに、不定期で届く差出人不明の黒い招待状。
あなたのもとにも、いつか届くかもしれない。
《晩餐の儀へようこそ》
その封筒が、もうポストに入っているかもしれない。
―――――――――――――――――――――――
あとがき
第13話『毒入りの招待状』をお読みいただき、ありがとうございました。
本作では、「味覚」と「記憶」「罪」という人間の深層にあるものを交差させ、
“記憶にしか存在しない料理”をモチーフとした不条理ホラーとして構成しました。
読後にじわじわと“自分なら何を食べさせられるか”と想像していただければ幸いです。
次回は『第14話:おかえりなさいが聞こえる部屋』を予定しています。
鍵を開けるたびに“帰りを喜ぶ声”が聞こえる部屋。その主は、誰か。
―――――――――――――――――――――――
いいね・フォローのお願い
この話が、あなたの記憶の深い場所を揺らしたなら、
「いいね」や「フォロー」で、この“宴の記録”を留めてください。
百の話が語り終えられるその夜、最後の晩餐が始まるかもしれません。
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