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第15話:夜の鏡に映るもの
しおりを挟む鏡というものは、正しく光を反射しているにすぎない。
そう言い聞かせることができるのは、明るい場所に限られる。
暗い部屋の中で、自分の顔がゆっくりと“自分ではない動き”をしたとき――
それでも冷静でいられるだろうか。
この話は、私の大学時代の先輩・今村さんが体験したことだ。
今村さんは、写真を専攻していた。
特に興味を持っていたのが、「鏡像と自我」というテーマだった。
ある日、ゼミ発表のために、古道具屋で買い集めた古い鏡を素材に使うことにしたという。
その中に、やけに重たく、木枠の彫刻もどこか人の顔に似た形のものがあった。
「引き取ってくれるならタダでいいよ」と言われた鏡だった。
サイズは全身が映るほど大きく、厚いガラスには波打つようなゆがみがあり、
覗き込むと、わずかに遅れて自分の動きが映るように感じた。
先輩は、それを自室に運び入れた。
最初の異変は、深夜のことだった。
眠りかけていたとき、鏡のほうから音がした。
「コン……コン……」
ガラスを叩くような音。
誰かが“中”から叩いているようだったという。
目を凝らしても、自分の姿しか映らない。
だが、先輩は気づいた。
鏡の中の“自分”が、目を閉じていないことに。
ベッドに横たわる先輩自身は、もう目を閉じていた。
だが、鏡の中の姿は――こちらをじっと、見続けていた。
翌朝、鏡の表面に“指紋の跡”が残っていた。
それは明らかに、内側からつけられたような形をしていたという。
それから数日間、今村さんは鏡を布で覆って過ごした。
だが、不思議なことに、布の内側から誰かが「呼吸している」ような音が聞こえるようになった。
それは、寝ている間に近づいてくる。
耳元で、ゆっくりと、浅い呼吸。
ある夜、彼は決心して、その鏡をビデオカメラで録画することにした。
午前2時。
彼は鏡の前に立ち、何も言わずに1分間、じっと佇んだ。
特に異常はなかった。
だが、翌朝再生してみると、映像におかしな点があった。
鏡の中の“彼”が、1分間ずっと、まばたきしていなかった。
本物の彼は2回、明確にまばたきしていた。
だが、鏡の中の“彼”は、全く動かなかった。
その代わり――最後の10秒ほどで、ほんの少しだけ、口角を上げた。
それは“笑っていた”。
無音の映像の中で、自分自身がこちらに向かって、ほんの少し、笑っていた。
彼は鏡を粗大ごみとして処分した。
だが、処分場から連絡が入った。
「大型鏡、ガラス面に割れあり。引き取り拒否されました」
彼が現地に行くと、ガラスは内側から蜘蛛の巣のようにひびが入っていた。
そしてその中央には、指で書かれたような跡が一言だけ――
「みせたくなかったのに」
その日以来、今村さんは鏡を一切見なくなった。
自宅にも、スマホにも、鏡面を持つものは一切置かなくなった。
だが私は、あるとき彼と会ったときに気づいた。
駅の窓ガラスに映る今村さんが――
ほんの少しだけ、彼より先に歩いていたことに。
それが、どちらの“今村さん”だったのかは、わからない。
―――――――――――――――――――――――
あとがき
第15話『夜の鏡に映るもの』をお読みいただきありがとうございました。
鏡というものは、日常にありふれた存在でありながら、
人が最も深層で恐れている“もうひとりの自分”と向き合う場所でもあります。
今回はその“ズレ”と“意識の反転”を恐怖に昇華させました。
次回は『第16話:最後の席に座っていた子』を予定しています。
学校の教室、最後列のあの席――“誰も座っていない”はずなのに、誰かがいたという話です。
―――――――――――――――――――――――
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